82.術神イイキュフォアグの化神官、エロイース
ネロアが連れてきた【化神官】と『生徒会長』を名乗る怠惰な金髪の少女、エロイースを見て、四学級長とレイザックは、それぞれ反応をする。
「あの方が……僕達の化神官……!? なんか、その……法外でございますね」
「ド直球に言わせてもらうが……ヤバくないかアイツ? あれマジで化神官か?」
「……本当に、神殿から出てきたのですか」
「あれがイペファワエゼの化神官……そうか、ネロアさんはここにエロイースさんを連れてくるために奮闘を……」
「お前が『生徒会長』だと。なら、直行落命やがれ……【主狼・不破流陰弩】!」
ブッチギリーストは両手それぞれで旋風の円盤を二つ作り出し、エロイースに投げつける。
トパライザ禁書により膨大な魔力を取り込んだブッチギリーストによる魔法である。
この勢力は猛烈以外の何物でもなかった。その円盤の周辺の空間が歪んでいるように見えるのが、その証拠だった。
「【アース・バレット】、二連」
だがエロイースは防ぐ。初歩的な土魔法――それも、本来なら風魔法と相性が悪い土魔法をぶつけることによって。
「戦闘力はそれなりにあるようだな……なら、ワシは最高出力でお前を敗死す! 【知風・隕敏死武流】!」
ブッチギリーストはエロイースに暴風を浴びせ、自らは風と一体化する。数秒後、彼はエロイースの間近に出現し、殴りかかる。
「【アース・エッジ】」
エロイースは得物の本を土の刃でコーティングし、これで拳を受け止める。だが物理的なパワーはブッチギリーストが断然上。エロイースは豪快にふっ飛ばされ、背後にある建物に叩きつけられる。HPもだいたい三割ほど減った。
「ああっ、エロイース様!?」
「ちっ、やっぱアイツ、雰囲気だけはそれっぽく出来るヤツなんじゃねーの?」
「……いや、まだだ」
「……で、これでやれることは全部やり尽くしたの?」
だがエロイース当人は、余裕の表情で壁から抜け出す。
「まさか、ワシはお前を圧倒するのが最終目標じゃ……こんなしょうもない技使って自惚るような者ではない!」
「あっそ……なら、アタシも本気出してあげよ。うん、身のほど知らずのボケナスにはそれがいいわ。そろそろめんどくさくなってきたし……」
エロイースは右手に本を広げて持ち、左手のひらを正面に突き出し、
「【術神の極致】」
限りなく透明に近い、なんとも形容しがたい色の輝きを放つエネルギーの球を作り、飛ばす。
「撃ち落としてくれる、【尽因・不零無】!」
ブッチギリーストは火の玉二つを撃ち、命中させる。だが球の威力はまるで衰えず、ブッチギリーストはこれを食らいHPが一割削られる。
「【術神の極致】」
エロイース二発目の球が来る。さっきの結果から、より強力な魔法でしか防げないと判断したブッチギリーストは、
「【能謀・英蔑屈】!」
正面の地面を隆起させ、強固な壁とし、球を受け止める。
だが球はメキメキと壁にめり込み、やがて貫く。
「虚構ェ!? 何でワシの魔法が有効ばない……【知風・隕敏死武流】!」
ブッチギリーストは風と一体化し、素早くその場から逃げる。それでも球はブッチギリーストを追い続ける。
(この球、追尾効果もあるのかよ……なら、もう逃げるのはやめだ!)
ブッチギリーストは風から出て実体化し、
「【最羅万怒竜・万軍無】!」
迫りくる球を破壊すべく、烈しく燃え盛る拳を繰り出す。
そしてブッチギリーストは、急カーブした球をみぞおち辺りに受け、大ダメージを負った。
「ブッチギリースト……いや、愚か者。だいぶ遅れたけど、貴方に一ついいことを教授してあげるわ。『あんたじゃアタシを倒せない』とね」
*
■
イイキュフォアグはロジスティクスの十神の一、大陸の南西に席を置く。
彼女の知は織り物が如く綿密にして極彩色。
凡愚、普遍、抜群、そして俗に魔術と謳われるこれも、なんなりと記憶に丁重に揃える。
故に、女神の役は、術の統率者。人が扱う術を、玉石混交に奨励する。
――『ロジスティック神話全集』より引用。
■
エロイースがイペファワエゼに来たのは、四年前のこと。
魔法大国たるイペファワエゼは、どれだけ魔法を究めたかが人の上下を定める。
昔から面倒くさがり家なエロイースは、それを不愉快に感じたが、かといって他の国よりはマシだと思ったので、ここに属し、啓都の学園に入学した。
目指すは『ダラダラ己の思うままに暮らすこと』――エロイースは、最低限度の授業と経験を行い、気ままな学園ライフを過ごし、やがてイペファワエゼ内の中でも随一となる怠惰人と化していった。
そんな堕落した生活の最中、あの前化神官が仕組んだデザートストーム事件が勃発し、全校生徒はそれに身を投じるか、逃げ惑うかの二択を強いられた。
それはエロイースにとって、難題だった。なぜなら、どっちも面倒事が続きそうだからだ。
故に彼女は、自分独自でこの騒動を終結させるべく、一世一代の努力のつもりで、その方法を探った。
エロイースが真っ先に至った結論は、シンプルに騒動の原因となっている化神官を倒すこと。
そのために、彼女は自分の実力を把握し、そこから元凶に打ち勝つための術を模索し始めた。
その最中、エロイースはあることを疑問視した。
それは、火は風を燃やして克ち、水は火を消して克ち、土は水を吸って克ち、風は土を削って克つ――ロジスティクス・サーガの属性相性である。
彼女は思う。『こんなんじゃ、運が悪ければアタシが不利になってしまうじゃないの』と。
彼女は一瞬、この努力がバカバカしくなる。しかしここで筆を投げては、イペファワエゼにはいられない。
だから彼女は、いかにも面倒くさがり屋な彼女らしい、画期的な魔法を考案した。
集中と脱力を交互に行い、属性のない魔力の塊を生成し、放つ。
たったそれだけだ。
だがこれが思いもよらぬ威力を生む。ほぼ純粋な高濃度の魔力の塊は、いかなる魔法でも打ち消し難く、軌道も自在に操りやすい。
さらには強力な魔力を持つ相手ならば、本来ならあるべき属性を求めようとする性質から、自動追尾と特効性を持っていたのだ。
この騒動の中、数少ない正常に行われていた授業の一つで、エロイースはこの魔法を試験的に使用してみせた。
これを見た教師陣は、その威力と有用性に衝撃を受けると同時に、こんなものがあっていいのか。と、ひどく困惑した。
その後、彼女の採点を巡って『魔法か、魔法じゃないか』と、論争を行った。
この議論の終止符を打とうとしたのは、デザートストームの張本人だった当時の化神官。
「かようなくだらない術は誰でも出来る。これを得意げに課題に出すなど言語道断だ」
大方、自分の立場を恐れての意見なのだろうが……この鶴の一声により、エロイースは周囲から『魔法学園に相応しくない』と非難を受けた。
それから間もなく、化神官はこの文言を退学通知書に添えてエロイースに送りつけた。
その翌日――デザートストーム事件の終結日。
化神官は学園内の校庭の一つのど真ん中で、ボコボコにされた状態で寝かされていた。同じく、オサラウドら大地の学級の面々も一緒に倒れていた。
前者は、ついにブチギレたエロイースによって、散々コケにした魔法で急襲されたため。
後者は、さっきの逆襲の直後に、次期化神官の座を掠め取ろうとして、反撃されたためであった。
次代の学級長、ブッチギリーストとヒドゥニルンがその第一発見者となった時、エロイースは人知れず術神イイキュフォアグに呼ばれた。
ただ敵を倒すだけでなく、完膚なきまでに圧倒して、世を鎮め、新たな可能性を切り開く。
そんな有用な魔法を生み出したエロイースの素晴らしさを認めた。
そしてイイキュフォアグ神は、エロイースに化神官の称号を与えると同時に、あの魔法に【術神の極致】と命名したのだった。
*
「元気だ……ワシはこの程度では降伏めないぞ……ワシはこの時の為に、ありったけ努力をした……」
「【術神の極致】」
「ぐふぅっ!」
エロイースは冷酷非情に、魔力球を送る。ブッチギリーストはトパライザ禁書により得た魔法を余すこと無く使い抵抗する。だが、全てが無駄に終わる。
逆にブッチギリーストが攻勢に出ようとしても、それよりも先にエロイースが魔力球を撃ち、強引に劣勢に押し込む。
二発、三発、四発。ブッチギリーストは何も出来ず、無様に球を食らい、エロイースに踊らされる。
ネロア、レイザック、カイナフィ、オサラウド、ヒドゥニルン――この戦いを見ている五名は、ほぼほぼ同じ感想を持った――『勝負になっていない』と。
「【術神の極致】」
「……ぐはぁ……ぁ……」
そうこうしている内に、ブッチギリーストのHPは残り一割――もう一発【術神の極致】を食らえば終わり――になってしまっていた。
「ま、これだけ時間かかったんだから、善戦したんじゃない? サンドバックマン……あ、ごめんね、ブッチギリースト」
「……ワシは、ワシはこんな所で灰化るつもりは更々皆無い! ワシはここまで登頂るのに、どこまでの苦労をしたと思ってる……」
「ええ、知ってるともブッチギリースト。だから……交渉しないかしら?」
「交渉……?」
「今ここで、これまでの問題を起こしたことを謝罪して、体裁上アンタを倒させてくれれば、立場そのまま据え置きにしてあげるわよ?
正直、アンタが学園からいなくなった後の手続きが面倒そうでしょうがないからね」
「それってつまり、ワシに『あきらめろ』って懇願いのか?」
「ま、そういうこと。じゃ、十数える前に答えて」
エロイースは魔力球の発射体勢をやめ、淡々とカウントダウンをする。
この間、ブッチギリーストはおぼつかない足取りで、エロイースに接近する。
「今更お前の要求なんかに乗れるような薄情じゃあないんだよ……ワシは必勝つ! この国を、改良るために……!」
「あっそ、なら、消えなさい。【術神の極致】」
エロイースはこれまで通り、一切の慈悲を見せず、魔力球を撃つ。だがブッチギリーストは歩みを止めない。
(こちとら、序盤っから覚悟ってるんだ……この学校は簡単に改良られない、ここの人は瞬速握手く出来ないって……だからこの絶体絶命、マジで上等だ!)
「見やがれ驚きやがれ野郎共、ブッチギリースト・サラマンドラの熱意は伊達じゃあねぇと! 胸打たれて改心しやがれ野郎共、ブッチギリースト・サラマンドラの理想は正義だと!」
魔力球が己に命中する寸前、ブッチギリーストは全く魔力を込めていない、普通の拳を打ち付ける。
ブッチギリーストは拳より伝わる強烈な衝撃を、歯を食いしばり耐え、
「う、う、うぉぉぉぉりゃああああ!」
殴り、軌道を強引にへし曲げ、球を明後日の方向に飛ばした。
ネロアはこれを見て、ブッチギリーストの度胸に感心した。
(これは僕が一度斬って試したことを踏まえての考察ですが、恐らくスキル【術神の極致】の魔力球は、厳密に言うと魔法ではなく、魔力の塊。
だから、属性などを纏わせない、純粋な物理的な衝撃であれば、ああして抵抗することができるのでしょう……)
ブッチギリーストは、魔力の塊を殴り抜いた拳をパタパタさせ、衝撃を逃がしながら、
「……ぜぇ、ぜぇ……もう何も怖いモンはねぇ。さぁ、ここからが正念場だ、エロイース!」
「【術神の極致】、十連」
エロイースは十個の魔力球を撃つ。これらはうねり曲がった軌道で、一つの魔力球を防ぐことだけに力を絞り出したブッチギリーストめがけ飛んでいく。
「だから言ったのよ。『あんたじゃアタシは倒せない』とね……」
「は、は……こんな暗転……実在のかよ……!?」
迫りくる十個の魔力弾を前に、ブッチギリーストは自然と膝を突く。かくて、魔力球は命中した……突如ブッチギリーストの周りに現れた、彼の子分――烈火の学級生に。
「……え? お前ら……」
「まだ、まだ終わっちゃあいないですよ……級長!」
【完】
ロジスティクス・サーガ・データベース
■キャラクター紹介
【エロイース・エレメンタル】
分類:プレイヤー
所属:術国イペファワエゼ
レベル:83
ジョブ:【魔術師】/【化神官】
術神イイキュフォアグのその才を認められた【化神官】。啓都の学園都市の慣例から、生徒会長も兼任している。
その立場には似合わず、非常に自堕落で怠惰な性格の少女。
しかし有事となればほんの少し本気を出して、本当にめんどくさいことが起こることを防ぐために動くこともある。
イペファワエゼの【魔術師】は、わかりやすく魔法攻撃力の成長に特化した仕様。
このプレイヤーに魔法を浴びせられればひとたまりもないことは言うまでもないだろう。そして、物理にはてんでダメなのも言うまでもないだろう。
彼女が独自に編み出し、化神官の権能として術神直々に調整・命名されたスキルは【術神の極致】。
効果は高純度の属性を持たない魔力球を作り出し、放つというシンプルなもの。
だがこの魔力球は、どのような魔法だろうにも打ち克ち、彼女の意のままに自由自在に操作でき、おまけに一部のプレイヤーを自動追尾するという、至れり尽くせりの性質を持つ。
これを撃たれれば最後、大概の魔法使いは死を覚悟しないといけないだろう。
現行の化神官では最後に登場したキャラクター。
そういえば遠距離メインの化神官はいなかったね。と思い、こんなインチキ性能の飛び道具を持つキャラクターを考えてみました。




