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16.借り物凶争

 ネロアが祈れば試練は中止する――その約束を反故にされ、アンティルとリュートは焦りに焦った状態で、祠に向かってホイプペメギリ神を呼び続けた。だがやはり反応はなかった。


 一方のネロアは、彼らと背中を向け合ったまま言った。

「皆さん! 敵がいますよ! これまで通り戦いましょう!」


 その時、ホイプペメギリ神の姿を借りた強欲の化身は、不気味な無表情のまま、コツコツと一定のリズムで足音を鳴らし、戦意に満ちたネロアへ迫る。


 強欲の化身に臆さず向き合うネロアへ、リュートとアンティルは祠から顔を上げて言う。

「いやそれはそうかもだけど! ちょっとは慌ててよネロアちゃん!」

「いやてか、戦う意味あるかこれ!? 別にあの神様、『こいつを倒したら出してやるぞ』的なこといってねーしさぁ!」


 ネロアは目線だけを二人へやって、切迫した様子を滲み出させて、叫んだ。

「わざわざこうした敵を用意したということは、説明していないだけできっと何か意図があるはずなんです! それに、このまま何もせずにやられるわけにもいきません、そうでしょう、アンティルさん!?」


「け、けど……」

 

「あ、ですがもし本当に無理そうだったら、僕一人だけでもいいですよ?」


「い、いや! わかった戦うよ! ここに来てお前だけにやらせちゃ面子が立たない!」

「アタシも! ネロアちゃんがそこまで本気なら全力で応援するから!」


 ようやく腹を括ったアンティルとリュートはネロアの両脇に立つ。

 ありがとう。と、手短に感謝した後、ネロアは様子見として、強欲の化身めがけ剣を投げる。


 強欲の化身は左後ろの虚空に手を伸ばし、黒一式の剣を居合斬りのように勢いよく取り出す。ネロアの剣はこの抜刀によって弾き返された。


「これまでと同じく、アンティルさんは援護射撃を、リュートさんはバフなどの補助をお願いします!」


「OK! まかしとけ!」

「はいはいーい! で、ネロアちゃんはどうするの」


「純粋に切り結びます!」


 普通なら絶対に戦うことができない神の姿を模したモンスター。この得体のしれない敵となるべく安全に戦うには、まず自分の最も得意な戦法を無理のない範囲で押し付ける。

 ネロアは過去の師匠(アビス)との経験を元に、強欲の化身との間合いを詰め、剣を振る。


 これに応じて強欲の化身も剣をかざして防御する。だがその動作は散漫であった。

 ネロアは一太刀目が防がれた刹那に、より強い力で二太刀目を叩きつける。強欲の化身の体勢を崩しつつダメージを与えた……だけでなく、

「【万死の薙】!」

 闇属性を帯びる横一文字の三太刀目という大おまけを付け、強欲の化身はさらなるダメージを食らいつつ後ろへ退いた。


 これがプレイヤー相手なら、なかなか結果に響くコンボだっただろう。

 ただ、今の相手は大型モンスター【強欲の化身】。そういった強敵にふさわしい桁違いのHPがおよそ3%減ったのみであった。


「このまま勢いに乗って……オレっちもいくぞ!」

 だったらさらに畳み掛けてHPを減らすだけだ。その気概を込めて、アンティルは強欲の化身の側頭部を狙って引き金を引く。


 その寸前、アンティルの銃は明後日の方向を向いて火を吹いた。強欲の化身が剣を投げて、銃口をそらしたのだ。


 投げられた剣には暗黒のオーラで作られた紐が結ばれていた。強欲の化身はこれを左手で引き、手元に戻す。


 その時、ネロアは再び強欲の化身との間合いを詰め、剣を袈裟に振る。

 強欲の化身が剣を掲げて防御する。ネロアは素早く、直前のものより力を込めて剣を下から切り上げる。

 強欲の化身はこちらも防御する。先程の時とは打って変わって、機敏に剣を振り落とし、ネロアの攻撃と相殺した。


「だったらこれです、【万死の薙】!」

 ならば攻撃スキルの威力で防御を崩すまで。ネロアは闇属性を帯びる剣を地面と平行に振る。

 そしてこの攻撃も相殺された。強欲の化身が、あたかもネロアの鏡のように、闇属性を帯びた剣を振ってきたのだ。


「スキルまでパクって来やがったか! いや、よく考えてみるとトードイスムカの【騎士】のスキルだから、ホイプペメギリ神の下僕が使えても何も悪くはないか……」


「自分とよく似た戦法を使う相手はやりづらいですね。お互いの長所をぶつけ合わせるしかないですから……」


「だったらステータスで差をつけるしかないよね! 【アタック・コール】!」

 

「ありがとうございます! リュートさん!」

 ネロアはリュートからバフを受け取りつつ、強欲の化身へ何度も攻めかかった。それも技を見切られないように、色々なパターンを使ってだ。

 序盤は強欲の化身の意表を突き、ダメージとなった。だが強欲の化身は次々とネロアの動きをラーニングし、ネロアの行動はまるで通用しなくなった。

 

 リュートも適切にバフを重ねて掛けて必死に援護した。アンティルも縦横無尽に飛び回り、強欲の化身へのダメージを与えようと尽力していた。

 しかし技術が身に備わった強欲の化身は、相手のバフをものともせずネロアの剣技をことごとくいなした。アンティルの弾丸も、まるで以前の町での戦いでネロアがしていたように、片手間で斬り捨てた。


 それどころか、強欲の化身はネロアとの剣戟の最中、空いた左手を自分の胸に置き、自分に燃えるような赤いオーラを纏わせる――物理攻撃力を上げる【アタック・コール】を与えた際のエフェクトだ。

 そしてすぐに、強欲の化身は左手を、人差し指を伸ばした形でアンティルへ向ける。指先の虚空から銃弾が現れ、アンティルの頬をかすめた。


「えっ、アタシのバフ魔法までパクってくるの!?」

「あっぶねー、あのヤロー、ネロアのコピーをし尽くしてオレっちらの特技まで手を伸ばしやがって……!」


 ここから強欲の化身は、ネロアの剣技は剣技で、アンティルの援護射撃は射撃で、リュートのバフは自己強化で対応し、三人の猛攻をことごとく防いだ。

 大型モンスターのステータスという下地と、三人の技を盗み、相手の長所を相殺して潰す……まさに強欲の化身たる戦い方だ。

 

 自分が乱射した銃弾が、的確に同じ数の銃弾で打ち消される様を見せられながら、アンティルは言う。

「あんなのオレっちでもできねーっつーのに……とうとう応用までこなし始めたか」


「まったくー、アタシたちパクリのおかげで強くなれたくせにー。ネロアちゃん! これ早くなんとかしないとまずいよ! アイツとうとう本家超えを狙おうとしてる!」


 ネロアは強欲の化身と鍔迫り合いをしながら、リュートに応える。

「ですね、なんとかしてこのモンスターの成長の先を越さないと……!」


 強欲の化身との鍔迫り合いは数十秒経っても続いた。このタイミングでは相手を押しきれないと判断し、ネロアは相手の剣を押す力を利用して、自ら後方に飛ばされた。

 この一瞬の中でもネロアは警戒を怠らなかった。銃弾が放たれようとも対応できるように、しっかりと剣を構えていた。幸いにも、強欲の化身は特に何もしなかったが。


「……はは、これは大きな前進ですね」


「え、後退してるよネロアちゃん?」


「ぜってー物理的な位置のことじゃないだろ」と、リュートに言ってすぐ、期待を込めてネロアに聞いた。

「ネロア、ようやくアイツの攻略法を掴んだのか!?」


「はい、糸口が見えてきました!」


「うっしゃ、じゃあ早く教えてくれ! オレっちもできることなら何でもするからよ!」


「いい心構えですね! じゃあアンティルさん、強欲の化身にタカとかワシとかみたいな飛び蹴りを連発してください!」


「……え?」


 アンティルは無言でステータスウィンドウを表示し、ジョブ【射手】の部分を何度も指さした。


【完】

ロジスティクス・サーガ・データベース


■キャラクター紹介

【暴食の模範】

 分類:モンスター

 ランク:ボス級

 レベル:63


 死神ホイプペメギリがネロアに用意した試練場にいる、七大ボスモンスターの内の一体。ワニ型のモンスター。

 重力を無視して空間を移動でき、身体のサイズに比例して大きい口で相手を噛み殺す。

 この手のモンスターの例に漏れず口の中が弱点であり、そこをネロアが自滅覚悟で攻撃したことによって倒された。

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