36.HEAVEN'S RAID
自由区の市街地にて。
ネロアは誰一人味方を連れず、単騎でミレアの軍勢に切り込み、数多の敵プレイヤーと戦闘を繰り広げていた。
「【死神の凶器】!」
ネロアは、化神官としての奥義を――禍々しい漆黒のオーラを纏わせた剣を、結びつけた紐を伸ばしつつ振り回し、周囲のプレイヤー約三十人を斬りつける。
この攻撃により、半数のプレイヤーが塵となった。
「一瞬で十五人ほど死に絶えるか。これが死神の力か……!」
「半数は減ったが、半数も残った! 諦めるな、奮起せよ!」
「皆かかれー! お返しにネロアを瞬殺してやれー!」
即座に、生き残りのもう半数のプレイヤーが、襲いかかってきた。
しかし、まともにネロアに近づけたのは、そこから更に減った。
死神の凶器によって死んだプレイヤーは、一定確率で【遺言】という全七種の霊魂をドロップさせられる。
この【遺言】は敵を追尾し、命中した対象を通常の手段では直せない、上位の状態異常に陥れるのだ。
先に死んだ十五人の内、七人からこの恐るべき剣型の霊魂が飛び出し、生存者の七人を状態異常にし、行動不能にしたのである。
ここまで来たからにはもう十五人も二十二人も倒れようが関係ない。
残った八人は振り返らず、各々の特技を繰り出した。
ネロアはそれをことごとく見切り、カウンターを繰り出した。
ネロアの強さは【死神の凶器】だけにあらず、彼女自身の純粋な戦闘センスもあるのだ。
生き残った八人はこの事実に恐怖しながら、消滅エフェクトを放って消えた。
ネロアは、状態異常にかかってこそいるがまだ生きているプレイヤーに注意をしつつ、回復ポーションを使用する。
(調和の砦とは勝手が違いすぎる。あの時だったら【死神の凶器】を使えば少なくとも八割は一掃できました……ヴァイスさん、相当この作戦に力を入れているようですね)
そして回復を終えた後、ネロアは氷漬けになりつつも、まだ息のある一人のプレイヤーに近寄り、問いかける。
「貴様の主、ヴァイス・O・ヘブンは何処にいる!?」
「ゼェ、ゼェ……な、何のつもりだ……!」
「この無益な戦争を終結させるには、彼奴を我が神の御殿に送るのが最善だからだ……さぁ、言え、さもなくば貴様はこのまま哀れに氷塊と成り果てるだけだ……」
「ああそうか……じゃあ教えてやる……俺が今から行く所以外だ!」
そのプレイヤーは、リセットプログラム――通常の死より多少重たいデスペナルティを受けるが、その場ですぐにゲームオーバーになる、詰み対策用のシステム――を発動し、消滅した。
「……」
ネロアは、次の敵を目指して市街地を駆ける。
その最中、あちこちに設置されていたスピーカーから、アナウンスが聞こえてくる。
『自由区に滞在中の皆様、朗報です!
ただいま死国トードイスムカの化神官にして、ミレア保有の大要塞【調和の砦】にて大虐殺を堂々と行った、大陸の秩序を乱す極悪人、ネロア・ルォーナピアナが、市街地で逃亡中です!
手段も生死も、もちろん身分も国籍も問いません! ただいま彼女を止めた者に、我らがヴァイス様から懸賞金七百万ジトを一括でお支払いいたします!
早いもの勝ちです! ただちにネロアを仕留めてください! 何卒、よろしくお願いします!』
この通告を聞いたのは、これで三度目だ。
何としてでも自分を倒したい。そのヴァイスの切望を察し、ネロアはますます不思議に思った。
(あの階級制度を何の悪びれもなく導入したことといい、自由区に軍を展開したことといい、このような悪行に及んでまで僕を倒したいのは何故なのでしょうか……
あのような聡明そうな方が、単なる私欲やプライドでそんなことをするはずがないでしょうし。一体、何がヴァイスさんを突き動かしているのでしょうか……)
「おっ、あれはネロアだ!」
「ミレアの誇りにかけて、貴様を倒す! 覚悟しろ!」
「七百万も、極大の武功も、栄達への切符も全部僕のものだ!」
ネロアが大通りに入った時、次に立ちはだかったのは、五十ものプレイヤーの集団だった。
今度はミレアだけでなく、時国ランニバーニや機国イズセラのプレイヤーも混じっている。
先のアナウンスが、現地での戦力増強に一役買ってしまっていたのだ。
「生憎だが、僕は死神の申し子……今、貴方がたへすぐに渡せるものは、死、のみだ!」
これもネロアは、【死神の凶器】を始めとするスキルを活かし、紙切れのように敵勢を蹴散らしていった。
「よっし、読みが当たった! 奴がいたぞ!」
「それはそうだ! 死神がいないと、あそこまで騒がしくなるものか!」
「誰がトドメを刺そうと文句無しだ! ここはあの火種を消すことだけ考えて挑めー!」
騒ぎを聞きつけ、さらなるプレイヤーがやってくる。
ネロアはこれも危うげなく対処する。
(『毎秒毎秒努力するつもりでいる』。それを意識すれば、こんな苦境なんて……)
「いたいた! こっちだ!」
「まだやってるな……間に合った!」
いくらネロアであっても、全く喧騒を起こさずに大軍を始末することはできない。
プレイヤーたちの軍勢の波はもう止められない。ネロアは、もはや間近の敵を始末することのみに意識を集中し、剣を振るい、スキルを繰り出し続けた。
恐らく、二百人は殺しただろうか。いよいよネロアは疲労を自覚し始めた。
動きも自ずと散漫になっていく。それでも、彼女の素の技量の高さが、まだどうにか大軍を相手することを可能にしていた。
(あと少し、あと少し頑張れば、きっとこの連戦は終わる……)
その期待は意外にも早く叶った。
「【マリンブルー・ビーム】」
それは、ネロアが遥か遠くから飛んできた水属性の光線を、刀身で防いだ後のこと。
「やはり駄目でしたか。安心しました、この程度の奇襲が通じなくて」
「皆様! 一時攻撃をやめてください!」
光線が飛んできた方向にして、聞き覚えのある声がした方向へ、ネロアは恐る恐る目を向ける。
「こんな様相での邂逅は、望んでなかった……ヴァイス殿!」
五造の面々と、選りすぐりの精鋭兵数百人を連れ、均一なリズムで足音を鳴らしながら、ヴァイスは、ネロアから約五十メートルほどの距離まで近づいた。
ネロアを囲っていたプレイヤーの一人が問いかける。
「ヴァイス化神官! 何故貴方がここにおられるのです!?」
「見ての通りです。ネロア殿を、私自ら確実に打ち負かしに来たのです」
また別のプレイヤーが尋ねる。
「懸賞金まで出して我々を動かしたにもかかわらずですか!?」
「ええ、大事を取ってです。別にこれは、貴方たちが信頼できないからということではありませんよ」
「【セイクリッド・ガード】、二連」
カオンが、ネロアの両横に、二枚ずつバリアを展開し、彼女を囲うプレイヤーを隔てる。前と後ろは空いているが、心理的な意味で、周りのプレイヤーは手を出しづらくなった。
ご苦労。と、ヴァイスはカオンに短く礼を述べてから、
「ただし、私の許可なく余計な真似はしないようにお願い致します。許可が出るまで暫しお待ち下さい」
「そ、そんな……私の七百万が……」
「あんな大金をぶら下げて我々を散々焚き付けておいて、終い際になって自分たちがやるなんて……」
「人の気持ちを弄ぶのもいい加減にしろ! この卑怯者!」
ネロアを囲っていたプレイヤーたちの内、ミレア以外の者たちはこの方針転換に大激怒する。
やがて、怒り心頭となった一人が、ヴァイスの元へ剣を構えて突っ込んだのを境に、彼らは一斉に矛先をヴァイスに変えて、束になって彼へ襲いかかった。
その時、ミレア・プレイヤーは、なるべく彼らもヴァイスたちも見ないようにして、その場から動かずにいた。
国の頂点に弓引くのは論外として、ネロアの動向に警戒していなかった、軍務中に不必要に笑った、などなど、取り方次第で『査定』に響くことを避けるためだ。
「ヴァイス様、彼らはどのように処理をしますか?」
「四人でお好きにどうぞ。ゲイルリンド」
「承知!」
大将であるヴァイスを背に、四人は各々の特技を繰り出し、優先事項を間違えた愚か者を片付けた。
「ボーっと見てるんじゃないぜぇ、ネロアさんよぉ!」
そして間髪を入れず、彼らはネロアへ襲いかかる。
一番先に攻撃を仕掛けてきたのはノルガード。【Dt-Do】が滴る刀を振り下ろす。
(ノルガードさんの刀は防御力を無視してダメージを与える。アレだけは絶対に食らわないようにしないと……)
ネロアは自分の剣を振り上げ、ノルガードの剣を受け止める。
「ノルガード! 一旦下がってくれ!」
「へい!」
この一撃だけを放って、ノルガードは後ろに跳んでネロアとの間合いを取った。
すかさず先ほどの指示を言ったオルディッツが、剣先をネロアに向けて、
「【マリンブルー・ビーム】」
そこから水属性の光線を発射する。
心の臓を貫くように、その軌道は精密にネロア一直線に飛ぶ。
ネロアは立ち位置を右にずらし、光線を避ける。最小限の労力での回避である。
「よし、演算通り……カオンさん! バリアを!」
「お任せください。【セイクリッド・ガード】!」
カオンがネロアの背後にもバリアを展開した。
ネロアに避けられた光線は、出来立てのバリアに激突する。
すると光線が、鋭利な反射角を作って屈折し、ネロアは背中にダメージを負った。
オルディッツの敵の行動を予測する能力、カオンのバリアに攻撃反射効果が備わる能力。
二人の【Dt-Do】が得た能力を掛け合わせた、優れた奇襲攻撃であった。
「まだまだ行くぞ、ネロア!」
立て続けにゲイルリンドがネロアに接近し、インファイト気味に連続攻撃を放つ。
ネロアは調和の砦での経験を元に、こちらも前に出ることを意識しながら、剣を振る。
こうして始まった二人の熾烈な攻防を見て、ヴァイスは二人の方へ杖をかざし、
「【スピード・コール5】」
ゲイルリンドに素早さのバフが与えられた。
ヴァイスのジョブは回復やバフを得意とする【聖職者】――そんな彼のバフを受け、ゲイルリンドの攻撃の速度は飛躍的に増した。
このテンポアップにはネロアも対応しきれず、いくつかの打撃を貰ってしまう。
そしてゲイルリンドはネロアを十分に怯ませたところで、彼女の背後に回り、ハンマーロック式に動きを封じ、
「さぁ来いノルガード! 処刑の時間だ!」
「へいへいへぇ〜い! 任せときんしゃ〜い!」
ノルガードが自分の刀に【Dt-Do】を入念に振りかける。その刀をしっかりと両手で握り、ネロアを見据えて、大上段に構える。
「……覚悟はいいな!? ネロア」
ネロアは返事せず、ゲイルリンドに捕らえられたまま、真顔のままでい続けている。
「……おーいゲイルリンド。確かお前、こいつとタイマンしてた時、こういう拘束状態から逆転されたんだよな? なんか今回もそういうこと考えてるんじゃね?」
「安心しろ、今回は脱出が難しいように、継続ダメージにならない拘束をしている」
さらに後方の、オルディッツも、能力の分析範囲をネロアが入るギリギリにしぼり、なるべく彼女の状態や行動を詳細に調べて、
「……はい、彼女はもうそこから自力では脱出不能です」
「そうか、ありがとさん、オルディッツさん……何だよ、こんなしょうもないカスタードしやがって!」
ネロアはノルガードに言った。
「……ミスリード、ですよ?」
「そうそう、それが言いたかったんだよ僕は……ってお前に指摘されたかないわ!? もういい、このままサクッと斬ってやらァ!?」
そしてノルガードは上げた剣を一気に振り下ろす。
「【クロス・ギフト】!」
その最中、十字の光の弾丸が、ノルガードの刀身に命中。
刀の刃渡り半分となり、ノルガードはネロアにダメージを与えられなかった。
「……ッああッ! 俺の大事でもなんでもない量産型の刀が、折れたァァァ!?」
「誰だ! 今のは!?」
「少々お待ち下さい。ヴァイス様。ただいま犯人を……」
オルディッツは分析範囲を広げ、あの弾丸の射手を探す。
「ああ、こんな単純なことだったのですか……皆様、頭上を!」
五造の一同は、一斉に空を見上げた。
「ヴァイス様と五造の方々に見上げられるとは気分が良いかもな……いや、よくねぇわ、これまで散々偉そうにしやがって!」
そこにいたのは、【Dt-Do】由来の風の翼を生やし、下めがけて銃を構えるアンティルの姿だった。
ヴァイスは彼の方を睨みつけて言った、
「貴方は……例の裏切り者ですか!」
「ああそうだ、アンティルだ!」
ネロアもアンティルの方を見上げて、
「やはり来てしまいましたか、アンティルさん」
アンティルは片手で、自分の翼を示しつつ、
「シンプルに自由区中を飛び回って、上から探してた。そしたらスゲー人口密度がエグいところがあるのを見つけて……」
「そこにボクたちがお呼ばれされたってわけ!」
バリアを挟んで両脇にそれぞれにいる、ミレア・プレイヤーの集団から、悲鳴が上がる。
その中に紛れ込んでいたシュラと、ウェンリーとブッチギリーストそれぞれが率いる災国と術国の軍団が、周りのプレイヤーへの攻撃を開始したのだ。
「シュラさん! それにウェンリーさんとブッチギリーストさんまで!? 何故!?」
「たった一人をブッ殺すためにこんな誇大りな凶行かます奴を見過ごしたまま、学園に帰れるかってんだ!」と、ブッチギリースト。
「僕も前の二人と同感。ここでヴァイス殿を見逃したら、ますます大陸の情勢が笑えなくなるからね。あと、橙瀧様にお土産を用意しないとさって……」と、ウェンリー。
「どうせ『ボクたちに迷惑をかけないように!?』 みたいなこと考えて単独行動したんだろ? 残念、ボクたちはヴァイスに次いで思いやりのない人間なんでね。こうして来ちゃいましたよ!」と、シュラは言った。
「大人しく帰っていればよかったのだが……」
ゲイルリンドはバリアの両脇に目をやり、その先にいる自軍の混乱具合に苛立つ。
そしてゲイルリンドはノルガードへ言う。
「周りは気にするな! さっさとネロアを斬れ!」
「え、でも刀が半分に……」
「残りの半分でも切れるには切れるだろうが! 変なこだわりせずにさっさとやれ!」
「はいはい、わかりましたよ! やりますからすぐに!」
ノルガードは折れた刀を改めて握り直し、ネロアめがけて突き出す。
だがその直前、折れた方のノルガードの刀身が突如動き出し、ゲイルリンドの片腕に刺さる。
「ぐっ!?」
その時に感じた痛みにより、ゲイルリンドの拘束が緩む。
すかさずネロアは思いきりゲイルリンドに肘を食らわせる。
さらに彼の巨体を踏み台にして蹴り、前方に突進し、
「【禍根の楔】!」
ノルガードめがけ闇属性の剣閃を放ち、彼にカウンターを決めてふっ飛ばした。
「ノルガード、ゲイルリンド! お下がりください、ここは私が狙撃をします!」
オルディッツは剣先をネロアに合わせて突き出し、
「【ウォーター・バレット】、六連!」
六発の水の弾丸を放つ。
ネロアは剣を構えつつ、その弾丸の軌道を読む。一見自分を狙って放っているようだが、よく観察すると、ただここで棒立ちしていれば『一度』は六発ほど避けられるようだった。
しかし、今自分の両横と背後にはバリアがある。カオンが作り出す、攻撃反射効果があるバリアが。
(このコの字バリアの中にいれば、お風呂でスーパーボールを投げたときみたいに、四方八方から弾丸が飛んでくる……ひとまずここを脱出しましょう。きっとまた二人で罠を張ってくると思いますけど)
ネロアは弾丸を避けるべく、前に片足を一歩出す。その時、自分を囲んでいたコの字バリアが炎上し、消滅した。
予想通り、水の弾丸六発はほとんど動かずにネロアの横を通り過ぎた。そして、近くの建物の壁に当たって消えていった。
これをネロアは好機と捉え、
「【万死の薙】!」
紐付き剣に闇属性を帯びさせ、全方位を薙ぎ払い、周りに居た敵プレイヤーたち約二十人を蹴散らした。
シュラはミレア軍の一人をレイピアで刺し倒してから、
「やっと本調子が戻ってきたようだね! ネロア君!」
「ええ、皆様のおかげさまでどうにか!」
ウェンリーが槍を投げ、ミレア・プレイヤーを穿ち抜いてから尋ねる。
「それで、この後どうする? ちゃんと逃げる? それとも戦う?」
続けざまに、ブッチギリーストが姿勢を崩したプレイヤーの顔面に膝を叩き込んでから、
「ワシらはアンタの指示に従うぜ! 好きに使いやがれ!」
「戦います……ゲフン、交戦あるのみだ! それもこの場でヴァイス殿を成敗する! 故に、ウェンリー殿、ブッチギリースト殿、共に続いていただきたい!」
「任せてくれ」「合点!」
アンティルはミレア・プレイヤーたちの頭上を飛び回り、狙撃を繰り返しながら、
「ネロア! オレっちとシュラはどうすればい……」
「こんのお前はとことん嫌なタイミングで嫌なことしてくるよなァァァ!」
その時、ノルガードが新しい刀(※下級国民から強奪したもの)を携え、大ジャンプしてアンティルへ斬りかかった。
「【モンスターコール:ビートル3】!」
しかし、シュラがカブトムシ型モンスター【ペネトレイトビートル】を放ったことで、彼は空中で撃墜され、背中から派手に落下した。
そしてシュラはネロアへ言った。
「ネロア、ボクとアンティルは彼と決着をつける。君は自分の使命に集中してくれ」
「ありがとうございます。シュラさん……では、征くぞ!」
ネロアは、ウェンリーとブッチギリーストを引き連れ、ヴァイスめがけて突撃する。
「いきなり大将首を狙いますか。戦力差を考えれば妥当な作戦ではありますが、あの調和の砦を落とした奇才にしては安直な作戦ですね……」
ヴァイスが思案する中、副官らしく側に立つオルディッツは、彼へ尋ねる。
「ヴァイス様。いかがなさいますか……私の分析ではあの三人はこのまま直球に貴方にぶつかってくる見込みですが」
「当然、護衛を頼みますよ。オルディッツさん、それとカオンさんも」
「「了解!!」」
オルディッツとカオンはヴァイスの手前に立ち、三人の前に立ちはだかってくる。
対してネロアは、
「ならば此方も征くぞ! 感情のままに選択して挑め! ウェンリー殿、ブッチギリースト殿!」
ダッシュの途中で立ち止まり、ウェンリーとブッチギリーストを先に突撃させる。
二人は言葉をかわさず、ヴァイスの護衛二人と激突した。
ウェンリーはオルディッツと、お互いの剣をぶつけ合わせた。
ブッチギリーストはカオンに拳を放ち、受け止められた。
「やっぱそっちを取ったか! カメセスコアの大軍師さんよォ!」
「何となく相性が合う気がしてね。かくいう烈火の学級長も、相手しやすそうな人を選んだじゃないか」
「ああそうとも! このお嬢さんはワシがやった方が瞬殺いだろうってなァ!」
それから二人は、お互いの相手に猛攻を仕掛け、ヴァイスから遠ざけて引き剥がした。
ヴァイスは、『二人を見かけたら援護を頼む』と自軍全体にチャットを送ってから、改めてネロアを見据えた。
一定の間合いを保ったまま、ネロアもヴァイスを見つめた。
しばし無言の探り合いをした後、先にネロアが口を開く。
「……思いのほか狼狽しないな」
「それはそうですとも。ただ向かい合ったくらいです。コメディ色の強いホラー映画にありがちな、最初に化け物に出くわした一般人みたいに気絶してくれるとでも思いましたか?」
「そこまで想っていない。むしろそれで僕は救われた。我が愛しき死地を踏み荒らした張本人が矮小であるなど、僕は信じたくない……」
ネロアは背後に剣を回し、間もなく、そこから重たい衝撃を感じた。
「……隠密については不得意のようだな、ゲイルリンド殿」
「やはり通じなかったか」
ゲイルリンドはネロアの刀身に受け止められた拳を、引き戻し、ただちにヴァイスの側に移った。
「ここからは私がお守りいたします。ヴァイス様」
「貴方ならそうしてくれると思いました。少々踏ん張ってください。もうじきあの二方も帰って来るでしょう」
ゲイルリンドが拳を構えると同時に、ヴァイスもまた杖を構えて、ネロアへ堂々と言い放つ。
「では……やれるものならどうぞご自由に。お返しにと言ってもなんですが、私も遠慮なく、私の正義をいかなる手段を使ってでも教えて差し上げますよ」
「いいだろう……ならば僕も、成すべきことを成すまでだ!」
ネロアは目にも止まらぬ早さで剣をヴァイスに投げつける。
ヴァイスが冷静に杖を振り、初撃を弾いた。
この瞬間から、死国と命国の頂点による、正義と誇りをかけた真の戦いの幕が、切って落とされたのだった。
【完】
ロジスティクス・サーガ・データベース
■キャラクター紹介
【オルディッツ・W・キドネス】
分類:プレイヤー
所属:命国ミレア
レベル:76
ジョブ:【魔剣士】
ミレアの一等国民にして、【五造:尋】の称号を持つ大幹部の一人。
冷静沈着なヴァイスの参謀的な存在の青年。
ミレアの【魔剣士】は剣技と、雷魔法を得意とし、相手を隙あらば【麻痺】状態にすることで近接戦を行う。
……のだが、彼は過去に術国イペファワエゼの学園都市で水魔法を勉強しており、そちらで覚えた射程の長い魔法を、後述の能力と掛け合わせて多用している。
自分専用の【Dt-Do】を飲み、指定の範囲にいるプレイヤーの情報を察知できる。
この範囲は好きなタイミングで変更可能。範囲を狭めれば狭めるほど、より詳細な情報を調べられる。
この能力を利用し、彼はヴァイスの奇策をサポートしている。
オルディッツは英語で監査を意味する”audit”のもじり。
キドネスは英語で腎臓を意味する”kidney”のもじり。
真ん中の「W」は腎臓は体内に一対あるからというだけの簡単な理由でつけています。




