49.怯える栄光
星竜大戦第一回戦第六試合、『【双子星竜】ノーヴァ・ハルモニア VS 【天蠍星竜】スノウ・ファウンデン』。
斬った物を問答無用で凍らせるスキル【天蠍星の竜眼】を持つ【魔剣士】スノウ。
対して、手なずけたモンスター二体を融合させるスキル【双子星の竜眼】で作り上げた【ファイア・サンダー・ドラゴン】を連れてきた【竜騎士】ノーヴァ。
ノーヴァは愛竜とのコンビネーションでスノウを一方的にボコボコにして勝利した。
第一回戦第七試合、『【山羊星竜】ジョージ・ポール VS 【乙女星竜】アルトリウス・ノープライド』。
ジョージはスキル【山羊星の竜眼】で、宇宙から隕石を呼び、無差別範囲に超威力の攻撃をする事から、『虐殺王』と呼ばれている名高いプレイヤーである。
今回の試合も、その竜眼を使い隕石を呼び込もうとした。
だがその前に、相手であるアルトリウスが放った正体不明の黒い煙を吸った途端、彼は攻撃を止めてうなだれ、自らあっさりと降参を宣言するという、えげつないエンディングを迎えた。
そしてついに第一回戦最後の試合――第八試合が始まる。
レイザックが舞台に出た途端、ここは北国になったのかと言わんばかりに、ますます震え始めた。
向かいからやってくる対戦相手が、ざっと全高四メートルほどの、両腕が巨大ハサミになったパワーアーマーを着てやってくるのだから。
『一方より来たるは【巨蟹星竜】鳳凰丸戦禍! ジョブ【職人】である彼女お手製の、数々の強者の首を獲ってきたパワーアーマー【万裁の鋏】のイカツい装甲が今日も煌めいている!
もう一方からは、あのネロアの臣下、レイザック! こちらは鎧に剣に盾と、THE【騎士】の素朴な風体で登場だ!』
余裕綽々に観客へピースサイン――というより、装備の都合上それしかできない――を送る戦禍とは真逆に、レイザックは、ひどく緊張し、怯えていた。
(な、何だよあのカニ女……あんなヤバそうな代物堂々身につけてきやがって……! こんなのありかよ!)
負けたくない。恥をかきたくない。そもそもこんなどうせ負ける戦いなんてやりたくない。それがレイザックの本心である。
しかしそんなワガママは何の意味も成さない。それを知らしめるように勝負開始の鐘が鳴り響き、
「粉骨砕身の気概と、特訓の成果で立ち向かえ、レイザック!」
「オレっちは負けたが、お前は勝てよなぁー!」
ネロアとアンティルの『応援』が、容赦なく彼にのしかかった。
「さあ、あなたも斬り刻まれて貰いますよ」
戦禍は脚部に装備した駆動機構を発動し、レイザックとの距離を縮める。
戦禍は【巨蟹星の竜眼】の効果は、『油を生み出す』だけ。だが彼女はこの油を、手製の両腕両脚の機構にパイプを通して流し込み、無理くり火力を向上させるという活用法を見出し、数々の輝かしい戦歴を辿っている。
そんな戦禍の肩慣らし――シンプルなハサミによる突きがレイザックに迫る。
レイザックは及び腰で盾を突き出し、それをガード。ダメージこそは無いが、及び腰と圧倒的質量差により、強烈なノックバックで後ろに退く。
戦禍はすかさず最接近し、体勢が崩れたレイザックをめがけ、ハサミで薙ぎ払う。
これはレイザックは、地面に倒れ込み回避する。
それから、戦禍は無限の動力と装備の出力でレイザックへ猛攻を仕掛け続ける。
だがレイザックは、戦禍から、背を向け、逃げ続け、どうにかHPを温存し続けていた。
「おいレイザック! 逃げてないで戦え!」
「そういう勝負してるんじゃないぞ! お前!」
この状況は言うまでもなく、観客にとっても面白くなく、レイザックは罵声の雨を浴びせられる。
「何しているレイザック! 真剣に相手と向き合えないのか!」
無論、ネロアもご立腹であった。
「はぁ、オレっちは、やっぱレイザックがこうなるとは思ってたんだよな」
かつて、アンティルはレイザックと同期でミレアに属した。故にアンティルは、レイザックがどういう性格なのかをよく知っている。
「アイツは上に従順過ぎるんだよ。だからミレアで、やれと言われたことを全部考え無しにやって、自分より上級の国民に媚売って暮らしてた。
それでいて、奴は『プライドが高い』。だからもし上司の任務を失敗したりしたら、辻褄を上手いこと合わせて保身をする……嫌な現実から逃げるんだよ」
ネロアはアンティルに言う。
「なら、僕に従って奮戦して欲しいのですが」
アンティルは言う。
「なら多分、アイツはネロアのことを上司だと思ってないんじゃねえか? そもそも奴がここに来たのは『ミレアに居辛い』っていう現実から逃げる為であって、不本意の結果だ。
だからアイツ、『ここで負けたって何も傷つかない』とでも思っているんだろうよ」
「なるほど、そうですか……ならすみません、アンティルさん。僕、今から一芝居打たせていただきます」
と、ネロアはアンティルに断りを入れておき、アンティルを殴り始めた。
「いだっ、何しやがるんだよネロ……」
「よくも、よくもトードイスムカ人の分際で敗北の二字を背負い、このネロア・ルォーナピアナの眼前に戻れるか! この恥晒しの極点が如き下衆めが!」
突然の事態にわけもわからず、アンティルは痛がり、他の観客もお構いなしに絶叫する。
「うわ、あのトードイスムカの化神官、急に部下への制裁を始めたぞ!」
「アンティルはアイツよりかはまともに戦ったのに、あの仕打ちかよ!」
それ故に、周囲でそのネロアの『非情さ』が広まっていく。
『おおっと、観客席ではトードイスムカの化神官、ネロアの、一回戦敗退した部下に対する折檻が始まったァ! 今更感が凄まじい、死国トードイスムカ人らしい無茶苦茶っぷりだァ!』
最終的に、その様子は実況者であるウェンリーに拾われ、闘技場全体に伝わってしまった。
「何、アンティルがネロアに!?」
無論、その『全体』には、絶賛逃亡中のレイザックも含まれている。
(しかし何故今更になってあんなことを。救護室ではあれだけ優しかったのに……さては俺を脅すためにアンティルを犠牲にしているのか……くだらないな)
と、レイザックはその意図を見破り、ネロアの焚き付け作戦を『三文芝居』とし、無視する。
(……だが、そんなくだらない作戦で動かさなければならないほど、俺は情けなくなったのか!?)
だが、この作戦は『レイザックのプライドを傷つける』という形で、彼の闘志を焚きつけるのだった。
レイザックはネロアとアンティルのいる方に向けて、こう言い放つ。
「ネロアさん! これ以上アンティルを殴るのをやめて貰えますか! 聞いてて恥ずかしいですから!」
そして、彼は逃げるのをやめ、戦禍と再び対峙する。
「やっと戦う気になりました……いや、無惨に切り裂かれる気になりましたか!?」
「いいや、俺は勝つ! ミレア人としても、トードイスムカ人としても恥をかくのは、ごめんだ!」
「そうですかぁ! じゃあ精々この【万裁の鋏】の猛攻を耐えてくださいまし!」
戦禍は両腕で何度も何度もレイザックに突きや払いを繰り出し、レイザックは盾や剣でどうにか耐える。
それどころか、
「【闇の一振り】!」
やれる限りのスキルを発揮し、反撃を試みるようにもなった。
このレイザックの抵抗を、戦禍は高出力で動く装備で容易くあしらいながら、決心する。
「ほう、基礎中の基礎の技に関しては、防げるようになりましたか。なら、いよいよ【万裁の鋏】を本格作動させますか」
戦禍は片腕のハサミを開き、レイザックの首に押し付ける。
『ついに、ついに戦禍がハサミを開いたぁ! ああ、また増えてしまうのか! この超馬力の切断攻撃で、問答無用に命を狩られるプレイヤーが!』
この時、レイザックの脳裏には、ある思い出――トードイスムカの首都【冥都】で、ネロアと散歩をしていた時のことが浮かび上がっていた。
*
その時レイザックは、道行くトードイスムカのプレイヤーを見て、こんなぼやきを言った。
「いいなぁ、みんな。強そうな装備を着ていて……俺もまともな装備を持ってれば、剣術が上達するまでの間のしのぎにはなるんだろうなぁ」
するとネロアは、こう言い返した。
「それはよくない考えだと、僕は思いますよ」
「いや、俺はいい装備を着たプレイヤーの方が強いのが、RPGってジャンルの基本と思いますよ」
「それはそうですけど。逆に『強い装備を身に着けた結果、それに過信しすぎて負ける』案件もあったりするんですよ。
例えば、重厚な鎧を着た人達が、『防御力を計算しない刀』で紙切れのように斬られたという案件がありました」
「ノルガードのことですか。それ」
「はい、調和の砦を攻めた時に、その光景を見ました。あと、五造つながりでオルディッツも似たようなしくじりをしていました。
あの人は『相手の行動予測能力』を持っていましたが、その能力は相手の行動の意図までは予測出来なかった――その能力の穴を考えていなかったために、僕に事実上敗れました」
「あのオルディッツに、そんなことがあったのか……」
「はい。とにかく、僕からはこのアビスさんの言葉を送らせていただきます。『人が最も頼るべきな人は自分』。
ですからレイザックさん、これからも自分に自信が持てるように、特訓がんばりましょうね」
「は、はい……」
*
「確かにそのハサミ攻撃、防御するのは無理そうだな! ならば俺は……こうするまでだ! 【ダークマター・ソーサー】!」
迫りくるハサミの関節部めがけ、レイザックは、闇属性エネルギーの丸ノコギリを放つ。
彼もアンティル同様、ミレアより【Dt-Do】を没収され、これまでの光属性体内生成アンド【エンチャント・エミット】のコンボが使えなくなった。
そのため彼は、その戦術をトードイスムカで再現できないかと考え、結果、魔法と剣術の両方を使えるジョブ【魔剣士】にジョブチェンジしたのだ。
その賜物の一つが、ただいま戦禍のハサミの関節部に食らいつく、闇の丸ノコギリ――闇属性魔法【ダークマター・ソーサー】だ。
『おっと、このウェンリー、観客に一つ謝るべきことがありました! レイザックは【騎士】ではなく、【魔剣士】だったようです! 申し訳ございません!
えー、では、気を取り直して。レイザックの【ダークマター・ソーサー】が、関節部に食い込む!』
「機械の脆い部分といえば、やはり関節部分でしょうね……それを今まで隠していた、魔法で突くとは、まぁすばらしい奇襲作戦だったと思いますよ。ですが……」
戦禍は開いてたハサミを閉じ、闇の丸ノコギリを両断する。
「あまり【万裁の鋏】の出力を、過小評価しないでもらえますか?」
と、戦禍は堂々、正面にいるレイザックに言い放った……つもりだった。
「ウォォォォ!」
レイザックは戦禍の正面にはおらず、彼女の懐へと飛び込んでいた。
一度閉ざしたハサミは、また開かないと使えない。
当たり前だが大事なことを踏まえて、その隙を狙っての勇敢な行動である。
「残念、ハサミは片方だけではないのですよ!」
戦禍は丸ノコギリを切ってない方のハサミをレイザックに突きつける。
「そんなに斬りたきゃ、これでも斬ってろ!」
レイザックは左手に持っていた盾を勢いよく放り投げ、迫りくるハサミを一瞬だけ止める。その隙にレイザックは、剣を強く握りつつスライディングで戦禍の股を抜け、背後に回る。
「そんなありきたりな作戦が通じるとでも!?」
しかし彼女は脚部の機構を至急稼働させ、百八十度旋回し、レイザックをハサミで払い飛ばした。
その馬力は凄まじく、レイザックが防御らしい体勢をとらなかったのが災いし、レイザックはHPを一気に半分持ってかれた。
だがその時、レイザックは……笑っていた。
「さぁ、もう一撃お見舞いして、早い所【救命の魔石】を砕かせていただきま……な、何やら焦げ臭……!?」
なんせ、戦禍の脚部機構に突き刺した剣に、油が伝って流れている様子が見えたのだから。
「い、いつの間にパイプが斬られた! ……はっ、まさかあのスライディングの時に!」
「そもそも俺は貴様の懐に飛び込んだ時点で、胴に思い切り剣を突き刺すとか、最高出力の魔法をぶっ放すとかも容易く出来た……だが俺はそれをあえてしなかった。理由は二つ、それでもまともなダメージを与えられないだろうと思ったからと……」
斬られたパイプより溢れ出る油は、絶賛稼働中の機構に染み渡り、そして……
「その装備に頼り切ってイキるお前を、一発爆ぜさせたかったからだ!」
ものの見事に【万裁の鋏】全体を流れる油に引火し、戦禍は爆発した。
「そ、そんな……折角の、私の装備が……!?」
流石は【十二星竜】の一角を担う女、鳳凰丸戦禍。あれだけの大爆発を食らっても、まだHPは半分以上残っていた。
しかし、彼女の強さの根源と言ってもいい【万裁の鋏】は、ことごとく大破し、
「……あ、あなた! もはや何も抵抗手段のない人をいたぶるのは、いささか下劣だと思いますよ!」
「けどこれは試合なんですよ。何です? 愛機を壊した損害の示談でもしたいんですか?」
「……参りました」
そしてウェンリーは拡声の魔石へ高らかに叫んだ。
『勝者! レイザック!』
「何だ、やればできるじゃないですか、レイザックさん」
「クッソ、レイザックのヤツめ、保険張っといた割には勝ちやがって。オレっちは負けたのに……」
そして、再び闘技場には、トードイスムカのプレイヤーの恐ろしさを讃える歓声が轟くのだった。
「……戦禍は至極納得いかないだろうな。まさかあの自慢のアーマーを、肩書のないプレイヤーごときに壊されるとはな」
と、実況室でこの戦いを見ていた橙瀧は、そうつぶやいた。
「そしてレイザック君は見事に盛り返してみせたね。これ、ひょっとしたら第一回戦内のベストバウトかもしれないよ」
「貴様の言うとおりだ、ウェンリー。
本当、ネロアたちをゲストに呼べてよかったぞ。あの第一回戦の様子からして、どうやら他の連中もだいぶ腑抜けてたみたいだからな。これはきっといい刺激になっただろう。
さて、ウェンリー、皆に向けて、第二回戦の対戦カードを発表しろ」
ウェンリーは再び拡声魔石を手にし、橙瀧達闘技場にいる者全てに、第二回戦の対戦カードを発表する。
『それでは、これにて第一回戦全ての試合が終了しましたので、早速第二回戦の対戦カードを発表します。
とはいっても、皆様もお手元のトーナメントに書き込んでることをそのまま言うだけですがねー……
第一試合、『【双魚星竜】錦山橙瀧 VS 【金牛星竜】稲葉弦迅』!
第二試合、『【天秤星竜】ウェンリー・イーブネス VS 【ミレア五造:排】ゲイルリンド・A・ハング』!
第三試合、『【トードイスムカ化神官】ネロア・ルォーナピアナ VS 【双子星竜】ノーヴァ・ハルモニア』!
第四試合、『【乙女星竜】アルトリウス・ノープライド VS 【ネロアの側近】レイザック』!
以上、こちらが第二回戦の対戦カードでございます! これからも、この【星竜大戦】に、皆様熱い声援をよろしくお願いします!』
発表を終えたウェンリーは拡声魔石を手放し、一息つく。
そこへ橙瀧は、普段の声色よりトーンを落として言う。
「次の貴様の対戦相手は、ゲイルリンドだな」
「そうだね。ミレア国内では『ひょっとしたらヴァイスよりも強いんじゃないか』とか噂されているプレイヤーだ。
そして何故かこの【星竜大戦】に参加を決め込んだ謎の男だね。
まぁそれでも、僕は絶対勝つつもりだけどね。だってこの試合で勝てば、準決勝で橙瀧様と戦うことになるんだよね? それも本気でさぁ」
「ああ、そうだ。俺様も貴様とこの大衆の目の前で最高の試合をしたいんだ!
だから何としても、ゲイルリンドを倒すんだぞ、いいな!」
「うん、わかってる」
そして橙瀧は、次の弦迅との戦いの為、実況室を出る。
その直後、ウェンリーはこうつぶやいた。
「おかしな血相をしてたなぁ、橙瀧様。ゲイルリンドの名を聞くたびにさぁ。
……やっぱ、彼を呼んで正解だったね」
【完】
ロジスティクス・サーガ・データベース
■キャラクター紹介
【レイザック】
分類:プレイヤー
所属:死国トードイスムカ
レベル:60
ジョブ:【魔剣士】
かつてミレアにいた少年。
堅実な性格であり、それを活かしてミレアでかなりの地位に上り詰めたが、それのせいで余計なプライドが身についてしまっていた。
ネロアとシュラに敗北し、完全に落ちぶれ、ヘブンズレイドを経てもミレアには居場所がなくなってしまい、同期のアンティルに倣う形でトードイスムカに移籍した。
トードイスムカの【魔剣士】は、剣技はもちろんのこと、闇属性の魔法を得意とする。
覚えられる魔法は物の破壊に特化したものが多いため、どちらかというと攻撃手段よりかは防御に使ったほうがいいものが多い。
今回のジョブチェンジは彼がミレア在籍時に使っていた、光属性の放射を可能な限り再現しようとしてのことである。




