37.災磁の知と術炎の武
ミレア軍に占拠された自由区の某所にて。
災国カメセスコアから来た代表者、ウェンリーと、ミレアの最高幹部【五造:尋】オルディッツが、剣戟を繰り広げていた。
攻勢にあるウェンリーの方だが、オルディッツは彼の太刀筋を完全に予測し、一つ一つを最適解の術で防いでいる。
まさしく拮抗状態。当事者にとっても分があるかが非常に読みにくい有り様が続いた。
「オルディッツ殿、君、さっき使ってた魔法の精度からしてジョブ【魔剣士】だよね? よく僕と本格的な近接戦でこうも渡り合えるね?」
「これくらい出来なければミレアの看板は背負えないんですよ。ま、結局魔法の方が得意なのですが」
そう言ってオルディッツは剣戟を切り上げ、十メートルほど後退してから、
「【ウォーター・バレット】、十二連!」
正面に突き出した剣先から、十二発の水の弾丸を撃った。
ウェンリーは剣を振り回して、弾丸全てをはじききった。が、それを終えると剣はガタガタに刃こぼれしていた。
「あーあ、せっかくの剣がもうこんなになっちゃったか」
「……それ、我軍のプレイヤーから奪い取った剣ですよね」
「うん。けど使ってるものが壊れたら何だって嫌だよ僕は」
ウェンリーはその剣を後ろに投げ捨て、今度は拳を握りしめて構えた。
「ウェンリー殿、貴方、今度は格闘戦をするつもりですか」
「生憎僕も、主と同様に無節操な者でね……」
魔法と剣、そのどちらが来てもいいように、ウェンリーは備える。だが次に彼を襲ったのはどちらでもない。
「オルディッツ様! ただいま参りました!」
ミレア・プレイヤー十数人が、オルディッツの護衛のために駆けつけ、
「奴はカメセスコアの代表者……」
「災国に恨みはないが、敵となれるのなら許さん!」
彼らはすぐさまオルディッツと相対しているウェンリーを標的として、彼へ一斉に襲いかかった。
それを見て、オルディッツは小声でつぶやく。
「こら、勝手に出しゃばる……と、言ってもわかる連中ではないか。仕方ない、教育は任せた、ウェンリー殿」
ウェンリーはまず、自分を囲う敵たちの内、一番突出していた斧を持ったプレイヤーに目をやり、
「今度はこれを借りるよ」
その長柄を掴むと同時に、みぞおちに蹴りを食らわせるという流れを一瞬で行い、斧を奪い取る。
無防備になった突出者を即撃破した後、拝借した斧を振り回し、その他のプレイヤーも、迅速かつ的確に武器を落とさせて無力化しつつ一掃した。
「では、本筋に戻ろうか」
休みなく、ウェンリーは斧を振り上げてオルディッツに突撃する。
シンプルに力いっぱい振り下ろす――オルディッツの【Dt-Do】による行動予測には、そのような結果が出た。
なのでオルディッツはウェンリーからさらに離れ、魔法の発射準備をする。
その瞬間、オルディッツの両側面から、剣や槍などの武器がカーブを描いて飛んできた。
「【ウォーター・バレット】、十二連!」
オルディッツがそちらに六発ずつ弾を送り、相殺する。
そしてウェンリーが振りかした斧は、剣を頭上に出して止められた。
ウェンリーは斧から手を離した。しかし、斧は重量以外の力でオルディッツを潰そうとする下方向の力が加わっていた。
オルディッツが斧を食い止めている間、ウェンリーは彼の胴にめがけて鋭く蹴る。
ところがオルディッツもほぼ同じタイミングで蹴りを放ち、相殺された。
オルディッツがどうにか斧を上へと押し上げ、ピンチを切り抜けた。
その斧は重さに反してやけにふんわりと宙を舞い、都合よくウェンリーの脇に落下した。
「……まあまあいい作戦だと思ったけど、流石は大幹部、これでもまだお見通されるんだね」
「ええ、いずれその【竜眼】を使ってくると、常に警戒していましたから……」
ウェンリーは、自国カメセスコアにて【天秤星竜】とも呼ばれている。
この由来は言うまでもなく、流星を受けて角と独自のスキルを得た、カメセスコアの強者たち――総じて【十二星竜】の一人であるからだ。
彼が、かの流星により得たのが【天秤星の竜眼】――他人が装備、所持している物以外の金属物を動かす『磁力』を自在に操るスキル。
さっき、ひとりでにオルディッツに飛んでいった武器は、直前にウェンリーに襲いかかったプレイヤーたちが落としたものを、ウェンリーが磁力で操作したものなのだ。
「そこまで警戒してもらえるとは光栄です。さて、ここからはこれをガンガン使っていくとしましょうか!」
と、言いつつ、ウェンリーは近くに転がっていた武器を、衛星のように自分の周囲を旋回させる。
対するオルディッツは、【Dt-Do】由来の能力で辺りの情報を調べ直した後、地面に剣を突き刺して、
「【ディスターバンス・ミスト】」
その地点から、自分はもちろんウェンリーまでも軽く包めるくらいの範囲で、濃霧を発生させた。
ウェンリーは狼狽えず、より衛星状態の武器の回転を早めて、霧が晴れるのを待った。
そしてその時が来ると、辺りにはオルディッツの姿はなく、
「お前の死に場所はここだ、ウェンリー!」
「貴方なんか私たちで十分なんだよ!」
「オルディッツ様の信頼に応えるぞ、絶対に!」
代わりに大量のミレア・プレイヤーが、またしても自分を囲んで襲ってきた。
「……ああなるほど、これこそヴァイス殿の信頼を受けしミレアの最高幹部。これまでの中で一番賢明な判断だ」
と、一言つぶやいてから、ウェンリーは敵を淡々と掃除していく。
その時、オルディッツは僅かな護衛を連れて、自由区を駆けていた。
最中、彼は心の中でウェンリーへ詫びた。
(すまない、ウェンリー殿。貴方とは決着を付けたほうがお互いにとって今後のためになるのは、わかっていた。
ですが、あのままでは、私の第一目標が疎かになりすぎてしまうので……またどこかで会いましょう)
*
一方その頃。別の場所にて。
「覚悟くれ! 【尽因・不零無】!」
術国イペファワエゼから来た代表者、ブッチギリーストは前方めがけて二つの拳を同時に突き出し、そこから拳大のサイズの火弾を射出する。
それが横切った空気が激しく揺らいでいることから、かなりの威力であることは十分わかる。
しかし、その向かいにいる、ミレアの最高幹部の一人、【五造:関】カオンは、悠然とした態度を崩さず、
「【セイクリッド・ガード】」
手前に一枚のバリアを展開して、二つの火弾を受け止めた……だけでなく、それらをまとめてブッチギリーストに跳ね返した。
ブッチギリーストは横方向に駆けて、Uターンしてきた火弾を避ける。と、同時に付近の建物の壁を蹴り、カオンの左側面へ三角飛びをして、
「【触合・輝駆】!」
燃え盛る右足をカオンに突き出した。
「はいはい、【セイクリッド・ガード】」
そしてカオンが新たに作り出したバリアに阻まれ、激突の衝撃と向こうの相手に与えるはずだったダメージを受けてしまう。
「いだいだ熱っうッ!」
ブッチギリーストは暫し、ラフプレーを食らった体のサッカー選手のように、地面を転がった後、
「やっぱ偉大えぜワシ! こんだけ特上たい攻撃出来るってよ!」
ケロッとして立ち上がった。
「……」
そしてブッチギリーストは、白い目を向けてくるカオンを指さして言った。
「こんのゲス野郎! さっきからずっと防御りやがって! その癖、反撃しは丁寧するとか……人としてどうなんだ!」
するとカオンは、少し間をおいてクスッと笑った。
「あ、あれ? ワシ、何か不適なこと言った……?」
「ああ、失礼しました、嘲笑ってすみません……久々でしてね、そんなひねりのない暴言を吐かれたのは。仕方ないのですよ、私の最たる長所は、これですもの」
カオンは目の前に張ったバリアをつついた。
カオンのジョブは【魔術師】――それもミレア所属の魔術師はバリア系等のスキルを多く覚える。
そしてカオンの【Dt−Do】は、飲んでからの一定時間、自分が行った防御行為に、何らかの攻撃が命中すると、即それを反射する。
これらを組み合わせ、カオンは音国エホシャドチグパの大侵攻などの防衛戦において多大なる武功を積み重ね、ミレアの盾として周辺国から恐れられていたのである。
「そっか、そうか。ワシも火魔法使うなって言われたらゼッテーなんもできなくなるからな。そりゃ猛省わ」
「わかればいいのですわ。で、貴方はこれからどうするのです?」
「だったらそのバリアを超越くぐらい、ワシの火魔法を炸っ裂すだけじゃあッ!」
ブッチギリーストは両手をそれぞれの人差し指を伸ばし、二丁拳銃のように構えて、
「【武愛矢・破裂徒】、三十六連!」
火属性の弾丸を乱射する。
カオンのバリアはまだ展開されている。弾丸は全てそこに命中し、そして跳ね返った。
だが、その先にブッチギリーストはいない。
「うぉぉぉ! 【武愛矢・破裂徒】、三十六連!」
彼は弾丸を連射すると同時に、カオンの周りを駆けて、まだバリアが張られていない後方を狙っていた。
「【セイクリッド・ガード】、二連!」
ブッチギリーストの狙いがわかったところで、カオンはすぐさま後方と、続いて狙われるであろう右横にバリアを展開する。これでカオンの前後左右はバリアで覆われた。
「だったら、こうじゃああい!」
ブッチギリーストは、自分が連射している弾丸の跳ね返りに気をつけながら、付近の建物の壁を蹴って、カオンの頭上へ跳ぶ。
「そうすると思いましたわ、【セイクリッド・ガード】!」
もちろんカオンはすぐ対処した。頭上に、地面と水平になるようバリアを展開し、蓋をしたのだ。
それを見たブッチギリーストは、乱射を止めた。
そしてそのままカオンの頭上を通り過ぎ、彼女の前方のバリア――一番初めに出来たバリアの前に着地し、
「【触合・輝駆】!」
炎を帯びた蹴りを食らわす。
案の定、反射でダメージを負うが、ブッチギリーストはそれでも笑っていた。
なんせ、この一撃でバリアにヒビが入っていたからだ。
「攻撃をそっくりそのまま反射けても、バリア本来の耐久度は、攻撃を受ける度に減ってく……ていうことだな!? だとしたら真理の無敵だもんな、やっぱな!?」
バリアの中にいるカオンが、ほう。と感嘆する。
それすなわち、ブッチギリーストの推察は当たっていたことになる。ならば、と、ブッチギリーストはバリアのヒビがある箇所に両拳を手前に突き出し、
「【尽因・不零無】!」
二つの火弾を至近距離で発射する。
反射によるダメージは無くなった。この一撃でバリアの耐久値が限界を迎え、壊れたからだ。
そして視界で、第一のバリアの破片が舞い散る中、ちょうど中心にいるカオンへ、右腕を回しながら突撃する。
「鉄拳制裁じゃああああッ!」
そんなブッチギリーストの姿を見て、カオンはその場から動かず、ほくそ笑み、こう詠唱する。
「【セイクリッド・フィールド】」
するとカオンの周りに半球状のバリアが展開され、ブッチギリーストはそれを殴り、衝撃の反射で拳を痛めてしまった。
「あだだだだ!」
ブッチギリーストが右拳をパタパタ振ったり、フーフー息をかけたりする。それをクスクスと嘲笑い、カオンは言った。
「貴方、確か術国じゃ【烈火の学級長】というお偉い様だったのでしょう? 魔法の知識についてはなかなか明るいと思っていましたが、まさかこんな猪武者だったとは……」
この瞬間、ブッチギリーストは手を振るのをやめて、
「……今、なんつった……!?」
「『まさかこんな猪武者だったとは』……って言いましたわ」
「違う違う。その前だ、なるべく最初の方に戻ってくれ」
「ああそっちね。貴方、『確か術国じゃ【烈火の学級長】というお偉い様だったのでしょう?』って言いましたわ」
ブッチギリーストは、半球状のバリアに籠もるカオンを見据え、また右腕をブンブン回す。
「……ああ、そうだ! ワシは【烈火の学級長】……イペファワエゼの最強の火魔法の使い手だ! 今からテメェに、その真剣で本気な武勇を御教授んでやらぁ!」
ブッチギリーストは地面を焦げ跡が付く程強く踏み込みながら、右拳を引き、火属性エネルギーを溜め、鮮やかの究極に達したような赤い炎を纏わせる。
「黒焦る程に炎上くなれやぁ! 【最羅万怒竜・万軍無】!」
熱く燃える右拳を、カオンのバリアに叩き込む。
「……御教授どうも。ですが、少々、頭に血が上り過ぎですわよ? 【サラマンドラ・マグナ】と申しましたこの大技、是非ともこの私が跳ね返してさしあげま……」
刹那、バリアと、その中にいるカオン当人が、ブッチギリーストの右拳から炸裂した紅蓮の炎に包まれ、瞬く間に塵に変わって消滅した。
「この魔法は火魔法の極みィ……故に、燃焼せない物は、金輪際、皆無んだよ!」
スキル【サラマンドラ・マグナ】は、烈火の学級長であるブッチギリーストが開発した、最上級の火魔法。
この拳が放つ炎は、いかなるものでも燃え上がらせる。
カオンが自分を囲うバリアを貼り、自ら火の手の逃げ場を絶っていたのだ。
「うっし。じゃあ次の奴をぶっ殺しに行こうかな……!?」
うっすらと轟音が聞こえた。足元から微かな振動が伝わってきた。
ブッチギリーストは辺りを見渡し、その原因を探る。と、背後に、ミレア・プレイヤーの小隊がいた。
「ああ、奴はイペファワエゼの……!?」
「ここにいたはずのカオン上民がいない!? まさか奴が……」
「オルディッツ上民の援護に回ろうと思ったが、やめだ! アイツを討ち取ってやる!」
彼らはすぐにブッチギリーストへ突撃する。
しかし、彼らは標的に近づくことはなかった。
横から、列車に轢かれたために。
*
また一方その頃。別場所にて。
周りでミレア軍と、それに対抗するプレイヤーたちが乱戦する中、シュラとアンティルのコンビと、ノルガードのリベンジマッチが、熾烈に行われていた。
あの楽観的なノルガードも、先日の調和の砦やさっきの急襲には堪えたらしい。
以前のように無茶苦茶に刀を振り回しているが、その勢いはややおとなしめで、緊急事態への余裕を残していた。
それがシュラとアンティルにとっては不都合過ぎた。シンプルに付け入る隙が少ないのである。
アンティルはノルガードの周囲を飛び回り、狙撃のタイミングを探しながら、
「クッソー、ノルガードのヤツ、丁度いいシャカリキ具合になったせいで、ちゃんとおっかない敵になってるじゃねーか!?」
シュラはノルガードの連撃を、どうにかレイピアで受け止めながら言った。
「親玉が自由区で本性を表して、好き放題やってるんだ。なんとかして勝たないと【五造:被】であっても大目玉を食らっちゃうから慎重になってるんでしょうね!」
ノルガードは軽やかに後ろへ数回飛んで、シュラから百メートルほど離れ、そして二人へ怒鳴る。
「ちげえよ! これが本来の殺り方だ! 貴様ら僕を法も未来も考慮しない快楽殺人鬼かなんかだと思ってるのかよ!?」
二人は口を閉じ、首を縦にも横にも振らなかった。どっちにしても後のノルガードがめんどくさいからだ。
「なんか言えよ! そういう返事の仕方が一番イヤなんだよぉ!」
その時、ゴゴゴ、と、何やら巨大な物が動く音と、それに伴うであろう振動が、双方の部隊に伝わる。
空中に佇むが故に、視野が広いアンティルはいち早くそれに気づき、そして叫ぶ。
「シュラ……というか全員! 右、左……とにかくどっかに逃げろ!?」
シュラとノルガード、それから乱戦中だった他のプレイヤーたちは、蜘蛛の子を散らすようにその場から慌てて逃げる。
その時、近くにあった建物が瓦礫を撒き散らすように崩れ、燦然と金属光沢を放つ、未来的なフォルムの列車が飛び出してきた。
【完】
ロジスティクス・サーガ・データベース
■キャラクター紹介
【カオン・T・レヴィーナ】
分類:プレイヤー
所属:命国ミレア
レベル:74
ジョブ:【魔術師】
ミレアの一等国民にして、【五造:関】の称号を持つ大幹部の一人。
気品の良さとしたたかさを併せ持つ少女。
ミレアの【魔術師】は攻撃魔法よりも、バリアを展開する魔法を習得しやすく、仲間の危機を救うことに特化している。
さらに彼女は、自分専用の【Dt-Do】を飲み、自分が展開したバリアに、相手の攻撃を反射する効果を付与できる。
反射した攻撃は威力そのままにUターンしていくため、迂闊に攻撃をすると痛い目にあうことは必然である。
カオンはミドルネームと合わせてシンプルに『カウンター』のもじり。
レヴィーナは『レバー』とrebel(英:反抗する、反逆する)のもじり。




