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61.アカいタイヨウが昇る

「そうなったのなら、最初っから俺の方に来れば良かったのでは?」

 

 イズセラの首都【鋼都】の凍える道を、ネロアとレイザックと、上の台詞の発言者、エドウィンは歩いている。


 ネロアは答える。

「否、デリトソースとキラリエルに遭遇し、対話できる、ある意味有意義な刻だった。そう、ある意味で……」


「あの真っ黒な二人ですから、ろくなこと喋ってなかったんだろうし、まともな会話も出来なかったのですね」


「力と金――それが世界の道理の動力だ。と、申し続けていた……これが真実だ」


「やっぱりな。もう奴らは私欲に染まりきってるな……昔はそんなんじゃなかったのにな……」


「「昔??」」


「ああ、昔はな」


 そして三人は【チーム・モブ】の工場に着いた。


「少々遅かったですね、エドウィンさん」

 その前では、ウルフレットが待っていた。


 エドウィンは何本かの缶ビールが入った袋を揚げて見せながら、

「すまんすまん。俺のお気に入りの奴が、何故かここら一帯で売り切れててな、街中まで行っちまったんだ。それとこのお二方と出会ったのもあってな」


「またお会いしましたか、ネロアさんとレイザックさん。そして、その様子からして、宿探しは難航しているようですね」


「肯定する。このままでは宿無しは避けられぬ宿命だろう。同時に、今の僕(やつがれ)は空腹という宿命を課せられている」


 エドウィンは言う。

「まだ夕食も済ませてなかったのですか? あの二人のことだから、てっきりレストランにでも連れて行って貰ったと思っていたのですが」


 レイザックは言う。

「確かに、デリトソースとキラリエルとは、高級レストランで話し合ったのですが、ネロアさんは意地を通して、何一つ口つけなかったんですよ……あ、ちなみに俺は、食べちゃいました」


「そうか。まあいいや、丁度俺とウルフレットさんとで簡単に食事しようと思ってた所なんです。一緒に混ざっていいですよ」


「その慈悲、誠に感謝する」

「ありがとうございます。エドウィンさん……」


 かくてネロアとレイザックは、その工場の中にある応接室で、エドウィンとウルフレットと会食することになる。

 そこで出される料理は、当然、さっきのキラリエルが案内した高級レストランで出されたものより質素な、イズセラでは普遍的に製造されている冷凍食品。

 おまけに、今朝デリトソースとキラリエルが荒らしたリーダー室の修理工事の騒音が聞こえてくる。

 先程の時のギャップが激しいが、ネロアはそんなことお構いなしにそれを美味しそうに頂いた。


 ちなみに散々高級レストランで飲み食いしたレイザックは、満腹と罪悪感故に、ちびちびと飲み物を飲んでいた。


 その間に、エドウィンはあの三人にチャットで命令をしていた。

「おう、よくやったぞ、ギビー、マリック、グレゴリー……ネロアさん、レイザックさん。宿の方は息子たちに確保させましたんで、その辺は心配しなくて大丈夫です」


「遥か心の深淵より、感謝する。さて、エドウィン殿、自分に一つ、疑念がある故に、あなたに尋ねたいことがある」


 少々ビールが入り、少々気が緩んでいるエドウィンは言う。

「お、何だネロアさん?」


「ここに至るまでの会話で、『デリトソースとキラリエルの昔』について、軽く話していたが。それは如何なる数奇な過去が存在したのだ?」


「ああ、それか。簡単な話だ、デリトソースもキラリエルも、はたまた今はイズセラにいないガイオンも、昔は威張ることなく、健気に、謙虚に、当たり障りなく自分たちのチームの運営をしていたんだよ」


「だが、先にエドウィンさんが申した通り、奴らは金や力に溺れて、醜悪と化した」


「そうだ。全く、怖いよなぁ、金とか、力とか、ないしは名声とかは……あんな風に人を悪くしちまうんだから。ネロアさんはそういう風になるなよ」


「あのような反面教師を目撃すれば、意地でも成れませんよ」


 ウルフレットは言う。

「流石はトードイスムカの化神官、ネロアさん。あの外道の覇者、ヴァイスを打ち破っただけあって、人格もしっかりしていますね」


「その褒め言葉、丁重に賜る」


 ここでエドウィンは脈絡なく、ネロアとレイザックに問いかける。

「お前ら、この機国イズセラで今、何パーセントの国民が機械に乗れる――パイロットになっているかわかるか?」


「それは……至極難解な質問であろうな。僕なりの予言では、五十パーセントぐらいか?」


「二十パーセントだ。ま、答えられなくて当然だ。あまり気を落とすなよ。

 ……少し前、デリトソース、キラリエル、ガイオンのチームがでかくなる前までは、五十で合ってた。けど奴らがデカくなってからは、奴らが『一機一機の質を高めるため』と、生産する機械の量を大幅に減らし、余ったパイロットはあれこれ難癖をつけて、別の仕事に左遷させた。

 ロボットを操縦できる! って夢見た初心者プレイヤーが、あえなく永遠に工場勤務させられるっていうのは、昔も今もザラにある話になった。

 で、それを俺はガイオンの下にいながら、心底ムカつきながら見ていた。幸いにも俺は操縦テクニックは人一倍優れてるから、操縦桿は握り続けていられた。

 だが、俺はある日、ガイオンの【チーム・トランス】を抜けた。

 そして俺は手切れ金と元々溜めてた金を惜しみなく使って【チーム・モブ】を立ち上げた。

 そこで俺は比較的安価で作りやすい機体【ヴァンガード】を開発し、それを大量生産し、人を集めた……もちろんその人ってのは」


「強者に操縦権を剥奪された弱者たち」


「そうだ。ギビー、マリック、グレゴリー……【チーム・モブ】の人員は、だいたいそういう奴らで構成されているんだ。

 この国に来た人は、『ロボットを操縦したい』っていう情熱を持った、尊重すべき人材だ……ロボット一機作るのには多大な資材と金銭がいるから、一人一機は無理なのはわかる。けれども、機械の国なのに、たった十パーセントの、強者の好き好みで選ばれた人間しか機械に乗れないのは、あまりにも酷い話だ――だから、俺はそれを少しでも解決するため、自分は貧しくなるの承知で【チーム・モブ】を立ち上げたんだ」


 そのエドウィンの話に、心を揺さぶられたレイザックは、彼に一つ尋ねる。

「後悔とかはないんですか? あのままガイオンの元にいれば、もっと贅沢できる可能性もありましたし。なんならひょっとしたら、あなたが【チーム・トランス】のリーダーになって、やがては【化神官】になれる可能性もあったかもしれませんのに」


「ねぇよ、俺が【チーム・トランス】のリーダーになれば、デリトソースやキラリエルにむりくり肩組まされただろうし。【化神官】の方は、今【チーム・モブ】をやりくりするのでもゼーゼー言ってるんだぜ? 今度は国を動かすとなれば、絶対過労死するだろうしな。

 だから、俺はテコでもチーム・モブのリーダーで居続けてやる。国全体の問題を救うのは、もっと俺よりも冴えてる奴に任せるよ」

 と、エドウィンは隣にいるウルフレットの頭を、愛犬のように撫でながら言った。


 レイザックはウルフレットに言う。

「ですってよ。相当信頼されてますね、ウルフレットさん」


 ウルフレットは言う。

「本当にありがたい限りです。その信頼に是非応えたいと思っています。そしてエドウィンさんが思い描いてる通り、強者と弱者の差が激しいこのイズセラを変えて、皆がいきいきと出来るイズセラを作りたいと思ってます。チョルヒさんが再び機体に乗れるぐらいに……」


「チョルヒ殿……あのデリトソースとキラリエルに虐げられていた少女か」


 チョルヒの上司として、エドウィンはネロアとレイザックに、彼女のことを話した。

「これもデリトソースとキラリエルとガイオンのチームがデカくなる前――もっと正確に言うと、だいたいゲーム時間で三年前の話だ。

 俺たちイズセラのチームは、国を広げるため、大きな侵攻戦を仕掛けた。その時のこちらの装備は万全で、作戦も綿密に練っていた、皆、絶対勝てると信じていた。

 だが、いざ開戦した時、一機、決められた隊列から飛び出してしまった。

 そこを敵軍が拾って、俺たちの隊列を強引に崩し、結果それで、イズセラは大敗した」


「その時の飛び出した一機が、チョルヒ殿……」


「そうだ。戦後、チョルヒは当然各チームから痛烈に責められ、とてもイズセラに居られる状態じゃなかった。

 だが、例の三チームがミレアの金で台頭した頃、ガイオンは奴をあえて雇い入れた。そしてデリトソースとキラリエルとともに、ロジスティクス・サーガのルールの範疇で、可能な限り最低な扱いをした。

 毎日毎日重労働。無論、機体に乗せることなんて、絶対にさせなかった。

 もうその頃は、大敗した分の損害は回復できていて、チョルヒを責める奴なんて、奴らぐらいだというのに……

 思い返せば、俺がチームを抜けてチーム・モブを立てたのは、『チョルヒを匿いたい』って思ったからってのもあるかもな。

 実際、モブ設立間もない時に、チョルヒはこちらに来た――いや、逃げてきたって言った方が正確か。

 もう気にすることはない。って、俺は何度もチョルヒを励ましたよ。けど、チョルヒは『私があの時飛び出したりしなければ、この国はミレアに汚されることはなかった』って言い張って、すっかり塞ぎ込んでしまったんだ。

 そして今もチョルヒは、パイロットとしての腕があるのに、決して機体に乗らず、一エンジニアとして、機体の製造とメンテナンスを細々続けている……あの時のトラウマをずっと引きずってな」


 ウルフレットは言う。

「俺もあの敗戦後のチョルヒさんの扱いは、見てて心底悲しくなりましたよ。

 実は俺、チョルヒさんと同期で、彼女とはよく話してました。だから彼女のことはよくわかります。彼女はイズセラ内で特にロボットへの情熱を持っていて、このイズセラが何よりも好きなことを。だから俺は、願ってるんで……」


 と、ここで、どこからか、リーダー室の工事音ではない、けたましい音が聞こえてくる。


「一体何があったんだ!? 話してる最中すまん、ウルフレットさん。ちょっと俺、様子見てくるから待ってろ」


「いえ、一応俺もついていきます」


「なら僕も」


「じゃあ俺も」


 ネロアとレイザック、エドウィンとウルフレットはその騒音の元……工場内の中央にやってきた。

 そこでは、チョルヒが、赤く塗られた【ヴァンガード】の前で、いそいそと散らかった工具を片付けていた。


「すみません、エドウィン様、ウルフレット様、ネロア様! お楽しみの最中にやかましい音立ててしまいまして!」


 エドウィンは少々呆れた様子で、チョルヒに言う。

「チョルヒ。俺はお前を、リーダー室の工事の担当にした覚えはないぞ。なのにどうしてまだ工場にいるんだ」


 チョルヒは片付けを一旦止め、直立し、エドウィンとしっかり目を合わせて応える。

「はい、それは、あのリーダー室を荒らされた原因は私にあるから、その償いをしたかったからです……」


「……全く。チョルヒ、もう少し自分を良く思ってくれよ」


「はい……すみません……」

 と、チョルヒは、いまいち腑に落ちていない様子で返した後、工具の片付けを再開する。


「……はぁ、それ片付けたら寮に帰っていいぞ、チョルヒ……と、言っても残り続けるんだろうなぁ」


 ここでレイザックは、チョルヒの側にある、赤い【ヴァンガード】を見て、エドウィンに尋ねる。


「すみません。この赤いえっと……【ヴァンガード】は何ですか? 俺が見た限り、他の【ヴァンガード】は全部濃い緑だったのに」


 エドウィンは答える。

「ああ、これは試行錯誤の末に完成させた【ヴァンガード】の第一号機だ。で、色が赤いのは、一種のゲン担ぎだ」


 ネロアはエドウィンに尋ねる。

「ゲン担ぎ? それは如何なる運命があっての事だ?」


 するとエドウィンとウルフレットとチョルヒは、揃ってこう言う。

「「「ここは寒さが襲いかかる雪国イズセラ、それと共に生きるのが機国イズセラ、けれども寒さがいずれ本気で襲いかかる、そして皆が凍えて砕けそうになった時、アカいタイヨウが昇る」」」


「その詩は一体……何だ?」


 エドウィンは言う。

「いつ、どこの誰が歌い出したのかわからない、イズセラに伝わる言葉だ。俺的にはどうせゲームを盛り上げる為の、単なるフレーバーテキストだと思っているが、俺含むイズセラのプレイヤーの大半は何となくそれを信じているんだ。

 だからこの【ヴァンガード】は赤く塗られているんだ、これに出てくる『アカいタイヨウ』にあやかってよ……けどこいつは作った後、ちょっと動作確認で動かしたぐらいで、こうして置物にしてるし、他の機体は赤く塗らないようにしてる。だって『アカいタイヨウ』がホイホイ出てきたら、それが安っぽくなっちまうだろうからな」


 赤い【ヴァンガード】を見つめながら、ウルフレットはつぶやく。

「アカいタイヨウ……きっと俺がそれになれば……」


 同時に、エドウィンは言う。

「正直、今、その詩に出てくる本気の寒さが、デリトソースとキラリエルって形して襲いかかって来てるんだが、そろそろ昇って欲しいんだがなぁ……やっぱり、所詮は作り話だろうけど」


 そして、チョルヒは工具を片付け終え、黙ってリーダー室の方に戻っていく。


 エドウィンは言う。

「まだ仕事する気か、チョルヒ……もうだいぶ夜になってきたというのによ」


 ウルフレットは言う。

「そうですね。こんな夜中に頑張らなくてもいいのに……あ、すみません、エドウィンさん。俺そろそろ帰っていいですかね? 明日も朝から、トランスのリーダーとして仕事がありますので」


「おういいぞ。俺もなんか、しんみりし過ぎたのか、話疲れたのか、単純に呑みすぎたのか知らねぇが、眠くて眠くてしょうがねぇんだ……」


 エドウィンはネロア(とレイザック)に、一枚の紙――ギビー、マリック、グレゴリーが取った宿の位置が描かれた紙を渡す。


「もう少し話したいことがあるかも知れないが、すまねぇ、俺もウルフレットも今日は限界だ。だから、また明日な」


「ああ、今宵は幾千もエドウィン殿とウルフレット殿には世話になった。以降は、綿密に休息を取るのが運命だろう」


 こうしてネロア(とレイザック)と、エドウィンと、ウルフレットは別れ、各々の休む場所へと向かっていった。


*


 同時刻。イズセラ西部の雪原にて、一台の耐寒装甲車が走っていた。

「ねぇ、運転手さぁん。ランニバーニとの交渉場所まであとどれくらいかかる?」


「はっ、キラリエル様。おそらく明日の朝には着くかと思います」


「うーし、オッケーです。じゃあワタクシはそれまで寝ることにします」


「恐ろしいほど気楽だな、キラリエル。我らはこの後、我らの栄枯盛衰を定める交渉に赴くのだぞ」


「だから寝るのでしょう! その時に最高出力を発揮できるようにですね! あ、ひょっとしてデリトソースさん、緊張しすぎると眠れなくなるタイプですか?」


「緊張などしていない。むしろ興奮するぞ。この後の会議を経て、我らは今一度栄達の道を歩めるのだからなぁ!」


「……くかー」


「人様が話している最中に寝たか、キラリエル……さて、話し相手もいなくなったことだし、我も寝ようか……そして目覚めて、我らの『アカいタイヨウ』を昇らせるために」


【完】

ロジスティクス・サーガ・データベース


■その他雑多な話

【続・ロジスティクス・サーガ内での食事】


 ロジスティクス・サーガには工場国イズセラを筆頭に、冷凍食品などの加工食品も存在している。

 例に漏れず、味についてはこの世界のVRMMO全体の基準に設定されている。


 また、ロジスティクス・サーガ内にはきちんとお酒が存在しており、飲むと現実同様に【酩酊】状態になる(効果は【混乱】の亜種のようなもの)。

 無論、現実世界の規定年齢以下の飲酒はできない。

 ロジスティクス・サーガには、仮に口をつけようとすると、瞬間的にただの水に入れ替わる徹底された仕様がある。

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