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30.生命の強弱

「ははは、油断したな! こちらとて、乏しい戦力で、大英雄と呼ばれる貴様を倒そうとは微塵も思っていない! さぁ、あの矢を食らって逝け!」


 謁見台に立つヴァイスに、一本の矢が、飛竜の如き勢いで飛ぶ。


 それをヴァイスは一瞥だけして、冷静な面持ちで一言。

「カオン、頼みます」


「了解しました、【セイクリッド・ガード】」


 カオンはヴァイスと矢の間に立ち、バリアを貼り、それを防ぐ。

 だがそれだけで、カオンの職務は終わらない……先程防いだ矢と同等の代物を、バリアより形成し、逆に放出した。


 飛んで返ってきた矢は、【キトァミァ神殿】の周囲にあった、見晴台に命中。その威力が余って見晴台は崩壊した。

 これはカオン固有の【Dt−Do】の効果――飲んでからの一定時間、自分が行った防御行為に、何らかの攻撃が命中すると、即それを反射する。

 逆算すると、先程放たれた矢はそれだけの威力を持っていたということになる。

 だが、ヴァイスはその凄まじさをまるで気にもとめず、スベラゼルカの足を杖で引っ掛け、彼の頭を踏みつける。

「用心棒を雇っていたのですか。誰でしょうか?」


「言うものか! 寧ろ貴様が、言うべきことがあるだろ! 『これまでミレアを滅茶苦茶にしてすみません。スベラゼルカに化神官の座を返します』と!」


 ヴァイスはスベラゼルカの首筋を杖で強烈に突き、一時彼を気絶させる。


「まぁ、別に答えなくてもよかったのですがね。さてオルディッツ、今の狙撃は何者の仕業か、調べはつきましたか?」


 己の【Dt-Do】を少々口に含みながら、オルディッツは目を閉じ、精神を統一させる。

 そして、ヴァイスに答える。

「東の方角、五百メートル。名前は『ユーキナミト・ロゼリア』」


 これはオルディッツの【Dt−Do】の効果――短時間、自分を中心とした指定の範囲内で、他人の情報を調べる能力が得られる――による分析である。


 カオンは言う。

「そこは確か、あの崩れた見張り台のすぐそばですわ。犯人はまだそこまで遠くには行っていないのでしょう。でしたら、直ちにそこへ衛兵を集わせ……」


 ヴァイスは遮って言う。

「結構。ここは一つ、ミレア国民に向けて『アピール』がしたい」


 ヴァイスは己の杖を手に取り、それを掲げ、

「【命神の恩寵】」

 天より、春の生命の芽吹きを彷彿させる、ピンク色の光を浴びる。


 そしてヴァイスは、謁見台の床を強く蹴り、民衆の頭上を横切って、崩れた見張り台のそばにあった建物の屋上に着地する。

 そこで、ドラゴンのような角を生やした、鋭い眼光の男が、弓を構えて立っていた。


「貴方ですね。今さっき私の暗殺を目論んだのは」


「貴方……俺様は貴方という名前ではない! 俺様は災国カメセスコア史上最強天下無双のスナイパー、【射手星竜】ユーキナミト・ロゼリアだ!」


「【射手星竜】――ああ、あのカメセスコアで話題のあれですか」


 災国カメセスコアとは、大陸の真南にある、気候が不安定で、資源が乏しい国。

 故にそこの国民は各々郎党を組み、僅かな資源を奪うべく、昼夜問わず戦乱に明け暮れていた。


 総取り。その三文字を目標に百近くもある派閥が争い続けた。しかし幾日が経っても戦局は変わらず、ただただ小勢同士が力や蓄えをすり減らし続けるだけの戦いが続いた。


 そんなみみっちい争いに、災国の神も辟易したのだろうか。

 神は己の国に、十二の流星を落とした。


 それから、これまでの小競り合いは、片手で数えられる程の国同士の大戦へと成り果てた。


 その十二の流星は不思議なことに、十二人のプレイヤーに命中した。そして彼らは目覚めるや否、尋常ならぬスキルを覚えていることに気づいた。

 以降、流星に選ばれた十二人ーー通称【十二星竜】は、そのスキルを活用し、圧倒的な武を持ってして各々大軍を作り上げたのだ。


 今、ミレアの化神官を前にしても堂々としているユーキナミト・ロゼリアも、十二の流星を食らった一人。

 ただし彼は【射手星竜】と周りより恐れられる程の己の力に酔っており、天下にも名声にも一切目もくれず、最低限の自領は味方に任せておき、自分は傭兵として各地の戦場を転々とし、そこを荒らし回っている。

 あの卑小なスベラゼルカに従っているのも、彼を尊敬してるとかそうではなく、シンプルにたまたま近くを寄った時にお金をくれたからというだけだ。


「わざわざここまで来るなんてありがとよ! ミレアの化神官が自ら俺様の射程に来るなんてさ!」


「こちらも僥倖ですよ。まさかこのような形で、カメセスコアの誉高き【十二星竜】に会えるなんて」


「そうか、ますます嬉しいぜ……そして死ねぇ!【ワイバーン・アロー】、三連!」


 飛竜の如き矢が三つ、絶妙にヴァイスを狙って飛んでいく。


(俺が流星によって得たスキル【射手星の竜眼】は、眼前に、蜃気楼めいた現在の状況を再現した幻影を作り出し、相手の動作と矢の軌道をシミュレートできる。ヴァイスよ、お前が俺の矢を受けてくたばることは予測済みだ!

 ゲームにおいて一番強い技ってのは、『強い攻撃を必ず相手に当てる』事! それができる俺は……まさに最強って訳だ!)


 そう過信し、ユーキナミトはにんまりとする。直後、ヴァイスの杖がそこに叩き込まれ、彼は痛みでその笑顔を歪ませた。

 肝心な矢は、ヴァイスの身体には一本も命中していない。


「ぎゃあぁ、痛てぇじゃねぇかよ! その身なりからしてお前は【聖職者】、回復補助以外はほぼほぼ出来ねぇ職業じゃねえかよ! なのに、なのに何でこんな痛い攻撃が出来て、おまけに矢ぁ全部避けてるんだよ!?」


「その通り。私の基本職業は【聖職者】です、それと同時に【化神官】であることをお忘れでしょうか?

 あるいは、ロジスティクス・サーガは、というよりRPGというジャンルのゲームは、ステータスが物を言うことをお忘れでしょうか?」


「ま、まさか……さっきの【命神の恩寵】ってのは」


「体力全快、状態異常全解除、ステータスを二倍にする。ただそれだけの効果です」

 

 ヴァイスはユーキナミトを、倍のスピードと、倍の攻撃力を持ってしてタコ殴りにする。

 ユーキナミトのジョブは【射手】。遠距離攻撃は得意でも、近距離攻撃は完全に専門外のジョブ、つまり、この状況の打開策は完全に無い。

 そしてユーキナミトは、矢を数発撃ってヴァイスを驚かせたのが最初で最後の見せ場となったまま、ヴァイスにあっさりと撲殺された。


「そ、そんな……ユーキナミト先生が、こうもあっさり……」


 ヴァイスは謁見台に跳んで戻り、再びスベラゼルカと対面する。


「貴方の切り札はもう倒しましたよ、スベラゼルカ元化神官。あなたはミレア国民なのですから、この反逆の始末はいかようになるか、先の弓取りで『予習』しましたね?」


 スベラゼルカは強く奥歯を噛み締めた。そして、ヴァイスの胸ぐらを掴み、つばが飛ぶぐらいの勢いで、

「私は、貴様に見下される筋合いは一切ない! 確かに私は何もできなかったかもしれない。だが貴様のような苛烈な政治を行ってはいない! 

 私は知っているぞ、私のかつての仲間が、貴様の『階級制度』とやらにかけられ、政務から外され、今やどこかもわからない戦場で雑兵として戦わされているのを!

 貴様は知っているのか! 貴様の言う下級国民とやらが、どれだけ心の中で泣きわめきながら、この腐り果てたミレアへ万歳しているのかを!」


「……つまり、何がいいたいのですか?」


「ミレア国民に、幸せを返せ!」


 ヴァイスは一つため息を吐く。わずか二秒後、スベラゼルカはヴァイスによって謁見台の床に伏させられていた。

 自分の胸ぐらを掴むスベラゼルカの手を外に開かせ、そこに体重をかける。彼が痛みから逃れるために自ずとうつ伏せに倒れた後、両腕を杖に引っ掛けて固定して、身動きを封じる。この一連の流れが、二秒の間に行われていた。


 そしてヴァイスはスベラゼルカの背に乗りながら、ささやくように言った。

「確かに私は残虐な政治を行ったかもしれない。だがそれで、ここにいる民衆たちは悲痛な叫びを上げましたか? ミレアはますます没落しましたか? 実際に起ったのは真逆のことではありませんか?」


「悲鳴が無いのは、貴様の周到な弾圧のせいで下級国民が声を上げられないからだろうが! ミレアの繁栄は、貴様が黙らせている一部の下級国民の犠牲あっての、血塗られた繁栄だろうが! そして貴様はとことん人を下に追いやって、それで儲けているのだろうが!」


「あなたにとって、その下級国民とは可哀そうな人間とお思いで? ああ、確かに私もそう思いますね。なんせ彼らは、そうならざるを得ないような思考の人間ですから……」


 ヴァイスはスベラゼルカを立たせ、先程の意趣返しとして、彼の胸ぐらを掴んで言った。


「こうやって時々、自分勝手な解釈や誤解をして、私たちに余計な仕事を与えてくる者がいるんですよ。

 いいですか、どんなに私が恨めしかろうが憎かろうが、これだけは頭ごなしに否定せず、きちんと頭に入れてから帰ってください。別に私は、付き合っていて気分のいい人間に上民の箔をつけて安全圏で贅沢したい訳でも、無能な者たちを下民と差別し、好き放題搾取したい訳でもないのですよ。

 私が真に望んでいるのは、皆が平等に、がこの世の真理に沿った正しい行いをすることです」


「正しい行い……何だそれは!?」


「あなた元化神官なのでしょう、少しはその一時は権力者になるに値した才能を使って、自分で答えを出してくれませんか?

 ですがヒントくらいは差し上げましょう。二流の用心棒を雇って一応の上司の暗殺を企てること。筋の通らない説教を浴びせること。こんなくだらないものは絶対に違います」


「ああそうか、あれか……『悔しかったら殴ってみろ』ということか?

 ……そこが、それこそが貴様の最大の悪行なのだ! 貴様ら上級国民は揃いに揃って圧倒的な力を持ち、下等国民を徹底的に屈服させているのだ! そんな状況で一体誰が殴れるというのだ!?」


 ヴァイスはしばし考えてから、スベラゼルカの胸ぐらから手を放す。

「それは貴方の仰るとおりかもしれません。でしたら、ここは一つ試しに、あなたに『力』を貸してあげるとしましょう」


 ヴァイスは杖の先を、スベラゼルカに掲げ、

「【命神の恩寵】」

 彼へピンク色の光をもたらした。


「うぉぉぉぉぉ! こ、これは、なんという力だぁ!」

 スベラゼルカは、自分の身体から力が溢れるのを感じた。その興奮と歓喜のあまり、彼は謁見台の床を蹴り、キトァミァ神殿の頂点を越すほど跳躍する。


 頭上で高笑いするスベラゼルカを見上げて、ヴァイスはさらにこう詠唱する。

「【命神の恩寵】」


 その途端、彼の側にいたオルディッツとカオンは、彼の真意に気づき、口角を上げた。


「ははは! 敵に塩を送るとはまさにこのこと、しかもそれも二回とはな! じゃあ遠慮なく、貴様を殴り潰してくれるぞ!」

 スベラゼルカは空中で剣と盾を構え、ヴァイスめがけて急降下し始める。


「【命神の恩寵】」

 同時に、ヴァイスは杖を掲げて三度詠唱する。するとスベラゼルカの全身が異様なほど煌めき、そして神々しい光を全身から爆発させ、死亡した。


「全く、化神官であった頃から変わらない傲慢さでしたわ」

「ですが、これで遠慮なく奴を『破門』できますね」

 と、カオンとオルディッツは、スベラゼルカの花火を見てつぶやいた。


 それからヴァイスは軽く衣服を正した後、改めて下にいるプレイヤーたちへ向かい、

「……このような恥さらしにならぬよう。君たちもミレアの旗を自信を持って背負いながら、日々努力するのですよ」

 と、ようやく演説を締めて、民衆達の困惑を、見事己への歓声に変換したのだった。


【完】

ロジスティクス・サーガ・データベース


■キャラクター紹介

【ユーキナミト・ロゼリア】

 分類:プレイヤー

 所属:災国カメセスコア

 レベル:70

 ジョブ:【射手】


 カメセスコアの上位プレイヤー、【十二星竜】の一人。【射手星竜】の称号を持つ男。

 カメセスコアでの領地維持は程々にして、他七国に飛び出て傭兵的な活動をメインとしている。

 報酬さえキチンと前払いしておけば、どんな依頼も受ける仕事人。


 カメセスコアの【射手】は、全ての国、全てのジョブにおいても最も長距離射撃に長けている。

 さらに彼は謎の流星を受けて得た【射手星の竜眼】で、蜃気楼めいた現在の状況を再現した幻影を作り出し、相手の動作と矢の軌道をシミュレートし、非常に精密な狙撃を実現できる。

 ただし反面、近距離戦には無惨なほど弱い。

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