66.寒さがいずれ本気で襲いかかる
イズセラにある名もなき雪原にて。
【チーム・アーセナル】のリーダー、デリトソース・バントフィルドは、自機【殲滅黒鉄城 デリトソーZ】越しに、周囲――特に敵対する【チーム・モブ】の面々に向けて高らかに告げる。
『ウルフレットはイズセラを裏切り、今、鋼都にいる貴様らの同胞達を駆逐している……貴様らが『英雄』として讃えていたウルフレットがな。これが、真実だ!』
これを聞いて、ウルフレットへの信頼が厚いモブの面々の大半は、
『で、デタラメを言うな、デリトソース!』
『あのウルフレットさんが、そんなことするはずあるか!』
『そ、それで私たちを揺さぶれると思わないで!』
各々、幾分か動揺しつつも、デリトソースの発言を否定した。
だがその大半以外は、それを信じ込んでいた。
特にギビー、マリック、グレゴリーの三人は、事件現場の鋼都に居る人へ、チャットをかけ、事実確認を取ろうとするところまでいった。
『あれれ。ねぇマリック、おかしいよー、親父に全くチャットが繋がらないよー』
『グレゴリー、それだけで済む話な訳じゃねぇ! 他の鋼都内にいる奴らにも全く繋がらないって、どういう訳だー! おい、ギビー! お前の方はどうだ!?』
『……繋がらない』
そうギビーは、マリックとグレゴリーに静かに言う。実は繋がったにも関わらず。向こう側から断末魔が聞こえたにも関わらず。
『フフフ、さぁ。御託はここまでだ、イズセラの肥溜め共……アーセナル、畳みかけろ!』
デリトソースと彼の部下であるアーセナル・メンバーは、モブたちめがけ弾幕を張る。
『遅れてすみません! 対デリトソース部隊の皆さん! 対キラリエル部隊、ただ今合流・加勢します!』
その時、さっきまでキラリエル率いる【チーム・エナジー】と交戦していた【チーム・モブ】の部隊が飛来した。
彼らはアーセナルの面々に攻撃を仕掛け、根源を破壊し、弾幕を薄くする。
さらに飛んできた部隊の内の一機から、
「死神ホイプペメギリの右腕、ネロア・ルォーナピアナ! 悪しき【チーム・アーセナル】の者共に、断罪を下す!」
ネロアが飛び出す。
ネロアは落ちながら、
「【モンスターコール:スケルトン4】ッ!」
自分の周囲に【オーバーロードスケルトン】十体を召喚し、
「【死神の凶器】ッ!」
禍々しいオーラを纏った剣を当て、即死させる。
即死したスケルトンの中三体から、剣状の霊魂【遺言】がドロップ。【遺言】はデリトソースめがけて飛び、彼の自機デリトソーZの装甲をすりぬけ、内部に侵入する。
キラリエル同様、操縦者を状態異常にし、機体を動かせなくする作戦である。
『やはり貴様も来るか、ネロアッ!』
デリトソースは素早くネロアの方を向き、一斉射撃する。
ネロアは弾を弾くなりかわすなりをして、雨あられをさけ、雪原に着陸する。
「余裕綽々に振る舞うか……デリトソースッ! 化神官たる僕の秘技を喰らっても尚……!」
『ああ? 秘技を喰らってだと? 全く、つくづく夢見がちな野郎だなぁ! 俺はこの通り、平然としているにも関わらず!』
デリトソーZは全長五十メートルの大型機体であり、一人で操縦するにはかなりの手間がかかる上、巨体故に小さな異変に気づきにくい。
故にデリトソースは、デリトソーZ内部に、メンテナンス兼、操縦補佐兼、デリトソース護衛の人員を乗せている。
そして、ネロアが放った【遺言】は、デリトソース本人には命中せず、その人員が身代わりになって受けていたのである。
『『『デリトソース! モブの底力、受けやがれ!』』』
チーム・モブの二十機がデリトソーZを包囲し、一斉射撃する。
だが、デリトソーZは一切傷つかず、即、二十機は反撃を食らい、壊滅した。
デリトソーZは、搭載している重火器の火力もかなりのものだが、過酷な戦場でも平然と帰還できるよう、アーセナルが研究開発した特殊合金を幾重にも重ねた装甲で覆われているため、防御力においても優れているのだ。
『さぁ、有象無象ども、それとネロア。果たして貴様らは、いつまで、デリトソース・バントフィルドの力に潰されずにいられるか? そして鋼都は果たして『英雄』に飲まれずにいられるか?』
*
鋼都内は騒がしかった。主にチーム・トランスとチーム・モブの、イズセラを滅ぼそうとする者たちと、イズセラを守ろうとする者たちの戦いが、ただただ続いていた。
その鋼都内のとある大通りにて、二つの機体と、二人の搭乗者が向かい合っていた。
片方は、赤く、刀を持つ、獣じみた機体【ウールヴヘジン】。搭乗者は【チーム・トランス】リーダー、ウルフレット・ブラッドムーン。
片方は、深緑の、銃と斧を持つ、ありふれた見た目の機体【ヴァンガード】。搭乗者は【チーム・モブ】リーダー、エドウィン・スミス。
エドウィンは、まずウルフレットに気さくに話しかける。
『よお、ウルフレット。元気にしてたか?』
ウルフレットは冷たく返す。
『それを聞いて、何がしたいんですか?』
『ただの話し始めだ。そんなに深い答えは求めてない……』
『なら言わないでくれませんか……俺は、ここで立ち止まってられないんですよッ!』
ウルフレットが操るウールヴヘジンは、左手から手裏剣を射出する。
エドウィンが操るヴァンガードは銃を撃ち、的確に手裏剣を撃ち落とす。
『ここで立ち止まれない理由ってのは何だ? やっぱり俺たちを殲滅するためか?』
『違う! ……俺は、このイズセラを正しく導く英雄になるんだ……! だから俺は、その足がかりになる化神官になるため、これまでこのイズセラのために、死にもの狂いで、身を粉にして働き、戦い、救った……なのにあの神は、俺を化神官に出来ないと言った……ふざけるな! 何故、何故、英雄になろうとする人間を、こう阻むんだ! 俺が一体何をしたんだ! 俺は、俺は、どこで何を間違えたって言うんだァッ!』
『そうか……なら、トドッバ・マさんは、お前を化神官にする必要はなかったから、そうしたんじゃないか』
『何だと……!?』
『だって、お前はもう、十分英雄だからな……少なくとも、俺たちモブはあの時からずっとそう思っているぞ』
*
数日前――正確には、『自由区』でのミレア軍の反乱から数日後。鋼都内にあるチーム・トランスの本拠地にて。
「やはり、チーム・モブは滅ぼすべきだ」
当時のチームリーダー、ガイオン・マキシプレスは、この言い出しから配下たちに話をする。
「皆は当然承知していると思うが、改めて言う。奴らは我々と、【チーム・アーセナル】、【チーム・エナジー】、イズセラの三大チームが管理している人材を次々と横取りし、三大チームの許可を得ずに勝手に勢力を広げている。
これは完全に由々しき事態ではある。故に、これより我々はチーム・モブを、我々の武力の元、我々のみで速やかに徹底的に懲罰したいと思うんだが」
一人の配下が、ガイオンに尋ねる。
「確かに【チーム・モブ】はこれ以上成長される前に、速やかに潰しておくべきかもしれませんが、アーセナルとエナジーの協力は必要としないのですか?
ご存知の通り、トランスはヘブンズレイドに加担し、惨敗し、その損害が拭いきれていませんのに……」
「逆だ。その損害を拭うために、モブを襲撃するのだ。
昨日、デリトソースとキラリエルと会合して、それをとやかく追求された、『もはや【チーム・トランス】は落ちぶれた』とも言われた!
そして、『これは相当すごいことをやらなければ、いずれガイオンさんはワタクシたちと並列して座れませんねぇ』と、言われた! ああ、実に屈辱的だ! かつては『限界を知らない暴走列車』と呼ばれたこの俺が、そんな風に言われるとは!」
「そんな理由でですか……ガイオンさん、それはデリトソースとキラリエルの煽動です。あなたが悪い意味で暴走して、自滅するのを誘うの罠です。もう少し合理的な判断をした方がいいと思いま……」
指摘をした配下の頭に、ガイオンは鉄拳をお見舞いし、床に叩きつける。
「何がそんな理由だ……! 偉そうに一歩引いた目線から、上に向かって文句言いやがって……! いいか、お前ら! こいつを反面教師にしろ! これを見てもなお、俺を怒らせるような真似をしたければ、どうなってもいい覚悟をしろ!」
配下たちはガイオンに怯え、無言でうなずく。
「……ったく、何がそんな理由だ……十二分に正当な理由だろうが……トランスのブランドを高めるにはもってこいだし、後々モブに出し抜かれずに済むし、イズセラ史上最悪の無能の『せっかちのチュ・チョルヒ』を含む臆病な逃亡者を再教育出来るのだぞ……どうだ! お前ら、俺の言い分に文句はあるか!」
配下たちは口を揃えて
「「「いいえ、ありません!」」」
と、叫んだ。
さらに少しでもガイオンの機嫌を良くしようと、
「ガイオンさんは聡明だと思います! 今こそ、チーム・トランスの真価を発揮すべきだと、私も思っていました!」
「チーム・モブは危険です! あれだけの輩が集い何かをすれば、イズセラはどうなるのかわかりませんから!」
「特に、あの『せっかちのチュ・チョルヒ』はイズセラ最大の汚点です! あれをかくまっているなど言語道断! 奴は一生罰するのが一番です!」
お世辞を使う者も現れた。
「とにかく、お前ら! 直ちに軍隊をまとめてモブの本拠地襲うぞ! そしたらさっさとパーティーだ! 今回は特別に余興として、新型ガイオンライナーの性能をお披露目してやろう! チョルヒを線路に固定してな!」
「「「はい!!!」」」
命令を終えたガイオンは、我に続けと言わんばかりに、いち早くこの場から離れようと歩く。
そのガイオンの背中に、ある青年が強烈な一太刀を浴びせる。
突然の奇襲にガイオンは振り向く。
「なっ、何様だお前は……がっ!?」
それと同時に青年は、
「ウルフレット・ブラッドムーンですよ」
さらなる斬撃を与え、ガイオンのHPを0にした。
「り、リーダー!?」
「テメエ、やりやがったな!?」
「ウルフレット!? 貴様、何のつもりだ!」
「もうガイオンや、デリトソース、キラリエルのような、少数の権力に支配され、多数の弱者が虐げられるのを眺めるのは御免だ……俺はイズセラの『英雄』になる! 全てのイズセラの人々に、正しい道を歩めるようにするために!」
「調子乗ったことほざいてるんじゃねぇぞ!」
「お前みたいな年下に、夢物語語られる筋合いはない!」
「仕返しだ! ガイオンさんの敵を取るぞ!」
ガイオンの配下は、一斉にウルフレットに襲いかかる。だがウルフレットは巧みに刀を振り回し、彼らをことごとく倒す。
この後ウルフレットは、ガイオンがリスポーンする前に、自分に同調する者達をかき集め徒党を作りあげ、トランスの管理地で暴動を引き起こした。
あれだけの横暴を働いたガイオンではあるものの、彼の生み出す利権は決して安いものではなく、その甘い汁を求め続ける虫どもは多く、ウルフレット派の反乱軍は少数であった。
けれどもこれからのイズセラのために、膿を出し切るべく、ウルフレットたちは獅子奮迅の活躍をし、ことごとく敵を薙ぎ払った。
その結果、ウルフレットはガイオン派を放逐し、物理的な資産を全て没収・破壊した。
そして彼は、焦土と化したガイオンの旧領の上で、チーム・モブの協力の元、強引にチーム・トランスのリーダーの称号をもぎ取ったのだった。
*
『あの時に、お前がガイオンを斬りつけなきゃ、俺たちモブは間違いなく終わっていた。この知らせを聞いたときは、俺は『英雄』が来たと思った、そして俺は、今でもお前を『英雄』だと思っている……だからよ』
エドウィンは一度、斧を地面に突き立て、空いた手をウルフレットの方に向けて、
『これからもイズセラの為に戦っていこうぜ。ここまでの暴走は俺は忘れる、他の連中が何か言ってきたら俺がいくらでも謝ってやる。だからよ……頼むから、『英雄』を辞めないでくれ!』
『……エドウィンさん。あなたはそれを温かい言葉として言ってるつもりかもしれませんけど……俺にとってはなぁ! 冷たいんだよ!
俺は英雄になったと思っちゃあいない! このイズセラを救えなかった! 化神官にもなれなかった! 結局何も成し遂げられなかった!
なのに、なのに……そうやって無理に今更褒めそやして、俺の神経を逆撫でするんじゃねェェェッ!』
ウルフレットは刀を構え、荒々しくエドウィンに迫る。
エドウィンはすかさず斧を握り直し、振りかざされた刀を受け止める。
『今、お前を倒せば、イズセラの息の根は止まる……だからさっさとくたばれよ、エドウィン!』
『俺はくたばらねぇ! チーム・モブの為とか、イズセラの為とかもあるが……何よりもウルフレット! お前のためになぁ!』
かくてトランスとモブ、ウールヴヘジンとヴァンガード、ウルフレットとエドウィンの戦いが、今ここに始まる。
【完】
ロジスティクス・サーガ・データベース
■キャラクター紹介
【エドウィン・スミス】
分類:プレイヤー
所属:機国イズセラ
レベル:60
ジョブ:【職人】
【チーム・モブ】のリーダー。
少々ガサツでダサい部分もあるが、人情味あふれるいい上司。
ロボットを有力者ばかりで独占するアーセナルやエナジーに反発してチームを設立し、量産機【ヴァンガード】の大量生産を成し遂げた。
イズセラの【職人】は、搭乗するロボットの、どのステータスも平均的にカバーしやすい性質を持つ。
推奨武器種もかなり範囲が広く、覚えるスキルも攻撃と補助の両方が可能なオールマイティタイプ。
愛機はリーダーだからと特別ぶらず【ヴァンガード】を使用。
斧と銃の遠近両用のスタイルを得意とする。
エドウィンはあのジーンズブランドに由来しています。
スミスは、欧米圏で非常に数の多い名字です。
彼に限らず、チーム・モブの面々は、なんとなく現実にいそうな、ひねりの少ない名前にしています。




