63.アーセナルとエナジーのプレリュード
イズセラ首都【鋼都】。【チーム・モブ】の管轄区域にて。
「死国化神官、ネロア・ルォーナピアナ! ここに疾風迅雷が如く参った!」
「お待たせしました! エドウィンさん!」
ネロアとチョルヒ、レイザックとギビーは、エドウィンのいる工場のリーダー室に駆けつけた。
エドウィンは暫し、慌ただしくチャットをかけたあと、四人に言う。
「大雑把に言った通り、デリトソースの【チーム・アーセナル】と、キラリエルの【チーム・エナジー】がとうとう一線を越えた!
具体的に言うと奴らの軍勢がイズセラの各市町村や他チームの管轄区域を襲ってる!
この【鋼都】も例外じゃない! 駐在していた奴らの手勢が街中で暴れている!」
ここで【チーム・トランス】リーダー、『赤狼』こと、ウルフレットが慌ただしくエドウィンにチャットをかけてくる。
『もしもしエドウィンさん! ただいまこちらの偵察部隊が、デリトソースとキラリエルの現在地をどうにか確認しました!
場所はイズセラとランニバーニの国境付近の、名もなき雪原で、双方武装状態で鋼都に迫っています!』
「双方武装状態!? つまり奴らは専用機までひっぱりだしたってことか! そしてランニバーニとの国境付近から来てるってことは……」
『二人の軍勢は、何かをかばうように進軍しています。
偵察部隊が力及ばず、確証は得られませんでしたが、エドウィンさんの考察通り、ランニバーニが絡んでいるかと思います』
「くっそ、デリトソースとキラリエルの奴ら! とうとう実力行使に出たか! ウルフレットさん、どうします!?」
『とりあえず、俺たちトランスは鋼都内の暴動を鎮圧して憂いを払い、その後にデリトソースとキラリエルに対抗するつもりです!』
「そうか、なら俺たちモブは機体の三割をここに残して鋼都鎮圧を任せ、七割を各地のデリトソースとキラリエルの進軍の対処に回す! 機体に乗れない奴らは市民の避難を手伝わせる!
他のチームは何と言ってたかはわかるか、ウルフレットさん?」
『あの二人の傘下にないチームのほとんどは、近くの要所や、自チームの管轄区域の護衛に回ると言っています!
皆、これでとうとう堪忍袋の緒が切れたようでして……中でも【チーム・ドリル】と【チーム・ローラー】は、二人の軍勢に直接攻撃に向かいました!』
「おお、勇ましいな、それは!」
*
同時刻、イズセラ西部にて。
『唸れ、俺の螺旋のギアよ。イズセラの冬を穿ち払え!』
【チーム・ドリル】リーダー、ベネード・リールガッツが搭乗する専用機【ベネドラセン】は、両腕を合体変形させたドリルで、【チーム・アーセナル】の軍勢を破砕しながら突き進む。
『しゃかりきがむしゃらしゃにむに突っ走れぇ!』
【チーム・ローラー】リーダー、スクロ・オールイコスが搭乗する専用機【スクダッーシュ】は、脚部のローラーを高速回転させ、【チーム・エナジー】の軍勢を、すれ違いざまにバタバタと長剣で両断していく。
『やっぱり、しっかり、がっちり突っ込んでるなぁベネード! お前の突破力はイズセラナンバーワンだぜ!』
『スクロこそ、その速度はイズセラナンバーワンだ!』
『うっし、なんなら、このまま行ってみるか、ベネード! イズセラの裏切り者の大将首取りによぉ!』
『ああ、迅速に終わらせてしまおうか! それがあの外道共にふさわしい末路でございます!』
かくて【チーム・ドリル】と、【チーム・ローラー】は、イズセラの売国奴、デリトソースとキラリエルの元へ突き進む。
その接近を察知し、専用機のコックピットに悠々と腰掛けながら、キラリエルは言う。
『ほほう、ウルフレットが飼ってた『かませ犬』の次に来たのは、【チーム・ドリル】と【チーム・ローラー】ですかぁ。デリトソースさん、いかように対処いたします?』
同じく専用機に搭乗済みのデリトソースは言う。
『我ら自ら手を下す以外に何がある? これは我々がイズセラの絶対強者であることを知らしめる絶好の機会だぞ』
『ですよねぇ! ではタイム・イズ・マネーの精神で、ちょちょいと弱小チームを完全崩壊させてあげましょうか!』
『その意気だ、キラリエル! では我らはドリルを、キラリエルはローラーを破れぃ!』
そして、デリトソースとキラリエルは各々の機体を動かした。
『貴様らの願望通り来てくれたぞ……【チーム・アーセナル】リーダー、デリトソース・バントフィルドと、我が機体【殲滅黒鉄城 デリトソーZ】が!』
チーム・ドリルは、ガトリングや大砲などの重火器をありったけ搭載した、かろうじて人の形をした武器庫のような、全長五十メートルほどの黒いロボット――デリトソーZを目撃する。
『ご覧ください! この三六〇度どこから見ても眩さ極まるワタクシ、【チーム・エナジー】リーダー、キラリエル・シャングダラーの機体、【神聖輝 キラリエリオン】を!』
チーム・ローラーは、背中から六枚の眩い魔力の光の翼を生やし、地に足付けず、宙に佇む、全長十五メートル程の全身金色塗装のロボット――キラリエリオンと対面する。
『これがアーセナルのリーダーの専用機……まさに武器庫だ。だが俺達の進撃は止まる事は知らない! 【チーム・ドリル】、突貫する!』
『流石はエナジーのリーダーの専用機……やっぱりとにかくすこぶる勝利をたぐり寄せるエナジーに満ちている!
だがしかしそれでも【チーム・ローラー】は、それを追い越してみせる!』
チーム・ドリルとチーム・ローラーは、目の前にある売国奴共が作り上げた強大な力の権化たる機体に臆さず、突撃する。
『ふん、ドリルの獣以下どもめ、どうせ意味はなかろうが、力どころか何から何まで足りていないことを、我が愛機を使って教えてやる』
『所詮世の中は金、過大解釈すれば資源で回っているのですよ! そして蛮勇なんてくだらないものは、何のこやしにもならないのですよ!』
デリトソーZは、装備を構えて突撃してくるチーム・ドリルの機体群に対して、搭載した装備をフル稼働させた。
無限ともいえる弾の雨を浴びせ、次々とドリル機を爆砕する。
キラリエリオンは、背中の翼から更なる魔力を噴出。
機動力が自慢のチーム・ローラーの機体よりも速く飛び回り、一秒一機に近いペースで、それらをレーザーブレードで斬り刻む。
『くっ、俺の仲間をことごとく射殺しやがって……だが、俺の螺旋のギアはお前を穿つ!』
『やべえよはええよつええよ……けれども俺はお前を追い越す!』
ベネードが乗るベネドラセンは、仲間たちを滅ぼしたデリトソーZの弾幕をもろともせず、勇猛果敢に突撃する。
両腕を変形合体させたドリルを前に出し、デリトソーZの胸部にそのドリルの先端を突き立てた。
スクロが乗るスクダッーシュは、仲間たちを斬りまくるキラリエリオンの背後に、脚部のローラーをフル稼働させることでどうにか回り込む。
その犠牲に報いるため、彼はキラリエリオンの背に剣を振るう。
しかしベネドラセンのドリルは、デリトソーZの胸部装甲の硬さに負け、砕け散った。
一方で、スクダッーシュの背後攻撃は、キラリエリオンが周囲に魔力の壁を作った事により妨げられた。
『武器庫が簡単に壊れては、何のためにそれがあるという話なのだ……』
『資源は、きっちり丁寧に配分するのが、スマートなやりかたなのですよ……さて、デリトソースさぁん!
もう我々の圧倒的戦力の宣伝は十分ですし、この雑魚どもとっとと産廃にしちゃいましょうか!』
『ああ、これ以上こいつらに息を吸わせるのは、勿体ないにもほどがある!』
デリトソーZは両肩よりとてつもない大きさのバズーカ砲を出し、これに搭載された銃火器全ての照準を、自機のドリルを砕かれ焦るベネードたちに向け、
『至極単純明快な話だ……これが力だ! 【コール・オブ・デストロイ】!』
一斉に放射する。一瞬、大戦が起こったような轟音爆音が鳴り響いた後、デリトソーZの前には、黒煙と焦土と静寂が残る。
キラリエリオンは魔力の壁を必死に破ろうとするスクロたちを他所に、さらなるエネルギーを注ぎ込んだレーザーブレードを両手で強く握り、腰を大きく捻って構え、
『わかりますかぁ? これが社会のルールなんですよぉ! 持たざる者は持つ者に食われるのですよぉ! 【ディスミス・バイ・デイライト】!』
大きく前方位に薙ぐ。あたかも日輪が降りてきたような光が雪原に広がった後、キラリエリオンの周囲は綺麗に片付いていた。
『……さぁて、ひょっとしたらいるかもしれないから、特別に言っておいてあげましょう。まだどこかで隠れてワタクシたちを見ている偵察隊の皆さぁん! たった今、チーム・ドリルとチーム・ローラーとかいう阿呆共は全滅しました! ですから是非、イズセラの方々にお伝えくださぁい! 「これらは反面教師にして、さっさと降参しなさい」とねぇ!』
*
ウルフレットはチャット越しに、エドウィンに伝える。
『報告……たった今、【チーム・ドリル】と【チーム・ローラー】が壊滅した模様です』
「もう!? 冗談じゃあないのか!?」
『本当です! あの二人は、イズセラの売国奴とはいえ、腐っても実力はあるようです!』
「ちいっ、もうこりゃのんきに報告聞いてる場合じゃないな!
こうしてる間にまたどっかで大惨事が起きる!
すまない、ウルフレットさん! 本気でこの問題を片付けるために、一旦チャットは切る!」
『わかりました。こちらも丁度、管轄区域に敵襲報告が入ったので、そちらの対処に専念したいと思います』
かくてエドウィンとウルフレットはチャットを終える。間髪を入れず、エドウィンは別な人物にチャットをかける。
「おい、マリック、グレゴリー! 俺がさっき言った通り、そこでちゃんと待機してるだろうな!」
とある街に、他のチーム・モブの軍勢と共に出兵していたマリックは答える。
『ああ、ちゃんと待ってましたよ! 俺が親父の命令に背く訳がないでしょう!』
続けて、同じくとある街に出兵していたグレゴリーが言う。
『今の所ここに敵は来てないよー。けれども遠くからきな臭い感じがするから、もうここも危ないよー』
「わかった。ありがとう」
と、エドウィンは二人に感謝の言葉を告げるや否、同じ部屋にいたギビーの方を向いて、
「ギビー! さっき俺が言った作戦は覚えているよな!」
「はい! モブの機体七割をデリトソースとキラリエルの対処に、三割を鋼都の暴動の鎮圧に、非機体搭乗員を鋼都市民の避難に回す、ですよね!」
「そうだ! だからギビーには、今からだいたい七割を連れて、マリックとグレゴリーの軍勢と合流して貰う! 俺はここ鋼都に三割と残って、ウルフレットさんと一緒に暴動を鎮める!」
「はい、わかりました! ただちにマリックとグレゴリーと合流して、チーム・モブの底力見せてやります!」
ギビーはエドウィンに背を向けて、出撃するために駆け出す。
「すまない。暫し時間を賜りたい」
そのギビーを、ネロアは引き止める。
「なんですか! 僕は暇じゃないんですよネロアさん!?」
「頼みがある。僕もギビー殿たちと運命を共にさせて貰えないだろうか?」
これを聞いて、後ろにいるエドウィンは言う。
「ちょっとそれは無理な話です、ネロア様! いくら覇権国ミレアに抵抗してみせた英雄ネロアさんだからといって、怪物級のロボットが入り交じる戦争の最前線に混ざって戦うのは危険だと思います!
俺の作戦的には、ネロア様は、もう少し敵が消耗してから、あるいは相当戦局がヤバくなってから参戦して貰いたいのですが……」
ネロアの臣下、レイザックはエドウィンの言う事に頷いて言う。
「俺もエドウィンさんの言う通りだと思います。そこまでネロアさんが、無茶する必要はないと思います!」
対して、ネロアは覇気を込めて、こう言い返す。
「否! 僕は即刻、戦場に身を落とす!
確かに今僕が動くのは無謀以外の何物でもないのが道理である可能性は否定できない。
だが、このまま何もしないのは単なる『日和見』となる。
何者でも覆せない悲惨な運命を招く可能性も否定できないだろう!」
レイザックは言う。
「ですけど! もう少し冷静に行動した方がいいと思いますよ!」
それにネロアは、熱く、直情的に言い返す。
「いいえ、僕は行きます! そして何度でも言います! たとえ無茶な行動だとしても、とりあえず一歩踏み出していけば、どうにかなるんですから!
僕が今、化神官になったのも、その一歩があってこそなんですから!」
レイザックはまだ、ネロアの無事を望み、ネロアの言うことを否定しようとする。
その前に、エドウィンは声を大きくして言う。
「やっぱ俺は止めません、ネロア様!
というより、よくよく考えたら止められません……俺なんかが化神官の大きな一歩を止めるなんてなぁ!
てなわけでギビー、ネロア様をきっちり現場に送ってやってくれ!」
「は、はい! わかりました親父!」
こうして、ネロアはギビーが操縦する【ヴァンガード】に同乗し、戦場へと向かっていった。
「……頑張れよ、ギビー、マリック、グレゴリー……そしてネロア様。うっし、じゃあレイザックさん、俺は暴動鎮圧の軍を動かすから、ここを離れるぞ」
「はい、エドウィンさん」
エドウィンはチーム・モブのメンバーにチャットを繋いで言う。
「よーし、いいかよく聞けぇ! ここに残った操縦経験のあるプレイヤー全員、俺と共にヴァンガードに乗って鋼都で戦え! それ以外は一般市民の避難を手伝え!」
レイザックは呟く。
「じゃあ俺は、避難を手伝うか……」
そして二人は、各々の目的のため、リーダー室を後にした。
「……」
遅れて、先程からずっと、何も言えずにいたチョルヒも部屋を出ていった。
【完】
ロジスティクス・サーガ・データベース
■キャラクター紹介
【ベネード・リールガッツ】
分類:プレイヤー
所属:機国イズセラ
レベル:54
ジョブ:【騎士】
ドリルをメインとするロボットの開発をする【チーム・ドリル】のリーダー。
愛機は【ベネドラセン】。両腕を合体変形させたドリルが主武装。
下記のスクロともども、キラリエルとデリトソースのかませにされた。
【スクロ・オールイコス】
分類:プレイヤー
所属:機国イズセラ
レベル:54
ジョブ:【騎士】
いわゆるローラーダッシュの開発をメインとする【チーム・ローラー】のリーダー。
愛機は【スクダッーシュ】。ローラーによる高速移動で戦場を駆け回り、相手を長剣で叩き切る。
イズセラの【騎士】はこうした武器を用いた白兵戦を得意とするロボットと相性がいい。




