86.厳命完了
大陸真東部。桜が狂い咲く命国ミレア。
その首都【純都】にある、有機的かつモダンなデザインの、ピンク色をした建造物――【キトァミァ神殿】の中心部にて。
自由区での反乱――通称ヘブンズレイドの果て、大陸の主神にして理神レソカーラ・シュクペバーにより半年間の謹慎処分を受けていた化神官にして、国内の実力者五名の一人【五造:真】ヴァイス・O・ヘブンは、帰還間も無く、ある人物の元に参る。
「半年間、大変お待たせいたしました、不肖のヴァイスです。この度は貴方の顔に泥を塗るような働きをして、誠に申し訳ございませんでした」
「フフッ、本当にお久しぶりすね……お疲れさまです、ヴァイスさん」
と、物腰が柔らかそうな白衣白髪の女性――命神キトァミアは彼を労う。
「別に私は何も気にはしてませんよ。ヴァイスさんが大いなる命のための事をし、それが不幸に転がったというだけなのですから。それに私は、ヴァイスさんの才能を三年前から評価しているのです。ですからヴァイスさん、今後とも良いお付き合いをさせてください」
「はっ、寛大なお言葉、至極感謝いたします」
ヴァイスの腰の低さに、キトァミァ神は微笑んで、
「フフッ、流石は私のヴァイスさんです……さて、無駄話はここまでにしませんか? あなたは今、ミレアの再進撃と、私よりも大切な人を待たせているかもしれませんので」
「ごもっともです。では仰せの通り、私はこれから、ミレアの復権に努めに行きます」
「ええ、いってらっしゃいませ」
数分後、キトァミァ神からの激励を受けたヴァイスは、自身が保有する官邸の大会議場に行った。
「ここに居る皆様ならば知っていて当然の話になりますが、ヴァイス様の復帰もありますので、念押しのためもう一度解説させていただきます……」
という出だしから、【五造:尋】オルディッツ・W・キドネスは語る。
半年前のミレア軍の自由区での反乱・ヴァイスの謹慎処分以降、彼が国内に敷いた、本国を覇権へと押し上げた『国民を六段階の階級に分け、その位に合わせ待遇の優劣を定める』階級制度は、レソカーラ・シュクペバーの指導通り削除した。
また、以前ヴァイスが化神官としての権限を使い行っていた『国内の不要者をリスポーン不可にし、事実上の国外追放にする』――いわゆる破門も使用不可になった。
この二つを代表に、これまでのヴァイスの圧政のイメージを払拭しようと、残された五造四人はさまざまな改革を行った。
ところが、一度犯した過ちはそうやすやすと許されないのがこの世の摂理。
これまでミレアに閉じ込められていたも同然の不遇なプレイヤーたちを筆頭に、ヴァイスの束縛・暴虐から逃れるものは数多く、人口減少に歯止めが効かなかった。
その結果、約3000万人(ロジスティクス・サーガプレイヤーの30%)いた人口は、1800万人に落ち込み、人口一位の座は時国ランニバーニに返上することとなった。
ここで【五造:関】カオン・T・レヴィーナは、主に軽く会釈をして謝る。
「申し訳ございませんでしたわね。私たちの手腕が至らないばかりに、これほどの人口減少を招いてしまいまして」
「いいえ。こうもなれば当然の帰結ですとも。むしろ被害を三分の二に抑えられた皆様は善戦したかと……も、言い切れないのが現実でしたか、オルディッツ」
「仰る通りです、ヴァイス様。この話はまだ続きがあります」
ただし、この残った1.8千万人が全員ヴァイスを信用して残った訳ではない。次のミレアの中核に成ろうとする野心家、かつてヴァイスが有能者に振りまいた甘汁を吸おうとする強欲者……各々、信義とはまた違う事情があった。
そして、ヴァイスが謹慎となり、国内が混乱する中、ある人物が頭角を現した。
スベラゼルカ・シーボル――ヴァイス台頭の波に流された、先代のミレアの化神官である。
彼はヴァイスの謹慎と同時期にミレアへ帰還。元化神官としての飾りと元々高かった人心掌握術を活かし、ヴァイスに不信感を持っている者たちと、他国でかつての自分のように追放された人材を集め、国を二分するほどの勢力を形成したのだ。
「現在、スベラゼルカは本国と音国エホシャドチグパの国境付近にある【防音の城】周辺を『勝手』に支配し、権威簒奪を狙っております――彼や賛同者がそこを【純都】と呼んでいることが、何よりの証拠でございましょう」
「何かしら、対策はしていましたか?」
「ええ勿論、この問題はゲイルリンドさんが請け負っていましたので、以降の解説は彼にお任せします」
オルディッツに代わって、【五造:排】ゲイルリンド・A・ハングは説明する。
「結論から言いますと、『本物の【純都】の警備の強化』と『スベラゼルカ派の人員の逮捕』などは行っていました。
今からの話は、大変苦しい言い訳に聞こえるでしょうが、どうかご勘弁ください。
私としては『【防音の城】の征伐』、『スベラゼルカ本人の討伐』たちの問題の根本をどうにかしたかったのです。
しかしながら、【防音の城】が軍事施設としての防御力が非常に高いこと、スベラゼルカの警戒心に隙が無いこと、奴の加担者が誰なのかが判断しづらいこと、ヴァイス様が無き今こちらに余裕が無いこと……などなどの要因が積み重なり、対応がここまで延びてしました」
「なら他国との連携……は、無理でしたか」
続けて、【五造:被】ノルガード・K・レンはニタニタしながら、説明した。
「そうそう。こんな内輪揉めに他国はまるで興味を示さない。
前は僕たちのアゴで使い放題だったイズセラは、新しい化神官が反発したせいで、もう使えないしねー……ま、元々は、戦後になんか交渉しに来た奴らに、僕が『おねだりすんな。あと僕はお前らと機械が嫌いなんだよ』って言ったのが原因なんだけど」
「……まぁ、それはそれでよしとしましょうか。
丁度私もあの卑しい守銭奴とは手切れにしたかったですから。
では、そうなれば、このヴァイスの元、直々に、愚か者に制裁を食らわせるとしましょうか。それが私の復帰後の初仕事にふさわしいでしょう。ですが、ここで一つ質問させてください。
あなたたちは、これから私についてくる気持ちはありますか?」
他の五造四人は、「そんなこと聞く必要があるのか?」と、言わんばかりに笑いながら、首を縦に振った。
「……すみません、無駄な時間でした。
では早速これから、戦支度をしてください。今回は丁寧にお願いしますよ、新生ヴァイスの初陣は華々しく、清くいきますので」
数日後。ヴァイスは未だに自分を慕ってくれる三百万もの有志のミレア・プレイヤーを率い、南へ――【防音の城】へと進軍した。
その最中、ヴァイスは己を囲う五造の面々に話かける。
「それにしても、よりにもよって【防音の城】を本拠に使うなんて、スベラゼルカは至極無礼と思いませんか?」
ノルガードは首をかしげて、
「確か【防音の城】って対エホシャドチグパ用に建てられた城だっけ? それがどしたの?」
このノルガードのとぼけ様に、カオンは呆れ果てる。
「ならあなたは一体何様なのでして? 我々五造にとって【防音の城】は、原点のような場所なのですのに」
「原点……ああ、そうか。そういえばそんな名前だったねぇ。僕たちが出会って、成り上がった場所」
ゲイルリンドは言う。
「したことは覚えているのに、した所は覚えていないとは……ノルガード殿、お前に少しばかり腹が立ってきたぞ。もっとも、今一番腹が立つのはスベラゼルカだがな。ヴァイス様の言う通り、何故【防音の城】を本拠にしたのだか?」
オルディッツは言う。
「考える可能性としましては三つ。
一、何となく。
二、管理が緩んでいそうな所を奪ったための偶然。
三、私たちへの挑発。
というところででしょうか……まぁ、どれだとしても、スベラゼルカが自分の失態を振り返らない、大阿呆であることは変わりませんが」
「その通りでしょう。ですから、一秒でも早く、取り返しましょうか……私たちの『聖地』を」
*
話はさかのぼること、ロジスティクス・サーガ内時間における、三年前。
当時のミレアは保有する資源に反して戦力に乏しい、他国からの格好の得物の国であった。
故に今日も各所で、ミレア軍は他国からの侵略を必死に食い止め続けていた。
その防衛戦の一つが、ミレアとイズセラの国境付近にて行われていた。
「き、来た! イズセラが!」
ミレアの防衛軍たちの視界を、金属光沢の輝きが覆い尽くす。周囲に機械音がこだまする。
今、荒削りな外装のロボットたちが、不気味な駆動音を鳴らしながら、ミレアの国境を踏み越えていた――イズセラが誇る機械兵団による侵略である。
「今回はいつもに増して数が多いな……何としても防げ! さもなくば奴らは【純都】まっしぐらだ!」
兵数なら勝るミレアの軍勢は、機械兵団に勇猛果敢に攻撃する。だが鋼鉄の硬さは崩れず、機構の勢いは簡単には絶えず、戦線を押し上げていく。
『解したか、ミレアの脆弱共! これが『力』だ、そしてこれが世の全てだ!』
『どうぞすみやかに失せなさいませ! そしてさっさとワタクシ達の財産を寄越しなさい!』
『ハハハ、お前ら! この最先端技術の暴走に踏み躙られやがれッ!』
ミレア軍は完敗を、イズセラ軍は圧勝を確信した――故に前者は戦意喪失し逃げ腰になり、後者は余裕の現れで隊列に乱れが生じていた。
「……も、もう限界だったんだ。ミレアは、終わったんだ……」
ミレア軍の総指揮官が意気消沈し、撤退の号令を放とうとする。その時、一人の青年が指揮官に独断で代わって号令を放つ。
「皆さん、あの突出した一機により空いた穴へ突撃し、敵軍を両断しましょう! 私に続いてください!」
青年は直接戦闘には向かない【聖職者】の御身で、自ら部隊を率いて突撃する。
イズセラ軍の隊列から突出した一機の脇を通り抜け、彼らは敵軍に割り込み、その穴を力ずくで広げていく。
この捨て身の攻撃にイズセラ軍は動揺し、連携が乱れた。
ミレア軍はこれを好機とし、イズセラ軍に猛襲。
『落ち着け、臆病者! ただ雑魚の悪あがきだ!』
『あわわ、ワタクシの財産が次々と……』
『お、己……あの突出者め覚えていろ! 後々俺が徹底的に痛めつけてやる!』
そして数時間に渡る泥沼の戦いを経て、イズセラ軍は多大な被害を受け、ミレアの国境にスクラップを大量放棄しながら撤退していった。
「辛勝……でしたね」
北へと帰っていく機械兵団と、満身創痍の自軍を眺めながら、桃髪の青年――ヴァイス・O・ヘブンはそうつぶやいた。
【完】
※今回のロジスティクス・サーガ・データベースはございません。なお、ここからも新キャラや新設定が少なくなるため、かなり掲載間隔が空いていきます。




