76.友情烈火
「これは……奇襲が何かまるでわかりませんが、とにかく危い! 【蒙昧罪の断】ッ!」
ネロアは、突如落ちてきた火の球へ、闇を帯びた剣を思い切り振る。
火の球と闇の剣はしばしぶつかり合ったのち、ネロアが剣を振り切った。
弾かれた球は、纏った火を失いながら、その辺りに転がった。
「ぜぇ、ぜぇ……なかなか重かったです……大丈夫ですか、レイザックさん?」
「はい、大丈夫です。で、ネロアさん……アレを見てくれませんか?」
ネロアはレイザックが指差す方を見る。と、そこにはサッカーボールが転がっていた。
「これが、さっきネロアさんが防ぎ切った火の球の正体です」
「サッカーボール……を、武器にする刺客が、この辺りにいるのでしょうか!?」
ネロアは、どこかに怪しい人物がいないかと、周囲に目をやる。
レイザックは芝生に落ちたサッカーボールを拾う。見て触った限りだと、普通のサッカーボールである。
「サッカーボールを武器にする人って、聞いたことも無いですし、コスパ悪いと思うのですが……果たして誰かこんなことをしたのでしょうかね」
それから、その場にとどまり、辺りを警戒すること……約三分。
「レイザックさん、聞こえますか?」
「ええ、いますね……これ」
二人はドタドタと、やかましい足音を聞く。二人は得物を構え、耳をよく済まし、その音源の方角に注意する……と、
「おーい、そこのお前ら、ここで蹴球見なかったかー?」
既視感のある赤髪の熱血漢――【烈火の学級長】、ブッチギリースト・サラマンドラが、遠くから慌ただしく駆けてくる。
「……って、よく見たらネロアとレイザックじゃねえか! 猛省、遠くて気づかなかった!」
「何だ、何処の馬の骨と思えば……ブッチギリースト殿ではないか! ご覧の通り、サッカーボールなら、今宵、レイザックが掌握している!」
「はい、俺が持ってます」
嬉々としてブッチギリーストは、レイザックからサッカーボールを受け取る。
「そう、これこれ! いやー、遠大くにブッ蹴り飛ばした時は、法外高級いボール代払うことになるかと思ったわ!
なんてったってこれ、魔法サッカー用の特殊加工品だからな!」
「そうなんですか……パッと見そうには見えないけど、イペファワエゼの技術もすごいな……」
「魔法サッカー……それは如何なる代物だ?」
「相手を意図的に痛めつけること以外なら、どれだけ魔法を使っても可のサッカーだ! それが近日にやる予定の体育祭のメイン競技になってるんだ。
ワシはこの時限中、運動場で仲間とそれに備えて練習してたんだ。
で、それが熱狂して、結果ワシがここまでブッ蹴り飛ばしたって訳だ!
いやー、一大事あったら、真剣で陳謝な!」
「安心してくれ、無問題だ」
本当は刺客か何かの急襲かと思い、相当驚いたのだが、事の加害者があまりにも明快かつ楽観的に話すし、実際一大事にはならなかったので、ネロアは愛想笑いで返す。
「ところで、お前ら庭園で何してるんだ? やっぱりトパライザ禁書関係か?」
レイザックは答える。
「だいたいそうです。さらなる手がかりの手がかりに、各学級の情報を調べておこうとネロアさんが言い出して、校内で誰かしらに話を伺っていたのです。が」
「今は授業中だから、校舎内に話出来る奴はほぼほぼ不在て、困ってたんだろ?」
「それが、僕が考えの鏡写しだ」
ブッチギリーストはこの困り事を、くだらないと笑い飛ばす。
「そんならワシが付き合ってやる、無論、授業後でな!」
「真か!? されば僕は、魂の底より感謝する」
「おう、了解った! じゃあまず、運動場に帰るか!」
ネロアとレイザックは、サッカーボールを持って帰るブッチギリーストに続いて、啓都内の運動場にやって来る。
運動場では、烈火の学級生たちが快活かつ有効的に、魔法サッカーの練習に勤しんでいた。
「待たせたなお前ら! なんせボールが庭園の方まで飛んでいっちまってなぁ!」
「大丈夫ですぜ、級長! 俺達らスペアでやってましたんで!」
「アタシはむしろ嬉しいな! 級長の本気シュートがどれだけのパワーしてるか目の当たりに出来て!」
「全く、級長はいっつもめっちゃ遠くにド派手に飛ばしちまうんだから……それが凄いっスねー」
烈火の学級生は、自分のミスでかなりの時間授業を抜けたブッチギリーストを、笑って気さくに迎え入れる。
学級長と学級生の間が主従ではなく友情で繋がれている――【烈火の学級】の最大の特色はそれだろう。と、ネロアは思った。
授業終了後、ブッチギリーストは生徒達をお開きにして、ネロア(とレイザック)の方へ。
「次の授業が十五分後だから、あんま長尺話は出来ないが……何が聞きたい、ネロア?」
「そうだなぁ、先ず、ブッチギリースト殿はどのような道標を往って、烈火の学級長と成ったのだ?」
ブッチギリーストは即答する。
「そうだなぁ、愚直にムカつく奴をぶん成敗ってたらこうなった」
「愚直にムカつく奴を……先代の学級長のことか?」
「それだ。
ワシは知能の良さは四学級長中、逆一位って自負してるくらい、頭は軟弱い。そんでもって暴力が出るのも最速い。
けれども悪い事は悪い事だってのは超絶わかるんでな」
ブッチギリーストは、自分がここに至るまでの過去を話してくれた。
*
ブッチギリーストは元来、友情を何よりも大事にし、好む人物であり、ロジスティクス・サーガを始めたのも、新たな友情を求めたのが理由だ。
さらに、これは【イペファワエゼ】に属した理由にもなる。イペファワエゼ――特に魔法学園都市である【啓都】は、程々に自由かつ、人と関わる機会が多いからだ。
なお、四学級ある中で、【烈火の学級】を選んだのには、特に理由はない。何となくである。
これにて【烈火の学級】の門を潜ったブッチギリーストが、まず目の当たりにしたのは、先輩たちの荒廃だった。
暴力で我をのしあげようとする強者と、それに便乗するか、はやし立てるばかりの弱者と、混沌の渦中にある環境を悪用して私欲を満たす学級長、そして一切授業どころではない学級だった。
このような殺伐とした場所では、何も出来ない……だから彼は、一瞬友情第一を忘れて、大喧嘩を仕掛けた。
もっと楽しいこと考えろや。と、言いながら、ブッチギリーストは片っ端から、学級を荒らす連中を殴り、別のベクトルで学級を荒らした。
ヤバイ奴がやって来た。烈火の学級生の大半は、ブッチギリーストの破茶滅茶さに戦慄し、邪見に思った。当然、この危険因子を排除するためにあらゆることを実行するものも続々と現れた。
だが、大半以外は、ブッチギリーストに同情した。自分たちだってこんな殺伐したい訳じゃないんだ。楽しく勉強がしたいんだ。
ブッチギリーストは旧来の派閥に殴られ、傷つく。だが度に立ち上がり、友情を否定する者をより熱い拳で殴る。
その度に、彼の熱い思いへの賛同者は増していった。
そして、権力争いの火が、ブッチギリーストの友情の炎に飲まれようとしたその時、同時期に新たに現れた『生徒会長』の命令が、烈火の学級に下った。
――今日より、現在の烈火の学級長は除名し、今後、烈火の学級は、一切の私闘を禁ずる。
まさしく、ブッチギリーストの勝利であった。
それから、普通のにぎやかさと平和感を取り戻した烈火の学級で、ブッチギリーストはクラスメートと一緒に勉強に励み、技量・人望共に、学級長にふさわしい存在となったのだった。
*
「やっぱり、何よりも必要なのは友情だと思うんだよな、ワシは。皆仲良くやれれば、何も困ることはないんだよ……トパライザ禁書の件も、すぐ解決するはずなんだよ」
レイザックは、目から熱い物をにじませながら、
「ブッチギリーストさん……単純ですけど、本当に良いこと言いますね!」
ブッチギリーストは、レイザックの肩に手をドシッと重く置いて、
「だよな、ありがとうな! お前も、ネロアと一緒に頑張れよ、牢屋の中の友達のためにもよ」
「いやー……アイツは、友達というか、どっちかって言うと腐れ縁みたいな……」
「おっといけない。もうそろそろ次の授業場所に行かないと遅刻いから、続きはまた今度な」
ブッチギリーストは小さく謝り、話を止めて次の場所に駆けていった。
「ブッチギリーストさんは、友情を重んじる熱いお方……なるほどですね。短いながら、よくわかりました」
と、ネロアはいつの間にか用意していた推理メモに記述した。
「あの人が実直な考えしているというのもありますけどね……ではネロアさん。次は誰に会いに行きますか? オサラウドさんかヒドゥニルンさんですか? 大地の学級生か暴風の学級生ですか?」
「広間に行きましょう。して、そこで会った人にとりあえず声を掛けてみましょう」
授業開始のチャイムが鳴ってから数分遅れて、ネロアは校内にある広間――少し前なら、トパライザ禁書とその展示台があった場所――にやって来る。
啓都の時間割は、学園全体の生徒数と、教室のキャパを考慮して、同じ学級の生徒でも授業内容が異なる場合もあれば、そもそも無い場合もある。
その授業が無い生徒が暇つぶしに談笑している姿がちらほら見えた。
その中には、お目当ての大地と暴風の生徒もいた。
「では、レイザックさん。どちらから声を掛けてみますか?」
「あ、俺が決めていいんですね? ええと、なら俺は、ヒドゥニルンは呼べば気前よく会ってくれるので、大地の学級生か……!?」
丁度いい所に、二人の正面からヒドゥニルンが走ってきた。
「ヒドゥニルン殿、今宵は暇か? 是とならば、僕は語らいたいことが幾多あるのだ……」
ヒドゥニルンは、ネロアとレイザックを至極邪魔に思い、
「どけどけ、二人とも、オレ様は今メチャ忙しいんだ!」
命令通り、二人が作った道を、ヒドゥニルンは大急ぎで駆け抜ける。二人はどうしたものかと、暫し呆然とする。
「どう思いますネロアさん、俺は、授業に遅れたと思いますが?」
「まさか、暴風の学級長であるヒドゥニルンさんがそんな失態する訳ないかと……おや、今度は黄色メインの服を着た……」
この学園において、黄色は大地の学級のメインカラーである。
その黄色がメインの服を着たプレイヤーが早歩きで来るのを見て、ネロアは、
(流れ的に次はオサラウドさんでしょうか?)
と、今後の展開を考えた。
その時、急いで来た大地の学級生は叫ぶ。
「おーい、皆ー、事件だ!」
「そんなに慌ててなんしたぁ!?」
「事件、どうなさったのです? 大地の学級生?」
「マジ? 事件?」
「ああ、事件だ。オサラウド様方が入られた教室に、拘束された上、半殺しにされた学級生がいたんだ!
オサラウド様が彼らの身元を調べたいから、手伝える人は来てくれと仰ってます!」
「事件……これは怪しいですね。ネロアさん!」
「僕たちが行ったところで、野次馬になるのが関の山のような気がしますが……ダメ元で行きましょう!」
かくてネロアとレイザックは、広場にいた啓都の生徒たちに混ざって、事件現場へ向かう。
【完】
ロジスティクス・サーガ・データベース
■キャラクター紹介
【ブッチギリースト・サラマンドラ】
分類:プレイヤー
所属:術国イペファワエゼ
レベル:80
ジョブ:【格闘家】
火魔法を極めた【烈火の学級長】のプレイヤー。
時代錯誤に片足をツッコみつつあるくらいのヤンキーのような人物。それらしく口粗暴で短絡的だが、友情は裏切らない。
イペファワエゼの【格闘家】は至近距離で相手をボコした後、威力に特化した魔法で追撃するスタイルを得意とする。
彼が独自開発した火魔法【サラマンドラ・マグナ】は、燃え盛る鉄拳。これに当たるといかなるものも炎上し、消し炭にさせられるという、実に彼らしい豪快なスキルである。
個人的に、名前の頭の悪さがキャラクターによく合っていると思っています。




