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22.死神ホイプペメギリの化神官、ネロア

 シュラは片膝をついた状態から立ち上がり、ホイプペメギリ神の右に現れた群青色の少女――ネロアへ尋ねた。

「君が、トードイスムカの化神官なのかい?」


「ええ。僕が死神ホイプペメギリ化神官、ネロア・ルォーナピアナと申します」


「やっぱりね。この鮮烈な覇気……ボクと『同じ』だ。遅れてすまない、ボクはシュライベン=ブラット=グリュム、文神ユールコアの化神官だ。気軽にシュラと呼んでくれ」


 かしこまりました。と、頷いてから、ネロアは言う。

「話は既に、ホイプペメギリ様に聞いています。あなたはここ冥都を陥落させに来た、すなわちトードイスムカを滅ぼしに来たと」


「ええ、だからボクはこの冥都に来て、そしてとうとうこの神殿にまで至ったんだけど、何か問題かな?」


「……ミレアにそそのかされて、ですか?」


 自由と平和を重んじる文国ヨヤアサが、急に他国を攻めるはずがない。するならば、裏に命国ミレアの存在があるに違いない。

 そういう話は既に把握済みか、と、シュラはまずひとつネロアに感心し、

「仮に僕自らこうしてきたとしたらどうする? 君はどっちの真実がお好きかな?」

 と、わざとらしく笑って言った。


「どちらでも構いませんよ、僕がやることと、貴方がやることは、この時点で一緒ではないですか」

 と、ネロアは、装備とともに新たに新調した剣を引き抜きつつ言った。


「はは、そう来ますか……なら……」


 そして神殿内にて、剣とレイピアが激突する。

 この二つの得物による金属音が響くや否や、ネロアとシュラ、二人の化神官は叫んだ。


「「全力で戦うのみ!!」」


 幾度と剣をぶつけること数十回、ネロアはシュラを神殿外へと押し出していく――先に優勢をとったのはネロアだった。


(ジョブは【騎士】/【化神官】、レベルは60、所持スキルは……一つだけ文字が潰れて読めない。これがホイプペメギリさんが授けた神業だろうね。

 ボクはてっきりホイプペメギリさんがしょうもない延命のために用意した役者だと思ったけど、これは彼女と神様に失礼すぎたね。

 さて、彼女が本当に化神官の器にふさわしいかどうか。この小手調べはこの一撃で終わりにしよう)


「【文神の執筆】」

 と、シュラは唱えつつ、ネロアに斬撃波を一つ放つ。

 ネロアは即、防御の姿勢を取った。だが生憎、この斬撃はガードを貫通する効果があるため、難なく直撃した。

 しかし、与えられたのは少量のダメージと、一割にも満たない攻撃力へのデバフだった。


「あの【文神の執筆】が効かない……流石! いいねいいねぇ! 鮮烈だねぇ! 流石は化神官だ!」


「お褒め頂きありがとうございます……ですが」


「ですがぁ〜、残念ながら、ボクはこれたった一つに全てを掛けるほど、余裕のない人間ではないよ。【モンスターコール:バタフライ3】!」


 シュラは、ステンドグラスめいて煌めく羽を持つ、大きな蝶型のモンスター、【ロイヤルバタフライ】を大量召喚し、

「ヨヤアサの【詩人】はモンスターによる物量押しが十八番なのさ!」

 即、ネロアめがけて全軍突撃を命じた。


「でしたらこちらも、【モンスターコール:スケルトン3】!」


 対してネロアは、威厳のある装備をしたスケルトン型モンスター、【マジェスティックスケルトン】を大量召喚、バタフライへの迎撃を命ずる。


 蝶とスケルトンの群れは、主たるシュラとネロアの間で、熾烈な混戦を繰り広げる。


 その頃、アンティルとリュートは、遅れて、試練場に通ずる黒い穴から出てきた。まるで箱をひっくり返したような落ち方で。

「いだっ! おい、神様! 何で、オレっちらの帰し方は雑なんだよ!」


「すまない。今取り込んでる所だ……」


 リュートはスッと立ち上がった後、すぐに神殿の扉の向こうで繰り広げられている、ネロアとシュラの戦いに注目する。

「ホントだ、ネロアちゃんとシュラちゃんが、グッチャグチャに戦ってる。超すごーい」


 遅れてアンティルもそちらへ向いて、

「あれが化神官同士の戦い方か……今のところ、そこまで手に汗握る感じはしないな……両方ともアップしてるのかな」


 ホイプペメギリ神は尋ねる。

「加勢はいいのか?」


「加勢? いやいや……オレっちはやめとくよ。化神官同士の戦いに混ざったら流れ弾がエグいだろうし、話がややこしくなるだろうし」

 

「そっそ。化神官二人が戦ってる中にアタシなんか混じったら、もう三つ巴的な感じに……」


「ある程度強いのはさっき見たからわかるけどさ、三つ巴の一端を構成できるほどじゃねーだろお前はよ」


 このようにして、アンティルとリュートは、ホイプペメギリ神とともに、神殿内から化神官二人の戦いを見守り続けた。


 同時刻。冥都の遠方に敷かれた陣地にて、ミレアの幹部、ゲイルリンドとノルガードは、二人の戦況を斥候の報告経由で把握していた。


「あーあ、とうとう出ちゃったんだね。トードイスムカの化神官。そいつの詳細はわかる?」


『ネロア・ルォーナピアナ。基本職業は【騎士】です』


 ネロア・ルォーナピアナ――その名を聞いて、ゲイルリンドは感づく。


「あの列車のプレイヤー……」


「え、何? 列車のプレイヤー? どったのゲイルリンド君。もしかしてご存知?」


「この前、ミレア鉄道の職員が、非ミレア国民に切符を二度、不正に売り飛ばしていた事件があっただろう」


「あー、なんかあった気がする、確か六等に降格させた記憶があるようなないような……で、それがなんの関係があるの」


「その切符を買わされた一人が、彼女で、偶然にも俺がここにくる際の車両に乗り合わせていたんだ」


「ふーん、で、その後どう対応したの?」


「専用車を用意し、調和の砦から離れた所まで送った」


 ノルガードはこれに追及する。

「……なら、これは君の責任じゃないのかな? 化神官になる人物を始末しないで、きっちり丁寧に運んだんだからさぁ?」


「……否定はしない」

 まさかたまたま会った人が、敵国の頂点となるなんて予想できるか。と、言いたい気持ちを抑えて、ゲイルリンドは申し訳なさそうに言った。


「ゲイルリンド君。君はいちいち他所に優しすぎるんだよー。これからミレアは大陸全土を掌握するんだから、もうその気で全部バチバチあたっちゃえばいいじゃん」


「わかった、以後気をつける」


「よし、じゃあ僕、【五造:被】ノルガード・K・レンがお手本を見せてやろうか……五等国民! 全員に告ぐ!

 これよりミレア軍は『冥都内の暴動鎮圧の援助』と称し、冥都に波状攻撃を仕掛ける! お前らはその先陣だ! 化神官の座を貰いたてホヤホヤで、ホクホクして調子に乗ってるだろうネロアも、超親切に冥都を荒らしていたシュラも、纏めて殺して、手柄をぶんどっちまえ!」


「「「はい」」」


 軍内にいた五等国民全員、返事以外の言葉は言わず、せっせと冥都へと駆けていった。

 彼らは、堅実なのではない。万が一文句を言えば、ノルガードにより千切りにされる。それが怖いのだ。


 その頃冥都、ホイプペメギリ神殿前では、引き続きネロアとシュラ、それと双方の子分たるモンスターは未だ接戦を繰り広げていた。


 シュラが呼び出すモンスターの大軍を、スケルトンに対応させておき、ネロアは紐を結びつけた剣による、得意のワイヤー移動で冥都内の建物を次々と移り跳ぶ。


「【禍根の楔】!」

 そしてシュラの死角から、闇属性を帯びた剣を力強く投擲する。


 シュラはこれを察知し、

「【モンスターコール:ビートル3】」

 徹甲弾さながらの強固な角を持つカブトムシ型モンスター【ペネトレイトビートル】を五体召喚し、ネロアのいる方へと差し向ける。


 そのうち一体は闇の剣を弾くと同時に相討ちとなり、残り四体は主めがけ壁を蹴って跳びかかるネロアに迫る。


 ネロアは紐を引いて剣を速やかに回収、空中で的確に四体のカブトムシを斬り倒す。

 そして引き続きシュラへ奇襲を仕掛けたのだが、時既に遅く、シュラはネロアの着地地点からすっかり離れてしまっていた。


 さらに着地と同時にネロアは、

「【文神の執筆】、五連!」

 シュラからの斬撃波を五発一斉に受けてしまった。


 その直後にネロアはステータスを確認する。スキル欄から【禍根の楔】の記述が消えていた。


「ステータスやスキルなどの『概念』を消す。なるほど、これが貴方の化神官のスキルですか。やっぱり、デバフを得意とするヨヤアサらしいですね」


「あっはは、もう手の内がバレちゃったか。いやぁ君は強いねぇ、そこらへんの凡人のスキルなら、【文神の執筆】一発につき一スキルをなんでも消せるんだけど、君の場合は五発で習得時期早めのスキルを消せたんだからさぁ。これはしんどくなりそうだ」


「お褒めいただき光栄です。が、よりしんどくさせていただきますよ」

 ネロアは剣を構え直し、シュラめがけ駆ける。


「ああいいとも、思い切りしんどくしてくれ! その分だけボクも遠慮なくしんどくしてあげるからさ!」


 シュラは近くにいるロイヤルバタフライの何十体かを、ネロアの間に集結させ、自分は後ろへ退いた。


 二人の戦いは、似たような場面の繰り返しだった。

 ネロアが攻めると、シュラはモンスターを召喚して差し向ける。

 距離をとって安全を確保した後、【文神の執筆】を連射し、彼女のスキルを縛る。


 こうした、言い方を悪くすると『卑怯』な戦法で、シュラはネロアを追い詰めていった。


「おいシュラぁ! テメェ【化神官】だろ! もう少し堂々とした戦い方しろよ!」

「ほんとセコいことするよねシュラったら! どーせネロアちゃんに真っ向勝負できないんでしょ! 普段から特訓してないんだからさ!」


 このシュラの及び腰な戦い方は、神殿にいる二人からもヤジが飛んだ。

 けれどもネロアは特に何も言わず、彼と戦い続けた。


 アビスからの『相手が何をしようとも、絶対に馬鹿にするな』という教えに従っているというのもあるが、何よりも彼女は、シュラの一番の弱点を理解しているからだ。

 ネロアとシュラ、二人のジョブは【騎士】と【詩人】。単純な一対一で向き合っての戦闘において有利なジョブは、言うまでもなく前者である。


 特に二人においては、戦闘経験が天と地ほどの差がある。

 シュラはぶつかりあって早々にネロアの腕前を認め、この戦法を選んだのである。


「【文神の執筆】、五連!」


「……今度は【堕落の衝】が消えましたね」

 

 そしてこの戦法は最善だった。

 ネロアはシュラが放つモンスターの大軍をすぐに突破できず、どうあがいても【文神の執筆】を使える隙を作ってしまう。そしてスキルやステータスの一部を消されてしまう。


 まさしくジリ貧。ネロアはシュラとの総合的な戦力差を、徐々に埋められてしまっていた。


「よーし、これで致命傷になってくれ。【文神の執筆】、五連!」


 そして今受けた【文神の執筆】で、ネロアはモンスターを召喚するスキル、【モンスターコール:スケルトン】を使用不可にされる。


「【モンスターコール:バタフライ3】」

 

 シュラは詰めに、子分の【ロイヤルバタフライ】を追加配備。ネロアの【マジェスティックスケルトン】の軍を押し返し、本人を囲んで襲わせる。


「きゃぁ!」


「ネロアっ!? おい、大丈夫かネロア! なんならオレっちらも加勢し……」

「……!? ちょっ、アンティル黙って! 今何か、遠くからドタドタ聞こえてくるんだけど……!?」


 そのドタドタ音の正体はズバリ足音。音源となっているのは、ノルガードの命を受けて、冥都を制圧しに来たミレア軍である。


「我々はこれより、冥都での騒乱鎮圧作戦を開始する!」

「手始めに遠距離攻撃部隊! 撃てー!」


 神殿前に集結しつつあるミレア軍のうち、ジョブ【魔術師】や【射手】は、ネロアと、本来味方であるはずのシュラめがけ、魔法や矢弾を掃射する。


「くっ、こんな時に横槍が入りますとはね……」


「あーあ……ちょっとでも信じたボクが馬鹿だった。もういい、こっちもお構い無しでやってやろう」


 シュラはロイヤルバタフライを再展開し、半分をミレア軍へ差し向ける。これにて邪魔な矢玉はある程度、根源もろとも減った。

 そしてもう半分は、ネロアへと放ち、彼女の周囲を飛び回らせ、その鋭利な羽でダメージを刻んでいく。


 当然だが、ネロアは今、シュラの【文神の執筆】のせいで使える手数が限られている。

 そのため、今の彼女は満足に抵抗ができずにいた。

 ミレア軍の遠距離攻撃と、ロイヤルバタフライの包囲。これらをまとめて受けて、HPをヤスリにかけられているかのように減らされていた。


 アンティルとリュートは、流れ弾を受けないよう、神殿の扉に張り付くように隠れた。


「うわわぁ〜、さっきシュラちゃんにセコいとか言ったけど、あんなの子供のイタズラだったじゃん。アイツらマジでなんなの、人の心あるのミレアのプレイヤーって!」


「ええいとにかくマズイ! 待ってろ、ネロア! 今からオレっちも行ってやる……!」

 アンティルはネロアの救援のために、まず扉から外を覗いた。


 その時真っ先に見えたのは、ロイヤルバタフライに身を切り刻まれているネロアが、歯を出して笑っている様だった。

 一瞬、普通に歯を食いしばってダメージに耐えているようにも見えた。けれども、あの目の色と表情は、まさしく笑顔であった。それも、確実に何かを見据えているような。


「おーい、アンティルー、アンタどうしたいの? なんか急に顔だけちらっと出してぼーっとしてるけど」


 アンティルは慌てて首を引っ込めてから、リュートに言った。

「もうちょっとだけ黙って見守っておこうと思ってな」


「え、もしかしてネロアちゃんのこと急に嫌いになったの?」


「こんな変なタイミングで嫌いになるもんか。ただ、確実にしたんだ、嫌な予感が」


 とうとうミレア軍が、神殿前の広場に続々と足を踏み入れた。こうして、ネロアとシュラは、ホイプペメギリ神殿を背に囲まれる状態となった。


「さぁ、これで息の根を止めてやるぞ! シュライベン、それからネロア!」

 

 そしてミレア軍は一気呵成に押しつぶすつもりで、百数人で束となってシュラとネロアへ攻めかかった。


「ちょっとこれは捌(サバ)ききれないなぁ……ネロア、君はどう?」

 シュラは、未だに蝶に襲わせているのを自覚している上で、ネロアに尋ねた。


「……ええ、やってみせますよ」


 ネロアは蝶のダメージに耐えながら、剣を後ろに引いて構える。

 その時、彼女が強く握っている剣には、禍々しい漆黒のオーラが宿り始めた。


「ご覧遊ばせ、【死神の凶器】!」


 ネロアは漆黒のオーラを帯びた紐付き剣を、四方八方へ振り回す。

 これを食らい、ネロアに纏わりついた蝶の群れはすべて死に絶え、


「ぎゃああああ!」

「HPが、一瞬で……!」

「こうもあっさり死ぬなんて……」


 ミレア軍の九割が死亡時の光の塵になるエフェクトを発して消えた。

 

 その範囲外にいる、アンティルとリュートは絶句する。。


「や、やばー。マジ死神じゃんこれ」

「ああ……だから来るなって言ったのか……」


 そしてシュラは、剣がかすった左肩をなんとなく擦りながら言った。

「どさくさに紛れてきっちりと仕返ししてきたね。ま、今のところ特に何もなってないからいいけど」


 シュラは、急に仲間がごっそり減って戸惑うミレア軍を見つつ、しばし考える。

「あ、わかった。これ、多分即死技の一種だね? けど残念。ある程度強い人にはそう即死効果は通じないっていう原則、覚えているよね?」


「もちろん。ですが、それは関係ありません。何故ならこの攻撃はあくまで『初動』ですから……」


 シュラがその発言に、疑問を持って間もなく、先程からずっと黙り込んで、ネロアの戦い様を見ていたホイプペメギリ神は、神殿内部から言う。


「俺は死の神、ホイプペメギリ……俺の勤めは、死を司る事と、死人にすべき措置を施し、還す事……俺はただ、人を殺して終わりではない。なら俺の化神官も」


「たとえ殺しても、その死を粗末には使いません」


 先程、ネロアが大量殺害した蝶とミレア軍の内の何体からか、剣状の霊魂――個数は十、種類は七――が飛び出す。

 それに気づいたシュラは、内の一つのステータスを覗く。


「【強欲の遺言】……分類は、技? なんて不可思議な……」


 霊魂の群れは、シュラを含むまだ生きているプレイヤーへと飛んだ。

「【文神の執筆】! 念のため五連!」

 シュラは自分に飛んできた青色の剣の霊魂へ、斬撃波を放ち消滅させた。


 その他のミレア・プレイヤーは、各々のスキルで相殺を試みた。だがそれらは、すべてすり抜けてしまい、なすすべなく食らってしまった。

 そのダメージ量は突飛した物ではない。だが、それを受けたミレア・プレイヤーは、まもなく激しく悲鳴を上げて苦悶した。


 ある者は身体が燃え上がり、ある者は凍りつき、ある者は自らを黒焦させながら放電する、など、不可解な状態異常に侵され始めた。


「た、助けて……」

 ある、帯電する状態異常に侵されたプレイヤーが、感電ゆえにブルブル震えながら、霊魂を食らっていない仲間へ手を伸ばした。


「や、やめろ、近づ……ぐわぁぁぁ!」

 ある程度その手が近づいた途端、その仲間は身体を震わせながら倒れた。彼は状態異常【麻痺】に侵されたのだ。


 このようにして、謎の状態異常にかかったプレイヤーたちのうちの何人かは、味方に既存の状態異常を撒き散らし始めた。


 ミレア軍らしく、何人かのプレイヤーは状態異常を解除できるスキルを持っていたので、それで治療を試みた。

 しかし、既存の状態異常にかかったプレイヤーはどうにかなったが、霊魂を受けたプレイヤーはまるでそれが効かず、仲間に状態異常を与え続けた。


 かくして、即死技を受けても生き残れたプレイヤーもプレイヤーで、原理不明の状態異常によって、みるみると数を減らしていくのだった。


 数秒間武器に即死効果を付与する。それを受けて運悪く死んだものは一定確率で、相手へ剣状の霊魂エネルギー【遺言】をドロップする――これが【死神の凶器】の効果である。

 計七種の【遺言】は、命中した相手に、通常の状態異常の上位互換――例えば、【火傷】の上位互換である【憤怒】、【毒】の上位互換である【強欲】など――を受けるのだ。


「……流石は死神ホイプペメギリの化神官だ。よくもまぁ、こんな地獄みたいな光景作り出してさぁ」

 と、シュラはこの有り様を見てつぶやいた後、ネロアへ向き直る。


 ネロアは剣を構えた状態でこちらを見つめていた。どうやら自分が呑気に地獄を見ていた間も、彼女は臨戦態勢を解いていなかったらしい。


「さてさて、邪魔なミレア軍が落ち着いたところで、続き……が、したいんでしょう?」


 ネロアは、口を開かず、首も横にも縦にも振らず、しばしシュラを見つめる。

 シュラは、そういう騙し討ちを警戒して、適当にそれっぽくレイピアを構えた。

 

 するとネロアはようやく口を開いた。

「シュラさん、貴方はどうしたいですか?」


「……はい?」


「シュラさん、貴方は本当なら僕と戦うつもりはないのですよね? ホイプペメギリ様から、『シュラさんが自ら死国を攻めるわけがない』という事前情報も聞かされていますし、何ならさっき、ミレア軍に『ちょっとでも信じたボクが馬鹿だった』とも言っていましたし。

 僕は、本音を言うと戦いたくないような人と戦うのはよくないと思っています。ですから、もし貴方が望むのであれば、ここは水に流してもいいですよ」


「一時は冥都を制圧寸前まで追い詰めたんだよ、ボク? それでも、君は本当に水に流してくれるのかい?」


「流しますとも。さっき言った通り、貴方が本気ではないのはわかりますし、たったそれだけの因縁ですから」


 たったそれだけの因縁。そう言い切れる器の大きさというべきか、感覚のバグというべきか……とにかく、シュラはネロアの素質に対し、彼なりの最大限の賛辞をつぶやいた。

「……鮮烈だ」


 そしてシュラはネロアへはっきりと言う。

「わかったよ。いいとも、やってやろうじゃないか。せっかく遥々ヨヤアサからやってきたんだぜー。ボクはとことんやってやるよぉー。

 かくいう君も本音を言うと、ボクと戦いたいんだろー!? 一流の戦士としての闘争心みたいなものがあるんだろー! 

 ボクがこの盤面をひっくり返すレベルのイースターエッグ持ちだと知っても……戦うんだろー!? ここトードイスムカのためにさぁー!?」


 イースターエッグ。その言葉を耳にした途端、ネロアは一瞬、片眉をピクリと動かした。

「ええ……言ってしまうとそうですよ。さっきの言葉をひっくり返してしまいそうですよ! せっかく化神官になれたのですから、この力をしっかり出し切って置きたいんですよ」


「ああそうかいそうかい! じゃあ……きっちりズバッと終わらせようじゃないか、この化神官同士の戦いを!」


(いけ、ネロア……ビシッと初陣決めるチャンスだぜ!)

(お願いシュラちゃん、どうかここは降参して……!)

「……」


 二人と一柱が見守る中、二国の化神官は真剣ににらみ合う。

 互いに消耗は激しく、『次が最後のチャンス』と覚悟し、そして!


「はぁッ!」

「ほわッ!?」


 ネロアはお得意の剣投げをする。が、それはシュラが投げたレイピアに弾かれ明後日の方向へ飛び、シュラ本人は両手を上げ、


「ごめんごめんごめん、嘘嘘嘘、降参降参降参! ボクはちょっとしたジョークのつもりで言ったってのに! まさか君が本気だとは思わなかったんだよ!」

 と、真剣な眼差しでネロアへ訴えた。


「はぁぁあああ!?」

 二人の争いの結末を純粋に楽しみにしていたアンティルは、激しく仰天し、


「だと思ったやっぱ、あの感じはシュラちゃんがふざける時のだったもん」

 リュートは半分くらい呆れた様子で笑い、


「ああ、そうですか」

 ネロアは、すんなりと彼の言葉を飲み込み、ペコリと頭を下げた。


【完】

ロジスティクス・サーガ・データベース


■キャラクター紹介

【ネロア・ルォーナピアナ】

 分類:プレイヤー

 所属:死国トードイスムカ

 レベル:67

 ジョブ:【騎士】/【化神官】


 この物語の主人公。

 リニューアルされる前のロジスティクス・サーガをプレイしてきた、歴戦の戦士な少女。

 恩師アビスの愛した死国トードイスムカを守るため、再びロジスティクス・サーガに舞い戻り、過酷な試練を乗り越え、死神ホイプペメギリの【化神官】に成った。

 穏やかで、誰に対しても大抵は丁寧に接するいい人なのだが、ちょくちょく突飛した発想をしたり、常識外れな行動を取るエキセントリックさを併せ持つ。

 

 死国トードイスムカの【騎士】は、一般的なイメージの騎士とは少々異なり、最低限の武装で身を硬め、ガードよりも回避を重んじるプレイスタイルを取る。

 特にネロアは、紐を結びつけた剣を得物とし、普通に柄を持って扱うのはもちろん、紐を伸ばして振り回したり、ワイヤーアクションめいた立体移動をしたりと、場を大きく使った変幻自在のプレイを好む。

 そして新たに、死神ホイプペメギリから得たスキル【死神の凶器】により、大軍をたやすく即死させる。さらに、【遺言】を出現させることで、生き残った敵を強力な状態異常に陥れる、という凶悪な戦い方もできるようになった。

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