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35.ここからが本題だ

「ささ、お先にどうぞヴァイス殿! しっかりとお掴まりください!」


「わかってますよ、ガイオン殿」

  

 命国ミレアの化神官ヴァイスと、機国イズセラの代表者ガイオンは、武装ヘリが垂らす縄ハシゴを掴む。直後、武装ヘリは理の城から離れていった。


 ネロアは、武装ヘリが空けた壁の穴から、改めて外を、足下に広がる自由区の街の様子を見る。

 至る所にミレアの軍旗がひるがえり、完全武装したミレア・プレイヤーと思しき軍団が、道という道を埋め尽くしていた。


 災国カメセスコアの代表者、ウェンリーは、ネロアの左横に立ち、同じように足元を見渡して、

「これは完全に謀られたね……」


「……それは如何なる運命か?」


「どういうことか。と。それは……ヴァイスさんの捨て台詞がほぼ答えですよ」


『ここからが本題ですよ。そこらの一兵卒のように野垂れ死なないようにお願い致します』

 この言葉を思い出し、ネロアは至極単純な推測を、逆に恐る恐る言った。


「……八神会議は、僕(やつがれ)を渦中に引きずり込む口実に過ぎない、か」


「大正解です。

 ヴァイス殿にとって、今回の八神会議は本当に茶番に過ぎなかったのでしょうね。

 本来彼がしたかったのは、ネロア殿、貴方を確実に仕留めることですよ」


 ウェンリーは、足下にいるミレア軍を数えるジェスチャーをしながら、

「見てくださいよこの大軍勢。これは八神会議に合わせてこっそり集結させてたんでしょう。

 いやはや、僕も自称策士として、一度は考えたんですよ。自由区に大軍を送り込んで制圧したらすごいことになるぞ。って。ま、国際的に絶対反感を食らってしまうから机上に留めましたけど。

 しかしそれを実行するとは流石、大陸最大の国を育んだ男、ヴァイス・O・ヘブン。恐ろしい男です」


 さらに、ネロアの右横にシュラが立ち、少々焦りを見せながら言った。

「なんていう理不尽な真似をしたもんだよ……自分は山程兵隊を連れてきたくせに、ネロアに対しては『誰一人として自軍を連れてくるな』と命令するなんて」


「ええ、トードイスムカ・プレイヤーは連れてこれていないのですか?

 昨日の着陸時、やけに周りの人数が少ないどころか、他国の人間しかいないと思っていましたが……」


「……左様だ。アンティルと、ここにはいないがリュートという音国の少女を、単なる同行者として連れてきたくらいだ」


(……ああ、リュートさん、なんていうタイミングで帰って来てるんですか……)


 ネロアは円卓の中央に、八神会議の開催の通知書を置き、その一文を大広間にいる全員に見せた。


 術国イペファワエゼの代表者、ブッチギリーストは円卓に右拳を叩きつけて、その対象の硬さ故の反動で痛がりつつ、

「真実(マジ)かこれ!? 完全(ロコツ)に封殺(ハメ)る算段(ハラ)だったんじゃねえかこれ!」


 そしてブッチギリーストは、未だに無言で円卓の席に腰掛け続ける議長――時国ランニバーニの化神官、ジュリクスを睨みつけ、

「テメェも何か愚痴(イ)えよ! ヴァイスが高貴な高貴な八神会議を傲慢(スキカッテ)不遜(アクヨウ)してんだぞ!?」


 ここで、ジュリクスはようやく立ち上がる。

「すまない皆様、どいてくれ」


 彼は、ウェンリーとシュラがたまたま側にいた壁の穴に歩み寄り、【モンスターコール:ドラゴン3】を発動する。

 穴の側に呼び出された【グローリアドラゴン】の背に乗り、

「私は議長だ。中立的な対応をするため、ここは一時失礼する」

 全速力で理の城から北へ――ランニバーニへと飛び去っていった。


 みるみる小さくなっていく竜と議長の姿を見て、シュラは一言。

「これは……逃げたね、議長さん」


 その時、ネロアはジュリクスのことなど気にもとめず、虚ろな目で、無意味に通知書のホログラムを見上げていた。

 流石のネロアでも、この圧倒的な危機的状況には、絶望の二字が脳裏に浮かび上がって来てしまうのだ。

 

 意識が現実に戻ったのは、アンティルに一言かけられたときだった。

「ネロア! このまま自由区にいたらマズイぞ! どこの誰かも知らないヴァイスの兵隊にぶっ殺される……」


 噂をすれば影とやら。

 大広間の扉が蹴破られ、ミレア・プレイヤーたちが続々と突入し、


「いたぞ、ネロアだ!」

「死国以外の人間が多数いるが……」

「ヴァイス化神官の命令を忘れたか!? 『ネロアを始末すること以外、余計なことを考えるな』と!」

「これより起こる二次被害は全てネロアに起因するものとする! 皆、かかれ!」


 手始めにジョブ【魔術師】や【射手】のプレイヤーが、矢弾や魔法を乱射した。


「皆! 円卓の影に隠れろ!」

 ウェンリーの咄嗟のアドバイスに従い、一同のほとんどは円卓の下に身を伏せる。


 その一方、ネロアは壁の穴めがけ全力で駆け、そこから飛び降りた。

 勿論これは身投げなどではない。

 落下の最中、得物の紐付き剣を壁に突き立て、紐を伝って安全に、屋根に着地する。

 そこから城の屋根を伝い、街に降り立った。


(皆様、こんなことに巻き込んでしまって申し訳ありません。

 せめてものお詫びとして、ここからは、僕一人でなんとかします。それまでどうか、ご無事で……)


「あっ、こんなところにネロアが!」

「どいて、奴は私の手柄にする!」

「この大陸の秩序を乱した大犯罪者が! お前さえいなければ、お前さえいなければ!」


 上で見ていた通り、街には蟻一匹も見逃さないほど、ミレア軍による厳戒態勢が敷かれている。

 街に来て数秒も経たぬうちに、ネロアにダース単位でミレア・プレイヤーが襲いかかった。


 そしてそれをネロアは、化神官として格を見せつけるように、数秒の間に蹴散らしていく。


*


 自由区の中に佇む、ヴァイスの滞在用の別邸にて。

 そこに設けられたヘリポートに、彼とガイオンが乗る戦闘ヘリが着陸する。

 重厚な音を立ててドアが開き、まずガイオンが外に出つつ、備え付けのレッドカーペットを転がして伸ばす。

 

「さ、どうぞ、ヴァイス殿」


 そしてヴァイスもドアをくぐり、数分ぶりに地面を踏んだ。


「……あの、いかがだったでしょうか、我がイズセラが開発した、最新の高官用のヘリは?」


「ああ最高だよ。従来品に比べると揺れが少なく、移動時のストレスが解消されていると思う。ただ、唯一の欠点がある」


「ははあ、それは申し訳ございません。では、フィードバックとしてそちらをお教えいただけますでしょうか!」


 するとヴァイスは杖を両手で持ち、その先でガイオンの右頬を思いきり殴りつける。

「開発者と同行者が、大変好ましくない人間であったことだ。特に、さっきの会議中の失言の数々。私は度々、貴方がネロア殿に内通しているのではと思ってしまいましたよ……」


「い、いきなり何すんだこのクソ……」


「……このクソ?」


「あ、いえいえ、なんでもございません……」


「なんでもないならいい。そして、さっさと貴方も戦闘準備をしなさい。昨日のパーティーで、何やら相当ご自慢の兵器を持ってきているとのことでしたよね? それを早く見せて成果を出してくださいよ」


「は、はい! ただいま発進いたします! 暫しお待ちを!」


 そしてガイオンはネズミが巣穴に避難するように、すばやくヘリに戻り、別邸の敷地から飛んでいった。

 ヴァイスはヘリめがけ、「つくづく気に入らないな、イズセラの売国奴どもは……」と、吐き捨てた。


「おかえりなさいませ、ヴァイス様」

 

 ヴァイスはガイオンのせいで歪んだ表情を、理想の穏健な支配者らしいものに戻す。

 そして自分を出迎えに来たオルディッツ、ゲイルリンド、カオン、ノルガード――最高幹部【五造】の面々に「ただいま」と告げた。


 すぐにヴァイスはオルディッツに尋ねる。

「敵の現状はどうなっている?」


 【五造:尋】オルディッツ・W・キドネスは【Dt−Do】を飲むことにより、効果時間の限り、周囲の状況を調べる能力が備わる。

 これで得た情報から、ヴァイスが求めているものを的確にかいつまんで伝える。


「ネロア様は現在、調和の砦の近辺で我が軍の戦士を虐殺している様子です。

 周りに護衛と思しき人物は誰一人としていません。

 八神会議の参加者たちは、未だに調和の砦の中に残っています。そちらの突入部隊に手を焼いている模様です」


「八神会議の参加者以外の、自由区にいるミレア・イズセラ以外のプレイヤーはどうしている?」


「こちらは偵察部隊を管轄しているノルガードにお任せいたします」


「はいはい、オルディッツから説明預かりました、ノルガードです。

 代表者の同行者と、偶然いた会議と無関係の奴ら、どちらもシンプルに戸惑ってます。以上です」


「ご報告ありがとうございます、オルディッツ、ノルガード。

 ではカオン、スピーカーの準備は整っていますか?」


 カオンは自信満々な顔をして応えた。

「当たり前ですわ。自由区の各所に設置いたしました。接続テストも三回実施済みですわ」


「よろしい。では、アナウンサーに、例の原稿を読むように指示を。

 懸賞金の部分だけは絶対に読み間違えないようにしてください、いいですか、『七百万ジト』ですよ」


「はい、そう手配いたしますわ」


 そしてヴァイスは、手足を伸ばすなど、その場で軽く準備運動を行い、

「さて、これより自由区中のプレイヤーがネロアを殺すよう動き出しますし、ガイオンにもあの兵器を動かすように指示もしましたから、私たちも、行きましょうか」


 ゲイルリンドは尋ねた。

「行きましょうとは、どこへですか?」


「言うまでもなく、ネロアの元へですよ。私は映画やドラマに登場する悪のボスのようなことはしません。

 本拠地に留まらず、戦力を小出しにしたりせず、部下に任せきりにせず、確実に仕留めに行きます。

 異論はないですね、ノルガード、カオン、ゲイルリンド、オルディッツ?」


「「「「異論はございません」」」」


「話が早くて助かります」


 そしてヴァイスは、幹部四人と、選りすぐりの兵隊を連れて別邸を発った。


 ロジスティクス・サーガ史上初の自由区での大規模戦闘は、これよりさらなる混沌へと加速する。


【完】

ロジスティクス・サーガ・データベース


■用語説明

【ネロアのスキル【死神の凶器】で生み出せる【遺言】の一覧】

 本編中でも都度最低限の説明はしますので、真剣に覚えなくても結構です


・【傲慢】:【目眩】の上位互換で、一定時間動けなくなるだけでなく、この状態である者の人数が多ければ多いほどネロアのクリティカル発生率が高くなる。

・【憤怒】:【火傷】の上位互換で、スリップダメージが発動するだけではなく、当人の周りに火を放ち続ける。

・【嫉妬】:【凍結】の上位互換で、ただ凍るだけでなく、当人の周りに冷気を放ち続ける。

・【怠惰】:【麻痺】の上位互換で、より相手を動きにくくするだけでなく、周囲に電撃を放ち続ける。

・【強欲】:【毒】の上位互換で、より強いスリップダメージを与えるだけでなく、近くにいる者に【毒】が移る可能性がある。

・【暴食】:【空腹】の上位互換で、ステータスが全体的に弱化するだけでなく、当人を中心に風が発生し、周りの物を引き寄せる。

・【色欲】:【混乱】の上位互換で、味方へ攻撃してしまうだけでなく、ネロアにHPを吸い取られ続ける。


 これが七種の【〇〇の遺言】の内訳である。

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