38.ガイオンライナー、出発!
自由区市街地にて。
シュラとアンティル、ノルガードらの前に、銀色のボディをした列車が何人かのプレイヤーを撥ねながら現れ、そして停車した。
「な、何だこの電車!? オレっちらがトードイスムカに行くときに乗ってたのよりもスゲー立派だけど……」と、アンティル。
「もう何でもありだね、この戦い。電車がレールもないところを堂々と通ってきてさ……」と、シュラ。
そしてノルガードは、この列車のボディをガンガンと蹴りながら、怒鳴る。
「ったく! どんなタイミングで来て、どこで止まってんだお前! 僕はシュラとの戦いに集中してたってのによ!」
すると、たった今蹴っていた車両からけたたましい駆動音が鳴り響く。
ノルガードが慌てて離れた時、おのずと連結を解除し、浮遊する。
いくつかの車両も同様に浮遊したり、分離したり、変形していく。
そして全ての車両は再び一つに集まる――高さ約三十メートルの、鋼鉄の巨人と成って!
『アーハッハハ、見える奴なら全員見ろ! これが機国イズセラが誇る技術の臨界点! 名付けて【暴走鋼王 ガイオンライナー】だ!』
と、人型ロボ――ガイオンライナーの中から、操縦者、兼、イズセラの代表者、ガイオンは吠えた。
それを指示通り見て、シュラはこうコメントする。
「これは大きいね。特に、中の人の態度が……」
さらにノルガードも一言。
「一体どこの金と人材であんなデカブツ作り上げられたのか、考えてから調子乗ってくんないかなぁ?」
これらの陰口は一切、ガイオンには届かない。
そもそも彼らは操縦室から遠いだけでなく遮蔽物がありすぎる。ということもあるが、ガイオンはガイオンライナーに搭乗し、すっかり上機嫌になっていたのが大きい。
『さあて、もう皆はこのガイオンライナーのフォルムからディティールまで、しかと拝見しただろうし、棒立ちするのはここまでにしようか……えー、間もなくー、ガイオンライナーが暴走いたしますー。線の内側にぃ、下がってお待ちくださいー……どのみち全員ブッ潰すがな!』
ガイオンライナーの胸部の主砲が青白く光り、そこから極太のレーザーが放たれる。レーザーはガイオンライナーの真正面を縦一文字に薙ぎ、命中した建物すべてを破壊し、おまけに何人かのプレイヤーも、どの国のプレイヤーかなどは一切気にせず、消し炭にした。
「うわー! 皆、こいつから逃げろー!」
「マジモンの暴走列車じゃねえかこいつ!」
「ミレアなんかと戦ってられるか! 一瞬休戦だ~~!」
今まで乱闘していたプレイヤーたちは、半パニック状態になった。
その中で、ノルガードはここから動じず、ガイオンライナーのコックピットがありそうな頭をジッと見上げていた。
『お、そこにいるのはノルガード様ではありませんか!? そんなに見つめても何もできませんよ? これは非売品でございますから……!』
「お前、何しに来てんの?」
『え、何って、それはヴァイス様に言われた通り、援軍として……』
「だったらなんで僕たちミレア人も焼き殺した!? 別に僕は仲間を大切にするタイプじゃないから、死んだことそのものはどうでもいいんだけどさぁ! 不愉快なんだよ!」
『ああ、それはですね……これ、まだ試作品でちょっとパワーの制御が、ザザ、あ、ザザー、ほら、スピーカーも調子がわる、ザザザー……』
と、回線不良のフリをしてから、ガイオンは外部スピーカーを一時OFFにする。
そしてガイオンはたった一人のコックピットで、ぼやく。
「ったく、ヴァイスしかり、ノルガードしかり、ミレアの人間はどいつもこいつも俺を呼び捨てにしやがる。すっかりイズセラをミレアのシンパ扱いすることが板についていやがるんだ。
……まぁいい、このイライラは今の内だけだ。奴らから絞れるだけの金と人材を取って、最新鋭の装備を充実させる! そして……ミレアの人間全員皆殺しにしてやる!」
ガイオンは脚部のローラーを回し、勢いよく移動する。
そして周りでギャーギャー騒いでいるプレイヤーたちを、手当たり次第、鋼鉄の拳をお見舞いしてやる。
『死ねぇ! 死ねぇ! 誉だろう、技術の発展の象徴に殺されるなんてよぉ!』
その暴走っぷりは、ガイオンライナーから離れた場所で戦っているブッチギリーストとウェンリーにも、見えていた。
「あのデカブツ! さっきの電車はアレだったのか!? ミレアの連中め、まだあんな兵器を隠していやがるとは!」
「あれはイズセラの兵器かな。そして、これはこれは見事な暴走具合だね」
「ギャァ!」
「どうかお助けください!」
「おい、俺はミレア軍の……」
ガイオンライナーは目につくもの全てにレーザーを放ち、拳を打ち込む。その巨体が持つ鋼鉄の機構のパワーと防御力に勝るもの無し。
もちろん引き続き攻撃対象の判別も無し。大勢の敵軍と、本来の自軍がガイオンライナーの圧倒的な力に敗れた。
そんな無停止の暴走と無作為な攻撃を続ける中、ガイオンは見つけた。
『おっ、あれは誰かと思えばヨヤアサの化神官と、ネロアの証人じゃないか!』
「皆、逃げたまえ! 彼に近づいたらろくなことがない!」
「無理するな! なるべく遠くに行け! 戦うならそこでだ!」
自軍の中で比較的弱いプレイヤーたちを避難させることに注力している、ヨヤアサの化神官、シュラである。
『スピーカーの出力をちょちょいと上げて……おい、ヨヤアサのシュラ! こっちを見ろ!』
「?」
シュラは、ノルガードの攻撃をさばきながら、言われた通りガイオンライナーを見る。
刹那、胸部の主砲から極太レーザーが放たれる。
「うえっ! あぶねぇ!?」
「【文神の執筆】!」
シュラは自分の手前でレイピアを振るい、自分に振りかかる分のレーザーを無にした。
だが、シュラがかき消さなかった部分のレーザーは、アンティルの翼のように、逃れる手段のない者たちを呆気なく消滅させた。
レーザーの放射が終わると、生き残っていたのはシュラとアンティルと、命からがら回避したノルガードと、術もしくは運があって生き残った、双方の人員数名である。
「あっ、あっぶねー……翼があって助かった。仕返しだこの野郎、【クロス・ギフト】!」
アンティルはガイオンライナーの顔面に向かって、十文字型の光弾を撃ち、見事命中させる。しかしガイオンライナーは微動だにしない。
搭乗者の言う通り、ガイオンライナーは技術の臨界点。それは装甲の重厚さにおいても言えることで、その辺りのプレイヤーが傷つけられる代物ではないのだ。
「このっ、このっ、このっ……!」
アンティルはめげずに、様々な方向から、様々な攻撃スキルで、ガイオンライナーを撃つ。
だが、やはりガイオンライナーは圧倒的堅固――その度に、弾が装甲に負ける音が、儚く鳴る。
『無駄だ無駄だ! 平たく言えばこいつは、鋼鉄の塊だぞ、鋼鉄の! そんな豆鉄砲で倒せてたまらんのだ!』
「だったら僕の刀はどうだぁ!」
怒り心頭のノルガードは跳び上がり、ガイオンライナーの肩めがけて刀を振る。すると刀は分厚い装甲にめり込み、止まった。
ノルガードは焦りながら刀を引き抜こうとしつつ、
「馬鹿な、物体に僕の【Dt−Do】が効かないとはいえ……」
『……何の真似ですか、ノルガード様』
「わざわざ言わなきゃわかんねーのか、ガイオン! お前はもうミレア軍の味方でもなんでもねぇ! さっさと去るか消えやがれ!」
ようやく刀を引き抜いたノルガードは、ガイオンライナーの肩からジャンプし、その脳天をかち割ってやろうと言わんばかりに大きく得物を振り上げながら落下する。
『こっちだって、イズセラは貴様らミレアの属国になったつもりはねえんだよ!』
ガイオンはコックピット内のあるボタンを、殴るように力いっぱい押す。
すると、ガイオンライナーの肩からミサイルが数十発、一斉に発射される。
その六割はノルガードに命中し、彼に消滅エフェクトを炸裂させた。
「今度はミサイルかよ!?」
「全く、至れり尽くせりだねぇ……おっと」
他の四割は、先程のレーザーから生き残ったプレイヤーたちに被弾。さらに生存者を減らしていった。
そして、すべてのミサイルが爆発した後、ガイオンライナーの周りに残されていたのは、ごく僅かな有象無象の敵プレイヤーと、
「うん、うん、わかった。じゃあ上手く繋いでおくよ。うん」
誰かとチャット中のシュラだけであった。
『こんな時に何してるんだ、このヨヤアサのキザ作家……』
「ああ、ごめんよ。急にボクの知り合いからチャットが来ちゃってね」
シュラは改めてガイオンライナーに向き合い、その姿を頭から爪先まで観察し直した後、こう言った。
「……やれやれ、実に品性に欠ける戦い方だ。いや、さっきの議論の時も含めて、君の言動全てが品性に欠ける」
『品性に欠けるだと!? この機国イズセラが誇る最先端技術をミッチミチに詰めたこのガイオンライナーを馬鹿にしてんのか!』
「ああ品性に欠けるさ。ただ武装の規模の大きさを誇り散らして、それで無関係な人々を適当に破滅させてるだけだからね?
五流の小説家が書いた『都合よく万能な主人公を、取り立てて言う程の理由もなく延々と戦わせている作品』と似たアトモスフィアを感じるよ」
『な、ん、だ、と……!? そんなこと言ってただで済むと思うな! これは俺がイズセラの最先端技術を詰め込んで建造した究極のロボットだ! これ以上馬鹿にするのならイズセラが黙っていないぞ!?』
「やれやれ、主語が大きいのは嫌だなぁ。というか、これは本当はあんまり言いたくないんだけどさ、これ本当に君が作ったの? あんな暴走を働くような人が作ったとは思えないんだけど?」
『ふざけるな! これは紛れもなく俺が一から開発したものだ! 未来の基本を先取りする一心で、ありとあらゆる最新技術を詰め込み、設計、開発、予算調達、デザイン、調整、広告……全部自分でやったわボケェ!
もう何も言うなよ貴様! さもなくば、このガイオンライナーのフルパワーをお見舞いしてやる!』
「いいよ。けどボクがその的じゃあ物足りないだろうから、この人たちにも使ってみなよ」
シュラは踵を反し、そちらに手を振り、
「よぉく来たねぇ! 待ってたよ! 音国の皆さん!」
皆、どこかしらにビビットブルーを身に着ける、数千人規模の集団――音国エホシャドチグパ軍を歓迎する。
その先頭にいる男――エホシャドチグパの代表者、アブソは、シュラに言う。
「私の化神官も自由奔放な人ですけど、あなたもあなたで無茶苦茶な人ですね……大急ぎで集めたエホシャドチグパの人たちを、さらにこの機械の前につれてこいと言うんですから……」
「今の言葉、そっくりそのまま貴方の上司に伝えてもいい?」
「……すみません、後で本人に謝ります」
その頃、ガイオンライナーのコックピットにいるガイオンは、彼ら、エホシャドチグパの軍勢を見てゲラゲラ笑っていた。
「ハハハ! あのネタ国家の、ハハハ! エホシャドチグパの連中がここまで……アーハハハ! 腹痛ェ! よし、褒美に、奴らにレーザーをお見舞いしてやろう」
ガイオンは躊躇なくレーザー発射のボタンを押した。
ガイオンライナーの胸部の主砲に、青白い光が集まっていく。
アブソはその迫力に負けず、背後にいる自軍へめがけ、号令を出す。
「では、皆様! 我らが化神官の舞台が、開演しますよ! 盛大な声援、お願いします!」
『そんなものいらん! 全員まとめてレーザーでも浴びてサッパリするがい……』
「「「おおおーっ!!!」」」
それに応え、エホシャドチグパ軍は、地面を揺るがし、ガイオンの声も容易くかき消すくらいの大歓声を上げた後、近くにいる者同士で、武器をかち合わせ始めた。
『人が話してる最中に大音を立てるな! ボケェェェェッッ!』
ガイオンライナーは、武器のかち合わせをし続けるエホシャドチグパ軍へ、極太レーザーを放射する。
「【音神の合奏】! かーらーのー、【ワールプール・ダンス】!」
だがそのレーザーは、突如どこからともなく飛び出してきた少女の、渦潮めいた回転演舞によりかき消される。
そしてアブソは、高らかに叫ぶ
「来ました! ご覧ください! これが我らエホシャドチグパの【化神官】……その名も……」
「リュート・ブルーバードでーす!」
と、アイドル風の装備を着て、ペンライトめいて輝く刀を両手それぞれに握る少女――リュートは、己の本名を名乗った。
【完】
ロジスティクス・サーガ・データベース
■キャラクター紹介
【ガイオン・マキシプレス】
分類:プレイヤー
所属:機国イズセラ
レベル:65
ジョブ:【格闘家】
イズセラ国内にある、変形機構を有するロボットの研究開発を行っている【チーム・トランス】のリーダー。
非常に粗暴で、傲慢な性格の持ち主であり、同盟相手であるヴァイスに対しても表面上ではヘコヘコしているが、内心では彼のことを七割方勝手な理由で嫌っている。
イズセラの【格闘家】は、パワーとスピードに優れたロボットのスペックを引き出すことに特化している。
そんな彼のために作られたのが、【暴走鋼王 ガイオンライナー】。
それはミレア鉄道を走行可能な列車から変形する、彼が大好きな最先端技術を詰め込んだ巨大ロボット。
そちらにおいても重要ないかなる環境でも走行可能な突破力と頑丈な装甲を活かした、パワフルな戦闘を行う。




