130.次代vs継承―音の激闘―
「わかりました。おめでとうございます、橙瀧さん。ではしばらく自由区で休んで、後でランニバーニで落ち合いましょう……」
ウェンリーが橙瀧とのチャットを終えてすぐ、リュートが彼に尋ねる。
「何話してたのウェンリーちゃん?」
「橙瀧様がミラに単独勝利したことについて……」
「あ、それさっきアタシにもバカデカい声でチャットされたから知ってる。二度も同じ話聞きたくないからもうやめて」
「その前のやりとりで大体わかりましたよね、リュートさん……」
と、アブソはリュートの図々しさを指摘した。もちろん、逆ギレされないように小声で。
ここは命国ミレアの、首都【純都】への東進を見張るために作られた砦。規模はあるが名前は特にない。
リュートら音国エホシャドチグパ軍は純都に向かったヴァイスたちの抑えのため、化神官たちを迎え撃つため、この砦に集って布陣していた。
「てか何でウェンリーさんがアタシたちと一緒にいるの?」
「それは橙瀧様が一人でミラと戦うって話になって、僕たちカメセスコア・プレイヤーは好きなとこにいってという話になったからだ。
進言なり、武働きなり、ヴァイスさんあるいはオルディッツさんからの連絡を受け取ったり、役に立ってみせるよ。
ちなみに、どうしてリュートさんのところについたからというと……」
「あ! わかった! エホシャドチグパには軍師キャラがいないからだ!
ならよかったー、ウェンリーちゃんが来てくれて! ありがとうございます!」
リュートはウェンリーの手を勝手に握ってブンブン振る。
ウェンリーは険しい表情をするアブソへ向いて、
「本当は違うからね。諸事情があって流れに流れてここに来たからね」
「……大丈夫です。わかってますから色々」
アブソの悲哀を全く気にせず、リュートは純都のある東を向いて、
「今ヴァイスちゃん何してるのかな? もうそろそろ純都についてる頃だと思うんだ……」
「すみません、リュートさん!?」
「急に大声出してなあにアブソ!? もしかして説教!?」
「それもしたいと言えばしたいですが……とにかくあちらを!」
リュートはやれやれと思いながら、アブソが指差す方向を見る。そして腰を抜かす。
「えっ……ソロで!?」
北から青髪の女性がたった独り、砦へ普通に歩いて来る。
リュート、アブソ、ウェンリーは急ぎ北の見張り台へ移動し、女性とのコンタクトを取る。
「すみませーん、あなた誰ですかー?」
女性は砦の門前にて丁寧に礼をし、
「私の名前はセフィ・アニマ。音国エホシャドチグパの旧化神官だ」
これまで見た旧化神官とは打って変わり、友好的な態度をとるセフィ。アブソとウェンリーはそのギャップを怪訝に思う。
「セフィ・アニマ。『音国エホシャドチグパそのものを会場とし、五百万人という当作内歴代最高動員を記録したライブを開催』という偉業を成し遂げた伝説のプレイヤーですね。
そんな方がここに単身で来るなんて。どんな企みなのでしょうか……」
「僕は彼女の企み云々よりも、『旧化神官』というこちら側しか使ってない用語を自分で使ったことに違和感がするんだけど……」
しかしリュートはそんなことお構いなしに、普段どおりのノリで接する。
「アタシは音国エホシャドチグパの化神官、リュートです! ……で、ここに何しに来たんですか?」
「貴方がエホシャドチグパの現化神官、リュートか……これは丁度いい、私は貴方に用があるのだ」
セフィは手袋をきっちりと嵌め、両手を軽く上げ、
「貴方の可能性、試させて貰う……【音神の響鳴】!」
目の前に体感型リズムゲームがあるかのように空気を平手で叩き、音楽を奏でる。
「うわっ、スキル使った! ということはあの人も敵!?」
「敵なのは旧化神官の時点で決まってたけどね。しかし、スキルを使ったのに、未だに僕たちに実害が無いのはおかしいな……」
「んじゃとりま警戒しとこ。アブソ! 下降りて、コンボ稼ぎ隊の準備をして!」
「はい、わかりました!」
アブソはチャットでコンボ稼ぎ隊を北門周辺に召集し、自分は統率のため大急ぎで見張り台の階段を降りる。
その途中、彼はうずくまる。
「ちょっとー、どったの階段で座って……」
アブソに一喝入れてやろうと、リュートは彼へ歩み寄る。
「あまり動かないでくださいリュートさん!」
その時、リュートは内側から響くような痛みを感じ、反射的にしゃがみ込む。
「な、に、これ……!? ちょっと歩いただけでこんな……」
念のためリュートはHPを確認。五パーセントほど減っていた。
この謎の攻撃を受けたのはアブソやリュートだけじゃない、北門周辺に集まろうとしていたコンボ稼ぎ隊も同様に苦しんでいた。
第一被害者のアブソはこれらの現象について推察する。
「きっとセフィさんのスキルの効果でしょう。私たちが何かしたことに反応して攻撃を下しているのでしょう……多分ですが」
「いや、『多分』はいらないよ。アブソさん、貴方の言う通りです」
と、ウェンリーは手をパタパタさせる『実験』をしながら肯定する。
「今こうしてわかりました。あの攻撃は僕たちの行動全てがトリガーになっている」
曲を奏でている間、半径五キロメートルにいる自分以外のプレイヤーは、行動の大きさに比例してダメージを受ける――これがセフィの【音神の響鳴】の効果である。
「思い切り走ったり手を振ったりするのは勿論ダメ。
ですが、今こうして喋る、呼吸するなどの小さい動作は軽症、もしくはノーダメージになっているようです。
なら最小限の動きで攻撃すればあの方に勝てるかと……」
「さっすがウェンリーさん! 冴えてる〜!」
「いい加減アブソさんも褒めてあげたほうがいいかと」
というウェンリーの進言を無視し、リュートは自軍に命令する。
「遠距離攻撃ができる人たちはその場所のままぶっ放して! 近接戦しかできない人はゆっくり歩いてセフィに近づいて!」
コンボ稼ぎ隊はリュートの言う通り、門の向こうにいるセフィへ射撃、あるいは、そろりそろりと接近する。
「私の能力を見破るとは流石だ。が! その先にすることがしょうもなさ過ぎる! 【プレスティッシモ・メテオシャワー】!」
セフィは両手で空を叩き音楽を奏でると同時に、音属性エネルギー弾を大量連射。
射手と接近者、全てを破壊し尽くした。
見張り台周辺には攻撃は届かず、リュート、アブソ、ウェンリー、その他半数のプレイヤーは無事なのは幸いだった。
そして、リュートたちはまるで動けなくなった。【音神の響鳴】の痛みと、セフィの力――この両方にただただ怯えた。
「や、やっば……あの人、素も強いんだ……」
「じゃあ貴方たちは何なのだ!?」
そんな彼女達をセフィは魂を込めて叱責する。
「特にリュート。貴方は『一緒にいると最高に嬉しく、楽しくなる』と認められ、大勢の人々に信頼されているのだろう!?
ならこの苦しい時だからこそ、皆に喜びを与えるべきじゃあないのか!?」
リュートはポカーンとした。セフィがどうして敵であるはずの自分を奮い立たせようとしているのかがまるでわからなかった。
「かつて私が催した超絶規模のライブ。あれには私からの二つの望みがあった。
一つは、空前絶後の感動と天元突破の熱狂を届けること。
もう一つは、魂を継がせるためだ! 聴衆の誰かに『次は私がここに立って、同じように皆を楽しませるんだ』と思わせるためだ!
一人のアーティストが長期間君臨せず、次から次へと新進気鋭のアーティストが現れ、より多くの人間を楽しませる。
それが音楽……いや、全てにおいての人々の正しいあり方だと思っている!
君は時系列的に私のライブは見てないだろうが……その魂のミームは音国にきっとあって、君もそれを感じ取っているはずなんだ。
要するに……リュート、私を超えるんだ! 【音神の響鳴】の痛みも、恐怖も、全て楽しさの色で塗り変えろ!」
激励を受けたリュートは、ゆっくりと立ち上がり、生き残ったコンボ稼ぎ隊へ叫ぶ。
「皆、今からアタシ、すっごいことをするんだけど……応援してくれる!?」
コンボ稼ぎ隊も次々と立ち上がり、声を揃えて答える。
「「「はい、よろこんで!!!!!」」」
「よーしじゃあ皆、いっくよーーッ!」
コンボ稼ぎ隊が稼いだコンボを【音神の合奏】で合算。【エモーショナル・ビルド】でステータスを百パーセント上昇させた状態で見張り台から跳び、セフィへ攻撃する。
「苦痛を乗り越えてようやく一太刀浴びせられるようになったか。素晴らしい!
けれども、まだ私は負けるわけにはいかない! 次世代をより高みへ導くために!」
旧化神官の壁はあまりにも高い――セフィは超強化されたリュートの連撃を、いとも容易く体術で受け流し続ける。
「いいいぃぃぃだぁぁいぃぃッ!」
がむしゃらに剣を振っている故、リュートは全身でおぞましいほどの痛みを感じている。
後ろのコンボ稼ぎ隊も同じく激痛に襲われながら武器をぶつけ合わせ、コンボを稼いでいる。
「けれども、アタシは絶対に勝ぁぁぁつッ!」
されど彼女達はけっして行動を止めない。 ――稼ぎ隊はリュートのため、リュートは真の楽しさを皆に届けるために。
二百、三百、四百……リュートは稼ぎ隊の切望によるコンボでどんどんパワーアップし、徐々にセフィの鉄壁を突き崩しそして……
「【メイルシュトロム・フィナーレ】!」
9999パーセントのステータス上昇を得たリュートは、超激ド級の大渦巻めいた斬撃で、セフィのHPを一気に削る。
「見たよね、アタシたちの本気を……」
「ああ、しっかり見た……次世代を……」
そしてセフィは楽しむことに全力を注いだ者達の前で、満足そうに消えていった。
「何だか、変わった方でしたね……」
と、その様子を見たアブソはつぶやく。
リュートは納刀し、砦へ戻りつつ、満身創痍の自軍に笑顔を見せる。
「お疲れ様、皆! ゆっくり休んでね!」
数秒後、リュートは誰かとチャットするウェンリーの姿を見て、あることを思い出す。
「あ、そういえば……ごめん、やっぱりあんまゆっくりし過ぎないで! 多分そろそろヴァイスちゃんから後援要請が来ると思うから!」
「いや、その必要はないよ」
「え、どったのウェンリーちゃん? 今のヴァイスちゃんorオルディッツちゃんとチャットしてたんじゃないの? さっき連絡受けやるって言ったじゃん」
「それは半分早とちり、半分正解。今チャットしていたのは、オルディッツ、ゲイルリンド、ヴァイスの三人だ。
けど、誰も出てくれないんだ。
あのヴァイスがそんな簡単に負けることはないと信じているし、仮に生きている場合でも、『忙しいからまた今度』くらいは言ってくれるはずなんだ。
だから、恐らく何か、チャットに出れない事情があるんじゃないかと思うんだよ……」
「……じゃあどうする? 代わりにイズセラにでも行く?」
「そちらもそちらで危なそうだけどね……ひとまず、慎重に行動しようか」
【完】
ロジスティクス・サーガ・データベース
■キャラクター紹介
【セフィ・アニマ】
分類:ピープル(旧化神官)
所属:音国エホシャドチグパ
レベル:100
ジョブ:【格闘家】/【化神官】
音国エホシャドチグパの旧化神官。
かつて音国エホシャドチグパそのものを会場とし、五百万人という当作内歴代最高動員を記録したライブを開催した偉業の持ち主。
現行のプレイヤーに、『誰かに喜びを届ける』という魂を継承させたいという目的を持ち、敵となっている。
旧化神官にしては珍しい、現行のプレイヤーを尊重している部類の人物。
エホシャドチグパの【格闘家】は、音国特有のコンボ稼ぎに特化した連打性の高い体術と、音属性エネルギーによる連続エネルギー弾の乱射を可能としている。
彼女のスキル【音神の響鳴】は、半径五キロメートル以内にいる自分以外のプレイヤーは、取った行動の大きさに比例したダメージを受け続けるようになるというもの。
ちなみに劇中では描写されていないが、このダメージは自身のコンボ数にも加算される。幸い、【エモーショナル・ビルド】は持っていなかったため、リュートのような恐ろしいステータス強化はしていなかった。
名前の由来の一つはサファイアから。
髪の毛の色は青色ですよ。




