81.究極登場……
「それはあなたです。『生徒会長』さん」
このネロアの回答に『生徒会長』は動揺してか、かなりの間を空けて反応した。
『貴様は何を言ってるのかわかってるのか?
私はここの化神官で、トパライザ禁書を盗まれて一番困ってるのは私だ。
なのに、何がどうして自分を自分で困らせなきゃいけないのだ?』
するとネロアは目を見開き、あちこちを見渡した後、とりあえずイイキュフォアグ神殿の方へつま先を向けて、お辞儀をする。
「すみません。早とちりしてました。
僕はトパライザ禁書の件じゃなくて、『それに至るまでの一連の騒動すべての根本の元凶』について答えてしまいました」
『そうか……それはそれで随分と度胸があるな、貴様。
こんな騒動の最中で、しかも元々は私に許可証を貰う立場で、そのような批判を展開するとは……』
「すみません。ですが、これは僕なりに貴方たちイペファワエゼ・プレイヤーのことを考えてのことなんです。どうか暫しご容赦ください」
それからネロアは、言い訳がましいですが。と予め断りを入れてから、元凶に『生徒会長』を挙げた理由を話す。
「この騒動は全てあなたの『他の方々に一切関与もせず、ずっと裏から学校を最低限だけ動かしていた』のが原因だと僕は思うのです」
『つまり、貴様は『私がここでろくに干渉しなかったのが悪い』と、言いたいのだな……見方によればそうとも言えるだろう。
だが、私はそれを正解だとは思わない。
なぜならここは学校、人が学ぶべきことを学ぶ所。
なら人の下にいる人間は身の程の分け前。人の上にいる人間は内外の律し方。それらを自力で学んで実践すべきではないか?』
「ですが、その姿勢を続けたせいで、このようにして反乱が起こってしまったとは思わないのですか……」
どこからともなく、周りの大地の学級でもない、舌を打つ音が聞こえた後、
『どうしたのか。貴様は、他所の化神官に説教をするためだけにここに来たのか?
いい加減にしてくれ。私だって、オサラウドと同様、市街地の状況に集中したくてしょうがないのだ……』
ネロアは再び、イイキュフォアグ神殿の方へ頭を下げて言った。
「……すみません、偉そうにしすぎました。
ですが、僕は本当は、貴方のことを批判したい訳ではありません。むしろ逆、僕は貴方のことを、一つ上の次元にいる賢者だと思っているんです。
知識を重んじる国、イペファワエゼの化神官が、荒れる国の現状を知らず、知っていたとしても積極的な対応を取らず、ずっと引きこもり続けるという、愚策をするはずがありません。
この不可解な行動には、僕たちのような他者にはわからない難解な理由があり、突き抜けて賢いからこそあえてそうしている……のでしょう? 『生徒会長』さん」
『忙しい人ね、アンタって。
……急に私を褒めるか。話を長引かせるために、機嫌の調整をしているのか?』
「いいえ、単純に言葉の通りです。
僕は本当に貴方が賢いと思ってるのですよ……例えば、あのトパライザ禁書を、あえてあそこにおいて盗ませようとしていたところとか」
その瞬間、どこからともなく、何かが卓上で倒れる音がした。
暫くの間、微かに、何かを後悔するような声が続けてなった後、
『あんた、それ本気で言ってるの?』
「ええ、僕は本気です……」
そう答えた瞬間、ネロアは右へ剣をかざす。
歯を食いしばり、その剣を一気に振り下ろす。と、彼女は両脇で、異様な魔力が消えていくのを感じ取った。
その消えゆく魔力を同じく感じ取ったらしい『生徒会長』は、フッと鼻で笑い、ネロアに尋ねる。
『……どうやら、あんたは本気で、本当にこの騒動の核心を掴んでるみたいね。
……ゲフン、話を戻そうか。今度こそ聞かせてもらう。「トパライザ禁書盗難事件の真犯人」は誰だ?』
ネロアは即座に答えた。
*
一方その頃。
あるチャットを受け、ネロアから逃亡したオサラウドは、校舎内などの道中で、大地の学級生を拾い、かき集めながら、混乱の震源地となっている市街地に到達する。
「重ねて言う。かように荒れに荒れた状況下、敵対者に容赦をすればこちらが手を焼く恐れがある。
故に、私が特別言わない限り、敵対者は徹底して撃破せよ。それが反乱鎮圧の最短経路だ!」
「「「はっ!!!」」」
この司令の通り、オサラウド率いる大地の学級の精鋭軍は、自分たちに敵対行動を取る者たちを圧倒しながら、奥へ奥へと進んでいく。
その最中、彼らの下に、一人の斥候が帰ってきた。
「報告! ここから北に四百メートル地で、カイナフィ殿とヒドゥニルン殿、双方の精鋭が戦闘中です!」
「ご苦労。そこへ行けばより早く解決が見込める。が……」
「いたぞ、オサラウドの連中が!」
「こんのゴマすり野郎ども!」
「お前らの正義ヅラもそこまでだ!」
と、恨み言を吐きながら暴風の学級生たちが、オサラウドたちを囲んで襲ってきた。
奥へ進めば進むほど出会う敵が、他学級への憎悪嫌悪感と実力が強まっていくため、徐々に進軍スピードは落ちていったのだ。
「皆、団結して反撃に臨め! ……むむむ、かような所で遅れをとれば、カイナフィ殿かヒドゥニルン殿、どちらかが敗れてしまい、事態がより深刻にな……」
と、オサラウドが言う最中、
「【触合・輝駆】!」
彼ら大地の学級を襲撃した者たちが、突如として焼かれ倒される。
「ったく、拷問よなぁ、東西南北から襲われて、思うように進めなくて……『生徒会長』の歓心とらなきゃいけないっていうのによ、な? オサラウド」
と、ただ今同級生と共に暴風生をぶっ飛ばした、烈火の学級長、ブッチギリーストは自信満々に言った。
「何をしに来た、ブッチギリースト」
「御約束だろ、ワシは『誰よりも友情を重んじる』漢。
この混沌を止めて、親友が傷つくのを止めるんだ。だから……オサラウド、お前はカイナフィとヒドゥニルンのトコ行くんだろ?」
「何故それを知っている……ああ、そうとも」
「だったらワシらがお前の進路を清掃てやる。オサラウドは遠慮なく、流水と暴風をぶん殴ってこい」
オサラウドは、ブッチギリーストを見つめた。実にイペファワエゼ一の熱血漢であるブッチギリーストらしく、意思の強さが目の内で燃えていた。
「……感謝する。では、無理をなさらないように」
「それはこっちの忠告だっての」
ブッチギリーストら烈火の学級生は散開し、近辺にいる敵を片っ端から片付ける。これで妨害が無くなった道を、オサラウドたちは速度を上げて進軍する。
「今頭を垂れれば、悲劇として語り継がれますので……僕はオススメしますよ!」
「うっせー、そっちがくたばれや! そしたらオレ様が思いっきり笑ってやる!」
「見えた! カイナフィ殿とヒドゥニルン殿が!」
一進一退の攻防を繰り広げる流水の学級と暴風の学級を、オサラウドは発見する。
「よし、皆! これより流水と暴風の抗争を止める! 私に続け、奮い立て!」
オサラウドは仲間を激励するや否、槍を携え単独で戦場に飛び込む。
「アイツは……オサラウド!?」
「ついに来てしまったのですか!」
驚愕、興奮、懸念……流水と暴風の者達が思い思いの感情を抱く中、オサラウドは地を蹴り高く跳び……
「【ノーム・エーペックス】!」
重力と共に槍を地面に全力で振り落とす。直後、叩きつけた槍先を中心に、広範囲で大岩が豪快に隆起、使用者以外の大勢の人間を打ち上げ、大ダメージを与える。
さらに、この大岩は砦のような形状になっており、大地の学級生が即座に登る。
「皆、直ちに制圧作業に入れ!」
「うい! まかしといてくださいよー! 【プラント・シュート】ー!」
副学級長であるパインが、オサラウドの砦めいた大岩の上から、ボウガンを撃ちまくる。
パインの矢は誰かに命中すれば勿論ダメージを与える。
一方、地面に命中した矢は芽となり、急速に成長し、花となった。
その花は機関銃めいて辺りにエネルギー弾を乱射する。
かくてオサラウドの砦岩の周囲で、大地の学級が放つ矢弾が飛び交う、大地の学級が得意とする制圧戦法が開始された。
「皆落ち着くのですよ! 我らは冷静であることがトップでベストな取り柄ですからね!」
次々と仲間を撃たれるカイナフィは、何とか自軍の崩壊を防ごうとする――自分たちにオサラウドの猛威を妨げる術はない。と、自信喪失し、焦りながら。
「余計なことしてくれやがって……なら、全部……お前ら、オサラウドの大層な正義をぶっ飛ばす! 【シルフ・インビンシブル】!」
ヒドゥニルンは生き残りに、オサラウドめがけ風魔法を射出させると同時に、風と一体化する。 次に彼が姿を現したのは、砦岩の頂きにいるオサラウドのすぐ側。
ヒドゥニルンは即、オサラウドの首に短剣を押し付けた。
「甘いっ!」
だがオサラウドの練度は、このような奇襲だけで倒れる程度ではない。
ヒドゥニルンの短剣の先に、槍を持っていき、これを防御する。二人はしばしそこで、鍔迫り合いを行った。
「【レイン・アローズ】!」
この二人の頭上より、水の矢の雨が降り注ぐ。 カイナフィが漁夫の利を狙って放った魔法だ。
「オサラウド様……悲報でございますが、この戦い、僕は貴方の思うように終わらせるつもりはまっったくありませんよ!」
こうして三学級が入り乱れて戦う中、彼らの戦いによって山程倒壊した建物の一つにて。
「ネロアさん、お願いですからそろそろチャットに出てください。今とんでもないことになっているんですから……!」
レイザックは隠れて、ネロアにチャットを掛けた。
かれこれ数十回は掛けているが、何一つとして反応がなかった。
もうこれは、あっち側も何か大変な事情があるのだろう。と、彼は諦めて、今近くで起こっている争いに注目し始める。
その時、レイザックの視界には、まさしく壮絶な現場が映っていた。
長らく続いた抗争により、三学級の生徒の大多数が倒れ、カイナフィ、オサラウド、ヒドゥニルンら【学級長】を始めとする強者たちが、揃って満身創痍の体で三つ巴の戦いを繰り広げているのだ。
「ひぃ、ひぃ……流水のブランドは、絶対エクセレントで、グレートであるのですよ……」
「ぜぇ、ぜぇ……是が非でもこの争いを鎮める……それが大地の理念であり義務なのだ……」
「はぁ、はぁ……お前らなんか、イペファワエゼの風上にも置けないんだ……正しいのは暴風なんだ……」
三人は、信じる物のため、己が背負う物のため、気炎を吐き、各々の武器を持つ。
「……であるからして、僕は貴方達を押し流す!」
「……故に、私は貴様らを地に伏せさせる!」
「……だからよ、オレ様はお前ら全員斬り刻む!」
「つ、ついに……決着か……!? いや……でも!」
思考・性格・目標が違えど、今、三人が、学級長としてすべき義務は『他学級を倒すこと』のみ。
三人は残された力を闘争心の炎に焚べ、奇跡的に同タイミングで、他者めがけ突撃する。間合いを詰め切ったところで、各々の魔力を込めた渾身の一撃を、各々の敵に放つ。
レイザックはしかと目撃する。三人の一撃が激突し、刹那に眩く光り……
「……でも……何故!?」
三人は、揃ってふっ飛ばされ、地に這いつくばる。
そして、三人が激突した地点には、ブッチギリーストがプリズムめいて輝く魔石を、空へ向けて掲げている。
「あ、あれは……どう見てもトパライザ禁書だ……なんでブッチギリーストさんが、それを持っているんだ!?」
レイザックの言う通り、この魔石は紛れもなくトパライザ禁書である。
これを掲げながら、ブッチギリーストは三人を見下し、笑っていた。
ヒドゥニルンは尋ねる。
「ブッチギリースト……お前が盗りやがったのか、何故に!?」
「そうだ、ワシが窃盗った! 全ては……この国の腐った部分とその『生徒会長』を焼却うためだァァァ!」
ブッチギリーストはトパライザ禁書を口に入れ、豪快に噛み砕く。直後、彼はプリズムの如く煌めくオーラに包まれ、周囲にただならぬ覇気と魔力を放つ。
「偉大至高頂点無敵完全掌握絶対究極ブッチギリースト、ここに登、場、だァァァァハッハッハァァァッッッッ! カイナフィ、オサラウド、ヒドゥニルン! 崇め奉り(ホメチギリ)やがれェェェェッッッ!」
ブッチギリーストから発せられる強大な力に、三学級生は自ずと身が震える。
「まさか、あの直感と熱意だけで生きているようなブッチギリースト様が……このような謀を成し遂げるなんて……!」
「それも『生徒会長』を倒すためはた……! おのれぃ! 何故私は前々から気づけなかったのだろう。そして何故ブッチギリーストはかような決断を下したのだ!」
*
事の始まりは、ヘブンズレイドの後。
イペファワエゼの代表として出張したブッチギリーストは、国に帰るや否、『生徒会長』に呼び出され、円卓のオブジェ越しに当時の詳細を説明した。
『ご苦労。だがブッチギリースト氏、あなたはこれをその時に説明するべきであり、独断で行動するのはいけない。今回は注意で済ませる。以後注意せよ』
と、『生徒会長』は、相変わらず神殿の中にいて、加工をかけた声で淡々とブッチギリーストに言った。
「押忍……で、『生徒会長』さんよ、ワシは今回の件を踏まえて、提案したいことがある」
『……何だ』
「術国民全員で、命国に侵攻しにいこうぜ」
『……それは何故?』
「先述の話聞いただろ? 『文国、死国、災国、音国、そして術国ら五国が協力して命国の化神官をぶっ飛ばした』って。
この話を応用して、共通の敵と一緒で戦争すれば、四学級の殺伐を柔軟して、友情作れるんじゃないかって。な、良いだろ? 今、命国は化神官失って全力出せないしよ」
『無理だ。戦争をするには莫大な資源が必要になり、今ミレアに攻め込むとしても他国が横槍を入れる可能性もある』
「んなこた心配ないだろ! ワシらはどれだけ勉強していたと思っているんだ!
その成果を全部発揮すればワシらは他国に不敗ないぐらいの実力はあるはずだ!」
『「はずだ」じゃ駄目だ。憶測で勝てる戦争などないのだから。
何度でも言う、今、イペファワエゼは戦争するべきではない。さらに外部の動向を探る』
「……わっかりまし、た!」
ブッチギリーストは、『生徒会長』への怒りが爆発してしまう前に、生徒会室を去った。
(胸糞、胸糞、胸糞! あの堅物野郎が! ワシの言う事を全部無視しやがって! このまま静観してても、何のいい事あるってんだ!)
ブッチギリーストは胸の内で生徒会長への不平不満を叫び続ける。
と、その時、ブッチギリーストの視界に、ガラスケース入りで展示されているトパライザ禁書が入った。
(初代生徒会長『トパライザ・エレメンタル』……そいつみたいな絶対的存在がいる時は、皆仲良くしてたんだろうなぁ……)
ここでブッチギリーストは最悪のアイデアを閃いた。
このトパライザ禁書を使えば、自分は化神官『生徒会長』を圧倒し、自分の願望――イペファワエゼの人々が仲良くする――を叶えられるのでは、と。
*
「トパライザ禁書は魔力を吸収する……そう、吸収。ワシはこれに限りがあり、極限まで魔力を詰め込み、取り込めば、ワシは究極になれると理想した。そして理想は……現実に成った!
【尽因・不零無】ッ!」
ブッチギリーストは二つの火の玉を、遠くの校舎に向けて放ち、これの壁をビスケットのように粉砕した。
「刮目たか、これがワシの実力だ……」
ヒドゥニルンは気合を入れてどうにか立ち上がり、ブッチギリーストへ叫ぶ。
「……わかってたまるかっつーの! このゲーミングブッチギリーストがぁ! お前ら……囲んで叩け!」
ヒドゥニルンの号令の元、副学級長ノーツを始めとする、暴風の学級生はブッチギリーストを包囲し、攻撃を仕掛ける。
「【知風・隕敏死武流】!」
ブッチギリーストは風と一体化し、一瞬姿を現す。次に彼が現れたのは、ノーツの正面……
「鬼早ッ!? 【ブレイキング・サウ……」
「【最羅万怒竜・万軍無】!」
ブッチギリーストはノーツに、烈しく燃える拳を叩き込む。この炎は瞬く間に暴風の学級生に移り、彼らを灰燼に変えた。
カイナフィは辛うじて立ち上がり、ほぼ同じ時に無力ながら立ったオサラウドに提案する。
「オサラウド様……この状況、あの相手なら……成すべき事は解していますよね?」
「ああ……大地の皆! これより我々は流水の学級と共闘し、ブッチギリーストを討伐する! 出せるだけの力を出し……かかれ!」
長のため、学級のため、国のため、流水と大地の学級は協力し、ブッチギリーストへ猛攻を仕掛ける。
「【雲帝練・擦減織】!」
ブッチギリーストは己の周囲に『相手の行動を予知できるミスト』を展開、迫り来る攻撃を全て、適当な魔法を撃ちまくることで防御し……
「【能謀・英蔑屈】!」
地面を殴り、そこを中心として地面を勢い良く隆起させ、周囲の敵を一掃する。
「残ったのは……お前ら(サンバカ)か」
隆起した地面の峰に立つブッチギリーストは、立つので精一杯なカイナフィ、オサラウド、ヒドゥニルンを見下した。
「どうした? お前らの仲間全部鏖した奴の成敗はしないのか?」
それが出来たらとっくにしている。今はブッチギリーストに魔力を奪われた故、対抗術が無いのだ――三人は、ほぼほぼ同じような考えを抱かざるを得なかった。
「できないか。ならいい、お前らは自由奔放にしろ。どうせお前らを完全無視した所で、ワシの計画に支障はない……」
ブッチギリーストは、己の倒すべき最終目標――『生徒会長』がいるイイキュフォアグ神殿へ向き、轟々と叫ぶ。
「首ったけ洗って戦慄やがれ、ロクでなしの化神官が! 今ワシがお前に反逆に行ってやらァァァ!」
「否、それは叶わぬ願いだ」
この台詞の主は、ネロアである。
久々のネロアの登場に、レイザックは嬉しさ余って、安全地帯から身を出す。
「ネロアさん、一体あなたはどこに行ってたんですか!?」
「心配させて真に申し訳ない、僕にも諸々あったのだ……」
ネロアはブッチギリーストを見上げて、
「感じるぞ、異質で絢爛な覇気を……ブッチギリースト殿。してくれたな」
「ああ、策謀って成功ったぞワシは!」
「魔法サッカーを利用して。だな」
数分前、ネロアは、ブッチギリーストがどうやってトパライザ禁書を強奪したかを、以下のように『生徒会長』に説明した。
事件当日。
ブッチギリーストは魔法サッカーの練習中に、あえてボールを遥か彼方に飛ばし、それを取りに行くという正常な理由の元、授業を抜け、この好機に禁書を奪った。
ただし、いくらボールを取りに行くという理由があっても、あまり長時間不在になると怪しまれるため、彼はなるべく目的地に行けるよう、ショートカットを見つけていた。
それは下水道。彼はそこを伝っていけばルートを短縮できると事前に把握し、そこを進んだのだ。
さらに、その事前調査の中で、ブッチギリーストはカイナフィの秘密研究所も見つけていた。
こちらは後に、部下である副学級長ブリッツに破壊させる方法で活用した。
自分が下水道でショートカットした際、仮に何か証拠を残してしまっても、そちらが騒ぎになれば注目されることはない。と、踏んでのことである。
トパライザ禁書のケースを破壊するのには、ヒドゥニルンの推察通り、【ウィンド・エッジ】を使った。
わざわざ慣れない風魔法を使ったのは、他の属性の魔法よりも『痕跡の視認がわかりづらくなる』ことと『暴風の者に濡れ衣を着せる』ためである。
強奪成功以降、ブッチギリーストは他三学級を争わせるための『仕込み』を仕掛けた。
カイナフィ殿の研究室に副学級長を送り込み、その存在を学園内に露呈させたところから始まり、暴風や流水の生徒をトパライザ禁書の魔法吸収効果で次々と半殺しにした。
全てはさっきのため――三学級長の魔力を奪い尽くし、『生徒会長』に匹敵する究極に至るためである。
「……御名答だ、ネロア。
が、今更正解いた所で、お前は何が出来る、何をする!?
ワシを撃破すつもりか? ハハハ、それは断固拒否だ!
ワシはお前に興味は皆無、あるのは……イペファワエゼの化神官、『生徒会長』だけだ!
だからお前は……撤退やがれっ! 【羽王絶・破裂徒】!」
ブッチギリーストは水の弾丸を放つ。この対象になったネロアは、一切剣に触れずただ無防備のまま立ち続ける。
そして水の弾丸は、消滅する。これと同等の魔法に相殺された故に。
「ほう、究極のワシの魔法と相殺える奴がまだいるか……何者だ?」
ネロアは脇にはけながら、ブッチギリーストに語る。
「生憎、今宵の僕の天命は、貴様との対戦者ではなく、貴様への案内者なのだ……故に、今宵の貴様を屠るのは……この方だ」
ブッチギリーストの前に、一人の少女が現れる――ホコリっぽい本を抱え、ボタンのかけ方や紐の結び方などを乱雑にして、だらしなく魔導着を装備。艷やかな金髪も伸び放題ハネ放題。と、これでもかと怠惰さが詰まった少女が。
ブッチギリーストはキョトンとして、
「……誰だお前?」
この言葉に、少女はまず舌打ちし、次にため息を吐き、最後に嘲笑う。
「なら、あんたは一体何がしたいのよ。わざわざ重い御身起こして、トードイスムカのヤベー奴のワガママ聞いて、シャバの空気吸いに来てやったのに。
――この『生徒会長』改め、術国イペファワエゼの【化神官】、エロイース・エレメンタルがさぁ」
【完】
ロジスティクス・サーガ・データベース
■キャラクター紹介
【ヘイル・グレイシャー】
分類:プレイヤー
所属:術国イペファワエゼ
レベル:65
ジョブ:【騎士】
氷属性に秀た【流水の副学級長】のプレイヤー。
とにかく無口で、とにかく学級長のカイナフィに従順。
イペファワエゼの【騎士】は、得物に莫大な属性エネルギーを纏わせて、近距離の相手に物理・魔法の両方で大ダメージを与えることに優れる。
特に彼女は斬りつけた相手を【凍結】させ、後の追撃につなぐことを得意とする。
【ノーツ・ボリューム】
分類:プレイヤー
所属:術国イペファワエゼ
レベル:63
ジョブ:【聖職者】
音属性に秀た【暴風の副学級長】のプレイヤー。
見た目も中身もパリピなテンションの高い少年。
イペファワエゼの【聖職者】は、バフ魔法と、壁や障害などの対物破壊に優れた魔法を覚えやすいサポートタイプ。
学級長の風をさえぎるものには、彼が音魔法を炸裂させて破壊してあげている。
【パイン・ブロッサム】
分類:プレイヤー
所属:術国イペファワエゼ
レベル:67
ジョブ:【射手】
草属性に秀た【大地の副学級長】のプレイヤー。
健気で明るいムードメーカー気質な少女
イペファワエゼの【射手】は、魔法を織り交ぜた弾丸を撒き散らして攻撃しつつ、戦場を自軍に有利な形に作り変えていくことが得意。
オサラウドが作る岩砦を最大限活かして、そこから仲間とともに掃射を全力で行うのが彼女の基本戦術。




