62.鋼鉄の売国奴
機国イズセラの首都【鋼都】に来た次の日の早朝。
ネロアとレイザックは宿を出て、【チーム・モブ】管轄区域を訪れた。
早速、ジュリクスの行っていた謀反人の証拠を探そうとも、ネロアたちは考えてはいたが、それよりも先に知っておくべきことがあるためだ。
「おはようございます。お待ちしていました。ネロアさん、レイザックさん」
と、【チーム・モブ】の一員、ギビーは二人を歓迎する。
二人は挨拶する。
「おはようございます、ギビーさん」
「おはよう、ギビー殿。清々しい朝だな、イズセラは」
「それはイズセラは雪国ですから、空気が自然とヒンヤリして清々しくなるんですよ」
「そうか。さて……今日は昨日定められた運命に従い、貴方たちモブの戦力を拝見させて貰うのだったな」
「はい、チーム・モブはネロアさんと協力していますから、ある程度こちらの力を見せておきます。そうすればいざ戦いが起こった際、作戦を立てやすくなりますでしょうし」
「では、案内の運命、十全に全うするといい」
ここでレイザックは尋ねる。
「あれ、そういえばマリックさんとグレゴリーさんはどこにいるんですか? いつも三人で行動していましたよね?」
「ああ、マリックとグレゴリー、あとその他大勢のチームメンバーは、もっと早い朝に【鋼都】から、西に離れた場所にある町に行きました。その近辺でモンスターの群れが現れたとの事でして、それを討伐して、いくらかお礼を貰おうという次第です」
「わかりました。では、今度こそ案内お願いします」
「はい! このギビーひとりで、どうにか頑張って説明します!」
ギビーはネロアとレイザックを連れて、チーム・モブの主力機体、【ヴァンガード】の製造工場を案内する。
その中で、三人は、組み立て場にたどり着いた。
「ここで、いわずとしれたチーム・モブの主力機――というか、これ以外チーム・モブには機体がないのですが――【ヴァンガード】を組み立てられます!」
そこでは、各所で作られた部品がかき集められ、地道に人型のロボットの形に合わさり成っていた。
レイザックは、集まっていく部品の内、機体の中心部に埋め込まれていく、赤く輝くサッカーボール大の魔石に着目する。
「ギビーさん、あの魔石が動力ですか」
「はい、あれはここイズセラのみで採掘出来る、機械の動力となる魔力を放つ【律動の魔石】です。
あの魔石を機体に埋め込むと、イズセラのトップシークレットの技術でそれから放たれる魔力を増幅し、機体を動かすことができます。
ちなみに【ヴァンガード】の場合、最大稼働時間は基本二十四時間で、一時間のクールタイムを置けば、魔石内の魔力が回復して、また二十四時間動かせるようになります」
ネロアは感心する。
「あのサッカーボールほどの大きさの魔石で、この十メートルの巨人が動くのか。あの魔石、余程凄まじい力を秘めているのだろう」
「機械にしか動力は供給できませんがね、【律動の魔石】は。
それとこれは扱いが難しい点がいくつかあるんです。一番気をつけなきゃいけないのは、機械の大きさとの比率に合わない量を積むと、エネルギーが溢れて爆発する可能性があることです。
なので【ヴァンガード】に積む【律動の魔石】はあのぐらいの大きさと、親父……チームリーダー、エドウィンさんがきっちり決めています」
ギビーはちらと、工場内に掛けられた時計を見る。それはもう少しでお昼になることを指していた。
「そろそろランチタイムですね。では丁度、工場の見せる物も見せ終わりましたし、今度は『イズセラの郷土料理』をネロアさんとレイザックさんに味わって貰いたいと思います」
「はい、ありがとうございます。では行きますか、ネロアさん」
「……いや、我儘をほざくに等しいが故に、申し訳ないが、僕を暫しここに残らせて貰えないだろうか?」
「え、ああ……トップシークレットな所に触れなければ、好きにしていいですよ。先に店に行って、そちらで待ってますので。場所は後々チャットで連絡しますから」
こうしてギビーとレイザックは、ネロアを置き去りにして、工場を出る。
(……さてと、では僕は、お言葉に甘えて、好きにさせて貰いますよ……)
「仕事中すまない!」
と、ネロアは部品の運搬をしていた、見慣れた少女――チュ・チョルヒに声を掛ける。
「ひぃ、あなたはトードイスムカのネロア様……こ、こんな私に何のようがあるんですか?」
「貴方と対話がしたい。それ以上もそれ以外もない。無論、仕事の邪魔であれば僕はすんなり立ち去るつもりだ」
「ええ……私とお話……いや、遠慮しておきます。実際今これ運んでますし……」
と、ここでここの現場監督が、チョルヒに向かって叫ぶ。
「チョルヒ! お前はもう十二分に働いたし、もうお昼だし、それにトードイスムカの化神官様直々の指名だ! 遠慮なんかしないで休憩とって、付き合ってこい!」
「は、はい……あの……本当に私なんかとお話しするつもりなのでしょうか? ネロア様」
「左様。これ以上の御託は要らない」
チョルヒは現場監督の方をチラと見る。現場監督はニコリと笑って、ただ頷く。
「……はぁ、わかりました。私なんかと話しても、面白いことは起きないと思うのに……」
そして二人は、一対一で話すため、やかましい工場の外へ出た。
*
同時刻。ランニバーニとイズセラの国境付近にある砦のそばに、二台の車が停まった。
一台は耐雪仕様の装甲車。もう一台は、少々古臭い仕様の車だ。
そして、その砦内部の一室に、三人の権力者とそれぞれの側近が集い、三人が卓を囲む。
一人は機国イズセラ内で強大な勢力を誇る【チーム・アーセナル】のリーダー、デリトソース・バントフィルド。
一人は同じく機国イズセラ内で強大な勢力を持つ【チーム・エナジー】のリーダー、キラリエル・シャングダラー。
そしてもう一人は、時国ランニバーニ内の八大ギルドの一つ、【テクノロジオ連合】のマスター、ギアディオ・テクノロジオである。
キラリエルは言う。
「遥々ランニバーニからお越しいただき、誠にありがとうございます。ギアディオ様」
ギアディオは言う。
「感謝するまでもありませんよ。こちらもあなた方と交渉を、心から喜ばしく思っていましたから」
「そうですか。なら余計にありがとうございます」
挨拶はこれくらいにして、デリトソースは斬り込む。
「では早速、本題に入ろうか。我々はこれまで散々に、技術や人員の提供と共に伝えていた通り、ランニバーニから出資していただきたいと思っているが、その是非は?」
ギアディオは即答する。
「申し訳ありません。それはまだ、無理な話です」
デリトソースは手前の卓に蹴り入れる。
「何様のつもりだ貴様!? 信頼の証として先日、奴隷一万人をそちらによこしたというのに、まだ無理だと言うのか!」
激昂するデリトソースと対照的に、ギアディオは冷静に彼をなだめる。
「落ち着いてください。こちらの話はまだ続いています……確かに、そちらから提示された見返りは魅力的だと思いました、あの奴隷一万人もありがたいと思いました。
しかし、それだけではまだ、あなた方が満足できる金額をおろすことができないんですよ」
「ならば一体今度は何をよこせば金が出る! 教えろギアディオ!」
するとギアディオは、躊躇なく、真剣な目をして言った。
「イズセラの化神官の座を、自分にください。話によると、今イズセラの化神官は不在と聞きました。
ですから、今自分たちがイズセラを征服すれば、そこの神はきっと自分を化神官に選ばざるを得ないでしょう。なんせロジスティクス・サーガの神は、化神官を立てる以上の、人々に干渉する術はないのですから」
デリトソースはますます怒りを募らせ、立ち上がって、ギアディオを見下して言う。
「何だと……! ギアディオ! 貴様誰に何を言ってるのかわかるのか!?
我はイズセラの二大勢力【チーム・アーセナル】のリーダー、デリトソースだぞ! 何故その我が、イズセラの化神官の座を、すなわちイズセラの支配権を他国の人間に売り飛ばさなければならない!?
流石にこれまでミレアにイズセラ固有の技術を売り飛ばしてきた我でも、国そのものを売り飛ばすつもりはない! イズセラは、我々の物だ!」
「落ち着いて、冷静に考えてください。もし自分がイズセラの化神官になれば、ランニバーニとの関係は強固となり、貿易が活性化し、イズセラもランニバーニも経済が潤い、双方莫大な利益が得られるのですよ。
もちろん、お二人方の派閥には事が済み次第、相応の報酬を与えますし、『自分の側近』としての地位を与えるつもりです。それらを合わせれば、あなたたちは、ゆくゆくミレアから得てきた以上の大金を得られるのですよ」
デリトソースは席に座り直し、ある程度冷静になって、
「今の話を聞いて、我は、貴様が『ただイズセラの化神官の座が欲しいだけで、我々の意思は二の次』と思っているように見えるのだが。その辺りはどう言い訳するつもりだ」
と、ここで今まで黙って、これまでの話を聞いていたキラリエルは、デリトソースに耳打ちする。
「あの、デリトソースさん。ここはもう、ギアディオさんの言う通りにしちゃいましょうよ」
「何故だ、奴はイズセラへの融資者ではなく、イズセラの侵略者なのだぞ。そんな奴の言う事聞いて何になる」
「金になるんですよ。ギアディオさんが再三にわたって言う通り、冷静に考えてください。ワタクシたちは今、金が必要なんですよ、今の栄華を保つためのありったけの金が! それをただ、ギアディオさんを化神官に座らせるだけで得られるのですよ!」
「だが、奴が化神官になれば……我々はイズセラの化神官になる資格は無くなる」
「デリトソースさん。残念ながら我々に、その資格はもう無いと思います。なんせもう世間は、ウルフレットが『次の化神官』と言っていますし、それは否定できない事実ですから。そして、このまま我々が何も手を打たなければ、ウルフレットは本当に化神官となり、我々はガイオン同様、イズセラから消されてしまいます……ですから、ここは臥薪嘗胆でいきましょうよ、ねぇ、デリトソースさん!」
これまで築いてきた地位と英華を、ウルフレットなんかに潰されたくない。そのキラリエルの願いは、デリトソースにも伝わり、デリトソースはギアディオに言う。
「わかった。そちらの要求、このデリトソースとキラリエルが、喜んで応えさせてもらう」
*
イズセラ首都『鋼都』、【チーム・モブ】管轄区域の公園にて、
「というわけでレイザックさん、僕はチョルヒさんとお話するので、お店の方で待ってなくて大丈夫です」
『はぁ、わかりました。では、失礼します』
ネロアはレイザックとのチャットを終えた後、買い物袋を提げて、既にチョルヒが座っているベンチに腰掛ける。
「チョルヒ殿、運命のままに賜るがいい。空腹――それが人の業なのだから」
ネロアはチョルヒに、その辺の店で買ってきたサンドイッチを差し出す。
「い、いや……すみません、受け取れません。私なんかがネロア様からなんて……」
相変わらず、チョルヒは徹底して遠慮する。故にネロアは、チョルヒの距離感を縮めるため、
「いいから食べてくださいよ、せっかくチョルヒさんのために買って来たんですから」
芝居がかった喋り方から、普段の自然な口調に戻し、改めてサンドイッチを差し出した。
それでチョルヒも緊張がほぐれたのか、彼女は黙ってサンドイッチを受け取り、食べ始めた。
それを見てネロアは微笑み、自分も同じサンドイッチを食べる。
その合間、ネロアはチョルヒに言った。
「仕事熱心ですよね、チョルヒさんって。昨日も今日も立派に働いていましたし」
「……いや、だって【チーム・モブ】にいさせてもらうには、しっかり働かないといけませんから……」
「にしても凄い働きぶりだったと思いますよ……なんと言えばいいんですかね……ほら、機械に対する愛が込もってました。イズセラにいるということは、やっぱり機械とか大好きだったりします?」
これまでの緊張ぶりから一変して、チョルヒはハキハキとネロアに答える。
「そうです! 私、子供の頃からロボットアニメ大好きで、プラモデルも部屋にいっぱいあります! ……変わってますかね、私?」
「僕はそう思いませんよ。僕もこのロジスティクス・サーガを除いて、あんまり皆がやらないゲームいっぱいやってて、僕自身も変わってる方ですから」
「そうですか、ありがとうございます……けど、私はもう、大好きなロボットに乗れないんです……」
どうしてです? ネロアはその六文字をギリギリ喉元で留める。
昨日、その理由はエドウィンから聞いた上、もしそれを声に出せば、きっとチョルヒは暗くなってしまうだろうと思ったからだ。
「……いいですよね、ネロア様は。ミレアに打ち勝ったみたいに、ミレアを倒すっていう、きちんと正しいことをして、英雄って呼ばれて……なのに私は、あの時ドジ踏んじゃったせいで、『せっかちのチュ・チョルヒ』ってバカにされて……」
と、チョルヒは自分で自分を卑下し、勝手に暗くなってしまう。
そんな彼女に、ネロアは言う。
「あの、僕は正しいことをしたつもりはありません。僕はただ、トードイスムカを虐げる、外道な方法をとことん使うミレアが許せなくて、戦っただけです。つまり僕は、ただやりたい事をしただけで、勝手に英雄って呼ばれているんですよね。
僕の恩師も、いちプレイヤーとして、ただ強いモンスターを倒し続けただけで、僕から英雄だと思われています。
つまり、英雄っていうのは、自分のやりたい事を貫き通した人へ、それを『正しい』と思った人が、勝手についてくるレッテルのようなものでして、英雄っていう言葉には何の価値もないと思うんですよ」
「英雄って言葉には何の価値もない……」
そしてネロアはまっすぐに、チョルヒと向き合って、こう告げる。
「ですからチョルヒさんも、きちんと、本当に自分のやりたいことをやれば、きっと幸せになれるかもしれませんよ……あ、これは常識的にそうですけど、デリトソースやキラリエルのように、大勢を不幸せにするようなやりたいことをするのは、よくないと思いますけ……」
その最中に、チョルヒは言う。
「あ、すみません、今、ギビーさんからチャットが来ましたので、ちょっと失礼します!」
こうしてチョルヒはギビーとのチャットを始める。
「あ、僕にも……」
数秒後に、ネロアにもチャットが来る。その相手は、レイザックだった。
「はい、こちらチョルヒです。なんの用ですか、ギビーさん?」
「もしもし、ネロアです。どうしたんですか、レイザックさん?」
『今親父から連絡が来たんだ! 緊急事態って!』と、ギビーの声。
ほぼ同時に、焦りを含んだレイザックの声がネロアの耳に届く。
『エドウィンさんが言ってたんです! 今、デリトソースとキラリエルたちが、イズセラの要所に攻撃をしていると!』
【完】
ロジスティクス・サーガ・データベース
■その他雑多な話
【ロボットを装備した場合のステータスあれこれ】
いわゆるロボットのような、全身の大部分を覆い隠すタイプの機械を操縦する場合、プレイヤーのステータスは、その機械のものがベースとなる。
機械が持つ攻撃力や防御力のステータスは、操縦者であるプレイヤーのステータスを参照して数パーセント上昇するようになる。
ざっくりいうと不思議な話だが、『ロボットに、操縦者という装備を装着してステータスを上げる』ようなものである。
つまり、搭乗するプレイヤーが強ければ強いほど、同じ機体であってもステータスが変動するのだ。
スキルについては、武器種が合えばプレイヤーのスキルをそのまま使用できる。
また、事前に機械の仕様に合わせた専用のスキルを組み込むこともできる。




