73.ブラック・キープ・ブレイクスルー
ロジスティクス・サーガには、基本属性の地水火風、光と闇、そして補助属性の草氷雷音の十種がある。
補助属性とは、読んで字の如く基本属性を補助する物だ。
火を補助する雷は水を消し、水を補助する氷は地を凍らせ、土を補助する草は風を妨げ、風を補助する音は火を飛ばす。
と、いうように、基本属性四つの各々の相性が悪い属性に抵抗出来るようになっているのだ。
そしてイペファワエゼの四学級それぞれには、これを学び、極めた【副学級長】が存在する。
ただ今、ネロアとレイザックに立ちはだかる、ブリッツ・カレン・ボルトもその一人――雷魔法を得意とする【烈火の副学級長】である。
そんな彼女が立ちはだかることに、ネロアは強烈な違和感を覚える。
「ブリッツ殿、貴方の宣告に虚構が混濁していないと定義するのであれば、何故貴方は僕たちを急襲するのだ!?
僕たちは今宵、【烈火の学級長】にして貴方の上司たるブッチギリースト殿と共闘する運命を辿っているのだぞ!?」
ブリッツは即答する。
「ボクは気分次第で分際を決める! ボスも、空気も、ぶん投げてさ!」
ブリッツは鉄パイプを振り回しながら、跨る魔導二輪車を唸らせ、ネロアとレイザックに突撃する。
勢いは凄まじいが、いかんせん軌道は単純……経験を積み上げて来た、二人は容易く回避する。
だがブリッツにも積み上げて来た経験がある――ブリッツは器用に二輪車の向きを巧みに一八〇度旋回させ、今度は二輪車の前輪に電気を纏わせて、二人に飛びかかる。
「ネロアさん、ここは俺がやります! 【ダークマター・バッシュ】!」
レイザックは、ネロアの前に立ち、飛びかかるブリッツの二輪車の前輪を、闇属性を纏わせた盾で強烈に殴り、弾き飛ばす。
飛ばされたブリッツは巧みに二輪車を操り、難なく着陸して、余裕の笑みを見せた。
「有難う、レイザック……そして死線に挑む覚悟をせよブリッツ殿! 僕は死神ホイプペメギリより大いなる尊き運命を賜りし者、ネロ……」
「名乗り中にすみません、ネロアさん! ここは俺に任せて、ネロアさんは先に行ってくれませんか?」
「何故だレイザック、僕と共闘する運命を拒絶するのか?」
「ネロアさん、まだ向こうの方が焦げ臭いですよね? あれ、絶対何か大事な物に火を付けて燃やしているはずです。だからネロアさんに、そちらに行って得る物を得て欲しいんです……安心してください、俺だって戦えます、あの人を止めてみせます!」
「……解した。レイザック、貴様に天命有ることを、僕は願望する!」
ネロアは踵を返し、レイザックと背を向かい合わせ、焦げ臭さが来る方――元来二人が向かっていた方へ駆ける。
「ボクを軽視するなボケがぁ!」
事実上逃亡したネロアに憤り、ブリッツは二輪車を加速させ、彼女を追う。
「【闇の一振り】!」
レイザックは闇属性を帯びた剣を豪快に振り、ブリッツの二輪車を、止める――有言実行する。
「妨害するな! ここを通せ! ぶっ潰すぞ!」
ブリッツはお返しに、レイザックめがけ鉄パイプを振りかざす。
(先程彼女は、このパイプを受け止めた相手に、強烈な放電を至近距離で浴びせて倒した……つまり、これをただ単に防御するのはダメ……だから!)
「【ダークマター・バッシュ】!」
振りかざされた鉄パイプを、レイザックは闇を帯びた盾で殴り、弾く。接触は一瞬だけであり、追撃の放電は来なかった。
危機を乗り越えてすぐレイザックはブリッツに反撃を試みる。
だがその前に、ブリッツが前輪を軸に二輪車を回転させ、電気が流れる後輪でレイザックを派手にふっ飛ばす。
レイザックはネロアのレクチャーを活かし、綺麗に受け身を決め、即座に体勢を整える。この時、ブリッツは彼に、鉄パイプの口を向けていた。
「【エレキ・バレット】、五連!」
ブリッツは鉄パイプより、弾丸状の電気を射出。レイザックはしっかりとそれらを見切り、剣と盾で防御する。
「ボクの小細工を防御してくれてありがとう! 【ライトニング・アクセル】!」
先程の弾丸は所詮目眩まし――ブリッツは二輪車をさらに加速させ、二輪車ともども電気を纏い、レイザックに猛突進する。
(アレを直で食らえばまずい……なら、あまり使いこなせていないが、やるしかない!)
「【モンスターコール:レイス3】!」
レイザックは、不思議な煌めきをする体の【ミスティックレイス】を手前に召喚。
「一斉砲撃だ! 【ダークマター・ソーサー】、二連!」
レイス達の火弾発射と共に、闇の丸ノコギリを二枚射出し、ブリッツを迎え撃つ。
だが止まらない。二輪車の速度も、電気の轟音も、まるでそれを受け付けない。
「ヒィィィヤッ、ハァァァァ!」
そしてブリッツは開始時から微塵にも変わらない勢いのまま、レイスを一瞬で葬り、レイザックに激突する。
レイザックはHPを八割方持っていかれ、盛大にふっ飛び、地に這いつくばる。
「万事休すだぜ! このまま、ぶっ潰す!」
ブリッツは二輪車を再び加速させつつ、電気を纏う……次は確実に仕留められるよう、時間をかけ、丁寧に……
「……今の俺は、ミレアにいた時のように、上に媚びへつらって風格だけ良くしたレイザックじゃない。ネロアさんに滅茶苦茶特訓して貰ったレイザックだ。自分の実力を信じ一人で戦うことを選んだレイザックだ……!
そしてそんな俺を信じて、ネロアさんはこの場を任せた! なら当然、俺は証明する、俺が『出来る』ってことを!」
レイザックは、未だ激突の衝撃が残る身体を起こし、ブリッツをしっかり視界に据える。
「無様にやられるのは、確定してるんだよ、ボケが!」
「うるさい! それを言うなら、同じ国の人間を会って秒で殺し、上からの命令もまともに聞いていないお前の方がボケだ!」
「ブチギレるぞこの野郎……暴走してギッタギタに蹂躙してやるぞぉッ! 【ライトニング・アクセル】!」
準備万全となったブリッツは、先程の猛突進を遥かに上回る勢いで、雷属性のプロフェッショナルにふさわしく、雷電のような迫力と速度でレイザックに迫る。
(あのパワーにあのスピード……受けるのも避けるのも、もう無理だろう。だから、やるしかない。これまでの努力の成果を!)
「【モンスターコール:レイス3】!」
レイザックは自分の斜め横に、左右それぞれ二体ずつ【ミスティックレイス】を召喚する。
ブリッツが接近した所で、レイザックはレイスに、あたかも十字砲火のように、軌道が交差するように火弾を発射させる。
「バリ、かっこ悪い攻撃だなぁ、爆笑するわ! ボク、記憶してるんだよこれ、万全になぁ!」
「ああ、俺だって覚えてる。お前の勢いは所詮十字砲火程度では止められないって……だから俺は、その上を行く! 【邪の一閃】!」
レイザックは、ブリッツの方へ駆け、縦一列に並んだ火弾を、剣で連続で貫く。
レイザックは、闇と火を纏わせた剣を構え、電気に包まれて猛突進するブリッツを、決死の覚悟で突く。
この豪胆なレイザックの攻撃に、ブリッツは対応が間に合わず、二輪車から突き飛ばされる。己を包んでいた電気も雲散霧消してしまう。
レイザックは乗り手を失った二輪車を、遠くに蹴飛ばし、ブリッツに顔を向けたまま、剣を構え直す。
レイザック当人に、ブリッツを倒す必要はない。だが彼女の方は、半身とも言える二輪車から離されようとも、闘志は尽きず。電気の流れる鉄パイプを振り回して、襲いかかる。
「ボクは止まらない! 貴様を、ボッコボコにするまでは!」
「止まれないのはこちらもだ……俺は、信じて貰ってるんだから! 【ダークマター・バッシュ】ッ!」
レイザックは闇を帯びた盾をブリッツに叩き込み、彼女をふっ飛ばす。その弾みに、彼女は小さい袋を落とす。
「ブワッ!? これは、ボクのだァァァ!」
落とし物にひどく動揺したブリッツは、それを拾うため、電気を纏いながら突撃をする――これまでの中で一番、雑な攻撃であった。
「そっちがそうなら、仕方ない……【闇の一振り】!」
当然、レイザックは、これほどの隙を見逃すはずもなく、闇の剣で強烈に急所を斬りつけ、
「……ボクは、こんな……バッドエンドは認めない……!」
ブリッツを倒した。
レイザックは回復アイテムをかじりながら、
「……ふぅ、なんとかやれたな、危なかったけど。さて、ネロアさんの方は無事だろうか……」
*
一方その頃。
「これは……」
ネロアは二重に驚いた。
下水道の奥に、幾多のポーションが置かれた、整然として本格的な研究室が作られていたこと。
その研究室がただ今炎上していて、青色の研究服を着た人たちが、ことごとく倒れていくこと。この二つの異常事態についてだ。
(だいぶ燃えている……先程のブリッツさんが、やったのでしょうか?)
「うう、うう……カイナフィ様……」
その中で、ネロアはまだHPが残っている少女を発見する。
「大丈夫ですか、今僕が……」
ネロアはその少女に手を差し伸べる。
「!? い、いや……私が助かれば……研究が……カイナフィ様が……!」
「水臭いこと言わないでください! あなたは絶対助けます!」
ネロアは少女に回復アイテムを与え、応急処置をし、
(一応、研究とやらが全部失くならないように……)
適当なポーション一本を取って、二人で研究室から逃れる。
そこでネロアは、ブリッツの二輪車と小さい袋を所持するレイザックと合流する。
「ネロアさん、ブリッツはどうにか倒しました! ……で、そちらは……」
「研究室があって、燃えてました……詳しい話は後にしましょう。ほら、こちらに負傷者もいますし……」
この後、ネロアとレイザックは下水道を脱し、即、生徒会に、二輪車、小さい袋、少女、ポーションを渡した。
二人が生徒会緊急会議に呼ばれたのと、神妙な面持ちでいるブッチギリーストを見たのは、それから間もなくのことだ。
「では、ブッチギリーストさん。まず僕に言うことはないのですかぁ?」
会議開始から一番に口を開いたのは、カイナフィであり、その標的となったのは、ずっと苛立っているブッチギリーストであった。
「報告はお聞きしましたよねぇ? ブッチギリーストさん? 貴方の副学級長がぁ、本国の下水道でぇ、僕の学級生をマサクルとジェノサイドしたということをねぇ!
これは重罪ですよ、重罪! どう責任取ってくれるんですか、ねぇ? ブッチギリーストさん!?」
と、嫌味ったらしく対応を求めてくるカイナフィに、ブッチギリーストは流れるように席を立つ。
「ブリッツは元々行動が早い類の人間だ。だから多分、ワシが下水道で怪しいことしてるって伝えた刹那に、それを解決してやろうと、一人つっぱしっちまったんだろう……
つまり、これは完全ワシの監督責任だ。本気で、サーセンでしたぁッ!」
そして彼は一切の逡巡も挟まず、カイナフィに土下座した。
「ほう……かのブッチギリーストさんが、僕に土下座ですか……はー! 実にライでダウトっぽいですねぇ! あの、いいですかブッチギリーストさん! これは土下座云々で終わらせていい問題では無いんですよぉ!?
これで僕たち【流水の学級】にどれだけの被害が出ているのかと、これの罪の重さがわかりませんか!?」
ここでヒドゥニルンが、唐突に言う。
「あのさ、カイナフィ君。いつになったら、研究室のことを話すのお前?」
「……は? 研究室?」
こうとぼけるカイナフィに、オサラウドは目を三角にして尋ねる。
「『ブリッツ殿は、下水道に、不認可で作られた、流水の学級の研究室を襲撃した』と、私達は伺っていたのだが?
本来、啓都では生徒全員、指定されている授業・研究は全て、生徒会長からの認可を受けなければならないのだが……それについての説明は無いのか、カイナフィ!?」
急に自分のターンを奪われたカイナフィは、顔を引きつらせる。
「ちょっ、ちょっと待ってくれませんか? 僕は、『ブリッツさんの蛮行について』の会議を行うと聞いて、ここに来たので……」
ヒドゥニルンは言う。
「あー、それは、お前の責任能力を試すために、あえて情報を抜いて連絡したって感じ。で、いざ本番になったら、案の定、自分から話さないって言うね、これ」
オサラウドは机に、ポーションの瓶一つを置き、ネロアに話を振る。
「ネロア殿、貴方はかの研究室で、これと似たような物が並んでいるのと、流水の学級生が居たのを見ましたか?」
ネロアは即答する。
「それが真理だ」
オサラウドはネロアに会釈を送った後、カイナフィに、
「これらの証拠を踏まえて、例の『非認可の研究室』について、何か言うことは無いか……カイナフィ!?」
尋常ではない覇気を込めて、カイナフィに問う。
「……し、知りませんよ、研究室のことなんか? どうやらそこにいた方々が流水の学級生かもしれないとの話ですが、それは私の目を盗んでやった事やもしれませんし……」
「あ、追加で。そこの研究室にいた流水の学級生一人を、『関係者』として生徒会で保護してるから、カイナフィ君」
追い詰められたカイナフィは、まくし立てるような早口で、弁明する。
「……だから何ですか!? 『口は災いの元』とでも言いたいのですか!? ひどい話ですねぇ! ねぇ! こっちは大事なクラスメートをやられて、ウソの会議に呼び出されて、信憑性のない証拠突きつけられて! オサラウドさん、ヒドゥニルンさん、それとネロアさん! 僕は貴方たちに何をしたと言うのですか!?」
(昨日、オレ様を煽るような真似しただろ)
と、ヒドゥニルンは思いながら、必死なカイナフィを白い目で見る。
一方のオサラウドは、相変わらず不誠実なカイナフィに、ため息をついて、
「確かに、まだ貴方が違法行為を行ったという絶対決定的な証拠はない上、今回の生徒の大量撃破事件そのものについては、ブッチギリーストに非がある。
だが、かといって、カイナフィ、貴方が無実潔白と決めつけるのは、非常に無理がある。
故にこの事件の処理は一時保留とする。
ただし、カイナフィ。ゆめゆめ忘れないで貰う。今後の動向によっては、貴方はどうなるかわからないとな。
今回の緊急会議は以上だ。解散!」
そうオサラウドが締めの言葉を述べた途端。カイナフィはブッチギリーストとネロアを、あたかも親の仇を見たような目で一瞥して、真っ先に部屋から出ていった。
なお、この間もブッチギリーストは、誠意を持って――ブリッツは大地の学級の生徒も一倒しているため、今度はオサラウドの方を向いて――土下座し続けていた。
【完】
ロジスティクス・サーガ・データベース
■キャラクター紹介
【ブリッツ・カレン・ボルト】
分類:プレイヤー
所属:術国イペファワエゼ
レベル:69
ジョブ:【職人】
雷属性に秀た【烈火の副学級長】のプレイヤー。
バイクを愛する不良気質な少女。
イペファワエゼの【職人】はバイクなどの比較的小型な機械を乗り回して、魔法を撃ちまくるスタイルを取る。
これは機械の操縦に必要な【メカニカル・ライセンス】を【1】までしか取れないため、作れたとしてもバイクくらいの大きさの機械が限界だからだ。
彼女は鉄パイプを得物とし、シンプルに打撃武器として使ったり、ショットガンに見立てて雷魔法の媒体としたりしている。




