56.死災の最終
星竜大戦決勝戦。
災国カメセスコアの【化神官】錦山橙瀧、対、死国トードイスムカの【化神官】ネロア・ルォーナピアナ。
現在の戦況は、橙瀧が遥かに優勢だった。
彼がスキル【災神の始動】を用い、数々の厄災の力を駆使することで、ただでさえ強い実力を一回り二回りも強くし、ネロアを圧倒しているところだった。
観客席にて、レイザックは言う。
「ネロアさんのHPは残り三割程……対して橙瀧のHPは、【災神の始動】の効果のせいか、五割から徐々に回復し続けている。そして単純なパワーやスピードも、橙瀧が上回っている。このままではネロアさんは消耗して負けてしまいます……」
レイザックにアンティルは、怒りを込めて言う。
「オイオイオイオイ、何弱音吐いてるんだレイザック! お前ネロアの底力わかって言ってるのかそれ!?
確かに橙瀧は【災神の始動】で雷起こすわ爆炎起こすわ、スゲーことしてるが! ネロアにだってスゲーこと出来るだろ!」
「【死神の凶器】……だな」
ここで一つ解説を入れるとしよう。
【死神の凶器】とは、ネロアの化神官としての固有スキルのことだ。
一定時間武器に、一定確率で即死する効果を付与する。
それで運悪く死んだ者は、相手を自動追尾し、当たると通常の物の上位互換に値する状態異常にする計七種の霊魂【〇〇の遺言】をドロップする。というものだ。
「それで橙瀧を状態異常にすれば、これ以上デタラメに暴れられなくなるはずだ!」
「アンティル、お前にしては理論的な考えだな。だが、それはあくまで理論上の話になってしまうな……」
橙瀧と対峙するネロアは叫ぶ。
「【モンスターコール:スケルトン3】!」
するとネロアの前方に荘厳な武装をしたスケルトン、【マジェスティックスケルトン】十体が召喚される。
このようにして適当な雑魚を召喚し、それに【死神の凶器】を食らわせ、【遺言】を作り出す。それがネロアの鉄板戦術である……のだが。
「フゥゥゥン!」
橙瀧は全身に力を入れ、元より己を中心に放たれていた暴風の勢力を、一瞬、さらに強める。
ネロアは防御体勢を取り、その風圧から身を守ったものの、召喚されたばかりの【マジェスティックスケルトン】は、瞬く間に粉砕された。
「残念だが、貴様の妙技はウェンリーから聞かされているのでな! 遠慮なく妨害させて貰ったぞ!」
「ぐっ……やはり対策済みでしたか」
アンティルはシンプルにつぶやく。
「これ、やべぇな……」
レイザックは一つため息をついて、アンティルに言う。
「ようやく俺の気持ちがわかったか。アンティル。今の橙瀧は厄災そのもの。それに雑魚が割って入れる余地はないんだ……」
「【竜脚飛来】!」
橙瀧は、試合を終わらせに入った。稲妻と竜巻を帯びた、凄まじい飛び蹴りをネロアに放つ。
「【蒙昧罪の断】!」
ネロアは闇属性を帯びた、こちらもこちらで凄まじい剣の一振りで、相殺を狙う。
だが、橙瀧の技の威力の方が上だった。
ある程度勢いは殺せたものの、ネロアは橙瀧の蹴りを思いきり受ける。
「【竜腕参上】!」
続けざまに橙瀧はネロアにストレートを放つ。 ネロアは身を反らし、最低限の回避を試み、かすり傷で留める。
しかしロジスティクス・サーガ最強のプレイヤーにつけられたかすり傷は、決して安いものではない。
紐付き剣を駆使し、橙瀧との距離を大きく取りながらネロアは自分のHPを確認する。
残り一割弱。絶体絶命であった。
この状況を、至極喜び、どっと笑う者が観客席に一人。
「ヒャーヒャヒャヒャヒャァ! おいお前らも見ろよ、あのネロアの無様な姿をよぉ! ヒャヒャ、『圧倒的敗北』、だな!
ザマァ見ろネロア! お前みたいなカスが橙瀧に勝てる訳がねぇんだよ!
さあ早く! まーけーろー! まーけーろー! まーけーろー! 皆さんもご一緒に、それっ! まーけーろー! まーけーろー!」
そう、ロジスティクス・サーガ最低のプレイヤーにして、最強のネロアアンチ、アルトリウスである。
この態度は観戦者として非常に無礼な物である。が、それを誰も――ネロアを応援する者でさえ、咎めることはなかった。
「アルトリウスの言う通りかもしれねぇ……圧倒的にネロアが劣勢になってる」と、アンティル。
「【死神の凶器】も封じられたんだ……やっぱり、ダメかもしれない」と、レイザック。
こうして観客席は、アルトリウスの負けろコールが嫌なくらい響き渡った。
「ドヘブゥァッ!?」
だがそれは、このようなアルトリウスの悲鳴によって終わった。
「……い、痛えーじゃねえかよぉ! しかも観客席での暴力はルール違反だぞ! どういうつもりだ! ゲイルリンド!」
ゲイルリンドはアルトリウスの顔面に当てた拳を引っ込めつつ、言う。
「いい加減身のほどをわきまえろ……やかましいんだよ貴様ァ!」
と、ゲイルリンドは、父親譲りの剣幕をもって、アルトリウスを叱責する。
「ひっ、すいません……」
アルトリウスが怯え、黙り込んだや否、ゲイルリンドはネロアの方を向いて言う。
「俺は、勝たなければいけない試合に負けた……ただ他人の背中についていくだけで得た強さしか持っていなかったが故に!
だがお前は違う! ただ人の背中についていくだけで得た強さだけでなく、自分を押し通すための強さでもなく、誰にも真似できない、大きな物を動かす強さを持っている!
だから、ネロア殿! お前なら父さんに勝てる!」
そのゲイルリンド――かつての宿敵であったゲイルリンドからの激励を受けて、
「ええ、勝ちますよ! 僕は負けるためにここに来たんじゃないんですからね!」
と、堂々言い放ち、剣を構え直し、再び橙瀧と向き合う。
「ネロアが俺様に勝てるとは……最強に面白い冗談言うじゃねぇか、ゲイルリンド。
だが、俺様とて、負けるためにここに来たんじゃないんだぞ!」
橙瀧は、追い風を起こし、それを受け、ネロアとの間合いを詰める。
対するネロアは、
「アンティルさんとレイザックさん同様、僕も特訓してきたのですからね……【モンスターコール:スケルトン4】!」
己の前方に、絢爛たる装備を纏うスケルトン――【オーバーロードスケルトン】を二十体召喚する。
アンティルとレイザックは揃って驚く。
「「4!? まだ上を隠していたのか!? ネロア(さん)!?」」
「ほう、こんな物がまだ……勿体ぶるとはいけ好かないな! ハァッ!」
橙瀧は先程同様、己より放たれる暴風を強くし、スケルトン達の殲滅を試みる。
だがこの【オーバーロードスケルトン】は、先程の【マジェスティックスケルトン】よりもワンランク上の存在。暴風をもろともせず、橙瀧に斬りかかりに征く。
「今度はそよ風如きじゃ死なないか。だが!」
橙瀧は迫りくるスケルトンを片っ端から殴る蹴る、そして四、五体倒す。
「所詮雑魚には変わり無い! こうして愚直にぶちのめせば倒せる!」
「ですがそれまで、果たして死神は待ってくれるでしょうか!」
橙瀧は気づいた。だがもう遅かった。ネロアの紐付き剣には、既に、禍々しい漆黒を帯びていた。
「災の果てに死あり、それが真理! 【死神の凶器】!」
ネロアは紐付き剣を、まだ生き残っているスケルトン全てにめがけて振り回し、それらを一撃死させる。
そしてスケルトンたちより、七種の霊魂――【遺言】がドロップし、橙瀧一点に向かって飛んでいった。
橙瀧は暴風なり稲妻なりで【遺言】の打ち消しを試みる。だが、遺言はなにかに当たるまで何があろうと決して止まらない。
そして七種の【遺言】全ては、言うまでもなく橙瀧一人にすべて当たる。
そして橙瀧は、様々な状態異常の上位互換である、【傲慢】、【嫉妬】、【憤怒】、【怠惰】、【強欲】、【暴食】、【色欲】を受け――総じて、凄まじいスリップダメージと行動制限を受け、両膝を突いた。
「「やっ、やったぞぉぉぉ!」」
かくて、アンティルとレイザックは揃って喜び、
「どうにか、なりましたね……」
ネロアは、【色欲】の効果で橙瀧からHPを吸い取りながら一息つき、
『なっ、橙瀧様……ゲフン、まさかまさかのどんでん返しッッッ! あのロジスティクス・サーガ最強の橙瀧が、満身創痍のネロアが繰り出した一策で、とうとう膝を突いたァッ! 流石は化神官同士の戦い、勝負の行方も神のみぞ知るという事なのかァ!』
実況役のウェンリーはこの逆転劇を、己の気持ちがままに実況し、
「流石だネロア殿! ヴァイス様に辛酸を舐めさせただけの逸材だ!」
「すげえよネロア!」
「あの橙瀧をこう追い詰めるなんて! ヤベェ!」
ネロアの応援者は彼女を褒め称え、
「なぁぁぁぁぁにやってるんだよ橙瀧の馬鹿ァッ!? くたばってるんじゃねえよ、お前はクズネロアを倒すんだろうがァ!?」
「負けるな橙瀧! お前はカメセスコアの代表なんだぞ!?」
「ロジスティクス・サーガ最強のプレイヤーがこんなんでいいのかァ!?」
橙瀧の応援者は彼を叱咤し、
そして、
「ウォォォォッッッ! ハアァァァッツ!」
橙瀧は雄叫びを上げ、立ち上がった。
橙瀧以外の闘技場にいる人間全員が、この状況に、目を疑った。
もちろんネロアも例外ではない。
「そんな……七種の状態異常を食らって、立ち上がれるなんて!?」
ネロアは、さては【災神の始動】にHP自動回復だけでなく、状態異常を回復する効果があると予測した。
しかし、まだ自分に橙瀧から吸収されたHPが届いていることから、それはないと判断する。
故に、彼女は、我ながら強引な解釈をせざるをえなかった。
――橙瀧は、素の肉体の力と、ロジスティクス・サーガ最強としての意地で、状態異常を無視し立ち上がった、と。
『ああ、やはり橙瀧はロジスティクス・サーガ最強だァッッッ!
そうでなければ、ネロア渾身の奇策を食らっても立ち上がった、こんな現実起こせるわけがない!』
橙瀧は、無理くり笑顔を作り、息を荒くしながらネロアに語りかける。
「……ネロア、貴様はよくやった。よく俺様に一度膝をつかせた。よく、俺様をこう、最強に訳がわからん状態にしてくれた。そしてよく、強さを見せつけてくれた」
「はい。ありがとうございます」
「……だが生憎この錦山橙瀧は、ロジスティクス・サーガ最強の名を頂いているが故になぁ、何としてでも負けられんのだッッッ!
故に、まだ戦いは終わらないぞッッッ!」
「望むところですよ。橙瀧さん!」
そして二人は、
「【竜牙殺到】!」
「【哀連鎖の積】!」
一瞬一瞬、全力をかけて、攻防を繰り広げた。
橙瀧はネロアによってかけられた状態異常により、思うように身体を動かせなかった、ネロアもこれまでの橙瀧との戦いで消耗していた。
互いに満身創痍――故に互いに全身全霊で、国、誇り、仲間、息子――様々なものを背負い、勝利の二字を目指した。
そして、勝負の行方が間近に迫ったことを意味する出来事が起こった。
「【竜尾凱旋】!」
「【蒙昧罪の断】!」
ネロアが橙瀧の回し蹴りを、剣で受け止める。 だが橙瀧がその蹴りに全力を込めたことで、ネロアは剣を蹴り飛ばされてしまう。
ネロアは剣に繋がった紐を引き、剣を回収しようとする。が、その前に、
「【竜翼縦断】!」
橙瀧がその紐に渾身の手刀をあてがい、紐を切断する。おまけに両手より磁力を放ち、ネロアの剣を、持ち主から遥か遠くへ飛ばす。
そして剣は、観客席を守るバリアに突き刺ささった。
『あーっとここで橙瀧、ネロアに致命的な一撃を入れたッッッ! ネロアの最大の抵抗する術であるはずの剣を手放させるという一撃をッッッ!』
「これは、万事休すってところじゃないか? 武器を失った……万事休すってところかぁ?」
「……いいえ。まだ僕には武器があります」
と、言いつつネロアは拳を構えてみせる。
「結局最後に頼れるのは、己の拳か……だが、貴様はそれでいいのか」
「いいんですよ……己を押し通せる手段であるだけで、僕はこれを十分頼れます」
「ガハハハハ! 最強に勇ましい覚悟だ! ……ならばこの錦山橙瀧、それを相応の力を持ってして歓迎してやらねばあるまいな……!」
橙瀧は原点回帰として、両拳に水流を帯びさせて構え、ネロアへ接近し、まずジャブを繰り出した。
ネロアはそれをギリギリかわしていき、やがて橙瀧のジャブとジャブの間のタイミングを見切ったところで、
「【死神の凶器】!」
右拳に禍々しいオーラを纏わせて、橙瀧の胴にパンチを打ち込む。
だがこれはまともなダメージにも牽制にもならず、すぐさま橙瀧からカウンターを食らい、後退りさせられた。
「なっ、何してるんだネロアの奴!? 色んな意味で熟練の格闘家である橙瀧に、殴り合いなんかしたって何にもならねーだろ!?」
そういうアンティルに、レイザックは軽くイラッとしながら、
「お前こそ何言ってんだアンティル! 今、ネロアが一発入れられたパンチをちゃんと見たか!? あの禍々しいオーラがくっついてただろ?」
「あ、確かにそういえばあの【死神の凶器】っぽいオーラがチラっと見え……ま、まさか!? ネロアの奴……」
「そうだ、ネロアさんは、極僅かな可能性に身を賭しているんだ……」
ネロアのスキル【死神の凶器】は、根本的に言うと、一定確率で相手を即死させる技である。
この類いの技はRPGなどのゲームでもよくある通り、ある程度敵が強いと通じなくなる。その仕様は本作でもきっちりある。
ただし、どれだけ実力差があろうとも、ロジスティクス・サーガ内ではその確率は決してゼロにはならない。
ネロアはその小数点の遠い先にある、針の穴並の僅かな可能性を掴もうと、ああして橙瀧に格闘戦を挑むことにしたのだ。
その真意は、橙瀧も薄っすらと気づいていた。
「蟷螂の斧……はかない抵抗だな。」
「けど何もしないよりはいいと僕は思いますよ。HPの持つ限り、僕はこうして貴方に立ち向かい続けてみせます……」
「そうか……正直、どっちかと言うとこんな悲しいことをするお前なんか見たくない。
だから、なるべく早く片付けてやろうッ!」
橙瀧はネロアに追い風を使って急接近し、ボクシング選手時代に披露した、傍目ではどの種類のパンチかわからないくらい素早いコンビネーションを繰り出し、ネロアを怯ませ仰向けに倒す。
すかさず、橙瀧はネロアの両足を抱え込み、その間に自分の右足を通す。
ネロアの足を膝上でクロスさせ、しっかりと脇に挟んでロックしたところで、橙瀧は右足を軸に反転する。
こうしてネロアは足腰を締められると同時に、呼吸が困難な状態に陥った。
「ご、ごれは……プロレス技の……」
「サソリ固め、あるいはシャープシューターとも言う。さっさと決着をつけるためにはまずこれだろうと思ってな……!」
ネロアは地面を手のひらでバンバンと叩きながら、可能な限り身体を揺らした。
最中、ネロアは考える。
(十五秒……十五秒耐えれば、ロジスティクス・サーガの仕様で解放される。その瞬間に即座に反撃をすれば……)
「ところでネロア、このゲームにおける関節技の仕様は知ってるか?」
「!?」
「このロジスティクス・サーガってのはレーティングの関係で、関節がヤバい方向に曲がったりすることはない。
だからこういう関節技をすると、その完成度に応じて、数秒間のスリップダメージが発生し続ける。で、その時間が過ぎると謎の反発力によって極めた側が吹っ飛ぶんだ。
で、俺様の感覚からして、このサソリ固めはあと六秒で終わる。だからその前に……こいつをお見舞いしてやるッッ!」
橙瀧は自分の足元から上昇気流を発生させ、ネロアを掴んだまま空中へと舞い上がる。
バリアの天井が間近に迫ったところで橙瀧は上昇をやめ、
『あーーーーっと! この出だしは、橙瀧がプロレスラー時代に僅か一回だけ披露した、ハイパー・デンジャラス・フェイバリットだーーーーっ!
その禁じられた伝説が、ここロジスティクス・サーガのダイナミック物理によってついに蘇るーーーーっ!』
「残り三秒! それまでに心の準備をしやがれ、ネロアッッッ!」
橙瀧は重力に身を任せつつ、轟々と風を斬りながら、横軸で回転しながら闘技場の地面へと戻っていき、そして、
「『ゲオルギウス・スープレックス』!」
ネロアの頭を思い切り叩きつけながら、その土に着地した。
サソリ固めの時間が切れ、橙瀧はネロアから吹っ飛び、十メートルほど離れさせられる。
そこから橙瀧は、うつ伏せのまま倒れるネロアの様子を見つめた。
『ワーン! ツー! スリー! フォー! ファーイブ!』
観客全員が様々な感情から騒然とし、まともに声が出ない中、ウェンリーのカウントダウンだけが鳴り響く。
(た、頼む、ネロア、立ち上がってくれ……!)
(まだ魔石は壊れていません……無理しろっていうわけではないですけど、どうか、まだ希望を持ってください……)
そして実況席のウェンリーが『ナ』の字を言いかけた瞬間、ネロアは飛び上がって立ち上がり、すぐさま禍々しいオーラを帯びた拳を、橙瀧へ一発叩き込んだ。
「ま、まだやりますよ……僕は……!」
『あーーーっと! やはりネロアは我々の期待を遥かに超えてくるーーっ! あの橙瀧の大技を食らってもケロっと立ち上がったーーっ!
それも、正直この星竜大戦にカウントダウンルールはないので、別に「テン」と言い切る前に立ち上がらなくてもよかったにも関わらず、きっちり空気を読んで立ち上がったーーっ!』
橙瀧は拳を押し付けっぱなしのネロアに、優しめの掌底を食らわせて、距離を取らせた後、
「あれは俺様の全格闘家人生の中で一番キツイ攻撃だと思ってたんだがな……ここはやっぱりロジスティクス・サーガだから、そこでの奥義を使うのが一番だったか」
橙瀧は右拳を引き、それに暴風と激流を纏わせていく。その暴風と激流は徐々に強くなり、世界滅亡の予兆を彷彿させるほどにまでなっていく。
「今度の今度こそ、これでKOだ……文句はないな!?」
対するネロアは、少しばかり足元をふらつかせながらも、拳を構えて、はっきりと返す。
「ここまでお付き合いくださいまして、ありがとうございました!」
「よろしい、では征くぞォッッッ! これがロジスティクス・サーガ最強のプレイヤー、錦山橙瀧の最強の歓迎だァッッッ!」
そして橙瀧は地を蹴り、瞬く間にネロアとの間合いを詰め、
「【竜頭君臨】!」
怒り狂い、世界を滅ぼさんとする竜の如き、暴風と激流を帯びた正拳突きをネロアに放つ。
そしてその正拳突きは、ネロアの顔面を『かすめる』。
ロジスティクス・サーガ最強のプレイヤー、橙瀧より賜ったかすり傷による痛みを全力でこらえながら、ネロアは、
「【死神の……凶器】ッァァア!!」
禍々しい漆黒のオーラを帯びた拳を、橙瀧の空いた懐に叩きつけ、
「ウラァッッッ!」
同時に、懐を狙われることを察知した橙瀧の膝蹴りを食らう。
「お……おわっ……」
そしてネロアはバタリと地に寝そべり、間もなく、彼女が持っていた【救命の魔石】が砕け、彼女を中心にバリアが張られた。
「ネ、ネロアァァッ!?」
「そんな、ネロアさんが……」
観客席が十人十色の反応をし、ざわめく中、『それ』をはっきりと確認した、実況席にいるウェンリーは、ゆっくりと魔石を手に取る。
『……皆様、しかと目撃したでしょうか。災の神と死の神の代理者、最強と最恐と呼ばれる者の戦いが、ついに、ついに終わりました……勝者、錦山橙ろ……』
ウェンリーは、いや、闘技場にいる観客全員は、言葉を失った。
――橙瀧が、勝利のガッツポーズをする前に、倒れ、そして己を中心にバリアを張ったのだ。
アルトリウスは言う。
「な、何でだよ? 何でここで橙瀧が倒れるんだよ!? 確かにクズネロアのせいであれこれスリップダメージ受けてたけど、【災神の始動】の効果でHPは回復出来ていただろ! なのに、なのに、どうしてここで倒れやがる、橙瀧ォォォ!?」
その隣にいるゲイルリンドは、嬉しそうにも、悲しそうにも見える、複雑な表情をしながら、
「……簡単な話だ、ネロア殿が己の強さで押し通したんだ。逆転の奇跡にまで」
そして観客達は言う。
「おいウェンリー! 早く誰が勝ったか言えよ!」
「先に倒れたのはネロアなんだ、だから早く、橙瀧が勝ったって言えよ!」
「ウェンリー、お前もそこまで残酷じゃないよな!?」
「ネロアは頑張ったんだよ! だからよ、それを認めてやってくれよ!」
観客たちは割れた。
最強を貫き通した橙瀧と、無謀な戦いに最恐を押し付けたネロアに。
それらの声を聞き、ウェンリーはうっかり手放してしまった拡声魔石を拾い、目に熱い物を滲ませながら、己の使命を全うする。
『橙瀧様は、相変わらず最強であり続けました。ネロアさんは、最恐として運命的な物をひっくり返してしまいました……両方とも、己の強さを出し惜しみなく発揮し、そして掴むべき物を得たはずだと僕は思います!
ですが、ですが! ここは、星竜大戦は、『勝負』ではなく『試合』です……ですから、ですから! はっきり言って僕ですら言いたくないのですが! ここはきっちり言うのが、双方に対する敬意だと思い、発表します。
……星竜大戦優勝者は、【双魚星竜】、災国カメセスコア【化神官】、錦山橙瀧……です……』
観客たちが戦乱の如く大荒れする中、幾多の熱き戦いを生んだ星竜大戦は、幕を閉じた。
だが、その果てには、完全無欠の勝敗は定まらず、勝者の腕が上がることは無かった。
【完】
ロジスティクス・サーガ・データベース
■キャラクター紹介
【錦山橙瀧】
分類:プレイヤー
所属:災国カメセスコア
レベル:100
ジョブ:【格闘家】/【化神官】
災神ジャグガバゼパに選ばれたロジスティクス・サーガ最強のプレイヤー。【双魚星竜】として十二星竜の頂点に立つ。
現実世界でも偉大な格闘家であり、筋金入りの戦闘狂。
ヘブンズレイドで覇権国ミレアを打ち破ったネロアとの戦闘を望み、彼女の約定解きの使命を利用して、自分主催のトーナメント大会【星竜大戦】に彼女とその側近二人を引きずり込んだ。
カメセスコアの【格闘家】は、紛うこと無きそれのように、複雑な効果のスキルなどを用いず、格闘攻撃のみで相手を倒す、超物理攻撃特化に仕上がる。
彼は【双魚星の竜眼】で拳に水流を纏わせて攻撃力を強化し、現実世界・ゲーム世界問わず数多の年月と鍛錬をかけて積み上げてきた格闘技術を容赦なく叩き込む。
さらに彼にはジャグガバゼパから賜った【災神の始動】というスキルがある。
その効果は他の十二星竜が使ってたような、厄災を模した力を全て使用できるようになるというもの。これにより彼は……もはや説明するまでもないだろう。
執筆上の話としては、読者の皆様に「これ以上強い敵は、当分出しませんよ!」ということをアピールするために登場させたキャラクターです。
ネタバレ防止のため詳しくは言いませんが、この後ネロアが戦う敵は、どちらかというと能力の攻略の難しさに力を注いだキャラクターが多くなっています。




