59.イズセラ四大チーム
見渡す限りの錆びついた工場、廃棄された機械の山、そして右へ左へと歩く汚れた作業着を着た者たち。
イズセラの首都【鋼都】の【チーム・モブ】が管轄する区域である。
そこをネロアは供のレイザックと、案内人にしてチーム・モブのメンバー三人、ギビー、マリック、グレゴリーと歩いていた。
最中にネロアは、三人に尋ねる。
「ところで君たちが天命を託した【チーム・モブ】なる集団は、どのような性を包括する集団か?」
ギビーは言う。
「モブ(群衆)の意味通り、量産型ロボで大軍を作り、数で敵を圧倒することをテーマとしたチームです」
マリックは言う。
「量産機だから一人一人の出せる能力は弱いが、チームは弱い訳じゃないぞ! 何てったってチームワークならイズセラのチームでナンバーワンな訳だからな! それにチームの人数もウン百万と、他チームより遥かに多いからな!」
グレゴリーは言う。
「けど例のチームからは、『烏合の衆』とかー、『雑魚の集まり』とかー、言われてるから、国内での影響力はそうでもないけどねー」
五人はどんどん、【チーム・モブ】の管轄区域の奥の方へ進んでいく。すると道中、全く同じ形をした人型ロボットを製造している光景が五人の目に入る。
「これがチーム・モブの主力機――というより、うちの所持機体はこれで統一しているのですが――【ヴァンガード】です」
へぇ。と、相槌を打ち、レイザックはギビーに尋ねる。
「チーム全員がこの機体を使うのですか?」
「はい、人によって装備する武器は違いますが、機体はすべてヴァンガードで統一しています。それが親……チームリーダーの意向ですから」
そして五人は、比較的綺麗な工場に辿り着いた。
先導して、ギビーは『リーダー室』と書かれた出入口の引き戸を開けて、大きく挨拶をする。
「ギビー、マリック、グレゴリー! ただいま帰りました!」
「ただいま帰りましたじゃねぇんだよ、おい!」
その瞬間、ソファに腰掛ける、いかにも古き良き町工場を営んでいそうな中年男性は、三人を怒鳴りつけた。
条件反射で三人は、その男性の前に並び、一斉に頭を下げる。
「「「すいませんでした!!!」」」
男性は途中途中、目を拭いながら言った。
「ったく。俺がどれだけ心配したのかわかってるのか!? こっちはお前らがあんなボロ電車で『トードイスムカに助けを頼む』と、言って、本気で行った時はもうお前らがどうなるか……とにかく、俺がどれだけ心配したのかわかってるのかぁ!?」
三人も目頭を熱くさせながら謝る。
「「「はい、本当にすいませんでした!!! 親父!!!」」」
空気が空気なので、まだ部屋に入れていないレイザックは言う。
「双方泣きそうになるかつ、親父呼びとは……どんだけの団結力なんでしょうか」
同じく、まだ部屋に入れていないネロアは言う。
「流石、【チーム・モブ】を名乗るだけありますね」
ギビ―は頭を上げて言う。
「ですが親父、僕達はキチンとやってきましたよ! 来てください、ネロアさん!」
「ああ、来たさ! 不条理に押し潰されそうな弱者の為に、イズセラを暴走する力から護る為に、死神ホイプペメギリの化神官、ネロア・ルォーナピアナが来たさ!」
「……と、その臣下のレイザックも来ました」
「本当に連れてきたのか……やってくれたなお前ら! さ、どうぞ中に入ってください」
「失礼する」
二人はリーダー室に入り、しっかりと親父……もとい、リーダーらしき男性と向き合う。
リーダーらしき男性は奥の給湯室からコーヒーを持ってきて、二人に差し出した後、深々と頭を下げる。
「えー、自分は【チーム・モブ】のリーダーをしている『エドウィン・スミス』だ。今回はうちの息子たちの頼みを聞いてくれてありがとう」
「親父側も親父側で息子呼びか……」
「エドウィン殿。話は過去より貴方の息子様方により伝承されています……どうやら、ランニバーニの毒牙がイズセラに今にも突き刺さろうとしていると」
「ああ、その通りだ。【チーム・エナジー】と【チーム・アーセナル】が今、何やらランニバーニと怪しい契約を交わしていて、その二つのチームを中心に、今イズセラはきな臭くなっている。
もし奴らが本性をむき出しにしだしたら、イズセラは大変なことになる。
だから、あのミレアに反逆してみせたネロア様に、少しでも味方になって、それをおさえて欲しいんだ」
「……もちろん、こちらはその意志を握り締め、この地に来た次第なのだから」
「ありがとうございます。俺たちも微力ながら、ネロア様の手伝いをしますので」
「そうか。ならば早速、貴方たちに託したい想いがある」
レイザックは思う。
(ネロアさんがここに来た本当の目的は、イズセラの化神官から認可を貰う事。きっとネロアさんは化神官の所在を尋ねるのだろう)
ネロアはエドウィンに頼む。
「どこか、頑丈な紐が手に入る所はないか?」
(いや、そっちィ!?)
「ひ、紐ですか……?」
「ああ、紐だ。僕が極めた異形の剣術には、それが必要なのだが……生憎、大陸の南に棲む偉大な竜に斬られてな。
折角この工業国に来たからには、何かいい品があるのではと思ってな……」
ここで一つ解説をしよう。
ネロアの得物は、紐を付けた剣である。
普通に振るうだけでなく、紐を伸ばすことで遠近問わず攻撃したり、時に紐を利用し大きく位置を変えたりと、遠近両用の動きを取ることが、ネロアの主なスタイルである。
だがその戦法にとって肝要な紐は、先日、ロジスティクス・サーガ最強のプレイヤーにして、災国カメセスコアの化神官、錦山橙瀧に斬られてしまったのだ。
(まぁ、ネロアさんにとって、まず戦うためには紐は必要ですからね……いや、やっぱりここは先に化神官の所在を聞いた方がいいと思うんだが……)
「紐、それも頑丈な奴な……んー、あ! おい、チョルヒ! チョルヒはいるか!」
数秒後、ギビーたちと同デザインの作業着に、作業用ヘルメットをしっかり被った、いかにも一作業員な雰囲気の少女が、銀色に煌めく紐を携えてやってきた。
「話はこっそり聞いてました、エドウィン様……必要なのはこれです……よね?」
「おう、それだ。相変わらず気が利くな、チョルヒ」
チョルヒと呼ばれた少女は、まるで猛獣か何かに餌を与えるように恐る恐る、ネロアにその紐を渡した。
「イズセラ特有の金属で作り上げた、程々に軽くて、非常に頑丈なワイヤーです……倉庫にたまたまあった物ですけど、トードイスムカの化神官様に、気に入って貰えるでしょうか……」
ネロアは早速自分の剣にそれを結びつけ、安全に配慮して振り回してみる。
「うん。嘘偽り無く軽くて、頑丈で、取り回しが良さそうだ。感謝する……念の為、貴方の名前は何という?」
「ええ、わ、私の名前なんか聞いてもどうにもなりませ……」
「『せっかちのチュ・チョルヒ』でありますよ。そのイズセラの恥晒しの名前は」
ネロアとレイザック、エドウィン達五人は、声がする方――出入口の戸の方を見る。
刹那、戸はスライドされず、蹴倒され開けられ、そこから二人の男が何食わぬ顔して、戸を踏んで入ってくる。
エドウィンはため息をついて、言う。
「いい加減その出入口は、手でスライドして開けてくれないか……デリトソースさん、キラリエルさん」
漆黒のレザーコートを纏い、戦闘力でも計れそうな近未来なサングラスをかけた男――【チーム・アーセナル】リーダー、デリトソース・バントフィルドは言う。
「頑固拒否する。我は冷え切った戸なんかに触れて無駄な体力を使いたくない。こう蹴倒した方が楽で早く、無駄がない。だろう?」
悪趣味な金色のファーコートを着て、その中にこれまた金色のスーツを着た男――【チーム・エナジー】リーダー、キラリエル・シャングダラーは言う。
「しかしこんな子供の小遣いでも賄えそうな戸如きを気にするとは、相変わらず器が小さいですねぇ、エドウィンさん?」
ネロアは近くにいたチョルヒに尋ねる。
「チョルヒ殿、あの二人は何だ」
「ええと、黒い服の人が【チーム・アーセナル】のリーダー、デリトソース様、金ピカの人が【チーム・エナジー】のリーダー、キラリエル様で……っ!?」
キラリエルはチョルヒの手を無理矢理引き、転ばせ、頭を踏みつけて、
「おい! 聞こえていますよ、チョルヒ! 今このワタクシを『金ピカの人』呼ばわりしましたねぇ! 無礼千万ですよぉ、無礼千万!」
一方、デリトソースは勝手にソファに腰掛けて言う。
「やめておけ、キラリエル。所詮【チーム・モブ】は、雑魚の集まり。せっかちのチョルヒは無論、ここの雁首三つも、それを必死こいて匿っているエドウィンも、全員教養がなってないのだから、何を言っても無駄だ。
それに我らには、他に言うべきことがあるだろう」
ギビ―、マリック、グレゴリーが至極恨めしそうに睨みつけている中、そんなことは気にせずに、キラリエルはエドウィンに頼みを伝えた。
「ああそうでした。エドウィン様、折り入ってお願いしたい話があるのですが……ここ最近、ワタクシたちの方でちょっとばかし『ビジネス』を起こしていまして、それで【チーム・モブ】から人手を二万人だけ、お借りしたいのですが?」
エドウィンは言う。
「つい三日前に凄まじい強請りに負けてやって、一万人も派遣させたばかりだというのに、早くもまた二万人もねだりにくるとは強情だな。
そもそもこちらはその『ビジネス』が何なのかを全く教えてもらえてないというのに」
デリトソースは言う。
「貴様とは次元が違う話なのだよ、このビジネスは。いいから、早く二万人よこせ。それで終わる話だ。さあ早く、時間が無駄だ」
エドウィンはデリトソースに対して、はっきりと言う。
「断じて拒否する。一万や二万の重みを知らない貴様ら如きに、くれてやるものは何一つ無い!」
これに便乗して、鬱憤を晴らすがてら三人は言う。
「「「そうだそうだ!!!」」」
するとデリトソースは、コートに隠していたマシンガンを出し、三人に向かって、ただし一発も当てないように発砲する。
「我らよりも上に立とうとするな、スクラップ製造所の従業員が……ん?」
ここに来てデリトソースは、ようやくネロア(とレイザック)の存在に気づく。
「貴様は……確かトードイスムカの……」
「左様。僕は死神ホイプペメギリより化神官の位を賜った、ネロア・ルォーナピ……」
「ああ、通りでエドウィン共が強気になれる訳だ。おいキラリエル。こいつらも他国から後ろ盾を得たみたいだ」
しかしキラリエルはそれを耳にしないどころか、ネロア(とレイザック)にも目をくれない。
「すみません今取り込み中なんですよデリトソースさん! このイズセラの汚物を教育してる最中なんですから!」
なんせ彼は今、ご自慢の高級ブーツの踵で、足元のチョルヒを踏みにじっている最中なのだから。
「チョルヒ殿!? おい貴様! 彼女が如何なる罪を犯したが故に、そのような私刑を下すのだ!?」
「ちょっとエドウィンさん、他国の後ろ盾借りるんだったらキチンと自分たちの事情ぜーんぶ説明してからにしてくださいよ。
あ、何故こいつがこうされなきゃいけないかって? ヴァイス様を倒すぐらいの知恵あるなら、見てわかりますよね、こいつがそれぐらいこいつが悪いことしたからでしょ?
……いや、これぐらいじゃ足りないかもな」
キラリエルは腰からレーザー銃を引き抜き、チョルヒの肩をかすめるように撃つ。
「きゃぁ!?」
これにエドウィンは怒り、キラリエルに訴える。
「やめろキラリエルさん! 俺の家族に好き放題するんじゃない!」
「わかりました、じゃあ家族以外なら攻撃してもいいですね!?」
キラリエルは適当な方向にレーザー銃の口を向け、適当に乱射し、壁に焦げ跡を作り出した。
それも咎めようとエドウィンが口を開いた瞬間、デリトソースが言い放った。
「事を穏便に済ませたいのなら、貴様が早いところ『三』万人貸せばいいだけだ。
長い付きあいだからわかるだろう、キラリエルは貴様が無駄に話を伸ばすから、せっかちのチョルヒで遊んで暇を潰さねばならなくなっているのだ。
さぁ、早く、『四』万人貸せ。そうすれば我もキラリエルもすんなりと帰る」
傍若無人にも程がある――ネロアは義憤に駆られ、剣を握る。
するとキラリエルがレーザー銃を、瞬発的にネロアめがけ発砲する。
「危ない!」
が、これはレイザックが盾で難なく防ぐ。
「お見事なガードですねぇ!? それではワタクシより、褒美として、耳寄り情報を一つ。
ワタクシたち、【チーム・エナジー】と【チーム・アーセナル】がその気になれば、【チーム・モブ】なる烏合の衆なんて、お茶の子さいさいで壊滅させられますからね?
ですからネロア様ぁ、その剣はやすやすと振れる物じゃあありませんよ?」
「むむむ……」
「じゃあ引き続き制裁を……オット手ガスベッ、たぁー!」
キラリエルは再び足元のチョルヒに、レーザーを一発浴びせた。
「ぎゃああああ!」
これに同胞である三人は、怒る。
「おい、チョルヒさんをこれ以上いじめるな!」
「お前らがそんな悪態が吐ける訳がどこにあるってんだ!」
「この欲張りー! 人でなしー!」
だが、三人はそれ以上の一歩を踏み出せなかった。
「うるさいぞ雁首三つ。そんなに吠えたきゃ貴様らの『親父』に『デリトソース様とキラリエル様に五万人貸し与えてやってください』と吠えろ。あるいは、我がこれで吠えさせてやる」
ソファに座るデリトソースが、マシンガンを構えて、三人とエドウィンに脅しをかけているからだ。
「おいエドウィン。いい加減喋れよ。さもなくばキラリエルの足に張り付いたガムが排除されるか、この小汚いオフィスがより汚くなるだけだぞ」
チョルヒは、キラリエルに頭を踏まれながらも、どうにか頭を上げてエドウィンと目を合わせ、嗚咽混じりにこう懇願した。
「……エドウィン様……私の事は気にしないでください……だから絶対に、何万ものチームメンバーを犠牲にしないでください……どうせ私なんか……どうなってもいい人なんですから……」
エドウィンはうつむき、苦虫を噛み潰したような顔をして言う。
「……チョルヒ、すまない……」
その辛さに耐えかねたネロアは、再び剣に手を添える。
レイザックは小声でネロアに言う。
「ちょっとネロアさん。やめてください。ここで貴方が剣を抜けば、何百万人もの無意味な犠牲が……」
「外道行為による一人の犠牲も、無意味な何百万人の犠牲も、重さは同等です……それに、今僕が剣を取らなければ、一体誰が剣を取るというのですか!」
「この俺が取りに来ました!」
と、言って、胸元にイズセラの紋章と、二つの歯車を重ねたような紋章を付けた、赤いパイロットスーツに、赤い長髪を後ろで纏めた青年が、刀を携えやって来た。
「「「来た、『赤狼』が!!!」」」
(赤狼? その名前は確か、あの虎の群れに襲われた最中で……)
キラリエルはチョルヒに向けていたレーザー銃を青年の方に向けて言う。
「何故貴様が来たのでありますか? 【チーム・トランス】リーダー、ウルフレット・ブラッドムーンさん」
「キラリエルさんとデリトソースさんが、また性懲りもせず、【チーム・モブ】に無茶な要求をしてると思いましてね。そしたら案の定、その通りだったという」
キラリエルはとぼけて言う。
「無茶な要求? それは失敬な。これはイズセラの未来を明るくするための『ビジネス』のための……」
「イズセラの未来を明るくするのには、その物騒な銃を構えて、無抵抗な人を撃たねばならないのですか!」
デリトソースはソファから立ち上がり、ウルフレットに言う。
「ウルフレット、貴様は誰を敵に回しているのかわかるのか? アーセナルとエナジーだぞ。もし我らがその気になれば貴様のチームは今度こそ滅ぶぞ」
対して、ウルフレットは義憤を込めて声を荒げ、デリトソースに言い返す。
「確かにそうかもしれない、ですが! それは貴様らが俺たち、【チーム・トランス】とエドウィンさんたちの【チーム・モブ】にスクラップにされるのと同義だ! その覚悟があって言っているのか、その言葉は!?」
キラリエルはウルフレットにレーザー銃を向ける。
だが、彼の目にはそれが映っていないかのように、ウルフレットは微動だにしない。
なのでキラリエルは言葉を付けて脅そうとする。
「スクラップだぁ〜? 失敬な! ワタクシたちエナジーを愚弄するとは、生意気にもほどがありま……」
ここでデリトソースが、怒りまくるキラリエルの肩に手を置き、耳打ちする。
「今日の交渉はこれまでにしておこう。さもなくばあの商談の前に、様々な意味で無駄な浪費をすることになる」
「ふん、今日は気分が悪いので帰りましょうか、デリトソースさん。
それと、ウルフレットさん、これはチームリーダーとしての先輩からのアドバイスですよ。『身の丈に合わないことをすると、逆に身を滅ぼすことになりますよ』」
デリトソースとキラリエルは揃って、戸が外れた出入口から出ていった。
【完】
ロジスティクス・サーガ・データベース
■用語説明
【機国イズセラのチーム】
イズセラではそれぞれ掲げた一つのテーマのロボットを研究する【チーム】という集団がいくつか存在する。
具体例を挙げると、
・車や飛行機や動物への変形機構を極める【チーム・トランス】
・レーザー兵器の多用を主軸とする【チーム・エナジー】
・とにかく武装を搭載することを理想とする【チーム・アーセナル】
・量産機を開発し、数と連携力で敵に立ち向かうことに重きを置く【チーム・モブ】
などがある。
ちなみに組織としての形態は、他国でいうギルドと何ら変わりはない。
黎明期の頃からあったギルドが軒並み【チーム・〇〇】という組織名を名乗っていたため、それが慣例化してこうなったらしい。




