33.決戦前夜
自由区――『ロジスティクス・サーガ』の舞台である大陸の丁度中央に位置する、運営が直接統治し、基本全プレイヤーが行き来出来る大都市である。
そしてそこのさらに中心に聳え立つのが、一対の剣が突き刺さったような装飾が施された巨城【理の城】。ここが今後のロジスティクス・サーガの行く末を決める【八神会議】の舞台だ。
今日はその前日。
その前夜祭ともいうべき、遠路遥々やってきた八国の要人たちを労うためのパーティーが開かれていた……
「僕たちが、起源だったようだ。この饗宴の地に踏み入れたのは……」
……厳密に言うと、パーティーの会場準備だけがなされ、人員が揃うのを待っている段階だ。
ガラガラの会場に、ネロアとシュラ、それと災国【カメセスコア】の代表者、ウェンリーと彼の側近が入る。
ウェンリーは言う。
「これで多少はにぎやかになったかな。現状ほとんどカメセスコア人が占拠してしまっているけど」
シュラは言う。
「悪いねぇ、ウェンリー君。けどよく知ってるだろう? ヨヤアサ人は主従関係とかまるで気にしないから、誰もボクの付き人になってくれないって」
「それは何度も経験してるからわかってるよ……けど、ネロア殿。あなたに付き人が居ないのは意外かな」
「それは如何なる運命が為か?」
「ネロア殿はカメセスコアでも話題になっていたよ。
たった数千人のトードイスムカで百万規模のミレアの要塞を落した話は最高だったと、こちらの化神官も手放しに褒めていたね。
そういうわけで、ネロア殿の人望はうなぎ登りになっているだろうから、あなたを慕っている付き人かなんかがいると思っていたんだけど?」
「誠に不条理ながら、それは虚構だ。トードイスムカ人は見知らぬ者と共に盃を傾けるより、トードイスムカで剣を鳴らすのに傾倒している故に」
(ま、本当は主催側からの指示で誰も連れてこれなかっただけですけどね。一応、連れていけそうな人はいますが、やはり二人とも無理でしたし……)
繰り返すが、このパーティーは明日の八神会議の参加者を労うための場。
アンティルはヴァイスと鉢合わせたくないからと、リュートは堅苦しいところが嫌だと理由づけて、ここには来なかった。
そもそもオレっちらは他国の大した格のない奴らだし、こういう品位のあるところに来れるか――と、一時解散間際に放ったアンティルのツッコミもまた、その一因である。
「今かな、僕たちカメセスコア人の割合が高い内に……じゃあネロア殿、あなたにもう少し、踏み入った話をしてもよろしいでしょうか?」
「肯定しよう」
「……ミレアとの友好の証である調和の砦を攻撃するに際し、何か躊躇いはありましたか?」
この問いにネロアが即答する前に、シュラが『ミレアの手助けになる罠をしかけたのかもしれないよ』と、意味を込めて、彼女を肘で突く。
「……否、僕は正しき道理に従ったまでだ」
しかし、彼女はそれを踏まえても、率直に答えた。
「そうかい。それはどうも。これにて、橙瀧様への土産話がまた一つ」
その後、続々と他国の要人が、パーティー場にやって来た。
「はじめまして、ネロア・ルォーナピアナさんでございますね。
私、エホシャドチグパの化神官代理を務めています、『アブソ・クラッタノイア』と申します」
「押忍! 手前が調和の砦と熱戦かったとかいう女か! ワシは【烈火の学級長】、『ブッチギリースト・サラマンドラ』だ! 術国イペファワエゼの化神官の代理で来た! 以後、夜露死苦!」
徐々に徐々に、各国の要人が顔を出す。そしてその中には、当然ながらヴァイスもいた。
ただし彼は、パーティーという沢山の人の交流場なのにも関わらず、会場の端の方に設けたテーブルを他の【五造】四人と、時国ランニバーニと機国イズセラの重役……つまるところ、元より明確な親交がある面々と談話していた。
当然ながら、ここでネロアとヴァイスは言葉を交わすことは無く、互いに何度か一瞥するのが精々だった。
だがそれで無問題なのは、双方わかっていた。この無礼な無交流が、未来の勝者故の傲りと捉えられても、未来の敗者故の戦きと捉えられても構わない。
どうせ明日勝てば、全部些細なことで片付くのだから。
*
八神会議の前夜パーティーを終え、ネロアは【理の城】内にある、運営側から用意された宿泊部屋に帰る。
「お帰り。ネロア」
そこでアンティルは待っていた。
パーティーに参加することは無理だったが、宿泊部屋に入ることは、ネロアが主催側に頼んでどうにかかなったのだ。
「パーティーの方はどうだ、楽しかったか?」
「程々にですね。色々な人とも話せましたし、他国の美味しいものも食べられましたし。ところで、リュートさんはどこですか?」
「ワケアリでここに帰りたくはないんだってよ。だから今日は別な宿で泊まるって」
「そうですか。わかりました」
よっこらしょ。と、つぶやきながら、ネロアは備え付けられたソファに腰を落とす。
「あ、そうだ。そう言えば、この質問をし忘れてました」
「?」
「アンティルさんは、どうして自由区にまで、僕についてきたのですか?」
「いやそりゃ、今回お前が合法的に連れていける数少ない護衛として頼まれたから……」
「提案こそしてませんでしたけど、別にあの時、断ってもよかったんですよ? 自由区に来たら、危ない目に合うかもしれないと思ってたので。例えば、今朝みたいに」
「確かにな……実際お前がパーティー終わるまで街で時間潰してた時、ずっとヒヤヒヤしてたからなぁ、なんか街にいる人全員がミレア人に見えてきたくらいだ……けど、オレっちは仮にその時に提案されても、断りはしないだろうな」
「そうですか。では改めて、どうして自由区にまで、僕についてきたのですか?」
「うーん、いざ言葉にするとなんか恥ずかしいなぁ……ほらアレだよ、自分のためになることをしたいと思ったからだ」
アンティルはロジスティクス・サーガを始めてからは、ずっとレールを走っていた。
今日のミレア・プレイヤーの大半に該当するように、ただ『ラクそうだから』とネットの情報を鵜呑みにしてミレアに属した。
一切知るよしもなかった冷酷な階級制度に振り回され、試験体への転落とトードイスムカ侵略の尖兵という過酷な経験をさせられた。
ここまで自分の意志で選んだことは少なかった。
あの町で、ネロアにこてんぱんにされるまでは……
「死んでも大活躍とは言えないけど、それからは、危なっかしい場面も多かったけど、楽しかった。
ちゃんと自分の力で、誰かのためになるっていうことが、こんなに気分がいいものなんて、な……」
「……アンティル、さん」
ネロアは、目の奥から熱いものが込み上げてくる気がした。
感慨深かった。初めて会ったときはただの臆病なミレアの兵士だった彼が――自己申告の通り大活躍こそしていないが――こうした、ゲームをする上で大事なことに気づけるようになるなんて。と。
「っていうのはサブで! メインの目的は! あのヴァイスが大恥かくのを見たくてだっつーの!」
と、アンティルは仰々しく声を張り上げて言った。照れ隠し兼、ネロアがガチめに感動していたのが見てられなくてだ。
その目的をネロアは見破り、クスッと笑ってから、
「ああ、そうですか。でしたら任せてください、明日はパーフェクトな弁論をしてあげますから」
「ああ、頼むぜネロア! オレっちの証拠もバッチシ活かしてくれよ! あはは〜」
それから二人は、身分も、格も、今のところは国籍も違うけれども、長年の友達のように笑いあった。
同時刻。ヴァイスの部屋では、彼含む【五造】が勢揃いし、明日の会議に向けての最終調整を行っていた。
「つーわけで、機国イズセラの代表者は完璧にこちらの手駒になってまーす」と、ノルガード。
「時国ランニバーニの化神官にも圧力をかけておりますわ」と、カオン。
「ただしその他の国は『様子を見る』の一点張り。ですが、この二国が味方になってくれるのなら、これ以上は贅沢と言えるでしょう」と、オルディッツ。
「感慨深いか、不甲斐ないか……実戦ではなく舌戦でトードイスムカに復讐するとは、な」と、ゲイルリンド。
そして、総じて、【五造】の元締め、ヴァイスは言う。
「形はどうであれ、もはやこうもなれば我々ミレアの勝利は確実です。
それでは後は、手筈通りかつ、抜かりなくお願いいたしますよ。皆様」
ネロアとヴァイス。両方がいる城の上には、黒闇の空と、白光の星があった。
それらは明日の論戦を暗示する様に、互いに強く存在感を放っていた。
【完】
ロジスティクス・サーガ・データベース
■その他雑多な話
【ロジスティクス・サーガ内での食事】
ロジスティクス・サーガ内では何かしら食べ物を食べた時、キチンと味を感じるようになっている。
ただし、その味はどれだけ腕の良い料理人が、良い食材を使っても、ファミレスやコンビニ弁当くらいの平凡なおいしさにしかならない。
これはロジスティクス・サーガに限らず、この世界で配信されているVRMMOゲーム全般がそういった仕様になっている。
なぜならば、ゲーム内で満足のいく食事をしたことで、現実世界で食事をしなくなって、プレイヤーの健康を害さないようにしているからだ。




