84.神劇のランニバーニ
大陸の北にある国――時国【ランニバーニ】。
首都【歴都】は、巨城【ア・ドネザスオグ神殿】を中心に、古めかしい石畳とレンガ造りの建物が積み重なり、人々が賑わいを見せる。
郊外には森丘や草原が広がり、モンスターが陸空で風を切る。
まさに剣と魔法のファンタジーの手本のような国であった。
このランニバーニの空に、腹部にカゴを搭載した人員移動用の竜が飛んでいく。
「うーん、久々に来たけど、やっぱりここは空気も景色も爽快だねぇ」
と、ランニバーニの兵に混ざって竜に乗る青年は語る――彼の名はシュライベン=ブラット=グリュム。西隣の文国ヨヤアサの化神官だ。
「シュラ様、間も無く目的地に着陸致します」
竜はランニバーニの北部にある、山と一体化した遺跡の入口付近に着陸した。
シュラは竜から降りるや否、兵たちに入口付近の仮設拠点へ案内される。
「お呼び通り来ましたよ。ジュリクス君」
「ご来訪頂き痛み入ります、シュラさん」
会ってすぐ、古典的な勇者のような装備をした壮健な男はシュラへ深々と礼をした。
彼の名前はジュリクス・ヴィオレックス。
ランニバーニの【化神官】。
ランニバーニの政治を司る、国内の八大ギルド【ヴィオレックス評議会】マスター。
八国の調和を律する【八神会議】の議長。
以上三つの称号を持つ、ロジスティクス・サーガ屈指の実力者である。
「恐らく八神会議とヘブンズレイド以来の再会だから、ボク的には色々話がしたいところだけど……君はそんなことよりも、優先したい約束があったんだよね、ジュリクス君?」
「いかにも。まずは着いて来て欲しい。仔細はそれを見てからお話ししますので」
ジュリクスとシュラは遺跡の内部を歩く。
この遺跡に名前はない。だが、この遺跡は他国にもその存在が広く知られている。
おおよそ二年前(※ゲーム内時間)――命国【ミレア】がヴァイスの指揮の元目覚ましい発展を遂げている最中――に、ジュリクスがここの探索・採掘を、自国の政の次程度に、積極的に行っているからだ。
一国の主が、さほど貴重性の無い遺跡に注力する――この余りにもスケールの小さい行為に、他国が嘲笑したのだ。
だが、ジュリクスはこれを全く気に留めず、無能の誹りを受けながら、今日も作業を続けている。
(未だにランニバーニ・プレイヤーが出入りし、塵埃一粒すらもかき集めるように作業している。でもってそれを化神官が直接指導している。こんな出来の悪いほら話あるのかと思ったら、あったんだねぇ……)
「どうかしましたかシュラさん? 急にニヤけて……私の服の襟とかが歪んでいるのですか?」
「いえ、なんとも」
二人は徐々に遺跡の深部へ降りる。人数も徐々に減っていく。やがて……
「ここだ」
意味深な重い扉の前に辿り着く。その扉には後付しただろう機械製の錠と、『関係者以外立入を禁ず ジュリクス・ヴィオレックス』と書かれた看板があった。
「忠告しておきますが、ここから先で見聞きする物事は全て、他言無用でお願いします……では」
関係者――ジュリクスは機械を操作し扉を解放する。
その先にあったのは、ほのかに光を放つ石が組まれて出来た、八角形の部屋だった。
この広々とした空間の中央に、外壁よりも眩く、神秘的な光を放つ、大樹のような造形物が置かれていた。
「この樹に触れてくれ」
ジュリクスに言われるがまま、シュラは樹に触れる。と、全くして読めない文字の羅列が書かれたウィンドウが、目の前に現れる。
興味本意で少しウィンドウをいじると、八つのウィンドウが追加で展開し、さらにいじると、無数のウィンドウが展開される。もちろん、それらに書かれている内容も、完全に意味不明で解読不能である。
「この樹は一体何? 触った途端よくわからない文章が出てきたんだけど?」
「これは憶測も混じりますが、『ロジスティクス・サーガ歴代のプレイヤーの記録を刻んでいる樹』です。
約二年前、国を統べる化神官として、各地の開拓作業の中で偶然にも発見しました。
非常に興味深く、今後の戦略に活かせないかと思い、独自研究を勧めているのですが……」
「ちょっと待って、何故『ロジスティクス・サーガ歴代のプレイヤーの記録を刻んでいる樹』ってわかるんだい?」
「それは、触った際最初に八つのウィンドウが出て来るでしょう? それを八つの国の名前と仮定し、いくらかばかしか、既存の言語に結び付けられました。
それを突破口として、解読を進めていったところ、そういう物だとは理解しました。
ただこれ以上はわかりません。ところで、さっきからシュラさんは『読めない』という旨を口にしていますが、これは本当ですか?」
シュラは文神ユールコアの【化神官】であり、その権能で相手のステータスを覗くことが出来る。
だからジュリクスは、ひょっとしたらその応用で、これの解読も可能ではないかと考え、他国の人間の力を借りることを無念に思いながらも、シュラをここに呼んだのである。
だが、肝心なシュラは両手を開き、首を傾げて宣言する。
「全く読めないね」
「そうか……ならすまない、わざわざここまで呼んでしまって」
「……いや、まだ謝罪はよしてくれ。ひょっとしたら……こうすれば」
シュラはレイピアを手に取り、樹めがけ白黒の衝撃波――【文神の執筆】を打ち込む。
「!? や、野蛮なことしてくれますねシュラさん……」
「ごめんね、許可取る前に実行しちゃって。ロジスティクス・サーガ歴代のプレイヤーが記録されているなんて、好奇心をくすぐられちゃうじゃないか……」
「そのスキルは『何かしらの概念を消す』と承知していますが……大丈夫でしょうか」
データが破損していないだろうか。樹の機能が停止していないだろうか。
などなど、ジュリクスは危惧しつつ、恐る恐る樹を触る。と、先程同様ウィンドウが眼前に現れる。だがその記載内容は難解な言語文字から、『ロジ■■■■ス・サー■プ■イヤー■■タレ■ード』と、虫食いながらもギリギリ読めるレベルにまで表示されるようになっていた。
「おお、読める、読める……!」
「やった。ボク薄々思ってたんだよねぇ、この樹が表示されるウィンドウには、『何かしらの暗号化がかかってる』んじゃないかって。
それを解くために【文神の執筆】を打ち込んだら、この通り読めるようになった」
「流石ですシュラさん。ですが、まだ虫食い状態で、完全に暗号化が解けた訳ではございません……図々しい話ですが、もう何回か【文神の執筆】を使ってくださりますか?」
「いいともいいとも。こんな鮮烈な奇品を埃被ったまま放るなんて出来ないからねぇ!」
この後、シュラは幾度と樹に【文神の執筆】を当て、暗号化を完全に無効化する――その回数、六十四回。
シュラはこの謎の空間の床に、腰と両手をつけながら、荒く笑い声を上げた。
「いやぁ……疲れた疲れた、そんでもって鮮烈鮮烈。これほど【文神の執筆】を連続して使った経験はないよ……」
一方のジュリクスは、この樹が発するウィンドウの文字列を斜め読みしながら、
「まだ全ては解読できてはいませんが、これ以上シュラさんに無理をさせるわけにもいきませんし、効果が出るかもわかりませんので、ここで止めておきましょう。
ご尽力頂き真に感謝します、シュラさん……どうです、今御身に不調等はございますか?」
「何ともないよ。むしろこんな大仕事をして、清々しく思うよ。ここ最近自分の作品がネットドラマ化された時ぐらいにね」
「ならばさらに感謝いたします……さて、これにて私の願望がより実現に近づきましたが。一つ、悩ましいことがありますね……」
シュラは、悩みとは何か。と、ジュリクスに尋ねる。
「この樹の名前です。先程から『ロジスティクス・サーガ歴代のプレイヤーが刻まれた樹』、このウィンドウのデータ項目である『ロジスティクス・サーガ プレイヤーデータレコード』など、固くて長い呼称を使っているのですが、折角ですからもっと呼びやすい物を付けたいと考えていましてね……んー、【記録の樹形図】?」
「訴えられても知らないよ?」
「薄々わかっていたとも……そうだ。ここは解読に最も尽力した人物であり、文才のあるあなたに命名して貰いたいのですが……」
「おいおい、いきなり小説家の端くれであるボクの文才を貰おうとは……大歓迎だよ! じゃあここはあえて単純に【英雄譚樹】というのはどうだろうか?」
このシュラが考えた名前を聞き、ジュリクスは反射的にうなる。
「いいですね。シンプルで重みのある響きだと思います。では今後はそう呼ぶように致します……最も、これの存在を知っておくのは、私とシュラさんのみになりますが」
*
以降の研究はこれまで通り私個人でする。と言って、ジュリクスはシュラと共に遺跡を出て、竜に乗り、空中で草原へと沈む夕日を眺めながらランニバーニ首都【歴都】に帰還した。
今度は自分のギルドハウス内の宴会場に案内する。遠路遥々来て英雄譚樹の解読に助力したことへの感謝の気持ちである。
しかし、席に着いた数分経っても、料理も飲み物も出る気配が無く、ジュリクスも宴会用のテーブルの上に書類を広げ、執務をするという始末。
無論、このような無礼を、ロジスティクス・サーガ内で群を抜いた力量を持つジュリクスは意図的に働いている訳ではない。
「本当に、もう一人の来客は来るのかい?」
「ええ。ただ今ランニバーニの上空を飛行中とのことです。どうやらここに来るまで、気流の状態があまりよろしく無かったらしく、思いのほか時間がかかってしまったようで……
ええと、これもまた『ランニバーニで強制労働に従事させられていたイズセラ国民』の件で、その人数は一万人という報告か。全く、不義理な輩です」
「すまぬ。天空の気が僕の天道を阻んでな……」
宴会場に、もう一人の来客者――ネロアが平謝りしながらやって来る。
彼女は、ジュリクスにより課せられたトードイスムカの外国禁止令を解くべく、彼に要求された『ミレアとランニバーニ以外の五国の化神官の許可証』をここに持ってきた。
そう、この宴会はシュラとネロアの働きを労る物なのだ。
「あれっ……シュラさん?」
「おおっ、ネロア君か。意外な人が来たね……」
「お待ちしていました。まず、どうぞ席にお座りください。貴方もここに来るまで、疲れが溜まっていると思いますので……」
お言葉に甘えて、ネロアはどっしりと席に座る。位置は、向かいにシュラがいるところだ。
「ありがとうござ……その心遣い、僕が祝福しよう」
「……どっちの口調で行くか迷うよねぇ。ボクとジュリクスが同時にいるんじゃあねぇ」
参加者は揃った。故に、ジュリクスはテーブルに品を用意するため、書類をまとめる。
「私はこれの片付けと、裏方への指示をするので、一旦席を立ちます。今しばらくお待ち下さい」
まとめた書類を抱えて、ジュリクスは宴会場から出てくる。
彼が不在の間、ネロアとシュラは久々の対面を喜び、世間話をする。
「本当に五国から許可証を貰ってくるとはね……いやはや、やはり鮮烈だねぇ、ネロア君」
「とても大変でした。シュラさんとリュートさんは元々の仲ですんなりと入手出来ましたが、他三人は訳ありでして……不幸にも、行く先行く先で戦いに巻き込まれたんですよ」
「まるで疫病神だね。けど、きっちり貰えたということは、どうにかこうにか気に入られたんだろう?」
「はい。想像していた以上に過酷な旅でしたが……いい経験になったと思います。どこの国の化神官と、その周りの方々も印象的でした。
そうした意味では僕、ジュリクスさんにすごく感謝しています」
「そうかいそうかい……なら今度は、【字都】に来ないかい?」
「【字都】――文国ヨヤアサの首都にですか?」
唐突な誘いに首を傾げるネロアに、シュラはニコニコする。
「そう、この後、速急な予定が無いならおいでよヨヤアサの森に。空気もご飯も美味しいし、そこでボクが三国以上で得た物よりも忘れられない経験をさせてあげるよ?」
「へぇ、そうですか……興味深いで……」
「大変お待たせしました、シュラさん、ネロアさん」
ここでジュリクスが料理人等の使用人を大勢連れて、宴会場に戻ってくる。
「僕は不愉快を金輪際認識していない。故に、気にするな、ジュリクス殿」
「うん、ボクもなーんとも思ってないよ。なーんとも……チッ」
かくてネロア、シュラ、ジュリクスはそれぞれ、一流の楽師が奏でる曲を耳に、敏腕の料理人が作った品々を口に、名誉ある他国の化神官二人を目に入れながら、宴会を楽しむ。
「この際で言うことでは無いかもしれませんが……ネロア殿。先日の八神会議での無礼、本当に申し訳ございませんでした」
最中、ジュリクスは過去――八神会議の最中、ヴァイスが自由区で反乱を起こした時、自分が真っ先に逃げ出した時のこと――を詫びた。
「自ずから古の大罪を追憶し、謝罪する、か。かの事象の子細はゆくゆく僕から訊こうと思っていたのだが、それは何だ?」
「はっ、言い訳のように聞こえてしまうのは承知で答えます。
当時、ヴァイスさんに『己に味方するように』と楔を打ち込まれていたのです。が、あの時はヴァイスさん側に非があることを誤魔化しきれなったのは記憶にございましょう。
ですから私は議長の努めとして、乱を起こした事を含め、ヴァイスさんを責めるべきでしたが、約束を守るのもまた努めです。さらに言うと……」
「「さらに言うと……?」」
「当時から、国内でミレアに寄るか抗うかの是非が各所で叫ばれていまして、下手にどちらかに味方すれば国が割れてもおかしくない状態でした。だからあの時、矛盾を逃れつつ相反を折衷するため、あのような醜悪な行為を取ったのです」
「ふぅん、つまりジュリクス君はあの時、ヘタれてたわけじゃ無いってことだね?」
「現在、ランニバーニは八国で最大の人口を誇る、十人十色の士が集結する国。
いたずらに義の天秤を傾ければ、大乱が唸り天地が焦げるのは必然だろうな……双つの意義でありがとう、ジュリクス殿」
「どういたしまして……ですが、その後、国内はまた別の方向にきな臭くなってしまいましたが……長話ばかりでは飽きますでしょう。ここで一つ、余興を入れるとしましょうか。丁度準備が出来たようです」
ジュリクスが手を叩くと、宴会場に綺羅びやかな衣装で着飾った者たちが集い、ここに設けられた舞台で演劇を始める。
「――過去の栄光に酔い乱れ、天下を乱す愚王め! 汝の目に映りしは、かつて汝を支え、汝が捨て、汝を罰する為に蘇りし英雄である! 今この時は過去に英雄譚として語られるだろう! 神妙にしろ!」
その内容は暴虐な王に、古の英雄が集結し立ち向かう、ありきたり気味な物語。されど役者達の名演と、真剣等の本格的な装飾により、凄まじい迫力を放っていた。
「突然すみません。私は現実世界でも観劇が趣味でございまして、こちらでも自費であの方々を集めているのです。
して、今開演しているこの劇は、現実世界でも私が幼い頃から好きな物でして、何かしらの宴の折に、必ず上演するようにしているのです。こうして気合を入れまして」
「成程、故にこの骨髄に達する位の気迫が来るのだな。その話を聞いて、僕はますます感動している……」
と、この劇に圧倒されたネロアは、このように口では絶賛する。
「いいねぇ……」
シュラも同様に劇を褒める。だが彼が使う最上級の褒め言葉『鮮烈』は全くして口にしない。
――『古臭いから』、『見飽きたから』などという、しょうもない理由ではない。
二人は劇が始まってから、異様な殺気を感じていたのだ。
(昔、小学校の図書室にあった歴史マンガで見たことがあります……こういう宴会の最中に、剣の舞を装って要人の暗殺を狙った話を。まさかとは思いますが、怪しいです……)
この殺気はネロアも感じており、彼女とシュラは各々の得物をジュリクスにバレないように握っている。あちらが頃合いを見て、よからぬことをしないように……
そして劇は終盤を迎え、
「――これで終いだ、王よ!」
主演は悪役に剣を振り下ろす。その時!
「危ないッ!」
放られた剣が天上に深々と突き刺さる――ジュリクスの槍の一振りによって。
「……あなたたち。ここは宴会場、それも他国の応対の場です。それを承知で、このように物騒な真似をしているのですか?」
ジュリクスの問いに答えず、たった今宴会場に押し寄せたランニバーニ・プレイヤーたちは、魔法、矢、銃等の攻撃を、ジュリクス一点めがけ放つ。
「【モンスターコール:スタッグビートル4】」
「【モンスターコール:スケルトン4】ッ!」
シュラは牙城の壁が如き硬度のクワガタ型モンスター【ランパートスタッグビートル】を、ネロアは主たる威厳溢れるスケルトン型モンスター【オーバーロードスケルトン】をジュリクスの前に召喚して囮にし、生き残った者に反撃をさせる。
だが相手はあまり損害を受けず、次なる攻撃の準備にかかる。
「【モンスターコール:ビートル4】」
「【万死の薙】ッ!」
「【千絶時雨槍】ッ!」
その前に、シュラは穿ち抜くことに特化して進化したカブトムシ【トランセンドビートル】を突撃させ、ネロアは闇属性を帯びた剣を豪快に横一文字に振り回し、ジュリクスは目にも留まらぬ槍の連閃を繰り出し、急襲者たちを葬り去った。
直後、ジュリクスは自身のギルドメンバーにチャットを掛ける。
「こちらジュリクス。ギルドハウス周辺はどうなっているかわかりますか?」
『そ、それが! いくつものギルドメンバーが続々と集結し、そちらに押し入ってま、うぁッ!?』
ジュリクスは必死で苦悶の表情を和らげ、シュラとネロアに向く。
「……非常に申し訳ないですが、ただいまこのギルドハウスは、私を狙って襲撃されています」
「ジュリクス殿の軌跡と尊厳に憎悪の業火を燃やす者たちに?」
「恐らくそうかと、ネロアさん。先の手勢は紛れもなく他七ギルドの者……ただの賊では決して無いでしょう」
「だとしても異常だねぇ。わざわざ他国の化神官が二人もいる時を狙うなんて……」
「逆にこの時を狙ったのでしょう。
シュラさんとネロアさんを証人、あるいは戦果として、自分たちの正しさを大々的に世界に知らしめる為にね……
話はここまでにして、ここから脱出をしましょう。次の刺客が来るかもしれないので。
劇団の皆さんはここに隠れていてください。二人方は私に着いてきてください。こういうこともあろうかと、脱出用の隠し通路を用意してありますから」
「応!」
「あいよ……いやぁ鮮烈鮮烈。こんな襲撃・脱出戦、平和なヨヤアサじゃあ絶対出来ないからね。武者震いがするよ」
ネロアとシュラは、ジュリクスに寄り添い、脱出口を目指す。
道中、幾度となく刺客からの急襲を受けるが、彼らは皆ランニバーニの精鋭――化神官三人の力を束ねても、容易くは返り討ちに出来ず、三人は消耗していく。
「二人方、もうすぐ出口です……」
「ぜぇ、ぜぇ。流石はランニバーニの猛者だ。神の右腕たる僕たちですら手を煩わせる知勇と天賦を秘めるとは……」
「ボクはそれよりも、『彼らの気持ちの強さがハンパない』と思ったね。皆『是が非でもジュリクス君を殺す』っていう意地を持ってたよ……」
そして三人は脱出口をくぐり抜け、月星の光と、点在する夜灯、そして反逆者の眼光を浴びる。
「やはり私の読み通りでございました。ジュリクス・ヴィオレックス、覚悟なさい!」
と、ローブの美麗さから、高位の【魔術師】であることを知らしめる淑女は、己のギルドメンバーに号令し、ジュリクスに集中砲火する。
「【裂旋刻無槍】!」
ジュリクスは嵐の如き回転力で槍を回し、飛んできた魔法全てをかき消す。そして……
「自国の長にここまでの仕打ちをするとは無礼千万ですよ……七大ギルドマスターの皆様が揃いに揃って!」
と、自分たちを包囲するギルドマスター七人と彼らの親衛隊を叱責した。
【完】
ロジスティクス・サーガ・データベース
■用語説明
【ランニバーニ】
通称:時国
神:時神【ア・ドネザスオグ】
首都:歴都
プレイヤー数:2400万人(総プレイヤー数の24%)
化神官:ジュリクス・ヴィオレックス
時の神が支配する伝統ある国。
雪山、森林、遺跡が散在する、八国の中で最も古典的な中世風ファンタジーな様相を持つ。
政治体制もファンタジーの世界観らしく、八つのギルドが一丸となって治める共和政となっている。
固有成長傾向は、それぞれのジョブの特性をオーソドックスに伸ばしたもの。
やはり中世風ファンタジーというジャンルは強いのか、遺跡とは人を惹きつける強大な魔力を持つのか、八国の中で一番プレイヤーが多い。
命国が人口ナンバーワンではありません。時国のものです。しばし遅れを取りましたが、ヘブンズレイド以降に巻き返したのです。




