68.機神トドッバ・マの化神官、鉄姫
デリトソースは、自機【デリトソーZ】に搭載された、いくつかの銃火器の照準を、デリトソーZの首に一撃加えている、赤い【ヴァンガード】に合わせながら、
『化神官だと……あの、せっかちのチュ・チョルヒが……? くだらない嘘をつくな、弱者が』
赤いヴァンガードの操縦席にいる朱鉄姫――チョルヒは言い返す。
『いいえ、私は本当に化神官になりました! もう私は……ただの弱者ではありません!』
『うるさい。貴様ごときが、我の発言を否定するな!』
チョルヒが乗る赤いヴァンガードに向けられた、デリトソースの銃火器が一斉に火を吹く。
チョルヒは素早くその場を離れ、射撃を避ける。
『まだ撃破されていない者に告ぐ。あの詐称者を、至急撃ち落とせ!』
デリトソースと、彼の部下である【チーム・アーセナル】のメンバーは、使える限りの武装を使い、チョルヒを撃墜するための、尋常ならない密度の弾幕を展開する。
だがチョルヒは、それの隙間を縫うように、高速で飛び回りつつ、逆に【チーム・アーセナル】の機体を次々と破壊していく。
『貴様ら……これが【チーム・アーセナル】の底力か! 何故、たかが【チーム・モブ】の粗製乱造機一つに手間取っている!』
このチョルヒの活躍ぶりを、地上で見ていたギビーは言う。
「チョルヒさん……凄すぎる……もはや『せっかちのチュ・チョルヒ』じゃない、『神速のチュ・チョルヒ』だ……」
さらに隣のネロアも、
「神速……そうか、これが機国イズセラの化神官の御業、か……」
ここで一つ解説を入れるとしよう。
チョルヒが化神官となり、得たスキル【機神の激烈】は、『機械に搭乗時、それのスピードを三倍にする』という、いたってシンプルな効果である。
これによりチョルヒは、悪く言えば『あまり性能の優れない量産機』である【ヴァンガード】で、神速とも呼べるスピードを発揮できるのだ。
『はあっ!』
【チーム・アーセナル】の軍団を壊滅に追いやったチョルヒは、再び、デリトソースの機体、デリトソーZに接近、その胸部に斧を連続で叩き込む。
勿論攻撃スピードも三倍。軌道すらも読み取れないくらい、凄まじい数の攻撃をここに加えていた。
『小賢しい、小賢しいッ、小賢しいッ! 我が、このデリトソースが圧倒的な力を持つのだ、やがて大陸を統べる大雄になるのだ、イズセラのアカいタイヨウとなるのだぁ! チョルヒィッ! お前はただ一生惨めに生きてればよかったのだァァァ!』
プライドを傷つけられたデリトソースは怒りに身を任せ、デリトソーZの全兵器をチョルヒ一点に向ける。
だがその時既に、チョルヒの連撃は、その圧倒的な攻撃回数で、デリトソーZの内部構造まで損傷させており、発射に上手く繋がらない。
少々遅れて、操縦席の中で、緊急事態を示すランプが輝いていた。
『何故だ……何故我が敗者になるのだ! 何故チョルヒが化神官になるのだ!』
「それは、情熱の有無だぜ」
と、デリトソーZの操縦席にいつの間にか現れた、機神トドッバ・マは言う。
「お前は、力を求めて、実際このイズセラの中でも飛び抜けた力を持っていたよな。
けど、『力』だけでは、『敵を倒して、上にのし上がること』しか出来ないんだ」
『だからどうした……敵を倒し、頂点に上る事だけを考えて、何が悪い!?』
「その先――頂点になった後にお前は何をするんだ? その椅子を守り続けるために目障りな奴を消し続ける、無情な『機械』になるだけだろ? 僕はな、そういう機械になりたがる人間が大嫌いなんだ。
チョルヒはそれとは違う。アイツはただならぬ『情熱』を持っている。このイズセラを加速させる情熱を……」
『だから何だ! 奴は一度このイズセラの看板を傷つけた愚か者だ! そのような奴を化神官にした所で、また大失態をするに違いないだろう!』
「それが人間だろうが! 何度失敗しても情熱で立ち上がって、いずれ輝かしい未来を掴む……それが、ただ組み込まれた機能のみを使い続けるだけの機械とは違う、人間の良いところだ!
それを今、このセンスのない武器庫といっしょに、身をもって体感しろ」
そう言った後、トドッバ・マは、デリトソーZの操縦席から姿を消す。
デリトソースは改めて、正面を向く。既にデリトソーZの損傷は致命的であり、攻撃、防御、撤退……何一つ出来ない状態となっていた。
『こんな……こんな悪逆無道な真似をして、許されると思うな……最強は、頂点は、イズセラのアカいタイヨウは、このデリトソースだァァァ! チョルヒィィィッッッ!』
イズセラの鋼都の西にある、名も無き雪原にて。一つの巨大な黒い鉄塊が、慢心と野望と共に、爆発四散し、直後、立ち込める煙の中から、赤いロボットが飛び出す。
「貪欲なる下劣者、終焉す……大義であった、チョルヒ殿」
「やったぞぉぉぉ! ついに、チョルヒがデリトソースに勝ったぞぉぉぉ!」
大仕事を終えたチョルヒは、雪原に着陸する。ギビーはまるで常夏のリゾートにやってきたときのように、嬉々として彼女の元へと走った。
「お疲れ様です、チョルヒさん……いや、今は化神官ですから、チョルヒ様で……」
『すみません、ギビーさん。まだ危ないので、近づかないでください』
「はい?」
チョルヒは前方に銃を突き出し、ギビーはその方角を凝視する。と、機械の獣の群れが、こちらに駆けてくる。その先頭は、既視感のある赤色の狼だった。
「【チーム・トランス】――ウルフレットだ……」
「キラリエル、デリトソース……これらを征伐せど、波乱の根源は、まだ絶滅とならず、か……」
機械獣の群れは――【チーム・トランス】は、チョルヒにある程度近づくと止まり、先頭にいる赤い狼――ウルフレットの自機【ウールヴヘジン】は人型に変形する。
『赤いヴァンガード……お前が、チョルヒか』
『はい、そうです、ウルフレットさん……話は、既にトドッバ・マ様から聞いています、あなたの気持ちもわかります、ですが、お願いです……これ以上誰かを悲しませるのはやめてください』
『俺が、イズセラの英雄になるんだ……俺が、イズセラを正しく導くんだ……そうするために、俺が、イズセラの化神官になるんだ……』
ウルフレットは、背後の【チーム・トランス】メンバーに、『出るな』と言う代わりに、真横に刀を水平になるように伸ばして、
『……だから、俺はチョルヒを倒す……俺がイズセラの英雄となるのに相応しい事を、証明する……』
もうウルフレットは止まらない。と、悟ったチョルヒは、意を決する。
『……わかりました。ネロアさん、ギビーさん。ここからは、私一人で戦わせてください……これは私とウルフレットさんの問題ですから……』
「……はい、チョルヒさん」
「解した。僕は今宵、審判に徹す。チョルヒ殿へ、天からの祝福が有らん事を」
チョルヒとウルフレットは一対一で、互いに機体越しに互いを睨み、そしてある時、斧と刀は激突し、開戦の合図が如き金属音を鳴らす。
チョルヒはスキル【機神の激烈】由来の驚異的なスピードで、ウルフレットに連撃を繰り出す。ウルフレットは、それら全てを刀で防いだ。
かねてから『赤狼』と畏れ、讃えられてきたウルフレットの戦闘センスの一部である反射神経が、それを可能にしているのだ。
このまま近接戦闘を続けていたとしても、突破は難しい。
そう考えたチョルヒは、朱いヴァンガードを飛び上がらせ、空中を駆け回り、様々な方向からウルフレットを銃で撃つ。
ウルフレットは刀を振り回し、無数の銃弾を斬る。
その最中に、彼はチョルヒの軌道を予測。そして機を完璧に読み、狼型に変形して彼女に飛びかかり、その懐に食らいつく。
ウルフレットを引き剥がすべく、チョルヒはウルフレットに至近距離で銃を撃ち込む。
ウルフレットは致命傷になる前に、チョルヒから離れる……去り際にヴァンガードの飛行装備を破壊して。
ヴァンガードの飛行装備を壊された、チョルヒは安定して飛行する事が叶わず、止むを得ず着地する。
直後、チョルヒとウルフレットは、斧と剣で近接戦を開始する。
どれだけチョルヒが早く攻撃をしても、ウルフレットは己の技術でそれを防御する……それどころか、ウルフレットは、徐々に徐々に、チョルヒを押していく。
いくら化神官になれど、チョルヒには数年の、パイロットとしてのブランクがある。
故に彼女の攻撃にはまだ荒――例えば、パターンの少なさ――があり、ウルフレットは、それに付け入っているのだ。
『このままでは、まずいです……何とかして、戦局をこちら有利にしなけれ……』
『はぁぁぁッ!』
ウルフレットは、チョルヒが生んでしまった、僅かな一瞬の隙を突き、一閃を繰り出す。
チョルヒは、持ち前のスピードを利用し、一気に後退、危うくも一閃を避けた。
ウルフレットは息する暇すら与えぬよう、チョルヒに急接近、再度、斧と剣をかち合わせ、近接戦を始める。その行方は、またしても、微かにウルフレットが優勢だ。
最中に、チョルヒは言う。
『やっぱり、ウルフレットさんは強いですね……これがきっと、ウルフレットさんがイズセラを救おうと励んできた成果なのですよね……』
『御託を言うな……! 早く俺に、その座を寄越せ……!』
『ですから……私も励みます! 私も、大好きなイズセラを守りたいから!』
チョルヒは情熱を燃やし、より早く、より重い連撃を、ウルフレットに与える。
ウルフレットは変わらず、己の戦闘センスで、これら全てを受け止める。だが今度は、気迫で技量を補うチョルヒが優勢を取った。
『そこです!』
ここで二人の勝敗の行方の分岐点が出来る――チョルヒがウルフレットのウールヴヘジンの胴部に、鋭い蹴りを与え、体勢を崩させる。
すかさずチョルヒは、豪快に斧を横一文字に振る。
ウルフレットは刀でこれを受け止めるも、チョルヒのパワーに押し負け、刀はへし折れる。背に腹は代えられない――ウルフレットはウールヴヘジンの左腕で、斧を防ぐ。
案の定、ウールヴヘジンの左腕は切断されるも、ウルフレットは、速やかに体勢を立て直し、チョルヒから大きく離れて、それ以上の損害は避ける。
もう終わりにしましょうよ。と、言う代わりに、チョルヒはあえて、赤いヴァンガードをゆっくり歩ませ、ゆっくりウルフレットに近づく。
『……まだだ、俺はまだ、英雄の道を閉ざさない……!』
ウルフレットは辺りを見渡し、付近に転がっていたデリトソースの愛機、デリトソースZに搭載されていたガトリングを、ウールヴヘジンの斬られた左腕と強引に接続。
さらに近くに落ちていた、キラリエルの愛機、キラリエリオンの得物であるレーザーブレードを右腕で握り、ウールヴヘジンの武装を整える。
ウルフレットは、歩み寄るチョルヒに、ガトリングを乱射する。チョルヒは高速で動き、弾丸を全て避け、ウルフレットとの間合いを詰める。
今度はレーザーブレードを振るい、チョルヒと応戦するが、勢いづいた彼女を止める力は、もうウルフレットには残っていない……絶え間なく迫る斧をいなすのがやっとだった。
『……俺は、英雄だ……英雄だ、英雄だ、英雄英雄英雄英雄英雄……英雄になるんだァァァ! だからさっさとくたばれよォォォ! チョルヒィィィ!』
と、呪詛を唱えたウルフレットは、数分前にエドウィンに致命傷を与えた、ウールヴヘジンのシルバーバレット――爪付きワイヤーを、チョルヒのヴァンガードの胸部に勢い良く射出する。
この戦いを通して、ウルフレットの底力は十二分に理解したチョルヒは、『まだウルフレットさんはやれる』と予測していた。故に、チョルヒはこのワイヤーシュートを、動揺せず、斧で弾く。
だがしかし、ウルフレットの反撃はこれでは終わらない。満身創痍のウールヴヘジンを、チョルヒのヴァンガードに急接近させ……
『これが俺の奥義だ……【ブレイズ・スレイ・トゥワイス】ッ!』
ウールヴヘジン最高出力の元、驚異的なパワーとスピードを乗せ、レーザーブレードを大上段で振り下ろす。
チョルヒは、高速のバックステップで、この渾身の一太刀を避ける。
『俺の覚悟は不沈不滅だァァァッ! 絶えろチョルヒィィィッ!』
刹那、ウルフレットは、間髪を入れずチョルヒへ踏み込み、二度目の一撃を振り下ろす。
『二度と絶やしません……この情熱! 【ライズ・オブ・ゼスト】ッ!』
対してチョルヒは、昇り日が如く燃える斧を、強烈な勢いで振り上げる。
上るチョルヒの斧は、落ちるウルフレットのレーザーブレードがヴァンガードに当たるよりも遥か先に、ウールヴヘジンへ命中した。
そして、ウールヴヘジンの胴体の装甲に、焦げた斬り傷が深く刻まれた。
【完】
ロジスティクス・サーガ・データベース
■キャラクター紹介
【デリトソース・バントフィルド】
分類:プレイヤー
所属:機国イズセラ
レベル:79
ジョブ:【重装士】
【チーム・アーセナル】のリーダー。
何よりも力を持つことを是とする、尊大で冷酷な男。
いずれイズセラの化神官となり、他七国の化神官(特に災国の橙瀧)を倒すという野望を持っていた。
イズセラの【重装士】は、プレイヤーが操縦できる最大サイズの機械の免許【メカニカル・ライセンス5】を取得可能という、シンプルなパワースタイルが推奨される。
愛機は【殲滅黒鉄城 デリトソーZ】。全長五十メートルという巨体にありったけの重火器を搭載したまさしく武器庫のようなロボット。単機で凄まじい弾幕を展開し、敵軍を焼け野原に沈めてしまう。
名前については、なんだか『ソース』って入った名前って強そうかも? と思って付けました。
正直他の単語のおかげで助かっている感も否めないです。




