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18.四体のボスモンスター

 ネロア、アンティル、リュートはただただ絶句するしかなかった。

 元よりいたホイプペメギリ神の姿を模倣する【強欲の化身】、ライオン型巨大モンスター【傲慢の紋章】、狼型巨大モンスター【憤怒の讃歌】、牛型巨大モンスター【怠惰の招待】、計四体の大ボスが、たった一つの空間に同時に存在するのだから。


「おいおいおい……色々な意味でおかしいだろ! こんな言う程広くもない場所で、こいつら全員とやり合おうなんてよ!?」


「ちょ、ちょっと! これ見てるホイプペメギリさん!? まさか大ボス四体と戦えって無茶言ってるんじゃないでしょうね!?」


 アンティルとリュートはようやく状況を飲み込み始めた。そして意味もなく天井に向かって叫んだり、意味もなく何度も四体のボスモンスターを代わる代わる一瞥した。


 その時、ネロアは、強欲の化身一体だった時の構えから微塵も動かず、冷静沈着に、思案にふける。

(僕が他にプレイしてきたゲームでは、大ボス二体と同時に戦わされるのはザラにありましたし、悲劇の演出団にいた時もたまにそういったボスと戦うこともありました。

 しかし今回はその倍、四体のボスを一挙に相手取るなんて僕ですら夢にも思いませんでしたよ……とにもかくにも、まずは)

「皆さん! 非常に辛い局面かもしれません! ですが、なんとか耐え忍んでください!」


「ネロアちゃん! なんとかってなあにっ!?」


「なんとか、ですよ!」


「ああもうわかったよネロア! ったく、無茶苦茶だなぁ相変わらずっ!」


 三体の大型モンスターは、完全に暗黒から姿を出すや否や、この空間が崩壊するのではと思うほどの雄叫びを轟かせたのち、一斉にネロアたちへ襲いかかった。


 大型モンスターたちに見下された四体の小さな存在は、なんとか耐え忍ぶということのみを念頭に置き、試練場を縦横無尽に駆け回り、巨体から繰り出される攻撃の数々をかわし続けた。


 リュートは涙目になりながら叫んだ。

「うわー、もう終わったよこれー!」


「諦めないでください! 信じれば突破口はあります!」

 と、ネロアが言った瞬間、怠惰の招待がいかにも猛牛のそれらしく、一対の角を突き出して突進してくる。


 ネロアは紐付き剣を投げ、紐を引っ張って移動し、怠惰の招待の軌道から抜け出す。

 しかし、その先で傲慢の紋章が待ち構えており、鎧のような外装を纏う両前足を、ありったけの膂力を込めて振り落とす。

 

 だが、ネロアは物怖じもせず、冷静に再度剣を横へ投げ、紐を引いて移動。傲慢の紋章の視界から逃れた。

 傲慢の紋章の両前足の叩きつけは、最大の獲物に当たらなかった。それどころか、突進最中の怠惰の招待の脇腹を殴って横転させてしまうという失態を招いてしまった。


 ネロアは持ち直した剣で、その光景を指してリュートに言う。

「ほら、ありましたよリュートさん! これが突破口です!」


 リュートは憤怒の讃歌に追い回されながら、

「えー、どこがー!? それってまぐれっぽくない!?」


「それがまぐれじゃないんですよ! さっきアンティルさんが言ったように、僕たちにとってこの戦場は狭い! ですがそれは相手にとっても同じことなんです!

 本来なら一体ごとに専用の空間が与えられて、それぞれでのびのびと暴れられるはずでした。しかし、あのモンスターたちが急に同じ空間に集めさせられたことで、ああいう事故がおこるようになったのです!

 ……気づけてよかったですよ、強欲の化身も逃げ惑っているところ。あれで僕はもしかしたらと思ったんですよ。この試練、ちゃんとフレンドリーファイアが有効になっているかもしれないと!」


 アンティルは憤怒の讃歌の周りを飛び回って銃を撃ちつつ、

「つまりあれだ、お前はこいつらをうまいこと誘導して同時討ちをさせるってことだな! けどよ、なんつーのこれ、再帰的っていうのかな……戦うには空間が狭すぎるのはオレっちらも同じなんだぜ! あのクソデカモンスターのクソデカ攻撃を避け続けなきゃいけないって……無理だろッ!?」


 ネロアは得意のワイヤー移動で憤怒の讃歌の足元に迫り、【禍根の楔】を与える。

 憤怒の讃歌は一瞬怯み、リュートはその隙に床を転がって奴の視界から離脱した。


「ありが……いや、今アタシのターンじゃないから黙っとこー……」


「けど僕たちがこの試練に打ち勝つには、もうこれしかないんです! 何度も無茶なことを言って申し訳ございません! けど、どうか、僕の最期まで付き合ってくれませんか!」


 このネロアの懇願を聞き、アンティルは宙返りし、そっぽを向く素振りを見せた。

 直後、アンティルは突進の予備動作に移ろうとしていた怠惰の招待へ銃を乱射する。


「あったりまえだろうがぁぁ! こんな半端なところで逃げたら情けないことぐらいわかってるっつーのぉッ!」


 さらにここで一瞬の間を見つけて、リュートも叫ぶ。

「あと若干遅れたけど、アタシからもありがとね! じゃあお礼……っていうか、お詫び? いや、純粋に常識的にアタシも協力するからね!」

 そして交通誘導員よろしく二本の剣をブンブン振り、憤怒の讃歌のヘイトを引き付け逃げ回る。


「……ありがとうございます、アンティルさん、リュートさん! では僕も!」


 ネロアは傲慢の紋章の眼前に駆けつけ、

「【万死の薙】!」

 闇属性を帯びさせた剣を紐を伸ばしながら振り、相手の顔面を傷つける。


 これが癇に障った傲慢の紋章はネロアを睨みつけ、巨体に似合わぬプロボクサーのジャブさながらの前足の連打を繰り出す。


「生憎ですが僕、悲劇の演出団で回避の極意を仕込まれていますので!」

 過去に学んだアビス直伝のローリング、紐付き剣によるワイヤー移動、この二つをかけ合わせ、ネロアは後方へ下がりつつ傲慢の紋章の攻撃をかわす。


 最中、ネロアは背中からじんわりと熱気を感じていた。


 リュートがヘイトを集めていた憤怒の讃歌が、口を閉じ、牙と牙の隙間から炎を漏らしているのが見えた。


「あわわ〜! ネロアちゃん! この狼、火をふけるみたいだよ〜!」

 数十メートルほど離れて、ネロアと背中合わせになっているリュートは、わざとらしい慌て様を見せる。


 ネロアはこの本心を読んで、ほんの少し口角を上げた。

「リュートさん、あとはこちら側が近づきますので! あとは自分の安全にお気をつけて!」


「あいよ!」


 ネロアは引き続き傲慢の紋章のラッシュをかわす。

 そして背後からはっきりとした炎熱を感じた瞬間、ネロアは傲慢の紋章の前足の連打をかいくぐり、紐付き剣を振り回す。


「それでは行きますよ! リュートさん!」

「OK! さぁライオンさん、狼さん! あなたたちの力、見せてちょーだいッ!」


 背後にいるリュートが左へと大ジャンプしたのを雰囲気で感じ取り、ネロアは右へと剣を投げ、紐を引いて一気に移動する。

 直後、憤怒の讃歌は一直線に火炎を豪快に吹き出す。

 その正面には、ネロアの連続斬りで怯んでいた傲慢の紋章だけがいた。

 両者、時すでに遅し、憤怒の讃歌は溜めた息が尽きるまで、傲慢の紋章を焼き焦がすことになった。


 その頃、アンティルはネロアとリュートからやや離れた場所で、怠惰の招待の周りをひらひらと舞い、ジタバタさせていた。

 いくら同時討ちがメインの狙いとはいえど、三体をまとめて巻き込むのは難しいと考えてのことだ。


 最中、アンティルはネロアとリュート、それから傲慢の紋章と憤怒の讃歌の様子をチラっと見て、胸を撫で下ろす。

「よかった、あの二人はうまくやってるみたいだ。これをうまいこと続けていけば、この理不尽な試れ……!?」


 安心したのもつかの間、アンティルはある異変……というより見逃しにようやく気づき、ネロアへ叫んだ。


「おいネロア! 強欲の化身が来るぞ!」


「!?」


 強欲の化身は先程模倣したネロアの紐付き剣による高速移動を利用し、試練場の天井や壁を伝い、ネロアの真正面に現れる。

 ネロアは素早く剣を構え、防御の体勢を取る。そのわずか数秒後、強欲の化身はネロアの眼前へと迫り、怒涛のようにあらゆる方向から何度も剣を振るう。


 負けじとネロアも剣を振り、強欲の化身の連撃に応対する。

 しかし相手は元は大型ボスモンスター。それに由来する高ステータスの差が現れ始めた。具体的には、ネロアの剣技が疲労によって鈍くなっていることと、徐々に後方に押されつつあることでだ。


 まだ憤怒の讃歌の文字通りのフレンドリーファイアは続いている。このまま押され続ければ自分が火あぶりにされてしまう。

 その危機を避けるため、ネロアは剣戟の最中、強欲の化身のスネへ足払いを仕掛け、一瞬体勢を崩す。


 その隙にネロアは斜め右前に剣を投げ、紐を伝ってそちらへ跳んだ。

 直後、ネロアはただならぬ殺気を感じ、剣を振りつつ踵を返す。そして強欲の化身が投げた剣を打ち返す。

 強欲の化身は弾かれた剣をキャッチするや否や、ネロアめがけ一気に駆け、闇を帯びた剣を突き出した。


「完全に僕を狙っているようですね……【堕落の衝】!」

 ネロアは最上段から闇を帯びた剣を振り下ろし、強欲の化身の剣閃を強引に足元へ叩き落とす。

 すかさず、ネロアは叩き落とした剣の身を踏み台にし、強欲の化身の首へ蹴りを食らわせ、相手を後方に倒した。


 だが強欲の化身は後転の要領で即立ち上がり、何事もなかったように剣を構え直した。


 そしてその時、

「ネロアちゃん! ライオンがまた向かってきてるよ!」

 ネロアにはめられ、味方の火炎放射により三割ほどHPを持っていかれた恨みか。傲慢の紋章は両目をギラギラと光らせ、踏む先踏む先にネロアがいるかのように四つ足に力を込めて、彼女の元へと駆けてくる。


 流石のネロアでも大型ボスを相手しつつ、同サイズの敵を相手することは難しい。

 ネロアは傲慢の紋章の猛襲に備え、一旦強欲の化身から距離を取る。

 だが強欲の化身はその分だけネロアとの距離を詰めた。さらには引き続き彼女へ剣を振り回す。ネロアはやむを得ずこれへの防御に専念した。


 傲慢の紋章は走りつつ、たてがみを帯電状態にし、剣戟の真っ只中であるネロアへ向かって錐揉み回転を加えつつ飛びかかった。


 ネロアは直ちにこの場を離れようとした。だが、強欲の化身が剣撃を間断なく繰り出すために、ネロアはその防御に専念せざるを得なかった。


【完】

ロジスティクス・サーガ・データベース


■キャラクター紹介

【強欲の化身】

 分類:モンスター

 ランク:ボス級

 レベル:67


 死神ホイプペメギリがネロアに用意した試練場にいる、七大ボスモンスターの内の一体。キツネ型のモンスター。

 いわゆる化け狐のように姿を自在に変えられ、今回は主である死神ホイプペメギリを模している。

 相手が使ってきた技やスキルなどの行動を覚え、それを真似して戦う。

 ネロアの作戦により、過剰に行動を覚えさせられた結果、立ち回りに無駄が増えてしまい、そこを突かれて追い詰められたが……

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