32.定まった決戦地
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トードイスムカ化神官 ネロア・ルォーナピアナ様宛。
告訴状。
我々ミレア一同は、トードイスムカとの友好を望み、そしてそれを実現してから早数年経ちました。
そのモニュメントとも言うべき『調和の砦』も、その友好と同等の月日、役割を果たしていました。
しかし、残念な事に、その調和の砦は先日、トードイスムカの軍により攻撃、制圧されました。
そして、その指揮は、何者でもない、我々ミレアの友好対象であるトードイスムカの化神官、ネロア様が取っていたと聞いています。
言うまでもなくこれは、友好対象に対する攻撃、すなわち裏切りに値し、ただちに罰されるのが道理だと我々は考えました。
故にこの事件を事前に告訴し、八神会議での議題の一つとさせていただきました。
ですから、その相応の報復・賠償を覚悟した上で、ネロア様には、それに対する釈明をお願いいたします。
当日、ネロア様と、ミレアとトードイスムカ、そして世界にとって有意義な議会を行える事を、我々ミレア一同願っています。
ミレア化神官 ヴァイス・O・ヘブン
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トードイスムカ神殿の一室にて。
ネロアが運営より渡された手紙を読み上げた直後に、アンティルは苛立ちつつ言った。
「相変わらずふざけてやがんなぁ、ヴァイスの奴」
本当にそう。と、シュラは同調して言う。
「トードイスムカがミレアと仲良くしていたなんて、どこの世界線の話なんだか。
仮にそれが事実だとしたら、トードイスムカの町を攻めていた件からして、被害者と加害者が入れ替わることになるっていうのにさぁ……ねぇ、君もそう思うだろネロア君」
「……【八神会議】って、何でしたっけ?」
「気にする所そこかよ!?」
「ひとまずそこからかい!?」
アンティルとシュラは驚きのあまり、思わず部屋の壁に倒れてもたれかかった。
「前に説明した気がするんだけどね、これ。
ええっと、【八神会議】っていうのは、運営主催で行われる定期的な会議らしいよ。
八国の代表者が【自由区】にある中心の街のさらに中心にある【理の城】ってところに集って、二国以上が絡んでいて、かつ大きめの問題について話し合うんだって。
例えば、戦争が起こった時、その敗戦処理をどうするっぽいの。
よーやくすると、ロジスティクス・サーガ全体で楽しい戦争ができるようにするための会議っぽいよ」
と、リュートはネロアにご親切にも説明をした。
アンティルは不注意ゆえにぶつけた後頭部を擦りながら、
「……なんでそこ、リュートが説明するの?」
シュラは何事もなかったように体勢を立て直してから、
「ま、今はいろんな原因からミレアの発言力が強すぎるせいで、前夜祭のパーティー以外価値のないイベントになってるけどね。
そして今回も、きっとヴァイスが有意義に使うんだろうね……ネロア君の処刑執行代わりにさ」
今回の八神会議で調和の砦の件を持ち込み、この行いを真っ当な手段で非難する。
ミレア以外の他国にも悪印象を抱かせ、トードイスムカを孤立化させる。
ネロアが手に持っている告訴状の文言からして、ヴァイスの狙いはそれしか考えられない。
そしてたった今、シュラから聞かされた八神会議の勢力図……処刑執行という表現はあまりにも言い当て妙だった。
「ああそれと一つ補足させてくれ。八国の代表者っていうのは化神官に限るということじゃない。
各国それぞれの方法で信任を得た有力なプレイヤーに行かせることもできるよ。
ま、ボクにはそういう知り合いはいないから、結局自分で行くよ」
「ちなアタシは行かないからね。会議とか難しい事よくわかんないし」
(お前は化神官でも何でもないから行けないだろ……)
と、アンティルは、リュートへ心の中でツッコんだ。
「補足ありがとうございます、シュラさん。ですが、もちろんここは僕が行きますよ」
「……君ならそう言うと思った。して、その心は?」
「今度こそ、ミレアとの戦いに勝つためです。
確かに、ミレアにもミレアなりの言い分があるのかも知れません。ですが、こちらにだって言いたいことは山程あるんです。
それさえしっかり他国の皆様に訴えられれば、きっと理解してもらえるはずなんです。
僕はこれは逆にチャンスだと思っています。このロジスティクス・サーガで、ミレアの暴走を止めるように八国に訴えられるんですもの」
このネロアの熱弁を聞き終えた後、シュラは恍惚に満ちた笑みを浮かべて、
「……やはり君だ。『欠席裁判なんてクソ喰らえ』と言ってくれなかったのが残念だけど、いい勇敢さだよ。いやぁ鮮烈鮮烈」
「……で、行くのは決まったとして、これからどうするの? まず反証集めとかだろ、それから……」
「それよりも先に、八神会議に行くための準備ですよね。移動手段の手配とか諸々……」
ネロアは封筒から、告訴状といっしょに入っていた八神会議の詳細事項が書かれた書類を見る。
「あ、移動手段は運営側から手配されるようですね。それと宿も」
「そりゃ親切で助かるな。っていうよりそれくらいして貰わないと困るっての、場合によっちゃあ金払って恥かくことになるんだからな……ん、待てよ?」
ここでアンティルはあることに気づきつつあった。
その確認のため、アンティルはシュラに尋ねる。
「なぁシュラ。この『手配』って、シュラにもあるのか?」
「ああ、あるよ。ボクはすでに何度か行ってるから、そういう詳細事項はもう受け取らないけど」
「じゃあ、運営からの移動手段って、一体どこに来るんだ? フツーにヨヤアサで集合なのか?」
「いんや、こちらの希望の場所でだよ」
「ああ、そういうことかやっぱ……シュラ、お前、一旦ヨヤアサに帰っても無駄だからっていうわけでトードイスムカに残ってたんだな」
しばらく間を空けて、シュラとリュートは大きめに首を縦に振った。
「そうそう、めんどくさいじゃんそういうの。ここから直で自由区行ったほうが早いじゃん」
「アタシも、シュラちゃんと一緒に帰ったほうが楽かなーって思っててね」
「なぁ、八神会議ってお堅い場なんだろ多分。そういう使い方していいのかよお前ら……」
と、アンティルはシュラとリュートのマイペースさに呆れた。
その時、ネロアは詳細事項が書かれた書類を見つめて、硬直していた。
「お、どうしたネロア? なんかまたマズイこと書いてあったか?」
「いえ、マズイかもしれませんが、そこまでではありません」
ネロアはアンティルに、その一文を指さしながら書類を見せる。
「えー、何々。『恐らくご自身でも承知していらっしゃるでしょうが、ネロア様の立場を踏まえて、トードイスムカの兵は誰一人として同行させないことを推奨いたします』……はぁ!? ボディーガードとか付けずに、一人で来いってことだと!?」
アンティルはこの書類を引きちぎろうとする衝動を我慢しつつ、ネロアの顔をうかがう。
特に困ってもない様子であり、自分が怒る意味がわかっていない様子だった。
「オイオイ、ちょっとは焦れよネロア! こんな無茶苦茶な条件付けられてんだぞ!」
「そうかな? 『推奨します』って言ってるんだよ? 『絶対しろ』って訳じゃないからいいんじゃないの?」
「……リュート君、残念ながらね、こういう良くも悪くもかしこまった場では『推奨』って言葉は『絶対』よりも強制力のある言い方なんだよ」
「本当に大丈夫かネロア!? これ、会議の席に座れるかも怪しくなってるんだぞ」
「大丈夫ですよ、だってアンティルさん。貴方がいるじゃないですか」
「……え、オレっち?」
「だってあなたはまだ、ミレア・プレイヤーじゃないですか。だったら、この理不尽な文言には該当しないので、連れて行っても特にお咎めはないと思いますよ?」
「はは、なーるほど、そりゃすげえトンチだな……けど、いいのか、オレっちなんか連れてってもよ?」
「いいのです。信じてください、化神官様の言葉を、ね」
「……ああそうかい。じゃあそうさせてもらうよ」
ネロアは二枚の書類を封筒にしまい直す。
「では今後の方針も無事決まったことですし、後はその準備に励むとしましょうか。
……もちろん、先にある仕事を全部片付けてから」
そして再び机に向かい、積まれた書類を片付け始めた。
その姿を見て、アンティルはつぶやく。
「……ゲームの中の国一つを守る、たったこれだけのために、バカ強いモンスター達を倒して、シュラを倒して、調和の砦を落して……今度はアウェーでヴァイスと戦おうとするなんて、ネロア、本当にお前は変わっているな……というよりもはやマゾだなマゾ」
その瞬間、ネロアは顔を上げて、
「マゾ? それはどういう意味ですか?」
ここはシュラが代わりに答えた。
「辛いこととか苦しいことを好んで受ける人、つまりネロア、君みたいな人のことだよ」
「へぇ、そういう言葉があるんですか。流石文神の化神官ですね、ボキャブラリーが凄いです」
「そういう捉え方でいいのかよ、オイ」
*
八神会議前日の昼。自由区の市街地に、一台の車が入ってきた。
「着きました。こちらが自由区です」
「ありがとうございます」
と、ネロアは運転手のピープルに礼を言って降りる。それに続いて、シュラ、リュート、アンティルも降りる。
「うん、やはりトードイスムカに残っていて正解だったね。こうして、相乗りして自由区に来れたんだから」
「ふー、なっつかしー! やっぱ自由区は見どころ満載で楽しいなぁ! エホシャドチグパに帰る前に死ぬ程観光しよ!」
二人の姿を見て、アンティルは一言。
「シュラも車呼べるっていうのに、結局四人全員で相乗りすることになるとはなあ……」
そして彼も、他の三人と同じように自由区を見渡した。
八国の文化が混ざり合った、まさしくこの大陸の中心地らしい味わい深い光景に、アンティルは感嘆する。
「こんな感じだったんだなぁ自由区って。無理して爆速でミレアに行かなくてもよかったかもな……!?」
突然、アンティルは手をバタバタさせながら背中を後ろに曲げる。
空の青色が占める視界の中で一瞬、鉛玉が横切った。
「ん、どうしたんですか、アンティルさん。急にアクション映画みたいな回避をして」
踏ん張りが足りず、反った体勢からそのまま仰向けに倒れた後、アンティルは鉛玉が飛んできた方を示して叫ぶ。
「周りを見ろネロア! 来て早々に狙われてるぞ!」
ネロアたち三人はそちらへ目をやると、六人のプレイヤーが集まって、こちらを睨みつけていた。
全員、ボロボロになったミレアの支給装備を着ている。彼らが調和の砦の残党であることは、それを見ればすぐわかった。
「チッ、あの裏切り者を殺してビビらせようとしたのに……」
「気づいたところでどうにもならんぞ、この野郎!」
「お前らのせいだ、お前らのせいで俺たちのロジスティクス・サーガ人生はおしまいになったんだ……」
「死ね死ね死ね! お前らなんかいない方がよかったんだぁぁぁ!」
残党たちは思い思いの罵詈雑言を撒き散らしながら、ろくな連携も取らず、破れかぶれに四人へ襲いかかった。
ところが彼らは誰一人として四人へ被害を与えられずにゲームオーバーとなった。
空から降りてきた竜にまとめて潰されたためだ。
「おや、これは無礼をやらかした音だ」
竜の背の上から、面相からして知的な雰囲気を醸し出す、頭に二本の角が生えた青年が降り、四人へ近寄る。
「大丈夫かい君たち? どこか怪我はないかな?」
「僕……ゲフン、僕は無謬であり続けている」
「い、いえ……特に何ともないです……」
「そうかい。それは安心だよ」
青年は竜の操者へ振り向いて、
「ちゃんと着陸地点には気をつけてくれよ。こういう細かい不注意が積み重なって災いとなるんだから」
と、強い口調で注意した。
すると竜の操者はクスクス笑って、
「貴方があの悪党どもを踏んづけるように着陸しろって言ったんでしょうが。他国の化神官様たちが見てるからって変な背伸びしないでくださいよ」
すると青年は恐らく普段通りの、優しい声色に戻って、言った。
「おいおい、それはバラさないでくれよ」
この青年の隣に、リュートは立ち位置を移して
「ふっふー、相変わらずだね、ウェンリーちゃん」
ネロアは尋ねる。
「ウェンリーちゃん? すみませんそこの角のお方。貴方はいったい何者でしょうか?」
青年はネロアへ向いて、軽く礼をして名乗った。
「僕はウェンリー・イーブネス。災国カメセスコアの化神官の代議だ」
【完】
ロジスティクス・サーガ・データベース
■用語説明
【自由区】
①の意味
当作の舞台【大陸】を3かける3のマスで区切った場合、真ん中に位置する地帯のこと。
だだっ広い草原や高原が大部分の面積を占める。
使いやすそうな土地だが、当作運営に直轄支配されているため、いかなるプレイヤーであっても占拠することは出来ない。
②の意味
①のちょうど真ん中にある名もなき大都市の俗称。
まるでロジスティクス・サーガの世界観を全てかき集めて凝縮したように、八国の文化が入り混じっている。
こちらの土地も運営により直轄支配されているが、土地のレンタル契約は結ぶことができ、かつ、運営に計画書を提出してGOサインが出れば建物の建設も可能。
この市街地の中央には【理の城】なる大建造物が存在する。
プレイヤー間ではだいたい②の意味で使われることが多い。
コンビニに行ってくる。と言われたら「コンビニで買い物などの用事をする」と解釈するのと同じ理屈である。




