80.四学級長、激突
闘争勃発中のイペファワエゼ首都、啓都。
ただいま四学級が入り乱れて争う、都市部の某所にて。
反乱を始めた張本人である【流水の学級長】カイナフィは、【暴風の学級長】ヒドゥニルンへ言った。
「僕がここに来た理由は、当然ご理解していますよね? ……ヒドゥニルン様、さっきはよくもオサラウド様やブッチギリースト様と一緒になって、僕を侮辱してくれましたね……」
ヒドゥニルンは、ため息をつき、空中に向けて緑色の煙玉を投げてから、
「『覚悟しといてくださいね』とかだろ。この後に続くお前のセリフは。御託はいいからさっさと来いよ……こんなしょーもない奴らに暴風をけなされたと思うと、ますますムシャクシャするからよ……マジで速攻潰すぞお前」
「そう思うのなら、今から速攻証明してみなさいよぉぉッ!」
カイナフィは、ヒドゥニルンへ剣先を向けて、
「皆様、各々才能をマックスかつフルで使い、憎きヒドゥニルンに泥水をすすらせてやってくださいませ!」
と、流水の学級長として、号令を轟かせ、学級生たちにヒドゥニルンを攻撃させる。
「数押し……その程度でワンチャン倒せるとでも思ってないよなぁ? 【ウィンド・エッジ】」
ヒドゥニルンは軽快な立ち回りと風魔法で、襲いかかる流水の学級生を次々と返り討ちにする。
この時、数分前にヒドゥニルンと戦っていたレイザックは、自力で安全地帯に隠れ、回復しながら、戦いを見ていた。
「本当に助かった……カイナフィさんを上手く誘導できて。さて、ネロアさんは上手くオサラウドさんに会えてるかな……」
レイザックは、【大地の学級長】オサラウドに救援を求めに別行動しているネロアに、チャットを掛ける。だが彼女は応答しない。
「ちっ、この人数相手じゃアレを使っても最大限に効果を発揮できないのがキツイ……【スロウ・ファールウィンド】ッ!」
風魔法を巧みに使い、次々と流水の学級生を倒すヒドゥニルン。
だが、彼へ攻撃する流水生は、徐々に練度が高い者となっていく。
「ようし、これだけ連戦を繰り返せば、ヒドゥニルン様は袋のネズミでございましょう。ヘイル様、彼に引導を渡してくださいませ。援護は僕がいたします」
「……」
カイナフィの指示に、水色髪の物静かな少女――【流水の副学級長】ヘイル・グレイシャーは無言でうなずき、剣を携えヒドゥニルンの方へ
「【レイン・アローズ】ッ!」
カイナフィがヒドゥニルンに水の矢の雨を降らせ、彼が回避した先にヘイルは待ち構え、
「……【フロスト・パニッシュ】」
おぞましい冷気を放つ一刀を、ヒドゥニルンめがけ力いっぱい振るう。
ヒドゥニルンは短剣二本を交差させ、防御する。が、ヘイルの剣が放つ冷気がじわじわと広がり、短剣二本が凍っていく。
ヘイルはより剣に力を込め、ヒドゥニルンのガードを崩そうとする。ついでに当人への氷の侵食がより進んでいく。
「今ですよ、皆! 集中砲火でございます!」
カイナフィはさらなる一手として、自身の学級生十数人でヒドゥニルンを包囲。ヒドゥニルンへ四方八方から魔法を撃つ。
「その程度で、オレ様を落とせると思うなっての……【ウィンド・エッジ】!」
ヒドゥニルンは己の右足に風の刃を纏わせ、ヘイルを蹴り、怯ませ、強引に距離を開ける。
「【ハリケーン・キリングフィールド】!」
ヒドゥニルンは精神を研ぎ澄まし、自分を中心に強力な竜巻を展開。飛んできた水魔法を全てかき消した上、包囲する流水生を吹き飛ばした。
「皆、崩れた陣形の修正と、かの竜巻に警戒を! ……ヘイル様、立てますか?」
ヘイルは立ち直り、頷く。
「でしたら、以前のようにこの竜巻を凍結破砕くださいませ」
「……【フロスト・パニッシュ】」
再度ヘイルは竜巻に冷気を放つ剣を振り、これを止めようとする。しかし、先程とは状況が異なり、レイザックの火弾とそれ由来の煙という不純物が混ざっていないため、容易く凍らなかった。
「すみませんヘイル様、僕の見通しが甘かったようです! ここは冷静にその場を離れてください、さもなくばヒドゥニルンの暗殺剣が……」
「それ以前の次元だーっての! お前らが用心する所は!」
この戦場で妙に軽快な音が鳴り始めた。
刹那、流水の学級に風魔法がいくつも飛び、ダメージを与えた。
「ヒドゥニルンのリーダー、狼煙あざまーす! 僕ちゃん【暴風の学級】まとめて来ちゃいましたよー!」
と、流水生と同等の数の暴風生を引き連れた、典型的なパリピのそれのような紫髪の少年、【暴風の副学級長】ノーツ・ボリュームは、杖に埋め込んだ拡声魔石越しに言う。
竜巻を解除し、ヒドゥニルンはノーツにグッドサインを見せる。
「おせぇよ! さっさと例のフォーメーションをやりやがれ!」
「以下同文ですぜ! 【スピード・コール4】!」
ノーツは杖を大きく掲げ、暴風生全員に素早さへのバフをかける。
暴風生達は風魔法を乱射し、さらに苛烈に流水生を攻撃する。
「【シルフ・インビンシブル】!」
風魔法が飛び交う――それ即ち、ヒドゥニルンの奇襲の経路が増える。ヒドゥニルンは、風への出入りを繰り返し、流水生たちを次々と、神出鬼没に斬り殺した。
「ヒドゥニルンが盛り返しますねぇ……こうなれば、皆様、僕の後方より弾幕を展開してくださいませ!」
流水生は命令に従い、カイナフィの背後へ避難し、水魔法を乱射。暴風生へ反抗し、ヒドゥニルンの撃墜を目論む。
「【ウンディーネ・スペリオル】さぁ、歓迎してあげますとも!」
カイナフィは地に剣を刺し、自分を中心にミストを展開する。このミストの本来の役割は、相手の動向を大まかに察知する物だが……
「……この風速より予測するに、今です! ヘイル様!」
「……【フロスト・パニッシュ】!」
ヘイルは眼前の空気に冷気を帯びた剣を振る。この冷気が周囲のミストに伝わり、丁度カイナフィに襲撃しようとしたヒドゥニルンを氷に閉じ込める。
「これでお終いにしましょう! 皆、一斉攻撃でございま……」
「【ブレイキング・サウンド】」
ノーツが杖から音波を射出し、カイナフィら流水の学生に浴びせる。ダメージは高くないものの、彼らを怯ませる威力と、氷を破壊する破壊力は十二分であり、
「カイナフィ……クソ食らえ! そしてオレの屈辱を味わいやがれ!」
ヒドゥニルンは氷から脱出。即、カイナフィに、殺気を込めて短剣を押しつける。
「それは僕のセリフですとも……!」
皆で音波を食らい正常に立てないこの状況下、仲間を頼る事は愚策――カイナフィは己の根気で堂々と立ち、ヒドゥニルンの刃に得物を重ねる。
*
同時刻。
校舎南西部、イイキュフォアグ神殿に至る道にて。
ネロアは大地の学級長、オサラウドと交戦していた。
前者はトパライザ禁書の盗難から始まった騒動を完全に終結させるべく『生徒会長』に会うため、後者はその『生徒会長』に会うに相当するかの試験官として、武器を振りかざしあった。
「【叩き割る剛撃】!」
オサラウドが振り上げた槍の先に、巨大な岩を纏わせ、豪快に振り下ろす。
ネロアは軽やかにローリングを決め、これを回避。すかさずオサラウドとの間合いを詰め、
「【黒狼煙の牙】!」
闇属性を帯びた剣を、目にも止まらぬ早さで突き出す。
「【ランド・バリケード】!」
だが惜しくも命中寸前で、オサラウドが生成した岩盤の壁に阻まれた。
ネロアは岩盤から剣を引き抜く。その時、オサラウドはその壁に槍を振るい、
「【砕け散る散弾】!」
ネロアは、岩盤を砕いて作り変えた無数の尖った小石を浴び、最大HPの一割に相当するダメージを食らってしまう。
「【蒙昧罪の断】!」
だが怯みはしなかった。ネロアはこのカウンターに次ぐカウンターとして、オサラウドの胴に闇属性を帯びた剣を与え、彼のHPを二割弱減らした。
(この場面はこれ以上深入りしないほうがいいでしょう……)
(まだ反撃できる余力はあるが、ネロア殿のほうがもっとあるでしょう……)
そして二人は、奇しくも同じタイミングで後ろへ下がり、互いに間合いを取り直した。
「いやはや、噂以上でしたネロア殿……あのカウンターに怯えずさらに立ち向かってくるとは……」
「その賞賛、感謝する。だがこれだけで感心されては僕も困る。貴方の背後にいる化神官の程が、劣悪な方向へ知れてしまうのでな……」
「失礼しました。では、ここからは容赦なく、大地の学級長としての本気をお見せいたします」
オサラウドは槍をネロアの方へ向けて、地面を揺らすような大声で命ずる。
「大地の学級、総員! これよりネロア・ルォーナピアナ攻略を開始する! 出撃だぁぁッ!」
その瞬間、彼の背後で待機していた大地の学級生たちは、一斉に、迅速にネロアへと突撃した。
「ほう、自軍を用いるか」
「卑怯と言っても構いませんよ。ですが生憎、これから始まる集団戦術こそ、我らが大地の学級の最大の長所なのでしてねッ!」
まずネロアに立ち向かってきたのは、大地の学級の近接アタッカーたちだった。
(ミレア風に言うと、『壁と弾幕』ですね。やはりこの作戦はどこの国に行っても安定して採用されるようです)
彼らは所属先らしく、岩や土を活かして防御力を高めたうえで、ネロアへ攻撃してくる。
それでも彼女は一人ひとり、即座に各々の急所を突いて片付けていく。
そんな中、再びオサラウドが槍を携えてネロアに駆ける。
槍のリーチが届く距離まで近づいたところで、
「皆、心構えを! 【ノーム・エーペックス】!」
重力を味方にしながら、全力で振り落とした。
ネロアはもちろん、彼女と格闘していた味方までもがその場から離れたことによって、その槍は誰にも当たらず、地面にめりこんだ。
だが、これこそがオサラウドの本来の目的なのだ。
直後、叩きつけた槍先を中心に、広範囲で大岩が豪快に隆起した。
ネロアはさらにここから離れ、隆起からかろうじて逃れた。
そして自ずとその、まるで砦のように凸凹している岩を見上げる。と、その上から、次々と大地の学級生が自分を睨みつけてきた。
その中央にいる、魔法使いというよりかは探検家のような、活動的な装備をした黄緑色の髪の少女――【大地の副学級長】パイン・ブロッサムが号令する。
「総員、撃って撃って撃ちまくれー!」
砦型の岩に立つプレイヤーたちは、号令通り各々が得意とする魔法を、ネロアめがけて乱射した。
オサラウドが見出した地属性魔法の極み、スキル【ノーム・エーペックス】。
得物を叩きつけた地点に、砦型の大岩を隆起させる。それがこのスキルの効果だ。
その隆起する威力でもかなりのものだが、オサラウドが重視しているのは、『岩が残ること』だ。
その岩に自軍を立たせ、有利な位置から掃射をさせ、その場一帯を制圧する。そこまでがオサラウドが考えるこのスキルの活用法である。
ただ自分が大技を放って敵を一網打尽にするだけでなく、後続への活路を敷く――オサラウドの計画性と律儀さが実に現れたスキルだ。
「これぞまさしく一秒城ということか……これは厄介であるな!」
ネロアは紐付き剣をヨーヨーのトリックめいて振り回し、飛んでくる弾丸を防御する。
最中、砦岩に陣取るパインがボウガンを構え、
「もっと逃げ場をなくしたげる! 【プラント・シューター】!」
逃げ回るネロアの先の地点に、黄緑に輝く矢を放つ。
その矢から芽が出て、瞬く間に成長し、花が咲く。
そしてその花は、ネロアをめがけて機関銃さながらにエネルギー弾を連射した。
「片方は砦、片方は砲台……比翼の鳥の如きコンボだ」
ネロアは、背中に当たる一般プレイヤーの魔法のダメージを我慢しつつ、直ちに砲台花を両断して無力化する。
刹那、正面で待ち構えていたオサラウドが、激しく砂埃を立たせながら槍を振り上げてきた。
「【吹き立つ砂礫】!」
槍の軌道に連動して、下から上へ吹き出た砂により、ヤスリのように削られ、全身でダメージを食らい、うつ伏せに倒れた。
オサラウドは仲間に『一時停止』とジェスチャーした後、彼女に一礼して、
「……すみません、言うタイミングが遅れてしまいました。もし降参したいのであればいつでもどうぞ。
正直、我々は出来ることなら市街地の鎮圧に向かいたいので……」
「そ、そうですか……でしたら……」
突拍子もなく、ネロアは素早く立ち上がり、オサラウドの顎にハイキックを与える。
「こ、こんなすぐに……!?」
「ええ、すぐに終わらせま……貴方のためにも、刹那に終焉へと導こう!」
蹴りを受けてのけぞるオサラウド。ネロアはその場でジャンプして、さらにオサラウドの顔面を踏みつける。
そしてネロアは、砦岩に控えるパインら射撃隊のど真ん中に降り立つ。
「ゲェーッ!? ネロアさんがここに……」
慌てふためくパインたちを見渡してすぐ、ネロアは中腰になりながら剣を後方に回して力を溜めつつ、剣に黒いオーラを纏わせ、そして……
「【万死の薙】!」
紐付き剣を全方位へ振り回し、そこにいる全員へダメージを与えた。
「ぎゃあーっ……ってあれ? ヘブンズレイドで千人以上ブチ殺したあの奥義じゃない……?」
そしてネロアは砦岩から降り立つ。
何故倒さない……と、言わんばかりにポカーンとしているオサラウドと向き合って、ネロアは言った。
「こちらも詠唱させていただく。僕としても、ここで貴方がたを鏖殺することはできない。貴方がたの言う通り、市街地の戦の焔を鎮めることもまた天命であるからな。
尤も、やはり何よりも生徒会長の守護を尊ぶというのなら、僕も貴方がたに敬意を持って死神の真価を発揮させていただくが」
オサラウドはしばし逡巡し、覚悟を決める。
「……わかりました。では……」
その時、オサラウドは何かを言いかけた途中で、左耳に手を置いた。何者かがチャットをかけたのだ。
「……!? ああ、はい、わかりました! すみません! 失礼しました!」
チャットを終えると、オサラウドは砦岩の方を見上げて尋ねる。
「パイン殿方! 立てますか!?」
「う、うん……全然致命傷じゃないから、大丈夫!」
「よしわかった! では……」
それから、砦岩からパインを含む精鋭たちがオサラウドの元へ集結し、
「一旦この場は任せた! 我々はどこか遠くで大勢を立て直す! それまで大人しく待っててくれ!」
大急ぎでどこかへと逃げていった。
それを見届けた後、ネロアは首を右にかしげて一言。
「……オサラウドさん、貴方そんな敵前逃亡するタイプではなさそうですのに……?」
その直後、ネロアは首を左に傾けた。
いや、身体ごと、傾けさせられたのだ。
ネロアは痛みを堪えながら、その根源があるはずの左腕を見る。
一瞬、何も無いようだったが、よく神経を研ぎ澄ますと見えた――限りなく透明に近く、何色にも分類できないような淡い光を帯びた球が。
そして、どこからともなく声がした。この術国に来て早々に、四学級長が集う円卓の場で聞いた、あの何重にも加工がかけられた声が。
「な、何だこの機械音声は?」
「落ち着け、オサラウドさんが大人しくしとけって言ってただろ!?」
あちこちにいる大地の学級生がざわつく中、ネロアは、心当たりのあるその声の主の名前を呼んだ。
「貴方は……『生徒会長』」
『いかにも。私は『生徒会長』だ。ネロア・ルォーナピアナ殿。先程の戦いを見守らせていただいた。よくも、私が重用しているオサラウドの邪魔をしたな』
ネロアは一瞬、宙に浮いた。
腹部にあの透明の球が当たり、それに持ち上げられたからだ。
『さっきの一撃とこの一撃は、その贖いだ。あと一発ほど与えたいが、それでは貴様が死ぬので、そこは我慢してやろう。
して、オサラウドの邪魔をした自覚はあるか?』
「ああ、ある。その罪は喜んで受け入れる。だが、僕はこれを恥じはしない。なぜならこの罪は、この術国を救うため……貴方に逢うために必要だと僕は信じているからだ」
『何故そこまでして私との対面を希望する? 先ほど言った通り、トパライザ禁書の件の犯人がわかったのだろう? ならば当人を捕らえれば、わざわざ私を引き込まなくても解決できるのではないか?』
「それもつい先程、オサラウド殿に申した通りだ。
――僕は、術国の民を、真理の元に救済したいのだ」
『やはりそうか……つくづく頑固だな、貴様。
……はぁ、これ以上は押し問答になって面倒になる。貴様の希望にある程度寄り添ってやろう。
だが、その前にまず、それに貴様が本当に値するか判断するため、私の問いに簡潔に答えよ』
「……わかりました。どうぞ僕に質問してください」
『口調まで簡潔にしてくれて助かる。では……ネロア・ルォーナピアナ殿、貴方が推理した、この事件の元凶は誰だ?』
ネロアは、一瞬の躊躇もなく、堂々と答える。
「それはあなたです。『生徒会長』さん」
【完】
ロジスティクス・サーガ・データベース
■キャラクター紹介
【オサラウド・ノーム】
分類:プレイヤー
所属:術国イペファワエゼ
レベル:83
ジョブ:【武士】
土魔法を極めた【大地の学級長】のプレイヤー。
他の学級長と比べると温厚篤実な、風紀委員タイプの偉丈夫。
イペファワエゼの【武士】は、槍などの長物武器を振るいつつ、防御性の高い魔法を振るって前線に立つスタイルを得意とする。
彼固有の風魔法【ノーム・エーペックス】は、得物の槍を叩きつけた箇所から、勢いよく大岩を隆起させるスキル。
広範囲で相手を突き上げてダメージを与えるだけでなく、この岩が砦のような形をしているため、味方をここに配置させて安全地帯から射撃させるという利用法もある。




