85.時神ア・ドネザスオグの化神官、ジュリクス
ネロアとシュラをもてなしていたジュリクスを急襲し、ギルドハウスから脱出した彼らを出口で待ち受けた七人のギルドマスターの内、黒鎧に剣を佩いた歴戦の【騎士】そのものな男は一枚の書類を開き、三人へ向けてその中身を読み上げる。以下、その内容を記す。
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判決文
我々七名はランニバーニ化神官兼、【ヴィオレックス評議会】ギルドマスターのジュリクス・ヴィオレックス氏を不信任と決議し、ここにやむを得ず武力行使の元、当者を懲罰処分する事を定めた。
この判決は不可覆とし、当者は実直に従うことを義務とする。
総責任者
【レガル司法省】エクスカル・リガル
連名
【テクノロジオ連合】ギルドマスター、ギアディオ・テクノロジオ
【メディカリア教会】ギルドマスター、ヒリュア・メディキュア
【サプレーサ芸能】ギルドマスター、リリーサ・サプレーサ
【バティ軍】ギルドマスター、ウィンティ・バティ
【インスピリン学院】ギルドマスター、トリン・インスピリン
【ハーベック農協】ギルドマスター、ブーク・ハーベック
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「……丁寧に左様な書類まで用意しましたか。流石はエクスカル、徹底的に綿密です」
エクスカルは書類を折り、懐に戻して言う。
「私はただ、これまで通りの綿密な仕事をしたわけではない。これは我々の義憤の質量の証明だ、ジュリクス!」
ランニバーニ随一の武闘派、ウィンティは目を三角にして、ジュリクスに訴える。
「かつてランニバーニは、大陸一の力を誇る国だった。けど、いつの間にかミレアに越されてしまって、その差はハッキリした。なのにアンタはどうにかしようとしなかった! アタシは百回千回でも戦争してもよかったのに! そのためにこのギルドはあるというのに!」
ランニバーニの知恵者、トリンは諭すようにジュリクスへ、
「ウィンティ様の言う通り、あなたは時間を無駄にし過ぎでございます。私も当初は思いました『たとえ愚行を続ける主としても、従うのが臣の責務』と。
ですがこれほどまでに傷が大きくなってしまいましては、『たとえ忠誠を捧げる主としても、諌めるのが臣の責務』と考えが変わってしまうのです」
七ギルドマスターの問い詰めに、ジュリクスは物静かに答える。
「……だとしても、武力行使……よりによって来客時にする必要はありましたか?」
ブークは激しく憤りながら、
「俺たちゃ再三にわたって注意したさ。けどアンタは『考えておく』とか、『いずれどうにかする』とか、それっぽいこと言って、結局何もしなかった! ならこの後するのは、武力行使一択だろう!」
続けてヒリュアがジュリクスと、背後のネロア、シュラに一礼して、
「本当にごめんなさい、皆さん! けど、今後の影響力を考えたら、この日が一番よかったんです! あ、安心してください! ネロアさんとシュラさんには絶対危害は加えませんし、ジュリクスさんも大人しく捕まってくれれば何もしません!」
シュラは小声でネロアに尋ねる。
「ボクたちどうする? これだけ聞くと、ただただジュリクス君が無能みたいなんだけど……」
「僕たちも大人しくします。たったこれだけで動くのはせっかちが過ぎますから」
「わかったか、ジュリクス。さぁ、来るんだ」
エクスカルの勧告に、ジュリクスは、これまでの温和な雰囲気から変貌して、毅然とした態度で、語気を強めて返す。
「断固として拒否する」
「……理由は?」
「貴方がたにはわかるはずもないだろう。
何万もの人を守り、国を背負い、そして次代を創らなければならない、主としての責務の重大さを。
貴方たちにとって、私はただの遺跡籠もりにしか見えないだろうが、大局を描いているのだ。この大陸の運命を超越する、一時の覇者ミレアを凌駕する、他人への説明すら困難な大局を!
そのために私は、国が滅ばないように政と謀、両者を正しくやっているにも関わらず、貴方達はそれを無視し、こうして反逆した……別に構わない。
ある者が言った。人間は、良いことよりも悪いことのほうが目に付きやすい。と
そしてまた、ある者は言った。人間は、誰であろうと叩いてやれば真っ直ぐに出来る。と」
ジュリクスはランニバーニの上空を覆い尽くす、暗くも眩くも星夜に槍を掲げ、
「【モンスターコール:ドラゴン5】」
真珠の如き煌きを持つ鱗と四枚二対の羽が特徴的な紫竜【マグニフィセントドラゴン】を召喚。
「【人竜一体】」
そしてジュリクスは竜と融合。紫竜を模した鎧を纏う、荘厳たる様相で、七大ギルドマスターへ告げる。
「さぁ、貴方たちの悪道は、この時を以て……通行止めだ」
七大ギルドマスターは己の配下に攻撃司令を放つ。勇猛果敢な近接兵が、ジュリクスへと押し迫る。
「【烈旋刻無槍】」
ジュリクスは竜の鋭尾を模した槍に、猛火を帯びさせながら振り回し、迫る敵全てを焼き薙ぐ。
「【インスピリン学園】の皆様、その他後衛の皆様、一斉射撃でございます!」
間髪を入れず、ジュリクスに魔法や矢弾の五月雨が降り注ぐ。
「【凌古焔轟砲】、三連!」
ジュリクスは撃ち手へ、竜頭を模した銃より、人の背丈ほどの直径を誇る火球三発をお返しし、彼らを滅却する。
七大ギルドマスターは、怯えず怯まず、攻撃を続ける。
対するジュリクスは竜と合体した故の高ステータスと、巧みな槍と銃の技で、彼らを全くして追随させない。
「こ、これが、由緒正しき時国ランニバーニの化神官の戦い方……何という圧巻の立ち回りでしょうか」
「ボクも同感だよ。ジュリクス君と付き合いは長いつもりだったけど、ここまでやれるなんて……やっぱ、八神会議の議長は伊達じゃないんだね……」
「ぐがァっ!」
この叫びを合図に、突如としてジュリクスの動きが完全に止まる。彼の側面に回ったトリンは微笑む。
「これにてチェックメイトでございます。皆様、袋叩きにして差し上げましょう!」
命中した相手を、まるで時間が止まったように一定時間行動不能にする魔法【タイム・フリージング】を掛けられたジュリクスを、七大ギルドマスターはシメたと睨む。
「ボクが褒めてる最中に、これはまずいねぇ。これじゃあまるでボクが敗北フラグ立てたみたいになるじゃないか……ネロア君、仲介ぐらいはしないかい?」
ネロアは虚空をカンカンと拳で叩きながら、
「今そう思ったのですが、僕たちの周りにバリアが……」
このバリアを仕組んだ犯人である、ヒリュアは会釈程度に頭を下げた。
「重ねて言います、ネロアさんとシュラさんには危害は加えません! どうかバリアの中でお待ち下さい! ……では、皆様、頑張ってください! 【クリティカル・コール5】!」
ヒリュアはここ一帯の自軍に、『クリティカル率激増』のバフを掛け、
「腐れド外道! 【ディフェンス・カース5】!」
ブークはジュリクスの防御力を軟化させ、
「終いだジュリクス、【暁の裂剣】!」
「【追憶のギガファイヤ】ァ!」
「【英勝神楽】っ!」
「【剛烈破壊】!」
「【イグニス・レイジング】!」
エクスカル、ギアディオ、リリーサ、ウィンティ、トリン――五人のギルドマスターが、個々の切札スキルを同時にジュリクスへ浴びせた。
ジュリクスは防ぎきれなかった火魔法と大砲の大ダメージを受けた。
同時に、ジュリクスはエクスカルの剣を槍で受けていた。
同時に、ジュリクスはリリーサの刀を槍で受けていた。
同時に、ジュリクスはウィンティの拳を槍で受けていた。
「え……ジュリクスが……五ッ……」
そして六人目のジュリクスはトリンの頭を銃で撃ち、彼女を消滅させた。
その後ろでは、七人目、八人目のジュリクスが、周囲の反乱軍を討滅している。
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ア・ドネザスオグ。大陸の真東に聳える居城ランニバーニより、時をぐるりと回す神。
総ての動は時により回る。故に神は世の人の動、総て掌握す。
王君、英傑、勇者、民草。彼奴らが功は、神が刻む。
――『ロジスティクス神話全集』より引用。
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己のデータを多重ロードし、最大七人まで自分とほぼ同じ能力・思考を持つ分身を作り出す――これが、時神ア・ドネザスオグの化神官たるジュリクスの権能【時神の並立】の効果だ。
「……行動不能が解けたか。では、再演と参ろうか」
八人のジュリクスは鎧袖一触を体現するように、続々と反乱軍を征討する。
ただでさえ強いプレイヤーが同時に八人もいる――その事実が、反乱軍を畏怖させ、一気に反逆心と士気を摘み消してしまったのだ。
この理不尽に両足を突っ込むようなジュリクスの戦は、
「み、みんな! 頑張ってください! 私がいっぱい回復してあげま……」
「ヒリュア!? ジュリクス! よくも皆の笑顔を奪う真似をするなんて、アンタは最てッ……!?」
ギルドメンバーすらも無惨に倒し、
「リリーサがやられた!? こ、こんなの認めない! ウィンティ、やるぞ!」
「うっす! 連携して立ち向かうぞ、ブーク!」
抵抗する者達を尽く滅ぼし、
「……始めから俺は反対したのだ。化神官にはそう簡単に勝てないし、こちらの言うことを聞かない。と。
なんせ俺はイズセラで二人の化神官のヤバさを体験していたからな。
悪いのは他の六人だ。奴らが変な同調圧力をかけて、無謀な作戦を試みたのがいけないのだ。俺はただそれに従っただけだ。だから俺は逃げる。
この愛機【ギアディオゼノン】が傷つくのも、俺のプライドが傷つくのも嫌だからな。これから先酷い目に合うのは熱血バカだけでよろし……」
逃げる者も容赦なく敗死させ、
「……それで、貴方は反逆を起こし、どうしたかったのだ?」
残る反逆者は、首謀者である――エクスカルただ一人となった。
八本の槍に囲まれながらも、エクスカルは狼狽えずに、一人のジュリクスに問い質す。
「……何故だジュリクス。何故これほどの力を持ちながら戦わなかった? 何故これ程意地を持ちながら我々へ策の説明をしなかった」
「前者は、これだけでは覇権に届かないから。後者は、現状が答えだ。半端に乱を起こして、半端に敗北する。このような者たちにはまだ、何も語れることはない」
「そうか……ジュリクス。もう一つ聞かせてくれ。お前は覚えているか? ゲーム内時間で五年前、この国の頂点を目指して、トリンやヒリュアたちとあちこち修行と冒険をしたことを……」
ジュリクスはエクスカルの脳天に銃弾をお見舞いする――『今更、情に訴えかけるな』という意味を込めて。
ジュリクスは分身と、合体していた竜を消し、シュラとネロアがいる方へ振り返り、
「ここで起きたことは内緒でお願いします。苛烈なイメージも、実力者のイメージもいらないので」
と、数分前の温和な体でお願いした。
*
翌日、ランニバーニの竜のターミナルにて。自国に帰るネロアとシュラを、ジュリクスが見送っている。
「改めて言っておきます。今日をもって『死国トードイスムカの外交禁止令』は解除致します。ですからネロアさん、これからはどうぞ御国の発展をお進めください」
ネロアは深々とジュリクスに礼をする。
「誓約の同意。魂の深淵より感謝する」
「また、シュラさんも本国にご来訪頂き、ありがとうございました」
シュラは昨日の件を思い出し、吹きそうになるのを堪えながら、
「こちらこそ。ここではいい経験をさせてもらったよ……」
「それでは、お二人共、次会う時はどこかはわかりませんが、お元気で」
「応!」
「はい」
二人は踵を返し、離陸を待つ竜に乗り込みに行く。
その間、ネロアは昨日のことを思い出し、複雑な気持ちになる。
(トードイスムカの外交が解禁されたのは嬉しいです。清々しいです。同時に、それを考えると、怖いところもあります。
なんせ、これから先、僕はより慎重に他国と渡り合っていかなければならないですし、ジュリクスさんや橙瀧さんのような怪物とも戦わなければならないですし……)
途中、ジュリクスが「待ってください」と二人を呼び止め、こう尋ねた。
「そういえば、ネロアさん。貴方、中々危ういタイミングで、外交解禁出来ましたね……近々、あの日がやってくるのを覚えていますよね……」
ネロアは首を堂々と縦に振って、答える。
「無論。僕はあの英傑を、久遠に記憶しているとも」
*
大陸真東部。命国【ミレア】。首都【純都】内の【キトァミァ神殿】。
そこにある大会議場の扉が、ゆっくりと開く。
杖を携え、純白のマントを羽織る、桜色の髪を持つ容姿端麗な青年は、悠然と歩を進め、最奥の椅子に腰掛ける。
そして彼は、光が差す天井近辺を見てつぶやく。
「久々に見るとよくわかりますね。ここがこれほど輝かしい所だったなんて……」
次に青年は、床の方を見る。そこには既に、彼が絶対的に信頼している四人が跪いていた。
「「「「お待ちしていました、ヴァイス様」」」」
【完】
ロジスティクス・サーガ・データベース
■キャラクター紹介
【ジュリクス・ヴィオレックス】
分類:プレイヤー
所属:時国ランニバーニ
レベル:100
ジョブ:【竜騎士】/【化神官】
時神ア・ドネザスオグよりその威厳を貸し与えられた【化神官】。国内の八大ギルド【ヴィオレックス評議会】のマスターと、【八神会議】の議長も兼ねる。
穏やかで情に厚い。ただしいざという時は、己の正義のために容赦のない行動を取ることもある。良くも悪くも君主らしい人物。
ここ最近は何やら国内にある遺跡の発掘作業に執着しており、先日の八神会議でのこともあって、国内からは彼の所在を不安視されていた。
ランニバーニの【竜騎士】は、銃と槍を装備し、竜とともに敵軍を様々な手段でなぎ倒すことを得意とする。一つの武芸だけを極めても、他の下位互換となりかねないので、満遍なく修練を積まないといけない上級者向けのジョブでもある。
彼は熟練の【竜騎士】として、愛竜を装備のようにして合体し、ステータスを爆増させるスキル【人竜一体】も獲得している。
時神から賜ったスキル【時神の並立】は、自分と同じステータスを持ち、自分と近しいプレイスタイルを自動で行う分身を最大七体作り出せる。
彼一人でも十分に強いが、それが八になればただただ脅威でしかないだろう。
ジュリクスという名前は”Jewelry Box(宝石箱)”を縮めてもじったものです。
彼に限らず、名有りのランニバーニ・プレイヤーは、名と姓の末尾が一緒になるようにしています。




