78.イペファワエゼ炎上
日の入り頃のイペファワエゼ首都【啓都】に建つ、とある宿にて。
ネロアとレイザックは、今日集めた情報も追加して、現在の推理状況の整理をしていた。
「改めて確認しますけど、カイナフィさんの論文によると、トパライザ禁書を破壊したのは『生徒会長』さんか四学級長ですよね? 『生徒会長』さんはともかく、四学級長なら、権威を使って授業を抜け出す事も出来るんじゃないんですか?」
「それは無理です。オサラウドさんから頂いた校則の写しに『授業と無関係の抜け出しは原則禁止』とありますので」
レイザックは、大いにうなだれた。
「三人の証拠が矛盾していますね、これ。しかも全て正当性のある証拠……じゃあ一体誰が盗んだってなるんですか?」
「唯一、これら全ての情報に矛盾しないのは、『生徒会長』さんだけ。しかし、その人は事実上の禁書の所持者ですから、果たして盗むというメリットがあるのでしょうかね?」
「無いと思います。ただ、『生徒会長』さんは化神官にも関わらず、自分の素性を一切明かさず、ずっと影でイペファワエゼを操り続けている。
数ヶ月前までリュートさんとかがしていたみたいに、国外には化神官の情報を非公開にすることはできます。
ですが、まさか側近に該当するプレイヤーにすら、素性のカケラも見せないという異様な人物です。
ひょっとしたら自分たちには考えられないレベルのすごいことをしているのかもしれません」
ここでネロアは、とうとう意思を固めた。
「……なら、もう御託を並べるのはやめて、直接『生徒会長』さんに会いに行きましょう。
昼にヒドゥニルンさんが怒りながら言った通り、僕たちはアンティルさんの為にも、急いでトパライザ禁書を見つけるためには、もう手段を選んでいられませんから」
「思い切りますね、ネロアさん。では、どうやって『生徒会長』さんに会いに行きますか?」
「比較的近い立場にある、オサラウドさんに尋ねてみます。今の時間なら恐らく校舎にいると思いますので……」
「どうでしょうかね。神殿の警備を任された信頼を裏切れると思えませんし……」
その時、窓の外で、校舎にある尖塔が一つ、爆発してへし折れるのが見えた。
直後、ネロアとレイザックがいる宿のドアが乱暴にノックされる。
警戒をして、ネロアはドアを開けると、手負いの烈火の学級生がいた。
「……こ、ここが、ネロアさんの宿で合っていますか……」
「はい……ああ、僕がネロアだ。貴方、その疵はどうした?」
「ここに来る前に、一悶着ありまして……そんな事よりも、聞いてください! カイナフィの流水の学級が武装蜂起しました!」
*
始まりは、数時間前の、生徒会臨時会議でのこと。
「……このような被害者の傾向から、生徒会では、この事件は『カイナフィ殿の逆恨みにより行われた』と、あくまで予想されているが、カイナフィ殿、何か反論はあるか?」
こうオサラウドに話を振られたカイナフィは、彼を鼻で笑って答える。
「当時、僕はノーマルかつスタンダードに授業を受けていましたので、その件に関しては全く存じ上げませんね」
「ナメた態度してんじゃねーぞ、カイナフィ!」
と、ヒドゥニルンは円卓を拳で叩きつけて怒鳴りつける。
「仮にお前が何もしてないとしてもよ、オレ様んとこの生徒が二十二人もやられてるんだ、暴風の学級のブランドがガタ落ちしてるんだ! 頭良いやつなら、そういうときの対応ってのが出来るってもんじゃないのか!?」
「いや、ですけど……本当に僕は何もしてませんし、それに……」
「本当に何もしていない訳あるか! あの事件は、お前の研究所が明るみに出たすぐに起きて、流水の被害者がゼロだったんだ! こんな偶然あるか! どうせまた何か隠しごとしてるんだろ! さっさと、白状しろ!」
オサラウドは、会議の場に適さない激情を走らせるヒドゥニルンを咎める。
「ヒドゥニルン殿、ここは冷静になるんだ……」
今度はカイナフィが激昂する。
「何もしていないから白状しないのですよ! さらに、逆に言いますとね、こちらもこちらであなたに白状させたいことがありましてね!
先程、僕が流水の学級の寮に行ったら、裏庭に、何十人もの人が、今回の事件の被害者と同様の状態になって倒れていたんですよ!」
「なんだと……!? そんなの聞いてねーよ!」
「それはそうですよ! 二時間前の出来事ですし、貴方が主謀者の恐れもありますしね!
被害者の内訳は烈火三人、流水五十四人、大地十一人、暴風ゼロ人……これを僕は『ヒドゥニルン様の私刑』と見ているのですが、いかがでしょうかな!?」
カイナフィは先述の事件のレポートを、円卓に叩きつけ、他三人の学級長に見せつける。
ヒドゥニルンはこれを斜め読みして、カイナフィを睨む。
「だから何だって言うんだ! 結局オレ様が全部悪いっていう話にでもしたいのか!
オレ様はこの辺りの時間は、校舎に居たっていうのに!」
「仮に貴方が何もしていなくとも、僕の生徒が五十四人も被害を受けているのですよ、尊厳を踏みにじられているのですよ!
人を罵る暇があるのなら、そういうことを見直すべきかと思いますよ!」
「……カイナフィ! お前どの立場で何を言ってやがる!」
この時、二人は腰に下げた各々の得物に手を添えていた。
これ以上論争が激化すれば、一大事になるのは必然。
ただちにオサラウドは、二人の間に割って入った。
「カイナフィ殿、ヒドゥニルン殿、暫し落ち着け! ともかく、二人のやりとりを聞いて、現状は『二人共何も関与していない。故に答えられることはない』ということは理解した、始めに疑って申し訳ない。
故に今回の会議でこれ以上の聞き込みはしないとし、『生徒会長』の指示を仰ぎ、平等な調査を踏まえた上で、適正な処遇を決めるとする。だから、二人共、ここで争うのは決してやめたまえ……」
「『生徒会長』、平等、適正……上に媚売るためか、自分の立場が怖いのか、中立気取りたがるよな」
と、これまで黙っていたブッチギリーストが、突拍子もなくオサラウドに言う。
「当然だ。私は大地の学級長である前に、『生徒会長』の部下かつ生徒会の一員……私情を持ち込むのは言語道断だ」
「ワシはな、そういう態度がこの学校の問題を肥大化させたんじゃないかって思うんだが。
この際言っておく、オサラウド、お前が術国の治安悪化を抑えようっていう気概はすげぇイイと思ってる。
だがお前のやる事は当事者双方に軽くキレて、『生徒会長』に訴えるぐらいじゃねえか?
生徒会の一員が出来るのはこれくらいなのか? もっとガツンと言った方が、後々都合がいいんじゃないのか!?」
「こちらがより強く何かを訴え、取り締まれば、大地の学級のみが優勢になってしまう。四学級の明確な優劣がついてしまう。それはそれで良くないだろう」
「もう良くなくなってるんじゃんかよ、オサラウド!」
ブッチギリーストとオサラウドの舌戦に、怒れるヒドゥニルンが横槍を入れてくる。
「お前ら大地の学級は『生徒会長』っていう後ろ盾使って正義ズラしやがって!
今日この場で真っ先にオレ様を疑ったのが良い例だ!
もう『生徒会長』が味方してるから、ちょっとやそっと偉そうにしてもどうともならないってこと自覚してんだろ!」
オサラウドが反論する前に、ブッチギリーストがヒドゥニルンに説教する。
「お前もお前で、謝罪ったことを再燃すな! あと何度もオサラウドに言われているように、冷静になれ!」
「そ、その通りだと僕も思いますよ……ヒドゥニルン様」
「お前はどの口でそう言えるっていうんだ……!」
流れるように、ブッチギリーストの説教相手はカイナフィに変わる。
「普段通り人を食ったような態度を取りやがって!
何人もの人が犠牲になってるっていうのに、微量しは自粛しやがれって! そっちもそれなりに被害が出ているかって同情てくれると思うな! 研究所のことが発覚て間もない癖によ!」
とにかくカイナフィへの憎悪が収まらないヒドゥニルンも、
「これに関しちゃあオレ様も同じだわ。
カイナフィ、お前が一番卑怯なんだっつーの。 特に、この前『学級長辞めちまえ』とか調子乗ってたくせに、いざ自分がピンチになると被害者ヅラするのがな。
オサラウド、お前も一発釘打っとけ」
「……とやかくは言わないが、その不誠実な立ち振る舞いは見直すべきだとは思うぞ」
ヒドゥニルンはカイナフィを睨んで、強烈に叱責する。
「これでわかったか……お前がこの学校でどれだけ嫌われているかってが、お前がこれからどうすればいいかをなぁッ!」
ヒドゥニルンに詰め寄られたカイナフィは、助けを求めてあちこちに目線を送る。ブッチギリーストは眉を吊り上げ、オサラウドは神妙な面持ちをしていた。
また、円卓の中央にあるオブジェ――『生徒会長』の声を伝達する装置は、一切何かが起こる気配がなかった。
そして、獅子身中の虫となったカイナフィは、
「……そこまで、そこまで言うなら、そこまで僕を邪険に扱うのなら! こちらとてすべきことをするだけですからねぇっ!」
憤激し、踵を返し、
「おい、静止て、カイナフィ! お前そんな災厄いことしてもどうにもならない、ぞぉ……」
勝手に会議を抜けた。
流水の学級が蜂起したのは、それから僅か数十分後のことであった。
*
手負いの烈火の学級生は、頭と膝を床につけて、ネロアに懇願する。
「大地の学級と暴風の学級は今、鎮圧部隊の編成中で、烈火の学級がいち早く交戦しています。 ですが、元々の属性相性の悪さや、あちら側の士気の高さ、副学級長さんの不在。
などなど、悪条件が重なりまくっていて、とても抑えられる気がしません!
そこで、ネロアさんに、俺たち烈火の学級に味方してください!」
この時も、宿の外では爆音と黒煙と悲鳴が放たれている。
「……今宵のイペファワエゼは、左様な阿鼻叫喚が起こっている。故に、ブッチギリースト殿は、僕たちと共闘したいというのだな」
「はい。ブッチギリーストさんは、こんな、何も得る者がない、醜い争いを一番嫌っているんです! 皆で授業受けて、魔法サッカーでもして、笑う……これを願ってるんです! ですからネロアさん! どうかお力添えをお願いします!」
ネロアは、この烈火の学級生の魂が込められた切願の言葉を噛みしめる。
するとネロアは、何故か一旦机の方へ行き、トパライザ禁書窃盗事件当日の時間割を確認して、
「レイザック、貴方はブッチギリースト殿と共に征きたまえ」
「え、俺だけですか? ネロアさんは……!?」
「僕はオサラウド殿より救済を願う。これにて烈火と大地の共同戦線を成す。
さすれば流水の鎮圧は、十二分に勝機が生まれる」
「で、ですけど……俺一人でこの乱闘に……」
「レイザック、貴方はブリッツ屠りし強者だ。案ずることはない、威風堂々演舞するのだ」
「……はい、わかりました! 俺、絶対にやり遂げます!」
「じゃあレイザックさん、ブッチギリーストさんまで俺が案内しますんで、着いてきてください!」
こうして、レイザックは宿を出て、烈火の学級生に着いていき、ブッチギリーストの元へと駆けていく。
「……ここでカイナフィさんを倒した所で、イペファワエゼのわだかまりは取れず、平和になりません。
真の平和が来るには、事の発端である、トパライザ禁書を取り戻すこと。
……ごめんなさいレイザックさん。僕、あなたに嘘ついてしまいました、僕はこれから、真実を得るべく、『生徒会長』さんに会いに目指します」
遅れて、ネロアも宿を出る。
そして、『生徒会長』がいる、大火山の付近――イイキュフォアグ神殿を目指す。
「カイナフィ様のため、どんどん爆破して行きなさい!」
「学園への復讐です、容赦は不要です!」
流水の学級生達が、液体爆薬を撒き散らし、無秩序な破壊を行う中、レイザックと烈火の学級生は裏道を通り、素早く、気づかれず、ブッチギリーストの元を目指す。
「よく……こんなスムーズに行ける裏道知っていますね?」
「当然ですよレイザックさん。普通に行けば、ブッチギリーストさんの元に辿り着く前に、カイナフィの連中にやられてしまいますから!」
「そうですか、なら、この裏道は、誰が何しても周りに気づかれにくいんですね?」
「はい! ぐへぇッ!?」
レイザックは、烈火の学級生の背を思い切り斬りつける。
「な、何で俺を攻撃するんです……!?」
レイザックは冷酷な面相で、倒れる彼に剣先を向けて、
「烈火の学級生の癖にブッチギリーストさんを『級長』と呼ばず『ブッチギリーストさん』と呼ぶ。安全な裏道を通ってるのに行きで怪我している――要するに、変装が荒いからです。
なるほど、こいつは怪しいと思っていたから、ネロアさんは俺だけで行かせたのか……ようやくわかったな。で、貴様、一体俺とネロアさんをどうして謀ろうとした?」
「そ、そ、それは……ウゥッ!?」
答える直前、偽の烈火の学級生は、
「ご苦労さん、お前。トードイスムカの奴をこの裏路地に連れてくること『だけ』に命かけてくれて」
飛び降りたヒドゥニルンに強く頭を踏まれ、HPをゼロにされた。
「ヒドゥニルンさん、これは一体!?」
*
一方その頃、ネロアは校舎内を南西目指して駆けていた――校舎を南西に突っ切った先に、イイキュフォアグ神殿はある。ネロアはこれを以前の聞き込みで把握していた。
(急がなくては、この反乱が大きくなりすぎる前に、レイザックさんがやられる前に、そして……『黒幕』が暴れ出す前に!)
「お止まりください。ネロア殿!」
「ッ! あ、貴方は……!?」
校舎の南西門を抜け、門前の広場に到達したところで、ネロアは命令通り足を止める。
彼女の前には、オサラウド率いる、物々しい武装をした大地の学級の精鋭がいた。
【完】
※今回はロジスティクス・サーガ・データベースはございません




