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ロジスティクス・サーガ ――死せる神と、外道の正義――  作者: 都P
CHAPTER5 ロジスティクス・サーガ最強のプレイヤー
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48.トードイスムカの意地

 錦山橙瀧がユーキナミトをものの数秒で殴り倒す。という衝撃的ながらも橙瀧らしい展開で第一回戦第一試合を終えた『星竜大戦』。

 それによる観客の驚愕や興奮も冷めぬまま、


『それでは第一回戦第二試合!』

 本大戦の審判兼実況のウェンリーは、次の試合へ事を進め、それに従い、二人のプレイヤーが選手入場口より現れる。


『今回対戦する相手は……こいつらだ!

 まず片方はあのロジスティクス・サーガイチイカれた連中の巣窟、死国【トードイスムカ】からのゲスト参戦、化神官の臣下、アンティルだ! イカした黒コートに、黒光りが眩しい長銃を携え、堂々この戦場にやって来たァ!

 もう片方は【金牛星竜】稲葉弦迅! アンティルは彼に対抗心を覚えたのだろうか? 彼は今回も仕立て良質な黒色の陣羽織を羽織り、されど武器らしい物を携えず、女性人気もうなずける壮麗な面構えで、悠々と戦場に上がっていく! 弦迅よ、今回も魅せてくれるか『鳴り止まぬ雷』の異名を!』


 ウェンリーの実況通り、アンティルと弦迅は闘技場中央に向けて歩いて行く。


 まず、アンティルはスポーツマンシップに従い、挨拶する。

「どうも、トードイスムカから来ました、アンティルって言います! よろしくお願いします」


 

 弦迅も同じように、礼儀正しく挨拶した後、彼へ物々しくこう問いかけてくる。

「……死国の民よ。貴様はどのような野望が為に来た」


「えっと、オレっちの友達のために付き合ってるんだよ!」


 弦迅はフッとアンティルを嘲笑い、そしてこう啖呵を切る。

「戯言を申すなっ! 貴様のような半端者に、このカメセスコアを踏みにじらせはせぬ!」


 直後、戦いの始めを意味する鐘が鳴り響く。


 開幕、弦迅は腰に提げた刀の柄に手を触れ、

「【迅雷矢】!」

 その手をすぐにアンティルへ向け、そこから稲妻の矢を放つ。


「よっし、トードイスムカ人としての、新しいアンティルの力、とくと見やがれってんだ! 【モンスターコール:レイス2】!」


 対してアンティルは自分の背後にレイスを召喚する。

 レイスはアンティルの黒コートに憑き、アンティルはそれを翼めいてはばたかせ、空中に飛び、稲妻の矢を避ける。


(あの【Dt-Do】はトードイスムカに帰化する時に没収された……だが、今のオレっちにはこれが出来る)


 アンティルは幽霊の如くふんわりとした動きで、空中を飛び回り、隙あらば発砲する。

 その銃弾はコートに憑いたレイスの火魔法も混ざっており、奇怪な軌道で飛び進み、弦迅に命中する。


「ちょこざしい……【轟雷斬】!」


 アンティルの空中からの銃撃に対抗すべく、弦迅は鞘に納まったままの刀を掴む。

 そして彼は、刀から手を離し、周りの空気をみじん切りにするように手刀を連発する。

 こうして彼は、周囲に雷属性を帯びた斬撃波をまき散らす。


 それをアンティルはヒーヒー言いながらもかわしつつ、あることを思い出す。


 それはかつて、ネロアが言ったことだ。

「どのプレイヤーにもジョブがあります、そしてどのプレイヤーもそのジョブに従った動きをするはずです。ですから、まず相手に勝つには、相手のジョブを見破る事がその第一歩だと思います」


「あの陣羽織のせいですっかり頭から抜けてた……アイツのジョブ、きっと【武士】じゃねぇ、【魔術師】だ!

 ったく、あの和風な格好と抜きそうで抜かない刀はブラフかよ!

 とにかく、魔術師相手なら、つい昨日の特訓で覚えたこの技がある!」


 アンティルは次々と迫りくる斬撃波と真っすぐ向き合い、しかと弦迅に照準を合わせ、

「【ハングリー・バレット】!」


 大口を開けた魔物のような銃弾を放つ。

 間も無くその銃弾は斬撃波に命中し、打ち消され……ず、銃弾は雷の斬撃波を食らい、威力が増す。


「魔法に命中した時、その魔法を食らい威力をUPさせる……それが【ハングリー・バレット】だ!」


 銃弾は次々と飛んでくる雷の斬撃波を食らい、どんどんとパワーアップしていき、そして……


「なん、と……!?」


 弦迅に当たり、大爆発を引き起こした。


『おおっと、ここでアンティルが大技を当てたッ! はやる弦迅の魔法連打を利用し、見事に大技を決めて見せたァッ!』


「おいおいおいおい、やったなぁ、オレっち!」

 と、ウェンリーの実況を聞いて上機嫌になるアンティル。

 しかし、このウェンリーの実況にはまだ続きがある。


『だが忘れてはいないよな、アンティル! 先程僕は弦迅の異名をきちんと言ったことを!』


「あ、え、えーと、なんて言ってたっけ……確か、んーと」


「『鳴り止まぬ雷』だ……この名を知らずして、よく俺に挑めるか。半端者にして余所者が!」


 と、弦迅は無傷の体でアンティルに言った。

 アンティルは目をパチクリさせた。

「さっきあんな大技を食らわしたのに、どうして無傷なんだよ……」


 その真相は、彼のスキル【金牛星の竜眼】。効果は至ってシンプル、『HP永久自動回復』。

 確かにさっきのアンティルの【ハングリー・バレット】はよく効いた、だがそれは、【金牛星の竜眼】の回復量に及ばなかったのだ。


「さぁ、続きと参ろうか……余所者風情よ」


 それから弦迅は雷の矢や、雷の斬撃波を相変わらず放ち続けた。アンティルはその時その時の、最善の一手を打って弦迅を攻撃した。

 だがどの攻撃も全て【金牛星の竜眼】に回復され、無意味に終わった。


 そしてその無意味な攻撃を繰り返していく内にアンティルは心身共に疲弊し、弦迅の攻撃を避けきれなくなり、ついにアンティルは【救命の魔石】によるバリアで囲まれた。


『勝者! 稲葉弦迅!』

 そのウェンリーの勝者宣言が闘技場にこだまするや否、弦迅への称賛の声が上がった。


「……いい勝負をしてくださり、ありがとうございました。トードイスムカの方」


「は、はぁ……どうも……弦なんとかさん」


 そしてアンティルには、弦迅からの挨拶以外の声も上がらず、かれは静かに救護室へ運ばれていった。


「……惜しかったですね、アンティルさん」

 救護室で待っていたネロアは、真っ先に彼を労った。


「……惜しくねぇよ。アイツ、無傷のままオレっちに勝ったじゃんかよ」


 ネロアはいった。

「ずっと回復してたので、厳密に言うとノーダメージではなかったと思いますよ」


「確かにそれはそうだな。ノーダメージクリアの動画だったら絶対レギュレーション違反だろうな。アレは」


 レイザックは言う。

「あれは負けても仕方ない。あんな強力なスキルを持った相手を初見でやるなんて、誰だって難しいだろう」


「へっ、レイザックにしては優しいこと言うじゃんかよ」


「ふっ、後々俺が負けた時に、貴様にとやかく言われないようにするための保険掛けだ」


(……素直じゃないですね、レイザックさん)


「ここか、アンティルとやらの救護室は」

 と、ここで意外にもあの橙瀧が訪れる。橙瀧は回復中のアンティルに向けてこう告げる。


「先程の貴様の奮戦、しかと見ていたぞ。まともな肩書もないのにも関わらず、よくあそこまでの戦いが出来たな。特にあの魔法連打を誘導しておいての大技は、相手が弦迅でなければかなりの痛手になっただろう」


「へ……あ、ありがとうございます」と、アンティルは満身創痍の身体を起こして、橙瀧に礼をした。

「誠に感謝する」

「ありがとうございます」

 相手が橙瀧であるが故に、つられて、ネロアとレイザックも礼をする。


「何がともあれネロア、レイザック。これにて我ら【十二星竜】の異常さがわかっただろう? 故にこれより、さらなる警戒と畏敬を持ってして、大戦をかき乱すがいい」


「「はい!!」」


 この後、ネロア達三人はその橙瀧のありがたい言葉を大事にし、他の勇士の戦いを観察した。


 第一回戦第三試合『【天秤星竜】ウェンリー・イーブネスVS【白羊星竜】ユリウス・ニヴェル』。

 ユリウスはスチールウールをふんだんにあしらった鎧と、自らの体より雷属性を生み出すスキル【白羊星の竜眼】の組み合わせで、闘技場へ自在に電撃を放つコンボを披露した。


 だがウェンリーが磁力を操るスキル【天秤の星竜】で、闘技場にある砂鉄で避雷針を作りそれを完封。

 ユリウスが何も出来なくなったところを、ウェンリーが砂鉄の刃を無尽蔵に放ち反撃し、ウェンリーが勝利した。


 第一回戦第四試合『【ミレア五造:排】ゲイルリンド・A・ハング VS 【獅子星竜】バーキー.U.G.O』。

 バーキーは自己回復が可能なジョブ【聖職者】。

 加えて、自らの体から爆発を起こし、相手もろとも大ダメージを与えるスキル【獅子星の竜眼】を持っている。

 それをいいことに、ゲイルリンドとの肉弾戦の最中に不意に自爆を連発し、彼を驚かせた。

 しかし、相手はこれまでヴァイスの指示で幾多の戦地をかいくぐった武人、ゲイルリンド。

 突然爆発してくることは厄介ではあったが、肝心のバーキーの格闘センスはゲイルリンドにとってはイマイチだった。

 爆発直後のHPが減っているタイミングで、容赦なく強烈な一撃を叩き込み、ゲイルリンドは勝利した。


 そして、第一回戦第五試合。

『一方、【水瓶星竜】ナガレタル・ボーイ! 水が方円の器に従うように、彼の暗殺拳は変幻自在! その技術はあの橙瀧様も舌を巻くとも噂されています!

 そしてもう一方! 皆様長らくお待たせしましたァ!

 ミレアの極悪人を死神送りにした人数、なんと数万!

 元覇権国ミレアの首魁、ヴァイス・O・ヘブンにさえも聖なる鉄槌を下した、今、最もロジスティクス・サーガで恐れられているプレイヤー! 死国【トードイスムカ】の【化神官】、ネロア・ルォーナピアナだァッッッ!』


 ついにネロアが、闘技場の土に足をつける。


「いっけー、やっちまえー、ネロアー!」

「バカアンティルの仇を取ってくださーい!」


「ごきげんよう。ナガレタル殿。先のウェンリー殿の実況通り、僕(やつがれ)が死国トードイスムカの化神官、ネロア・ルォーナピアナだ」


「俺はナガレタルだ……ククク、どうせもうじきくたばるというのに、ご挨拶どうも」


 双方挨拶を済ませ、互いに臨戦態勢をとる――そして、戦闘開始の鐘が鳴る。


「【水瓶星の竜眼】!」

 僅かな差だが、先に動いたのはナガレタル……彼は己の竜眼を発動し、闘技場上空に雲を作り、雨を降らす。


「【モンスターコール:スケルトン3】!」

 対するネロアは己の周りに【マジェスティックスケルトン】十数体を召喚する。

 まず自らの護衛を作る、ネロアの定石の戦法である。


「総員、掃射せよ!」

 ネロアはとりあえず、スケルトン達にナガレタルへ弓を撃たせる。その間、彼女は考える。


(この雨は何でしょうか……特にスリップダメージもなければ、状態異常にする訳でもないのに……)


 その疑問は、案外すぐに解消された。ナガレタルが、雨降り注ぐ空間を、まるで泳ぐかのようにスイスイ浮き進んできたのだ。


 自分が伝って渡れる雨水を降らすスキル、それがナガレタルの【水瓶星の竜眼】である。


「無駄だ無駄だ。この俺の軌道、貴様ら雑魚のヘロヘロの矢で捉えられるわけがない!」


 そのナガレタルの言葉通り、彼は変幻自在に空間を移動し、矢を容易くかわす。

 そして彼はスケルトンの護衛をすり抜け、ネロアにかぎ爪を突きつける。


「死ね、死神の化神官らしく! そして俺に栄誉を寄越せ! 俺の願いはたったそれだ……」

「【死神の凶器】!」


 ここでネロアは、禍々しい黒いオーラを帯びた紐付き剣を振り回し、周囲にいる存在――ナガレタルとスケルトンを斬りつける。ナガレタルは突きを弾かれ、スケルトンはことごとく一撃死する。


 そして一体のスケルトンから、【憤怒の遺言】という名の剣状の霊魂がドロップし、それはナガレタルを追尾する。

 ナガレタルは防御姿勢を取り、その霊魂を防ぐ。が、その行動空しく、霊魂はガードを貫通してナガレタルに命中し、彼を状態異常【憤怒】にする。


 状態異常【憤怒】は、スリップダメージを与える【火傷】の効果に加え、当人が火に包まれるようになる。


 それ故にナガレタルの周りに降る雨水はことごとく蒸発し、伝う雨水がなくなり、彼は地面にうつ伏せに落下する。


「自分の能力の過信、優先すべき事項の見誤り……僕(やつがれ)はそれの後悔の暇を与えない、【哀連鎖の積】」

 ネロアは、ナガレタルが起き上がる前に、闇属性を帯びた剣で彼の背を乱れ突き。背後からの奇襲ボーナスと、元よりのネロアの攻撃力が効いて、ナガレタルのHPは瞬く間に溶かされ、彼の【救命の魔石】は砕け、彼を中心にバリアが張られた――それ即ち、


『勝者、ネロア・ルォーナピアナ!』

 ネロアの勝利である。


「うわ、これがトードイスムカの化神官の力か!」

「すげぇ、圧倒的勝利じゃねぇか!」

「よくやったぞ、ネロア!」


 そして観客席より、ネロアの強さを讃える声が轟いた。

 アンティルにまず白星をもらってほしかったが、ネロアは、カメセスコアの皆様へトードイスムカの実力を知らしめてみせた。


「ありがとう。カメセスコアの民よ! 誠にありがとう!」

 ネロアはサービス心旺盛に、前方位にいる観客に手を振りながら闘技場を去る。

 この姿を見て、実況室にいるウェンリーは、こうつぶやいた。


「流石はミレアを打ち破った英雄、ネロアさん。気持ちのいい勝ちっぷりだね」


「当然の帰結だ。ナガレタルくらいならサクサクさばいて貰わないと俺様も困る」

 と、同じく実況室で試合を眺めていた橙瀧は言う。


「だね、橙瀧様」


 それからウェンリーは暫し黙り、いまだ鳴り止まないネロアを讃える歓声を聞いてから、

「しかし、この勝利で可哀想な人間が一人出来たと」


「何だ、ナガレタルのことか? それとも次ネロアと当たる勇士のことか?」


「いや、違うよ……」


 ネロアが去っても尚、彼女を讃える空気は冷めていなかった。それ故に、ウェンリーの予想通り、観客席にて震えているプレイヤーが一人いた。


「確か次の次の次が、レイザックの試合だよな。 ネロアがいい空気作ったんだ、トードイスムカのプレイヤーとして、オレっちの分まで頑張れよ、レイザック」


「……ああ、わかってるとも! だから余計に言うなアンティル! もし負けたら、お前がかけたプレッシャーのせいにしてやるからな!」


【完】

ロジスティクス・サーガ・データベース


■用語説明

【アンティル】

 分類:プレイヤー

 所属:死国トードイスムカ

 レベル:60

 ジョブ:【射手】


 かつてミレアにいた少年。

 侵略者として死国のとある町でネロアに負けて以降、紆余曲折あって彼女と行動を共にし、あのヘブンズレイドの時にはヴァイスに致命傷を与えるという大活躍を果たした。

 ちょっとガサツで荒っぽい性格なのだが、一時期、相対的にまともだったためツッコミ役になっていた。現在はレイザックに常識人キャラを譲りつつあるので、体質に合うボケキャラに徐々に戻ろうとしている。


 トードイスムカの【射手】は、独特な挙動を持つ銃弾を使い、相手の行動の制限と攻撃を同時に果たす嫌らしい立ち回りを得意とする。

 正式にトードイスムカ・プレイヤーになったお祝いにこしらえたコートにレイスを憑依させ、翼のようにして飛行するという、過去の戦法の再現も行う。

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