39.音神マダキウポオーベーの化神官、リュート
「リュート・ブルーバードでーす!」
と、アイドル風の装備を着て、ペンライトめいて輝く刀を両手それぞれに握る少女――リュートは、己の本名を名乗る。
刹那、周りにいる何かしらのアイテムでビビッドブルーを身に着ける、音国エホシャドチグパの数千人の軍勢は、大歓声を自由区に轟かせた。
その一方で、
「うそっ、まさかお前が化神官だったのか……」と、アンティルは驚き、
「んー、やっぱりエホシャドチグパの人間は派手だから、そのトップも派手だねぇ、リュート君」と、シュラは雑に褒める。
「えへへ、いいお世辞ありがとうございまーす、シュラちゃん」
そしてガイオンは、ひどく焦燥していた。主砲のレーザーがこうも容易くかき消されるという、非現実的な結果を受けてのことだ。
(エホシャドチグパの奴なんかになんて……まぐれだ、これはきっとまぐれだ! 相手が化神官だろうと、俺のガイオンライナーは、天下無双だ!)
気を取り直し、ガイオンライナーはやかましいエホシャドチグパ軍に鉄拳を叩き込む。
だがその鉄拳を、リュートは刀を交差させた『だけ』で止めた。
ガイオンが、『機国イズセラが誇る技術の臨界点』と自負する、ガイオンライナーの超パワーの鉄拳を。
「あ、ありえねぇ! ありえねぇ! エホシャドチグパにこれの暴走が止められるなんて、ありえたくなぇ!?」
ガイオンライナーはガトリングの如く、鉄拳を繰り出す。それ全てをリュートは受け止める……時折、刀一本で。
「な、何故だぁ!? 何故この最先端技術を詰め込んだ我らがガイオンライナーが、何故たった一人のプレイヤーに力負けしているんだ!」
「それはね、アタシを応援してくれる、エホシャドチグパの皆の力だよ!」
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音と楽の女神、マダキウポオーベーが好物は、音と楽。大陸南東の棲家、エホシャドチグパで管轄するのも音と楽。
生ける人はいずこに行けど、心の臓が鼓動を奏でる限り、音から逃れることはできない。
故に人と音は一心同体、故に神は音を理とする。
さあさ、皆様もご一緒に音を噛み締めよ、それこそ人の最も楽しき努め。
――『ロジスティックス神話全集』より引用。
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リュートの化神官としてのスキル、【音神の合奏】は、『使用者の半径二キロメートル以内にいるエホシャドチグパ・プレイヤーの攻撃コンボ数を、使用者のコンボ数に足す』という効果を持つ。
本作が長らく音国エホシャドチグパに触れていなかったので、親愛なる読者の皆様はお忘れかもしれないが、エホシャドチグパ・プレイヤーは『コンボ数に応じて何らかの恩恵を得られる』効果のスキルを覚えやすい傾向にある。
実際、リュートは『コンボ数×0.01%全てのステータスがアップ』する、【エモーショナル・ビルド】というパッシブスキルを持っている。
今のリュートのコンボ数は、背後で武器をぶつけ合う集団――通称、『コンボ稼ぎ隊』のものを【音神の合奏】で足して、約三万。
つまり今、リュートのステータス全ては【エモーショナル・ビルド】のフル活用によって、なんと約300%にまでアップしているのだ。
「応援が何だぁ!? なら、やはりその応援から潰してやろう!」
ガイオンライナーの肩から無数のミサイルが発射される。
しかしそれらも、驚異的なスピードとパワーを得たリュートが、目にも止まらぬ早さで一つ一つ両断して無力化した。もはや単なる花火である。
すっかり活躍の場をリュートに独り占めにされたため、邪魔にならない所で様子を伺うアンティルは、彼女の八面六臂じみた活躍を見ながら戦慄していた。
「やっべ、オレっち今までこんな奴を『バフしか出来ない』とか馬鹿にしてたのかよ……」
一方シュラも、リュートの邪魔にならないよう、ガイオンライナーから離れた場所で、適当な瓦礫に腰掛け、少し前の話を思い出していた。
*
今から約一年前。
音国エホシャドチグパの情勢は、荒れに荒れていた。
化神官になる前のヴァイスが、今から見ても脅威だった音国の化神官を倒してから、その後を継ごうと数多の軍団が争い合う。
誰かが継いだら継いだで、命国の国境軍の指揮官ゲイルリンドに圧倒されるか、災国の国境沿いの領主に『悪夢を見させられる』など完敗し、すぐ座を追われる。
そしてまた数多の勢力が空席を奪い合う――というバカげた栄光と転落のループが、十七巡ほど行われた。
しかし、十八巡の前半――空席の奪い合いが始まったその時、今までの軍団とは明らかに毛色が違う勢力が、音国を席巻した。
その勢力は他とは違い、まともな武力こそは持たないが、皆一つの意志を持って団結していた。
リュート・ブルーバードを応援する。それがこの勢力の意志だった。
この時代において、現実では顔を出さず、どこかしらのネット媒体をメインにする歌手は珍しくない。
本作、ロジスティクス・サーガも、戦争メインのアクションゲームであるが、コミュニティを構築する仮想空間の側面が強いため、そういった歌手の本拠地になりがちである。
リュートもそのような歌手を目指した一人である。
彼女は音国の首都【響都】のあるライブハウスで、歌手活動を始め、その歌声とカリスマ的な魅力で、瞬く間に多数のファンを集め、人気者となった。
それからリュートは、ファンの後押しや、音国内の各島々の主の熱烈なオファーによって、各地でライブを開催。
たった数ヶ月で、その名前を音国では知らないものはほとんどいなくなった。
その当時の人気を証明する逸話は数多くあるが、最も頻繁に語られているものはこれ。
とある、化神官を目指す二つの軍団が海戦を広げていた最中、リュートのライブが近くで開催されることを知ると、双方が矛を収めてライブに飛び入り参加し、それが終わると二つの軍はこれまでのことを水に流して和解し、リュートのサポートに転じた。
このような話が出始めた時、次代の化神官の座を狙う軍団はいずれも、リュートを応援する人々たちと、天と地ほどの力量差があった。
いくつかの過激な軍団は、リュートを暗殺、あるいは利用するため誘拐を試みたが、ファンたちの壁はあまりにも厚く、ただ払拭しがたい悪評を受けることしかできなかった。
そんなこんなでデビューから半年が過ぎた頃、リュートは突如、この国の主、音神マダキウポオーベーに召喚された。
その数日後、リュートはデビュー地の響都で、化神官就任ライブを行ったのである。
*
(取材のため、たまたま音国に観光にいったら、まさかあんな光景を拝めるとはね。
響都そのものが会場となり、そこの地に足つける人たち全員が、現地か中継という違いこそあれど、その雰囲気に魂から乗っかって、リュート君のライブを楽しんでいたんだから。
鮮烈だよ。あんな大規模なライブを大成功させて、あれだけ皆に応援されてさ。それから、まさか今度は『死国トードイスムカも明るくする』って言って、そこの化神官も兼任しようとするなんてさ……鮮烈すぎるよホント)
シュラは思案から、目の前の光景に意識を戻す。
リュートfeatガイオンライナーのライブのボルテージは最高潮に達した。
コンボにコンボを重ねて得たハイステータスを武器に、リュートはガイオンライナーのぶ厚い鋼鉄の装甲を、アルミ缶めいてボコボコにしていく。
数々の損傷を受け、火花と煙を撒き散らすガイオンライナーを必死に動かし、敗北に抗うガイオン。
だがもう、ガイオン以外の誰もが確信していた。もうすぐで、華やかなフィナーレが巻き起こることを。
「これでトドメ! 【ハイボルテージ・バンギング】!」
リュートは両手の刀を、鮮やかに、派手に、連続して振り回し、ガイオンライナーをバラバラに解体して魅せた。
『こ、こんな結果、俺は認めない……! イズセラの誇りは、【チーム・トランス】リーダーは、ここで死なん!』
ガイオンは、最後の手段たるボタンを、屈辱の鉄槌で押す。刹那、ガイオンライナーのコックピット部分のみが、空高くへと飛び上がる。
エホシャドチグパ軍は、覚めきらない夢を求めて、声を揃えてリュートへ頼む。
「「「アンコール! アンコール! アンコール!」」」
「はいはいはーい! アンコールなんて余裕でいっちゃうよー! ……ただしシュラちゃん、ちょっと蝶々を……」
「ん? ああ、いいとも! 【モンスターコール:バタフライ3】!」
シュラは空に向けて、【ロイヤルバタフライ】を羽ばたかせる。
リュートはそれを踏み台にし、元々伸びていたジャンプ距離をさらに伸ばし……
『うわっ、来るな来るな来るなぁぁ!?』
ガイオンライナーのコックピットに一刀浴びせ、これまた鮮やかに爆裂させた。
リュートはガイオンが放つ爆炎を背にし、
「見たね! これが、リュートだよ!」
満面の笑顔をして、空に向かってピースサインを掲げた。
直後に、エホシャドチグパ軍の大歓声と大喝采が自由区を揺らしたのは言うまでもない。
「あっはっは、凄いよー、リュート君!」
シュラも、彼らに混じってリュートを賞賛した。
そんな中、シュラはこの快勝ムードに乗らず、あからさまに浮いている人物を見つける。
「……クソっ」
その人物はやるせなく己の銃を見つめ、背中の風の羽をへにゃりと脱力させていた。
シュラはアンティルに寄り、歓喜を促す。
「ここは喜んでおこうよ、アンティル君」
「……いいや。オレっちは喜ばない」
「そんな意地悪な事しない方がいいと思うよ? リュート君らエホシャドチグパの人達は、楽しい時に嫌な空気出す人が何よりも嫌いだから」
「……なら、リュートに伝言を残します、『これまでナメててごめんなさい。あの時、スッゲー輝いてました』って」
「へ? それくらい直接言ったらどうだい……?」
「スマン、急ぎたいんだ。てなわけでじゃあな、シュラ」
アンティルは力強く翼を羽ばたかせ、ここから飛び去る。
シュラは彼の勇ましい後ろ姿を見て、そっとつぶやく。
「無茶な真似はしないでくれよ、アンティル君」
*
自由区市街地。調和の砦付近にて。
彼女たちは、一瞬、遠くを見た。
そこでは何かが轟音を立てて、花火のように爆発していた。
そして彼女たちはすぐに、今一番見なくてはいけない存在に視線を戻す。
「【禍根の楔】!」
ネロアはヴァイスめがけ、闇属性を帯びた剣を投げつける。
「【抗導の拳】!」
ゲイルリンドがすかさず二人の間に割り込み、風の障壁を生成した。
投げた剣がその障壁によって勢いを失う。ネロアはすぐに紐を引っ張り、右手に戻した。
ヴァイスはネロアに言った。
「すまない。こういう場面は大将同士が一対一で戦うのが様式美だと思うが、生憎、私は直接戦闘は苦手なもので、ね。こうして多対一になることを許してほしい」
するとネロアは、余裕に満ちた表情をして告げる。
「構わん。数多を相手取ることなど、僕の勝利の歴史に数多在る」
【完】
ロジスティクス・サーガ・データベース
■キャラクター紹介
【リュート・ブルーバード】
分類:プレイヤー
所属:音国エホシャドチグパ
レベル:59
ジョブ:【武士】/【化神官】
比較的最近、音神マダキウポオーベーに選ばれた少女。
ハツラツとしていて、やや横暴なくらい自由奔放な性格。
荒れに荒れたエホシャドチグパの情勢を、その歌声と魅力で押しつぶしたという実はすごい奇才。そして、さらなる偉業――二国の化神官を兼任しようとした異才でもある。
エホシャドチグパの【武士】は、ひねり無く二刀流で相手に連撃を叩き込んでコンボを稼ぎまくりつつ、相手のダメージを削り切るという戦法をメインとする。
さらに彼女は、音神から賜ったスキル【音神の共鳴】で、周りのプレイヤーのコンボ数を加算し、【エモーショナル・ビルド】というコンボ数に応じて自分の全ステータスを上昇させるという、また別のコンボを利用する。
そして彼女は、自分のファンをかき集めて結成した『コンボ稼ぎ隊』を使ってコンボ数を荒稼ぎし、とんでもないド級のステータスを得ることが出来る。
本作の加筆修正前は、リュートの後の名前がものすごく長く、元ネタが分かりづらい上、さらに化神官の命名法則に当てはまっているかわかりにくかったという三重苦でした。
なので今回、現在の名前にざっくりと改名させて頂きました。




