27.調和の砦の激戦
調和の砦、最上階にて。
「切断してやんよぉ! 僕の刀でさぁ!」
この砦の管理者の一人にして、ミレアの大幹部、ノルガードは、目の前にいるシュラ、アンティル、リュートへと迫る。
シュラは、横の二人をそれぞれ一瞥して言った。
「アンティル君、リュート君。君たちなりに援護を頼むよ。メインの相手はボクがするからさ」
「ああ」「オッケー!」
まずシュラは挨拶あるいは小手調べのため、【文神の執筆】を発動し、斬撃波をノルガードに放つ。
「小手調べなんか悠長にしてんじゃねえよ!」
ノルガードは持ち前のスピードで、軽やかに横へ跳び、斬撃波を難なく避けた。
その間、シュラはノルガードのステータスを閲覧していた。
(奴はレベル73の【暗殺者】……スピードの伸びがいいジョブだけど。攻撃力はそれほどでもない。これはミレア・プレイヤーにありがちな成長傾向だね。
でもって、それを補うために、ナイフとか聖水ビンとか、様々な効果のある投擲武器を用いる攻撃スキルがいっぱいあるね……じゃあまず、それに関して対策を行わな……)
「あと覗き見もしてんじゃねえよ!」
ノルガードはシュラに飛び蹴りを繰り出す。
「覗き見なんてやらしいことしてないよ。今してたのは君のステータスの脇見だ」
過去の経験から、ノルガードの動きの癖はある程度わかっている。
シュラは懐かしく思いつつ、背中を弓なりにそらせ回避する。
ノルガードにとってその蹴りは攻撃の起点に過ぎない。彼はくるりと体をひねり、刀をシュラの腹部へと振るう。
シュラは弓なりにそった勢いのまま、仰向けに倒れ込み、紙一重で刀を避けた。
それからシュラは三回転ほど床を転がったあと、立ち上がり、
「お返しだ、【モンスターコール:ビートル3】!」
シュラは反撃として、徹甲弾を彷彿させる硬い角を持つ、カブトムシ型モンスター【ペネトレイトビートル】数体を召喚、ノルガードへ突撃させる。
ノルガードは無造作に刀を振り回し、カブトムシらをいともたやすく斬り殺した。
「オレっちもいることを忘れるなぁ! 新技、【ダイレクト・ギフト】!」
アンティルは背中の翼を巧みに生かし、川に潜む得物を取る猛禽類めいた猛スピードで、ノルガードへ急接近。至近距離でエネルギー弾をお見舞いすべく、ノルガードの背に銃口をあてがう。
「忘れてごめんねぇ脱走者くん、これお詫びねっ!」
それと同時に、ノルガードは待ってましたと言わんばかりに瞬時に踵を返し、すかさず一刀を浴びせた。
887ダメージ――最大HPの九割に迫るダメージがアンティルに与えられた。
「ぐわぁ!」
「ええっ、一発で瀕死!? アンティルちゃん!? 大丈夫!?」
「リュート君、アンティル君の手当を頼む!」
リュートがアンティルへ回復魔法をかけている間、シュラはノルガードの次の出方に警戒しつつ、状況を整理する。
アンティルのレベルは52。防御力は特別低くない。
一方、ノルガードのレベルは73。先の通り、攻撃力は然程高くない。
レベル差は確かにある。だが、それでも、あのダメージ量は異常であった。
(なんなら、ボクの【ペネトレイトビートル】があんな雑な剣技で瞬殺されたこともおかしい。ノルガードのヤツ、一体どんな手品を……)
その疑問の答えを、シュラは見つけた。あの刀には、【Dt−Do】が塗られているではないか。
「なぁにぃ、シュラ? 僕の刀なんかジロジロみちゃってさぁ? 欲しいのこれ?」
「いらないよ。大体、君が刀をよこすわけないじゃないか」
「あらそう。別にこれだったらあげてもよかったのに。だってこの刀、ミレアで支給されてる量産品だもの。下のカスどもも同じの持ってなかったかな?」
「なにーっ、量産品!?」
シュラは、普段のキザで落ち着いたイメージに全く似合わない、素っ頓狂な声を出した。
これに連鎖して、回復中のアンティルも驚く。
「そんなに量産品でビックリするか!? 今までのミレアのイメージからして何となくそんな感じしないか!?」
「いや、これは流石のボクも驚かざるを得ないよ。
だって本当におかしいんだもの、ノルガードが量産品の刀なんか持つなんてさ!
かの地上最強の格闘家と呼び声高い、『錦山橙瀧』がちびっこ向けの番組で、子どもたちに童謡歌ってるくらいの異常事態だよ!」
*
話はさかのぼること、ゲーム内時間で約三年前。
当時、ノルガード・キラーレンというプレイヤー名であった彼は、ロジスティクス・サーガで刀剣収集を趣味としていた。
ただ単に自分の自宅に飾って楽しみたい、というためでもあるが、何よりも、自分に合う最強の刀剣を見つけるというのが大きな理由だった。
初期の頃は普通に各地の商店を巡って買い漁ったり、特に時国ランニバーニに多いダンジョンに潜ったりして、愚直にそれを集めていた。
しかし彼はふとある日、より楽な方法を見つけてしまった。
元より剣士として名を馳せているプレイヤーから、その得物を奪い取ってしまえばいい。と。
以来、ノルガードは、主に住所のあるヨヤアサを中心に、数々の剣士から目的の品を奪い取り、それのお試しがてらまた別の剣士を襲い、気に入らなければまたまた別の……という辻斬りをエンドレスで行った。
そうした行為を続けているうちに日に日に悪名は広まっていった。やがてその悪名は、普段は文国ヨヤアサの自由な精神を尊重し、国民には干渉しない主義であったシュラにまで届いた。
これを聞いた途端、シュラはたまには化神官としていい所を見せたいという思いと、小説のネタ集めのためにと、対ノルガードのために動き出した。
シュラはノルガードの居場所を突き止め、ヨヤアサの某所で一騎打ちを行った。
その顛末はシュラの勝利に終わった。それも、化神官としての実力を見せつけての勝利である。
そしてこの敗北からまもなく化神官権限による追放処分を受けたノルガードは、紆余曲折あって、今度はミレアで逮捕された。
それから彼はなんやかんやかくかくしかじかあって、現在、【五造】になっているのだ。
*
「もしかしてあれかな? ミレアでヴァイス様にボク以上に折檻を受けて、考えが変わったとかかな?」
「絶対に違うわ。てか普通に忘れてたけどアンタ小説家だろ? 確か、推理小説も書いてただろ?」
「ああ、書いてるとも。何なら現実時間でだいたい一年七ヶ月前に出版して頂いた『空鞘恐怖症』っていう推理小説のキーマンは、君のエピソードをエッセンスにして創作した。
あ、ちなみにこの小説、現在三十カ国語で翻訳されて絶賛販売中だから、書店で見かけたら是非手にとっておくれよ」
「え、マジで? オレが主人公になってるの? もちろん名前はちゃんと使ってるよね?」
「この類の本で君みたいなやつが出てくるとしたら犯人役がベターだし、実在の人物の名前を無許可で使うほどボクはだらしなくないから」
「ちぇっ、その本の話題使ってモテようと思ってたのに……」
そうぼやいた後、ノルガードは口を尖らせた。
その近くでまだ回復を受けてる最中のアンティルは一言。
「戦闘中に著作の宣伝するなよ、シュラ……あと、ノルガードも話の腰が折れてることに気づけっての……」
「ああそうだった! 危うく忘れるところだった! ありがとよ脱走者くん!」
「こんなんで感謝されたくねーよ……」
閑話休題。ノルガードは演舞的に無駄に刀を振り回しながら、シュラへ言い放つ。
「逆に考えろ。僕がこの量産品の刀を何のためらいなく握っているってことは、ズーバーリぃ、僕はお目当てのものに巡り会えたってことだ。
ただし、この刀ではない。ヴァイス様から頂いた【Dt−Do】こそが、僕が求めていたものだったんだ!」
そしてノルガードは、刀を振り回すのを一旦止める。腰の【Dt-Do】をもう一度手に取り、中身をかけ直しながら、
「この勝負がヒリつくように、もっと教えてやるよ! この【Dt-Do】の効果は、『かけたものを用いたもので攻撃を当てた際、物理防御力を無視してダメージを与える』ってヤツだ!」
ここで一つ解説を入れるとしよう。
ロジスティクス・サーガのプレイヤー、ピープル、モンスターのステータスには、物理防御力と魔法防御力という項目が存在する。
ゲームをやり慣れている方なら大方が察しのつく通り、このステータスは『物理と魔法、それぞれ攻撃を受けた時、数値が高ければ高いほどダメージを軽減できる』ものだ。
このロジスティクス・サーガにおけるダメージの計算式は未だに判明されていない。
一時は正真正銘の数学者も加わった研究チームがそれを解き明かそうとした。
だが彼らが挑んだ、この計算式は、ステータスの数値や相性などはもちろんのこと、命中時の極僅かな角度の違いやら、当たった時の気温湿度やら、はたまたシンプルな運要素などが絡み合っているらしく、彼らの研究は思うように進まなかった。
結果、研究チームは謎を解き明かせぬまま予算都合で解散。
それと同時に発表した声明文の『我々は何のために真剣になっていたのだろうか』という一文は、ネット上でやや話題になった。
しかしながら、物理/魔法防御力というステータスの数値は、その摩訶不思議なダメージ計算式において何らかの『マイナスの効果の主数値』を担っているということはこの研究で判明しているため、彼らの行いは全く無駄ではなかったと言えるだろう。
そのダメージを減らすために必要な数値を無視してダメージを与える。
その脅威の事実を知った途端、三人はさっきの異常なノルガードの攻撃力に納得すると同時に、彼の目論見通り、恐怖と緊張感を覚えたのだった。
(ここからはノーミスでいく気でないと、まともに戦えないねぇ……けど、上にいる彼女がここにいたら、きっと喜んでいたんだろうなぁ)
一瞬、シュラはあの時自分が上に行けばよかったと思った。
しかしシュラは直後に思い直した。
(いや、それこそマズい。あのゲイルリンドという男はマズ過ぎる。
その後、リュートから話を聞いた時はもう背筋が冷えたよ。
――先日の同盟交渉のとき、そのまま彼と戦ってたらどうなっていたか。って想像してさぁ……)
【完】
ロジスティクス・サーガ・データベース
■キャラクター紹介
【ノルガード・K・レン】
分類:プレイヤー
所属:命国ミレア
レベル:73
ジョブ:【暗殺者】
トードイスムカ侵略軍の最高司令官の片割れ。国民等級『一等』にして、【五造:被】の称号を持つ大幹部の一人。
マイペースで好戦的な性格の持ち主で、彼の気まぐれによってプレイヤー生命に致命傷を負った者は星の数ほどいるらしい。
かつて、至高の刀剣欲しさに文国ヨヤアサを拠点に人斬りとして名を広めていたが、シュラに敗れ、なんやかんやあってヴァイスの部下になったようだ。
ミレアの【暗殺者】はナイフや聖水ビンなどの投擲武器を多用する。
……のだがノルガードはそれらを全く使わず、刀一本で戦闘をこなす。
彼が自分専用の【Dt-Do】を塗った刀は、相手の防御力を無視してダメージを与えるようになるため、何としてでも彼の太刀筋は食らわないようにしないといけない。
ガードが乗る。斬れん。という、この人の能力とは真逆になるような言葉から命名しました。




