67.そして皆が凍えて砕けそうになった時……
イズセラの首都【鋼都】の、とある大通りにて。
エドウィンは自機【ヴァンガード】を操作し、刀を押し付けてくるウルフレットの自機【ウールヴヘジン】を、斧を介して強く押し飛ばす。
ひらけた体勢で後退りするウルフレットめがけ、エドウィンはヴァンガードに装備された銃より十弾放つ。
これをウルフレットは速やかにウールヴヘジンを狼形態に変形させ、体高を低くして回避する。
狼形態特有の膂力とスピードをもってして、ウールヴヘジンをエドウィンの方に再度突撃させ、間合いを詰めたところで人型に変形。
即座にウルフレットは刀の刃先をヴァンガードの頭部に向け、一閃を繰り出す。
エドウィンはヴァンガードのブースターを点火し、瞬間的に立ち位置をずらし、間一髪で一閃を避ける。
そして二人は思う。
(流石はエドウィン、俺の素早い攻撃にも対処できている……【チーム・モブ】を背負う者として、当然か)
(流石はウルフレットだ。この攻防両方の隙の無さ……まさにイズセラの英雄だな)
お互いに心中で認め合う戦友二人――だが今は己の意志を通そうとする敵二人。故にエドウィンとウルフレットは、ただ黙々と戦闘を続ける。
そしてこの戦いは、たまたま付近で戦っていたモブとトランスの一員により、双方に拡散される。
*
チーム・モブの管轄区域にして、現在、鋼都住民の避難場所にて。
「はい、はい、わかりました、お伝えいただきありがとうございます……とうとう、始まってしまいましたか……」
何者かとのチャットを終えたばかりのチョルヒに、レイザックは尋ねる。
「今度は何が始まったのですか?」
「……エドウィンさんと、ウルフレットさんの一騎打ちが始まりました」
「そんな……そういえば、エドウィンさんから連絡はありませんでしたね。他のメンバーと連携しなくて大丈夫なのでしょうか?」
「きっと、エドウィンさんは、ウルフレットさんの気持ちを正面から受け止めて、あの人の暴走を止めるつもりなのでしょう。あの人を信頼していますから……大丈夫です、エドウィンさんは歴戦のプレイヤーです、【チーム・モブ】一のパイロットです。絶対ウルフレットさんを止められます」
「そうですか。なら安心ですね」
*
エドウィンは後ろに下がりながら、ウルフレットに銃を撃つ。
ウルフレットは刀で銃弾を斬り、エドウィンに急接近し、斬りかかる。
エドウィンは斧で刀を受け止める。
何合か刀と斧を打ち合わせた後、エドウィンは隙を伺い後ろに下がり、銃を撃つ。
ウルフレットの【ウールヴヘジン】は、攻撃力と機動力が優れた、突破・奇襲に向いた機体で、特に間合いを詰められた際の連撃は、彼の操縦テクニックも相まって、『苛烈』以外の何物でもない。
対するエドウィンの【ヴァンガード】は、汎用性は高いが、攻撃力・防御力・機動力共に、特別強いわけではない量産機。相手から強みを押し付けられれば、とても状況が厳しくなる。
故にエドウィンは、『接近されたらどうにかして防御し、後退して撃つ』という、良く言えば安定した、悪く言えば臆病な戦術を取った。
エドウィンは後ろに下がり、また銃弾を撃つ。ウルフレットは銃弾を斬り……今度は接近せず、エドウィンにこう言い放つ。
『エドウィンッ! 貴様、真面目に戦う気は無いのか! さっきから小技と退却を繰り返して! それで俺を倒すつもりか!』
エドウィンはコックピット内のマイクに噛み付くような姿勢で言った。
『こうでもしないと、お前の攻撃に耐えられないってことだ! イズセラの英雄の攻撃にな!』
ウルフレットは操縦桿の一つをへし折る寸前まで握りしめる。
『舐めた事を言うな……俺は解っているぞ……ウールヴヘジンとヴァンガードの性能差故に、貴様が攻勢に出れないぐらいなッ!』
『……確かに、お前の言う通り、ヴァンガードの性能に特筆すべきものはないから、性能の良いウールヴヘジンと真っ向から戦えば、こちらが負ける。
けどよ……こいつはチーム・モブの誇りだ。強い奴らに従わされた弱い奴が、少しでも強くなれるように、俺が願って作った機体だ』
エドウィンは息を吸い直し、凄まじい気迫を込めて、叫ぶ。
『だから俺はこっから本気を出す! このチーム・モブの誇りに傷をつけないためにも、開発者としての責任のためにも……とにかく色々な俺の情熱のためにもなぁ!』
エドウィンはウルフレットめがけて発砲する。
ウルフレットは飛んできた銃弾を、難なく斬る。
(すまない……この戦いが終わったら弁償する……)
この時、エドウィンは側にある建物を斧で破壊し、大量の瓦礫をウルフレットに飛ばす。さらにこれに混ぜて銃弾を放つ。
自分に飛んでくるものを区別なく斬りながら、ウルフレットは思う。
(瓦礫と銃弾を混ぜて放ち、対処しづらくする作戦か……甘い)
ウルフレットはウールヴヘジンを人型から狼型に変形させ、空高く跳躍し、瓦礫と銃弾を回避。そしてそこから、きりもみ回転しつつ、人型に再変形しつつ、エドウィンめがけ強襲する。
エドウィンはウルフレットの方を向き、そちらに銃を向ける。だが、もうウルフレットとの間合いは十分に詰まっていた。
『終わりだ……エドウィン!』
ウルフレットは、エドウィンの操縦するヴァンガードの胸部めがけ、きりもみ回転の勢いと共に刀で突く。
『ここだぁ!』
エドウィンはヴァンガードを少し宙に浮かせ、ウルフレットの突きをギリギリ避けた後、刀を踏みつけながら着地する。
『お前の猛攻、利用させて貰ったぞ……ウルフレット』
刀を踏みつけられ、次の攻撃に素早く移れないウルフレットに、エドウィンは銃を突きつける。
『……勝負あり、とでも言いたいのか?』
『ああ、もうお前は負けた。だが、安心しろ、この銃は撃たない。俺の目的は、お前をまた、こっち側に帰らせることだ……何度でも言ってやる、お前は、たとえ化神官になれなくても、イズセラの英雄だ。だから、頼むか、イズセラを滅ぼすような真似はやめてくれ』
ウルフレットは左腕をエドウィンに向け、手裏剣を放つ。エドウィンは斧を振り、それらを弾く。
『……俺も、モブの皆も、イズセラの住民も、『絶対に悪い奴じゃない』と、お前を信じてるから……これ以上戻れないところに行くな。また戻ってこいよ!』
『……絶対止める。と、さっき俺に向かって言ったな、エドウィン』
『ああ』
ウルフレットは、エドウィンに向けて、怒りを込めて
『俺はこのウールヴヘジンが停止するか、化神官になるまで、イズセラを滅ぼすつもりだぞッッ! 俺を絶対止めるって言うのは、そういうことだ……甘ったれた御託並べる暇あったら、さっさとその銃撃ってみろ!』
『……!』
エドウィンは、ヴァンガードに銃を撃たせるレバーに手をかける。だが、それを特にどうともしない。
ウルフレットのためにもここは撃つべきだ、と、エドウィンは思う。
だが同時に、エドウィンの脳裏には、これまでウルフレットと共に励んできた思い出がよぎり、無意識に、手が動かなくなる。
『遅いぞ! エドウィン!』
何もしてこないエドウィンに、ウルフレットは右腕を向け、そこからワイヤー付きの爪を射出し、ヴァンガードの胸部を貫き、抉る。
『……しまっ……!?』
動力部に深刻な損傷が起こったことを警告するランプが、ヴァンガードの操縦席を赤色に染める。さらに動力の伝達が上手く行かなくなり、ヴァンガードはよろめく。
これで刀は踏みつけから解き放たれた。ウルフレットは解放された刀を構え直し、
『トドメだ……ッ! エドウィンッッッ!』
エドウィンめがけ、容赦なく斬りかかる。
エドウィンは操縦席の、とあるボタンを叩く。直後、ヴァンガードを囲う、厚い光のバリアが広がり、ウルフレットの斬撃を防ぐ。
『これは、緊急時用のバリア……その場しのぎか。立て直される前に壊すか……』
エドウィンはヴァンガードの復旧……をせず、バリアをめった斬りにするウルフレットを見て微笑みながら、チャットを繋ぐ。
その相手は、【チーム・モブ】メンバー全員である。
『んー……ギビー、マリックー、親父からチャットが来たよー』
『どんな訳だ、親父の奴、さっきからずっと何の連絡もなかったのに……』
『余程伝えたいことなんだろう……とにかく、聞かないと』
『俺だ、親父だ、エドウィン・スミスだ。
今俺は、動力部をやられたヴァンガードに乗っていて、今にもウルフレットに撃破されそうになっている。
やっぱりウルフレットは強いな、結構善戦したけど、ダメだった、ははは。
で、お前たち、こっから先は重要な話するから、絶対聞き逃すなよ、いいな。
……これから俺がやられて、きっとお前たちは凹んだり、焦ったりして、ズタズタにやられるだろう、デリトソースたちにイズセラを掴まれるだろう? 別にそれは構わない、元はと言えば俺がしくじったのが悪いんだから。
けれども、まだ負けちゃいない。
俺はこれからも、イズセラの闇と戦っていくつもりだ。そしてそれには、お前たちが必要だ。だから、もしこんな俺を慕ってくれるなら、ここで諦めずに、これからも俺について来てくれ。
――ここは寒さが襲いかかる雪国イズセラ、それと共に生きるのが機国イズセラ、けれども寒さがいずれ本気で襲いかかる、そして皆が凍えて砕けそうになった時、アカいタイヨウが昇る。
俺は、この詩に出てくるアカいタイヨウみたいに、何度やられても、何度でも這い上がってやるからさ……だからお前たちも……』
イズセラの首都【鋼都】の、名も無き大通りで、一機のヴァンガードが爆発する。
この爆発音は、その搭乗者のチャットを通じ、イズセラのあちこちに伝わり、幾千幾万の涙を生んだ。
『……もしもし、ウルフレットだ。皆、鋼都内の敵はどれぐらい片付けた』
『ほぼほぼ壊滅させました。リーダー』
『もはやここは、我々トランスの手に落ちたも同然です』
『そうか、ありがとう、皆……では……』
*
鋼都の西にある、名も無き雪原にて。
『【チーム・アーセナル】、一時警戒体制に入れ。おかしい。急に抵抗軍共の動きが、約一名を除いて無くなったぞ……何の作戦だ?』
「【堕落の衝】!」
ネロアはデリトソースの自機【デリトソーZ】の頭部に、闇属性をまとわせた剣を落とす。だがデリトソーZには、まるでダメージが入らない。
『小賢しい。少し考えさせろ』
デリトソースは脅し程度のガトリングを乱射し、ネロアを離させる。
この直後、デリトソースにウルフレットからのチャットがかかる。
『もしもし、こちらデリトソース。何の用だ』
『今さっき、【チーム・モブ】リーダー、エドウィンを倒した。鋼都内の敵もほぼ片付け、残るは優先度の低い非戦闘要員だけだ。故に、これよりそちらに合流し、そちらの敵を片付ける。要件は以上だ』
『なるほど、ご苦労』
デリトソースはウルフレットとのチャットを終えた直後、
『フ、フ、フ、フハハハハハ!』
この雪原に、己の高笑いを轟かせる。
突然の行動に、ネロアは首を傾げる。
「な、何事だ……何を嗤っている……!?」
『お悔やみ申し上げます、チーム・モブの軟弱共! お前らの大事な大事な親父が、よりによってあのウルフレットに殺されてなぁ!』
「!? 真相を語れ……デリトソース!?」
『読んで字の如しだ。ついさっき、ウルフレットがエドウィンを殺したのだ』
「そんな……まさか……!?」
ネロアは正面のデリトソーZから、背後にいるチーム・モブの面々に目線を移す。皆、ヴァンガードを止め、中からすすり泣く声を漏らしていた――デリトソースの言うことは本当だと証明した。
『可愛そうにな、あれだけ慕ってた親父が、よりによってその次くらいに慕ってたウルフレットに殺されるなんてな。
……【チーム・アーセナル】! 攻撃再開! 悲哀まみれの脆弱にリーダーの後追いをさせてやれ!』
チーム・アーセナルは、各々の銃火器で、エドウィンが敗れた悲哀と絶望により、満足に動けない【チーム・モブ】を攻撃し、今まで以上に容易く撃破する。
『それともう一つ言っておく。ウルフレットらチーム・トランスは鋼都の制圧を達成し、こちらに合流しようとしている。だから廃棄物ども、それとネロア、どちらかに殺されるか、早めに考えておけ!』
デリトソースは、ネロアに幾多の銃火器を突きつける。と、その時、デリトソースへ勇猛果敢に飛ぶ【ヴァンガード】が三機。
『覚悟しろ、デリトソースー、親父のカタキを討ってやるぞー!』
『このまま悲しんだままでいられる訳ねぇよ!』
『俺たちは、アカいタイヨウの如く、この逆境から這い上がる! これで親父への弔いと、恩返しを同時に果たす!』
「グレゴリー殿、マリック殿、ギビー殿!? 今宵、何を魅せてくれるのだ!?」
『『『食らえ、【GMGストリームTRINITY】!!!』』』
まずグレゴリーが、デリトソーZの胸部に思い切りハンマーを叩きつけ、素早く脇にはける。
続いてマリックが、先程グレゴリーが攻撃した箇所に、二丁の銃に込められた弾が無くなるまで撃ち、素早く脇にはける。
最後にギビーが、二人が攻撃した箇所を十文字に斬り、グレゴリーとマリックと共に、素早くデリトソーZから離れた。
『どうだ、これが俺とマリックとグレゴリーの、三人で一点を、絶え間なく、強烈に集中攻撃し、どんな硬い装甲でもブチ破る合体技だ!』
『だから、何だ?』
しかし、あれだけの攻撃を受けたにもかかわらず、デリトソーZの胸部は、多少の傷しかついていなかった。
ネロアもこれには、唖然とする他なかった。
「渾身の復讐すら現実に顕現しない……このように悲運が重なる物なのだろうか……」
『アカいタイヨウの如く這い上がる……? フフフ、何たる噴飯物だ。
太陽とは、貴様ら弱者が好きな『這い上がる物』ではなく、機械のように絶え間なく恒久的に『頂点にある物』だ。
つまり、アカいタイヨウになれるのは、貴様らのような落ちぶれではなく、我のような圧倒的な力を持つ者だ!
そして我はこれからイズセラを制圧し、さらなる力を獲得し、シュラ、リュート、ネロア、ヴァイス、『生徒会長』、ジュリクス、そして橙瀧ら七人の化神官をも超える! そして全ての国を滅ぼし、この大陸の頂点を取るのだぁぁぁ!
故に、貴様らはさっさと失せろ! 【コール・オブ・デストロイ】!』
デリトソースは、デリトソーZに搭載した銃火器を全てを、ギビー、マリック、グレゴリーの三人『のみ』に向け、一斉射撃する。
『ぐ、ぐわぁぁぁ! ……こんな早く、くたばっていい訳無いよな、親父ぃぃぃ!』
まず、マリックが乗るヴァンガードが瞬く間にスクラップ同然になり、爆発四散する。
『避けろ! 避けるんだ! 俺のヴァンガー……うわぁっ!』
続いて、ギビーのヴァンガードが、かわしきれなかった弾により四肢をへし折られ、体勢を崩し、雪原に落下した。
『ギビー! 待ってて、僕が守るよー、わわわわ! わぁ!?』
そして、ギビーを庇おうとしたグレゴリーが、無情にも蜂の巣になり、守る対象の目の前で撃破される。
「せめて、せめてギビー殿だけでも! 【モンスターコール:スケルトン4】! 【オーバーロードスケルトン】よ、その御身を絶壁の盾と為せ!」
最後に、ギビーは、ネロアが召喚した【オーバーロードスケルトン】の犠牲により、辛うじて生き残り、自機と共に雪の中に埋もれる。
『一匹撃ち損じたか……だがあの様子ではまともに戦うことも叶うまい。それに……』
『うわあああ! 助けてくれえ!』
『畜生、俺達は何も出来ねぇのかよ……』
『ごめんなさい、親父……』
この時既に、デリトソースの部下たちにより、チーム・モブは善戦むなしく、怒涛の勢いで破れていった。
『ギビーと言ったか? まだ鋼都にいる連中にチャットしておけ。『もうじきお前らは皆殺しになる』とな! ハハハ……さぁ、残る敗北者たちの心の拠り所は、貴様だネロア!』
「……これ程の、数多の同士を鏖殺して、貴様の心は傷まぬのか、デリトソース!?」
『勘違いするな、これは我がやった悪意を持ってやったことではない。いずれ頂点を掴むべき強者と、これっぽっちの能もない弱者の、運命だ。ほら、貴様も好きだろう? 運命という言葉は?』
「……やはり貴様も、話が通じない悪逆無道か」
『好きに言え。どうせ我が、このデリトソース・バントフィルドと、【殲滅黒鉄城 デリトソーZ】が勝つのだから! これは絶対に、覆せない! だから運命と我は言ってるのだ!』
*
鋼都内の【チーム・モブ】管轄区域にて。
ここにいる機体に乗れない【チーム・モブ】メンバーと、そこに避難している市民は、全員絶望していた。
ウルフレットの裏切り、エドウィンの敗北、そして【チーム・モブ】の壊滅――不幸に不幸が重なり続けたのが、この所以である。
あるチーム・モブのメンバーが怒号を放つ。
「ああ、クッソ! 俺たちはもう、終わりなのかよ! こんだけ頑張って来たのによ!」
この空気に耐えきれず、レイザックはモブの皆を励ます。
「いいえ、まだ諦めないでください! まだネロアさんがいますから! きっとネロアさんが、デリトソースを倒しますから!」
「……」
皆は一斉にレイザックを、『どうせ負けるんだろ?』と言いたげな目をして、見つめる。
レイザックは気まずくなり、うつむく。
数秒後、レイザックはあることを閃いた。
「あの、皆さん、このまま何もしないのもあれですし、少しでもやれることやりましょうよ! そうすれば、絶対勝てますって!」
すっかりやさぐれたメンバーは口々に言う。
「やれることないからここでこうして何もしてないの」
「機体も、全部出撃してったしよ」
「まさか、徒手空拳で戦え、とか言うんじゃないよな」
「なら、あなたがデリトソースの所に行けば?」
「あのネロアさんの側近でしょ? 強いんでしょ?」
ある程度実力はあるし、カメセスコアで一度機械と戦ったことがあるとはいえ、ここでは勝手が違過ぎる――それを察したレイザックは、
「……すいません」
深々と一礼し。その後ひどく落ち込んだ。
と、ここでレイザックの隣にいたチョルヒが、あることを思いつく。
「あ、アカいタイヨウ……」
「アカいタイヨウがどうしたんですか、チョルヒさん」
「レイザックさん、昨晩見ましたよね? あそこに置かれた赤い【ヴァンガード】を。あれはきちんと動かせますから、出撃出来ますよ」
「そうだ、それがあった! たった一機だけ行くのも心許ないかもしれないけど、この際は仕方ない! 皆さん、まだ機体が一機残っていました! 誰かそれに乗って、ネロアさんを助けに行きましょう!」
と、レイザックは、赤いヴァンガードのパイロットを、周りから募る。しかし、メンバー達は親しい一つコソコソ会話するだけで、誰一人、名乗りを上げない。
「……あの、一人で行くのは怖いかもしれませんが、せめて何かしましょうよ! エドウィンさん言ってましたよね! 止まるなって!」
ここで一人のメンバーが、申し訳無さそうに言う。
「……いや、それは本当に無理です」
「何で!?」
一人のメンバーが答える。
「ここにいるのは、大体指で数えられるぐらいの回数しか操縦経験がない初心者で、とても実戦には行けないんだよ」
さらに、メンバー達のコソコソ話に耳を澄ますと、
「お前行けよ。この前の練習で『いい線ある』ってギビーさんに褒められてただろ」
「それはサイドステップのやり方について。それだけで戦えるわけないよ」
「あなた言ってよ、カッコいい所見せられるよ」
「無理無理、三回連続で攻撃するのでもやっとだもん」
皆揃って、自信がなさそうだった。
「あのー、ちょっとでも操縦上手い人でいいんで、いませんか!?」
そうレイザックが呼びかけると、あるメンバーが、彼の方を指差す。
「あ、そうだ! お前がいた!」
「いや、俺は操縦経験皆無ですから……」
「お前じゃない! 一つ奥、チョルヒさんだよ!」
「え、私……?」
メンバーたちは続々とチョルヒに熱視線を注ぎながら、
「そうだ、チョルヒさんは昔、パイロットとして活躍してたって聞いたことがある!」
「なら確実に、ここにいる中で一番操縦出来るはず!」
「いけー! チョルヒ! イズセラの命運はお前に掛かってるぞ!」
「「「チョールーヒー! チョールーヒー! ゴーゴーチョルヒー!」」」
そしてこの避難所に、メンバーたちによるチョルヒコールが響き渡った。さながら名スポーツの応援じみた物になる。
これを受けて、当のチョルヒは、
「あああああ! やめて、やめてくださぁぁぁぁぁい!」
と、とびっきり大声で懇願し、コールを黙らせる。そして彼女はうつむき、顔を押さえて、ポロポロ泣き出す。
「私は無理です……私は『せっかちのチュ・チョルヒ』です……イズセラを大敗させた張本人です……もう二度とロボットに乗る価値のない人です……私は……無理なんです……」
「けど、それでは……一体誰が赤いヴァンガードに乗るんですか?」
「……とにかく私は乗れません……! もう、私なんか、ほっといてください……」
レイザックは真剣な眼差しで、チョルヒに尋ねる。
「なら、何であなたはチーム・モブに居続けているのですか?」
「へ……それは、ロボットが好きだからです」
「それは言われなくてもわかります、機械の国イズセラで暮らしているのですから。
これは俺の勝手な想像ですけど。チョルヒさんは、本当は『またロボットを操縦したい』から、ここに居続けているんじゃないんですか。
ロボットの製造作業をしたいのなら、どこのチームでも出来ますし、デリトソースやキラリエルの嫌味は、俺とネロアさんがここに来たての時に見たように、どこのチームにいてもやってくるはずでしょう。
なのにあなたがチーム・モブに居続ければ、優しいエドウィンさんのおかげで、昔に大失敗したあなたでも、ロボットに乗れます。
だからここに居続けているんじゃないんですか?」
図星を受けたのか、チョルヒは戸惑いながら、こう返す。
「……ですけど、私はやってはいけない、許されないことをしたんです……だからもう……私はロボットに乗りません」
「……俺だって、昔――ミレアに所属してた頃に、危うく国と国の戦争になりうることをして、上から、地位も財産も何もかも奪われたことがありました。
その時はもう駄目だと思いましたが、ロジスティクス・サーガが本当に好きで、辞めたくないっていう気持ちで何とか踏ん張って、今はトードイスムカでネロアさんの元で上手くやってます。
だから俺に倣ってとか、偉そうなこと言いたい訳じゃないですけど、ここで諦めるのは良くないと思います。せめて、せめて一回、自分の好きなようにやってから諦めませんか?」
「好きなように……」
チョルヒは数時間前に言われた、ネロアからの言葉を思い出した。
『チョルヒさんも、きちんと、本当に自分のやりたいことをやれば、きっと幸せになれるかもしれませんよ……』
そしてチョルヒは、乾きかけた涙を拭き、仲間たちにしっかり尋ねる。
「あの……私なんかが、本当に、あのヴァンガードに乗っていいのですか?」
「ああ、頼む! チョルヒ!」
「今あれに乗れるのはお前だけだ!」
「私達は信じてるから!」
「「「チョールーヒー! チョールーヒー! ゴーゴーチョルヒー!」」」
「皆さん……ありがとうございます! では、レイザックさん、ついてきてください!」
「何でですか?」
「ちょっとまだ心細いので、見守って欲しいんです……」
かくてチョルヒとレイザックは、赤いヴァンガードが置かれている工場に赴く。
「あれ、あなたは……」
そこには、赤いヴァンガードを背にして横になり、ポテトチップスとコーラを用意し、目の前にスクリーンを作り、アニメ鑑賞する赤髪の少年――機国イズセラの神、トドッバ・マが。
「お、数時間ぶりだな、お前たち。僕はここでダラダラしてた。ここは今、鋼都の中で一番静かだからな」
レイザックはトドッバ・マ神に頼み込む。
「トドッバ・マさん。お楽しみの所申し訳ないですけど、そこどいて貰えますか? これから後ろのロボット動かしますんで」
「え、レイザック? お前、機械の操縦出来たのか?」
「いや、俺じゃなくて、チョルヒさんが……」
「なら、お願いことは本人がしないと駄目だと思うぞ」
そう注意を受け、今度はチョルヒがトドッバ・マ神に頼み込む。
「すみません。今から私、このロボ……」
「何だその作業用ヘルメット? 人にお願いする時は被り物外すのが礼儀じゃないのか?」
レイザックは小声でツッコむ。
「なんか、今回のトドッバ・マさん、重箱の隅つつき過ぎじゃないか……」
「わ、わかりました。外します外します」
チョルヒはずっと被っていたヘルメットを外し、肩まで掛かるぐらいの長さの赤髪を解放して、改めてお願いする。
「すみません。今から私、このロボットを操縦しますので、そこをどけてください」
トドッバ・マ神は横になったまま、チョルヒに尋ねる。
「お前、この前まで『機械に乗りたくない』って言ってたよな? この急な心変わりは何だ?」
「……私は、これまで過去の失敗を引きずって、ロボットに乗る事を拒絶していました。
ですが、私は心の底で、ロボットに乗りたいと、思っていました……私はずっと、自分の気持ちを押さえつけていました。
けど、それは良くないと、さっき気づいたのです。
だから私は、自分の気持ちを出します! 今窮地にあるイズセラを、少しでも救えるように、この赤いヴァンガードに乗りたいっていう気持ちを!」
「……それは、周りにああだこうだ言われたからじゃなくて、本当に自分の心――特に『情熱』に乗っかってのことか」
「……はい!」
「……」
トドッバ・マはコーラとポテトチップスとスクリーンを消し、起き上がり、チョルヒの元に近づき、そして……
「待ってたぜ、チョルヒ……初陣、楽しんでこいよ」
*
雪原にて。デリトソースら【チーム・アーセナル】は、包囲陣を組み、内側に向かって各々の銃火器を放つ。
その弾が飛び交う内側で、ひらりひらりと舞う者が一人……もはや説明不要、ネロアだ。
(【チーム・モブ】の皆様はほぼ全滅してしまい、私は包囲されてしまいました。ですが、まだ私はやれます)
ここである【チーム・アーセナル】の一員が、誤ってデリトソースを撃ってしまう。
刹那、デリトソースは当人を蜂の巣に変えた。
『何度言えば理解できる……貴様らの敵はネロアではなく、我なのか!?』
デリトソースの部下は、このような流れ弾と、その後の制裁を恐れて、思うように撃てなくなった。
これを利用し、ネロアは回避を兼ねてあちこちを飛び回り、自分に降りかかる弾幕の薄さを、どうにかかわせるぐらいのものに調整していた。
(よし、これを続けて、隙あらばデリトソースさんを攻撃すれば、きっと勝てます……)
『……ちょこざいな。ならば……全員、砲撃を止め、より内側に機体を寄せ、ネロアを強固に包囲しろ』
デリトソースの部下は、言われた通り、砲撃を止め、機体をより内側に寄せ、斜め上向きに砲撃する。
そしてデリトソースは、内側に、デリトソーZに搭載した全ての銃火器を向け、
『いよいよ貴様の終わりの時だ……【コール・オブ・デストロイ】ッ!』
何千何万……数え切れない程の弾が、問答無用に飛ぶ。
「まるで世界の終末の描き写しだな……だが僕の生命は、それすらも超越する!」
ネロアはありとあらゆる手段を使い、襲いかかる弾丸の雨から身を守り、致命傷を避け続ける。
「うう……やっと脱出出来た……」
その最中、先程撃墜されたギビーが、雪の中から現れる。
だがタイミング悪く、今この地は弾の雨霰が降りそそいでいた。
「危ない、ギビー殿!」
ネロアはワイヤー付き剣を使い、素早くギビーの元に行き、かなり傷つきながら彼を守る。
「ネロアさん! 何で僕なんか庇うんですか!?」
「……貴方が落命すれば、よりこの地は残酷となる。どれだけ微小なれど希望の灯火は守らねば! 故にギビー殿、僕は貴方を如何なる定めに逢おうとも護る!」
『格好つけるのにも程度があるぞ……ネロア! 全軍、今から五分間、我は我への誤射を辛抱する。ただしその間、全身全霊でネロアを撃て!』
デリトソースの【コール・オブ・デストロイ】が続く中、彼の部下たちは一斉にネロアへ、照準を合わせ、ネロアを絶体絶命に落し込む支度をする。
『自分の良心と、イズセラにやって来たことを、後悔しろ……そして絶望しろ、貴様のような英傑でも、『上』がいるということを!』
そして、この名も無き雪原に、ついにさらなる銃声が轟く。
『ひやあああ!』
『何だ、急にどこか……!?』
『こんな、ところで……!』
デリトソースの部下たちが、次々と、機体の急所を撃たれ、爆発していく。
『な、何だ、何故だ、どこだ、誰だ! このような真似をする奴は!?』
「俺、助かったのか……」
「……あれが、この天誅の執行者は」
ネロアは空を見上げ、それをしっかりと捉えた。大音を立て風を切り、縦横無尽に宙を駆け、僅かな瞬間で【チーム・アーセナル】を連続撃破するそれを。
ある程度【チーム・アーセナル】を倒すと、それはデリトソースのデリトソーZに飛んでいく。
『来る……何かが来る……させるか!』
デリトソースは、『それ』に向けて銃火器を乱射する。が、『それ』は、まるで弾と弾の間を通り抜けるように、全弾回避し、デリトソーZの頭部と胴体の付け根に接近し、斧を叩きつける。
デリトソーZの装甲は強固である故、その一撃では、切断とはならず、『それ』はそこで止まる。
『……これが、謎の新手の正体か』
デリトソースはしかと見る。自機に攻撃を加えた、それ――赤いヴァンガードを。
『肥溜め共め、まだこのような悪あがきをするか……おい貴様、一体何者だ?』
赤いヴァンガードのパイロットは、堂々と名乗る。
『はじめまして、いや、また会いましたね……イズセラの朱い太陽……機神トドッバ・マの化神官、朱鉄姫です!』
【完】
ロジスティクス・サーガ・データベース
■キャラクター紹介
【ギビー・バートン】
【マリック・トンプソン】
【グレゴリー・ロス】
分類:プレイヤー
所属:機国イズセラ
レベル:35、32、31(上から順に)
ジョブ:【職人】(全員同じ)
【チーム・モブ】に属するプレイヤー三人。
グレゴリーはのんびり屋。マリックは短気。そしてギビーはややせっかちなまとめ役。
慕っている親父のため、ネロアをイズセラに連れてきた功労者たち。
イズセラの【職人】は、搭乗するロボットの、どのステータスも平均的にカバーしやすい性質を持つ。
推奨武器種もかなり範囲が広く、覚えるスキルも攻撃と補助の両方が可能なオールマイティタイプ。
愛機はやっぱり【ヴァンガード】。
ギビーは剣、マリック二丁拳銃、グレゴリーはハンマーを装備している。




