57.災い過ぎて……
ロジスティクス・サーガのとある空間より。
「前から儂はな、ずーと思っておったのじゃ! 死を間接的に呼ぶ災を司る儂より、死そのものを司る死神【ホイプペメギリ】お前の方がズルいとのう!」
「どこぞの癇癪女のせいで大勢の死者の始末を強いられる死を司る神の気持ちになった事はあるか? 災神【ジャグガバゼパ】?」
「むむむ! よくも儂の化神官を負かしたからって調子に乗りやがるのう! こうなれば貴様の国にとんでもなくデカイ大嵐を贈りつけてやるのじゃ!」
「ならばこちらはその犠牲者をテキパキ裁いて蘇らせるなりなんなりして、そこから証拠を集め、主神に『神たるものが他国に関与した』と言いつけるだけだ。
今のところ黙っておいてやるが、『国内の戦争を激化させたいと、国民十二人に異能を与える流星を独断で落とした』こともこの際に訴えてやろうか」
「むむむ! だがやはり悔しいのう……この大陸一強いと見込んでいる男が、ホイプペメギリの化神官なんかに敗れるとは……」
「そして、端から俺は言いたかったのだが。今宵の双方の化神官の勝敗の行方は、我々神に関係ない。それにああだこうだ言うのではなく、ただ、当事者たる人間がどう解決するのかを見守るのが、本来の神の務めだろうに」
「ふん、正論語って偉そうにしやがるとはのう。やはり貴様はズルいのじゃ、死神ホイプペメギリめ」
「そちらこそ、その傲慢さはいい加減抑えたらどうだ、災神ジャグガバゼパ殿」
*
【星竜大戦】終了後の夜、その参加者十六名は、主催者たる橙瀧の邸宅に集められ、大戦終了の打ち上げパーティーに参加することになった。
「まず……今日まで皆、よくぞ健闘した! 今宵はそれを祝い、心ゆくまで飲み食らうがいい!」
「次にネロア! よくぞ俺様を倒してみせた! あの最後の大勝負、まさに最強の一撃であり、お前は紛れもなく『勝負』に勝っただろう! ……星竜大戦が『試合』であったことがつくづく惜しい!」
と、橙瀧は、隣に座らせたネロアを称賛した。
ネロアは照れて、頭を軽くかきながら、
「いえいえ、あれは運が良すぎただけの話ですよ。そんなの褒めないでください」
「だが『運も実力の内』とも言うぞ! 素直に誇れ、お前はロジスティクス・サーガ最強のプレイヤーを倒したという事を! その証明書代わりに……ウェンリー!」
「はい、ただいま」
橙瀧に呼ばれたウェンリーは、ネロアに一枚の書状を渡す。
それは、橙瀧直筆の認可証だった。
時国ランニバーニ【化神官】、ジュリクスより課せられた『トードイスムカの越境禁止の約定』を解くために必要な、『ミレア【化神官】、ヴァイスを除く六人の化神官の認可証』のうちの一枚が、ここで渡されたのだ。
これを貰い、ネロアは目をパチクリさせて、
「えっ、これは……」
星竜大戦が始まる前に橙瀧は言っていた。『そこで優勝した暁に、この橙瀧は認可を出すッッ!』と。
だから、何故優勝できていないのにこれが貰えるのか、おかしくてしょうがないのだ。
その気持ちを察した橙瀧は、ネロアに親切に教えた。
「そもそも、俺様は最初っから普通にそれを渡す気でいたのだ。
だが、簡単に渡したら、ひょっとしたら貴様と家臣二人は、星竜大戦に素直に参加してくれず、すぐ帰ってしまうと思ってな騙して済まなかった。後はうまいように使ってくれ」
「はい……ありがとうございます!」
と、ネロアに感謝された橙瀧は、照れ隠しとして、ストローを咥えて中のコーラを吸い上げた。
その数秒後、彼はボソっとこんなことを漏らした。
「……それに、もしあの約定が解ければ俺様は貴様に会い放題になるからな」
少し離れた所でご馳走を味わっていたアンティルとレイザックは、これを聞いてしまい、身震いする。
「なあ、これ実質トードイスムカを滅ぼす宣戦布告じゃねえか?」
「……これにて認可は、シュラさんとリュートさんのを足して、三人分得られましたが、これを聞いたからには約定を解くのが億劫になるな……」
「勿論、この俺も貴様の首を取りに行くからなァ!」
と、アルトリウスはネロアの机に手を叩きつけて言う。
ネロアは冷めた目でアルトリウスを見て、
「……わかりました。もし約定が解けたら、どうぞいらっしゃいませ」
と、だけ言って、注文したチキンバーガーに手をつけ始めた。
「どうぞいらっしゃいませだァ!?
よく余裕ぶっこきやがれるなぁ!? いいか、今回負けたのは、何故かお前の今日の運勢がやたらと強かっただけだ!
もしあと九十九戦やれば、俺が九十九勝するんだぞォ! この俺が、お前みたいなゴマすり女に負けるわ……」
ここでウェンリーがアルトリウスを、当人の席に押し戻す。
「お食事中にご迷惑おかけしまして、誠に申し訳ありませんでしたー」
「いえいえ、大丈夫です。やかましいのは慣れてますので」
そして、今度は橙瀧の元に、あの男がやってくる。
「……やはり来たか、ゲイルリンド」
橙瀧は真顔のゲイルリンドを睨みつける。対してゲイルリンドは、深々と頭を下げる。
「随分と言うのが遅れてしまいましたが、申し訳ありません、父上。
あの時、あなたが俺を家から追い出した際の、『人の強さを真似てばかりではなく、己の強さを見い出せ』という意図を読み込めず、これまで無意味な強さを追ってばかりの毎日を過ごしてしまいまして」
対して橙瀧は、椅子から立ち上がり、同じく深々と頭を下げる。
「ゲイルリンド。俺様はな、三つ気付かされたんだよ。『あの時俺様は浅はかな行動をしたこと』と、『己だけの強さが、強さだけじゃないこと』と、『こんな俺様のことをずっと追いかけてくれたお前を褒めなければいけないこと』をな。
だから、あの時は本当にすまなかった」
ゲイルリンドは一度目を拭い、再び頭を深々と下げ、
「父上……ありがとうございます!」
「礼の安売りをするな! そういうのは、もっと大事な時に、使えよ……この馬鹿息子……」
と、橙瀧は叱りながら、今の顔を見せないように、うつむく。
ネロアと、このパーティーの参加者達は、嵐を呼ぶ親子に向かって、称賛の意を込め、拍手を送った。
「おいクズネロア! ゲイルリンドでも謝ったんだ! ならここはお前も謝るべきじゃねえか!? ほら、早く!」
……ただし、アルトリウスを除いて。
アンティルは小声でツッコむ。
「人の心無いのかよ、アイツ」
*
翌日早朝。ネロアとアンティルとレイザックは、災国カメセスコア首都、竜都にある巨大パーキングへ行った。
そこには既にウェンリーと橙瀧、それとゲイルリンドが居て、移動用の竜が停まっていた。
橙瀧は言う。
「もう少しゆっくりしていってもいいんだぞ? 貴様ら全員散々戦って、疲れたんだろうしな」
ネロアは言う。
「いえ、これ以上橙瀧さんたちにお世話になるのは気が引けますから。それに、僕は一日でも早く約定を解きたいので」
「そうか……じゃあ次会う時は、敵になるか、相手になるか、どっちになるか知らないが、達者でな」
「はい、そちらこそお元気で」
ウェンリーは言う。
「では、ネロアさん、アンティルさん、レイザックさん。これの準備は出来ていますので、どうぞお乗りください」
お言葉に甘えて、ネロアとレイザックは竜に装備されたカゴに乗り込む。
その後、レイザックは言った。
「って、おい。アンティル。お前は乗らないのか?」
「いや、オレっちはまだトードイスムカには帰らねーよ……ネロア、急な頼みで悪いが、オレっちを術国イペファワエゼへの使者として立ててくれないか?」
レイザックは尋ねる。
「急にどうしたんだ?」
一方、アンティルとは長い付き合いのネロアは、この発言の目的を薄々察して、言う。
「ああ、さては星竜大戦で一回戦で負けたこと踏まえて、使者という建前で【啓都】に入学して、武者修行するつもりですね」
ここで一つ解説を入れるとしよう。
術国【イペファワエゼ】とは、大陸南西にある火山国である。
そこでは昔から魔法の研究が盛んに行われており、国土の六割を占拠する都市型学園【啓都】はその最先端を征く。
啓都は他国のプレイヤーでも入学でき、中レベルまでの魔法スキルを覚えることができるという物があり、今日も力を求めて門を叩く者は少なくない。
「へっ、全くその通りだ。使者っていうことにしとけば、ジュリクスの越境禁止もすり抜けられるからな。『認可を貰うための越境行為は許可する』って言ってたし」
レイザックは呆れた様子で言う。
「アンティル。お前にしては筋が通った行動だが、逆におっかないぞ。
お前はトードイスムカの顔として、イペファワエゼに行くことになるんだ。万が一何かあったらどうするつもりだ」
「うるせーなぁ。お前はホント生真面目だな。
いいか、オレっちは平たく言っちまえばネロアの側近、ミレアで言うとゲイルリンドさん、カメセスコアで言うとウェンリーさん的な存在なんだ。だからそれ相当の実力が欲しいんだよ」
「元上司をおねだりのダシに使うとはやるな」
「僕は側近っていうよりかは部下と呼ばれたいけどね」
「という訳でどうか頼む、ネロア! オレっちを使者にしてくれ!
オレっち強くなるし、イペファワエゼの許可証も貰えるように頑張るからさ! な、頼むよ!」
「ネロアさん。止めましょう、こいつは絶対何かしでかすか……」
ここで橙瀧は言う。
「レイザックとかいったか! 貴様、人が強くなりたいと言うのを止めるのは、失礼極まりないと俺様は思うぞ!」
そしてネロアは決断する。
「……橙瀧さんのお墨付きもありますからね。わかりました、行ってらっしゃい、アンティルさん!」
アンティルはこの返答に狂喜乱舞し、
「本当にありがとうネロア! じゃあまたいつか会おうな! そんときは見違えてくれよな!」
そしてアンティルは自分のコートにレイスを取り憑かせ、それを翼のようにして空に飛び、イペファワエゼの方に向かっていった。
「……では改めまして、ネロアさん、レイザックさん。帰りましょうか」
「「はい、わかりました」」
間もなく、ネロアとレイザックは、竜の管理者であるウェンリーと一緒に、トードイスムカへと帰って行くのだった。
そして、パーキングには橙瀧とゲイルリンドが残された。
「で、お前はこの後どうするんだ、ゲイルリンド?」
「もちろん、ミレアに帰ります。
ここに至るまで世話になったヴァイス様のためにも、『ミレアを守り抜く』という形で恩返しをしたいと思ってます」
「そうか。では俺様への復讐はどうする?」
「それはもう考えていません。ですが、俺はやっぱり、父上を超えてやります。その気持ちだけは変わりません」
「ふん。そう簡単に超えられてたまるものか……まぁいい。とにかくお前も達者でな。
そして、ゲームでも現実でも、いつか帰りたくなったら、いつでも帰ってこいよ」
「はい、父上」
ゲイルリンドは父親に一礼し、ミレアへと目指して歩き出し……
「あ、ちょっと待て、昨日のパーティーで聞きそびれたことがある。お前今、現実だとどこで何をしているんだ?」
「あれからは父上にならい、日本に行き、今は大学で学問と鍛錬を積んでいます。ちなみに近々柔道の選手権を控えています」
「そうか……あともう一つ質問がある。ネロアの国籍はどこだか知っているか?」
「え……確か俺の同僚のオルディッツの調べによると、日本サーバーからログインしているとのことです」
「そうか……二人とも日本にいるのか……フハハ、いつか来ないものかなぁ、ネロアにお義父様と呼ばれる日と、俺様とネロアの血を引いた最強の孫の顔を見る日がなぁ……」
「……ひどい冗談ですね、父上」
*
カメセスコアとトードイスムカの間の上空にて。
「ところでネロアさんは、これから何をする気なんだい?」
と、ウェンリーはネロアに聞く。
ネロアは言う。
「やはり認可証集めです。今持ってる認可証は、文国ヨヤアサの化神官、シュラさん、音国エホシャドチグパの化神官、リュートさん、そして橙瀧さんの三枚でして……」
レイザックは補足する。
「残りは術国、機国、時国の三枚です。
術国【イペファワエゼ】の化神官はさっきのとおりアンティルがどうにかする。
時国【ランニバーニ】の化神官ジュリクスは『他五人が認可を出したら自分も出す』と言っています。
だから次、俺たちがアプローチすべきなのは、機国【イズセラ】。ですよねネロアさん」
「はい……ですが、困りましたね。イズセラは」
イズセラはトードイスムカのことを嫌っている。
ネロアはそこの友好国であったミレアに、御存知の通りヘブンズレイドなどで痛い目に合わせたためだ。
実際、ネロアがイズセラに認可を求めて手紙を出した所、『同盟国ミレアに弓引いた恨みは忘れていない』と怒りの返事が来たのがいい証拠だ。
「うーん。今回ウェンリーさんがやって来たみたいに、イズセラの優しくて化神官に繋がりのある人が来てくれたらすごく嬉しいんですけどね」
レイザックは言う。
「流石にそんな奇跡、二度も起きないと思いますよ」
ウェンリーはニンマリとして言う。
「さあどうだろうねぇ? たまたま僕が来たことでカメセスコアに繋がれたように、ひょっとしたらこっちでも誰かが来て、何か手助けしてくれるかも知れないよ?」
ネロアは表情を曇らせて言う。
「あったらいいですけどね……」
*
トードイスムカの国境間近の空にて。
そこで、素材の味が包み隠さず感じられるオンボロの飛行機が、ハエのように不安定な軌道を描いて飛んでいた。
「うわっ、またガタッって嫌な音出した! マリック、これホントに大丈夫かよ!」
「大丈夫な訳あるか! 【チーム・モブ】のジャンクかき集めて作った、付け焼き刃な機体なんだから!
いやだとしても、この不調は、グレゴリーが出発前の点検を怠ったからかも知れないぞ!」
「オイラのせいにするなよー! だいたいギビーがー、こんな無茶な計画立てたのが悪いんじゃないのー?」
「僕に責任転嫁するかグレゴリー! いやだってしょうが無いだろ! 【チーム・アーセナル】と【チーム・エナジー】の監視かいくぐってトードイスムカに行くには、これしか手段が思いつかなかったんだから!」
「思いつかない訳あるか! もっとマシな移動手段……移動手段……思いつかないな!」
「あーあー、ホントに嫌になるよー、このオイラたちに対する向い風ー」
「本当だ、もう世の中が嫌になる訳ありありだ」
「確かにそうだ、マリック、グレゴリー。けどな、だから僕たちはトードイスムカに行くんだよ……
――覇権国ミレアの威勢を挫いた英傑、ネロア・ルォーナピアナ。今の機国イズセラを救うには、あの人の力が必要なんだから」
【完】
ロジスティクス・サーガ・データベース
■キャラクター紹介
【災神ジャグガバゼパ】
分類:神
管理国:災国カメセスコア
ロジスティクス大陸の、災の理を司る女神。
傲慢かつ傍若無人な性格の持ち主。。
大陸の天候を管理しており、時にそれを介して人々に豊穣、もしくは試練を与えている。
また、国の戦乱をより激化させたいという目的で、十二星竜を生み出した十二個の流星を落とした張本神でもある。
結果、戦乱は国内の勢力が十二に減ったことで逆に落ち着いてしまったが、橙瀧という自分に次いで厄災じみた人間を発掘できて、それはそれで満足しているらしい。




