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17.相手が何をしようとも

「いい心構えですね! じゃあアンティルさん、強欲の化身にタカとかワシとかみたいな飛び蹴りを連発してください!」


「……え?」


 アンティルは無言でステータスウィンドウを表示し、ジョブ【射手】の部分を何度も指さした。


「ええ、わかってますよ。貴方は遠距離攻撃を得意だってことは。ですけど、ここはあえてお願いします」


 ポカーンとしているアンティルは一旦置いといて、ネロアは振り向き、リュートにもお願いする。

「リュートさん! 貴方は二刀流でガンガン斬り掛かってください!」


「ちょい待ち! アタシそういうキャラじゃないんで……」


「オメーはできるだろーが! この試練の最初の最初はいっちょ前に剣二本持って近接アタッカーやってただろうが!? なーに勝手にバッファー専門になってんだよ!?」


「いやー、でもアタシ、ここなんかで直接戦闘してもそんな強くないんで……」


「そこをなんとかお願いします、リュートさん、それからアンティルさんも! これで痛い目にあったら僕が責任を取ります!」


 急に不得意なことをやらせようとする狙いは全くわからない。ただ、これだけネロアが真剣に自分たちに頼むということは、きっと何かすごい作戦があるに違いない。これだけは数時間もこの試練で行動した信頼感によって、はっきりとわかった。だから、


「しょうがないなぁ、じゃあ後でアタシの音国銀行の口座番号を教えるから、現金(ジト)の用意、よろしく」

「生々しい応答の仕方すんなよリュート……いいか、こういうときの返事はな、こうするんだよ!」


 アンティルは強欲の化身の頭上から急降下し、その頭頂部を両足で思い切り踏みつけた。

「カッコつけれらりゃいいと思ったけど……入った!? 」


「そうです、そんな感じですアンティルさん! このままガンガン攻めちゃってください!」


「むー、アンティルのヤツめー、あんな知性の欠片もない攻撃でカッコつけて……次はアタシの番だ!」

 リュートは両手に大型のペンライトのような輝く剣を構え、ネロアを横切り、強欲の化身へがむしゃらに剣を振った。


 ネロアの剣技と比べると月とスッポンな連撃だったが、こちらも意外にも強欲の化身へとポカポカ命中した。


((行ける!! こんな攻撃でも!!))

 これで勢いづいた二人は、ますます攻撃の数を増やした。

 先程の守りの堅さはどこへやら。強欲の化身はこの激しい連撃をほぼ棒立ちの状態で受け続けた。


 この時ネロアは、二人の優勢を彼らの背後から見守りつつ、二重の意味で微笑んでいた。

(思ったとおりです。あのモンスターは『一度見た相手の技を真似できる』能力は厄介です。が、それには覚え切るまでにはある程度の経験を得なければいけないという弱点があったのです。

 いい攻めっぷりですよお二人さん。僕の希望通りに普段なら絶対に見せないような戦い方を、ああして全力でしてくれて……)


 今のところは防御にすらなっていないが、強欲の化身は二人の攻撃に抵抗する素振りを見せ始めた。こちらもネロアの読み通り、強欲の化身はサンドバッグ状態から脱却を図り始めたのだ。


 その様子を見たネロアは、再び強欲の化身へ接近しつつ二人へ言った。

「アンティルさん、リュートさん、お疲れ様でした! ここからは僕も手伝います!」


「おう! オレっちらに続いてバシーンと決めてくれ!」


 アンティルは少し横にはけ、ネロアに強欲の化身への道を開ける。

 その時、強欲の化身はネロアの迎撃のため、突然しゃがみ、勢いよく跳び上がる。


「それですよそれ! 僕が狙っていたもう一つの弱点は!」

 そう言いつつ、ネロアは今の自信を示すように堂々と剣を構えた。


*


 時はさかのぼること六年前。


 ネロアがギルド『悲劇の演出団』のメンバーとしてすっかり定着しつつあった頃、ギルドマスター、アビスから直々に戦闘の手ほどきを受けていた。


 ちょうど二人のジョブは同じ【騎士】だということもあり、アビスが繰り出す剣技を、ネロアは自分の成長と彼への敬意を見せるために、大まかに真似する形で受けていた。


 すると、この剣戟が一分を越えたか越えないかのところでアビスは急に剣を納めた。

 ネロアが「どうしてやめるの?」と聞くと、アビスはこう答えた。


「お前、全力で戦えよ」


「え、ぼく、ちゃんとぜん力だよ。アビスさんのわざおぼえて……」


「まぁ、俺の動きを頑張って真似ようとしたことは褒めてやる。けど、だいぶ無理している。今まで見てきたお前の戦い方と比べて、力の使い方が乱雑で、行動と行動の間が無駄に多すぎる。

 今は訓練ってこともあって最初から手を抜いていたが、本気でやったら多分十秒も持たずにお前を泣かせてたぞ、俺」


「けど、今までのぼくって、けんのつかい方とかわかってない、てきとーなスタイルだったから……アビスさんのをまねてそれをととのえようって……」


「確かに、今までのお前の剣術は筋が見えない。強いていうと勇敢さはピカイチってとこか。けどな、そうやって人の技を真似しても強くはなれないぞ」


「パクリになっちゃうから?」


「ってのもあるが、それは二番目の理由だ。一番気をつけなきゃいけないのは、それがお前の可能性を縛ってしまうことだ。

 このロジスティクス・サーガってゲームで一番強い戦い方ってのは、自分が心の底から一番好きと思えるような戦い方だ。

 もしその好きなことが俺の真似だと本当に思ってこうしているんだったら、俺は止めない。けど、もしそうじゃなくて、焦って自分の心に嘘ついていると、いつかきっと疲れてくるタイミングが来るんだよ」


「ほんとうにすきなこと……ぼく、まだわかんない……」


「安心しろ、だからこうして訓練してやってんだ。お前が得意な戦闘スタイルが見つかるヒントを一緒に探すためにな……このすぐ後に、別なヤツとも訓練する予定があるから話はこれくらいにして、試合再開といこうか」


「は、はい! アビスさん!」


 ネロアは再び剣を構え直して、晴れ晴れとした表情をしてアビスと向き合う。

「今の話が随分効いたみたいだな、さっきのそれとは風格が違う、これは訓練だと思い込まないようにしないと……さぁ、かかってこいネロア!」


「はい!」

 と、返事するや否や、ネロアは身体全体を使って、全速力で持っていた剣を投げる。

 投げられた剣は、事前に紐が結びつけられていたかのように、アビスの首へと飛んでいった。


「そうきたかッ!?」

 アビスは慌てて構えを崩し、拙く剣を振って、ネロアの剣を弾き返す。


「やった! アビスさんがおどろいた……! あ」


 直後、アビスはネロアの剣を拾いつつ彼女へ迫り、敗北を伝える代わりにそれを優しく返した。


「今のはいい攻撃だったぞ。一瞬ヒヤッとした。けど、俺が最初に教えた『ロジスティクス・サーガで強くなるための心構え』にはこんな言葉が……」

 そう言っている最中、ネロアがハッとして、アビスは話を一旦止め、誇らしげに目を細める。


「自分で気づいてくれたか、ありがとよ。じゃあ試しに言ってみな」


「はい、『さいごまであいてをたおすしゅだ……」


「『ピンチでもあいてを殺そうとしろ』だろ! スッといえよバーカ!」

 二人がいる訓練場に、ネロアと同じくらいの背丈の少年が、身の丈に合わない剣を背負ってやってきた。

 彼は、ネロアと同じ悲劇の演出団のギルドメンバー。ネロアと同年齢ということもあり、何かと彼女に食って掛かっていることで二人から覚えられている。


「……微妙に違うな……おい、アーサー。お前の稽古時間は二十分後だっただろ。余裕を持って来るのはいいことだが、だとしても早いだろ」


「いいじゃないですかアビスさん! だってオレ、アンタのつぎにロジスティクス・サーガで強くなりたいんだからさ! だいじょーぶ、二十ぷんは見てるだけだから、べつにネロアにおしえてるじかんがむだとか言うつもりないからー!」

 アビスへ尊敬の念を込めて目を輝かせて見上げる。ネロアへ舌をペロペロ出して見せる。この真逆の行動を交互にしつつ、少年は言った。


 さらに少年はネロアに詰め寄って、皮肉たっぷりに言う。

「なんなら、オレからもアドバイスしてやってもいいよー! 剣はなげるものじゃないから! 振るものだから! まずそういうことをべんきょーしてからアビスさんにくんれんしてもらったほうがいいとおもうなー!」


「う、うん……」

 少年がネロアをケタケタ笑い、ネロアはどういう返しをすればいいかわからず苦笑いをする中、アビスは口を開いた。


「……おいアーサー、『心構え』には他に、こんなのあったって覚えてるか。『相手が何をしようとも、絶対に馬鹿にするな』って」


「……あ」

 その途端、少年は顔を赤くして、ネロアから逃げるように離れる。

 アビスは少年を捕まえるように左肩に手を置きつつ、ネロアの右肩にポンと優しく手を添えて、


「せっかくだから、ここで二人にもう一つ『心構え』を教えてやる。『毎秒毎秒努力するつもりでいる』。特にどうともなってないときも、うまく行っているときも、失敗したときも、そして結果を出したときも、全部いつかのための努力をしていると考えるんだ。

 なんてったってロジスティクス・サーガ……というよりこれは、人生全部に当てはまることかもしれないが、生きていく中で一番優劣に響くのは『どれくらい努力できた』かだもんな。

 だから、ネロアのさっきの剣投げも、アーサーのさっきの意地悪も、自分なりに後々ためになるようにするんだ。いいな?」


 ネロアと少年は、胸にジーンと熱くなるような感覚を抱きつつ、純粋な子供らしく弾けるような声で答えた。

「「はい!!」」


「それでいい。よしじゃあネロア、あと……十五分くらい特訓しようか。アーサーは大人しくしてろよ」


「あ、そのまえにオレ、しつもんしていいですか?」


「お、どうしたアーサー?」


「こないだオレ、なまえをアーサーってりゃくさないでって言ったじゃん! はやくなおしてよそれ!」


「あー、そういやこないだそんなこと言ってたな。お前の名前、ちょっと長いから略したくなっちゃうんだよ。ごめん、今後は気をつけるよ、アーサー」


「なおしてねーじゃん!? どりょくしてねーじゃん!」


*


 ネロアは、跳躍した強欲の化身を見据えて言い放つ。

「僕が最も愛着があって、最も強いと思っているあの撃剣殺法も、アンティルさんとリュートさんのスタイルも、全部そこにたどり着くに至っての細やかな努力があって成立するものなんですよ。それらを何でもかんでも真似て使ったらどうなるかわかりますか!?」


 強欲の化身は跳躍の勢いが落ちたところで、足をピンと伸ばし、ネロアめがけ急降下する。

 対するネロアは、ここで立ち止まり、剣を引いて構えて、

「こうして、貴方が一切起こしたくないような結果を招いてしまうんですよ! 【禍根の楔】!」


 闇属性を帯びた刺突を、強欲の化身の体の中心へと放った。


 ここでの強欲の化身の失敗は、習性のままに、余計なことを学びすぎたことに尽きる。

 人の技術を丸パクリするにしても、ネロアのものだけにしておけば各種動作の繋がりがあるため、無駄な動きが減らせていた。

 しかしアンティルとリュートにあまり効率性のない行動をされ、覚えさせられたことによって、強欲の化身の行動パターンに無駄が増えてしまった。

 それがさっきの急降下キックという、隙だらけの迎撃に繋がったのである。


 そしてそのペナルティは、自分がつけた落下の勢いと、完全に動きを読んだネロアの正確な狙い、この二つが掛け合わさっての、最大HPの四割に値する大ダメージだ。


 強欲の化身はネロアの刺突を受けた刹那、試練場の床を激しく転がさせられ、はいつくばるような体勢で倒れた。


「うわー、これはコスプレとはいえどめっちゃショッキングなシーンだね。トードイスムカの神様がぶっ倒れるって」


「リュートさんの言うとおりですね……もしかして僕、罰当たりなことしてます?」


「お前はなんも悪くねーよ、ネロア。悪いのはモノマネしてるコイツだから。あ、でもコイツ多分、御本神公認でモノマネしてるから、んー、コイツは敵だ! うん!」


「そうですね。あれは試練の敵。余計なことは考えずに戦うことが誠意でしょう」


 強欲の化身は両手を地面につき、ゆっくりと立ち上がり始める。

 これは確実に弱っている証拠だ。ネロアたちは、念のための警戒をしつつ、内心、攻略の完遂を想像し、息を弾ませる。


 しかし、その希望はすぐに打ち砕かれた。

 きっかけは、強欲の化身ではない。奴はまだ体勢を立て直しているところだ。

 

 ネロアたちは息をするのも忘れて、強欲の化身の背後にある三つの扉が開くのを見た。

 三つの扉の向こう側には、数時間前にネロアたちが見たような本来の試練場の内観ではなく、暗黒の闇がある。

 その闇から、扉と体格の差などの物理法則を一切無視して、ライオン型モンスター【傲慢の紋章】、狼型モンスター【憤怒の讃歌】、牛型モンスター【怠惰の招待】が、ネロアたちと強欲の化身がいるたった一つの空間に現れた。


【完】

ロジスティクス・サーガ・データベース


■キャラクター紹介

【嫉妬の実像】

 分類:モンスター

 ランク:ボス級

 レベル:59


 死神ホイプペメギリがネロアに用意した試練場にいる、七大ボスモンスターの内の一体。トンボ型のモンスター。

 巨体に似合わぬ超スピードで、相手が攻撃する前に攻撃し、一方的に潰すことを得意とする。

 ネロア、アンティル、リュート。三人の連携攻撃には先回りしても歯が立たず、そのまま倒された。

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