129.極限vs根源―術の激闘―
死国トードイスムカにて。エロイースたちイペファワエゼ軍はとある闘技場へ続々と入る。
ここはトードイスムカの首都【冥都】に次ぐ、南進の中継に適した地点。
冥都に向かったネロアと自分たちとで要所二つを押さえてしまおうというのがエロイースの作戦である。
今のところは順調に進んでいる。だが、エロイースはこの時点で、大きな不安要素を抱えていた。
「流石は術国の現化神官。冴えておるな!」
「いくら世界の危機とはいえど……なんで数日前に反逆した野郎と一緒に……」
今、エロイースは、元暴風の学級長であるブラゼファと、元烈火の学級長であるブッチギリーストを引き連れていた。
カイナフィ、オサラウド、ヒドゥニルンの三学級長が不在の今、生存者の中でも魔法に優れており、術国の旧化神官にも対処できそうな代わりの味方として、ネロアとヴァイスの提言であてがわれたためだ。
しかし彼らはどちらも、学園内のいざこざを起こした『元』学級長。味方としてありがたいのは嘘ではないが、一緒にいて気分が悪くないといえば嘘になる味方であった。
「とにかく、余計な真似はしないでよ、二人とも。今からアタシは普段以上に真剣に生徒会長としての責務をやるんだからね」
「承知した!」
「……応!」
そしてエロイースたちは闘技場の土を踏みしめ、
「でもって、アタシの企みはお見通されてたってことね。流石は旧化神官様」
中央に佇む学生服の女性を睨む。
「オメーだな。現化神官のエロイースとやらは」
「そ。かくいうアンタは……」
「『アンタ』なんて不遜な言葉遣いするなっつの。アタイを誰だと思ってやがる……」
「誰でもいい。面倒くさいから」
エロイースは手を上げ、観客席で待機していたイペファワエゼ・プレイヤーに、彼女への一点射撃を命じる。
「口だけでなく態度まで不遜だなあんたら。
んじゃ、しゃーない。アタイから自己紹介してやる……『トパライザ・エレメンタル』、イペファワエゼの学園都市のFOUNDER(根源)だ」
イペファワエゼ・プレイヤーたちの魔法が己一点に迫る中、トパライザは物怖じせず手足をフル活用して空と地に魔法陣を描く。
「【術神の究明】」
トパライザの前後左右それぞれに地水火風の魔力が凝集し、巨体を――四大精霊を象る。
全身が高密度の四属性の魔力で構成されたモンスター、【サラマンドラ・オリジン】、【ウンディーネ・オリジン】、【ノーム・オリジン】、【シルフ・オリジン】を生成する――それが【術神の究明】の効果だ。
「CANCEL(打ち消)せ」
四大精霊は主の周囲を浮いて舞い、個々の同属性(または補助属性)の魔法を吸収してしまう。
「ATTACK(ぶち当た)れ」
そして四大精霊たちは、包囲観客席へと飛来。先々に目に入ったプレイヤーに体当たりをかまし、『吸収』する。
「取り込まれた……だと!?」
「に、逃げろーっ!」
混乱する観客席たちにエロイースは、『落ち着いて身を守りなさい』と指示する。
そんな中、
「【尽因・不零無】!」
「【ガスト・カノン】!」
エロイースの側で彼女を警護する、ブッチギリーストとブラゼファは、トパライザに火と風の魔法を飛ばしてみた。
そしてそこに舞い戻ったサラマンドラとシルフに吸収された。学級長というその属性の魔法を極めた者であっても敵わないのだった。
エロイースは観客席のプレイヤーたちへ保身を優先するようにと強めの指示を出した後、トパライザへ物申す。
「アタシじゃなくて、大きく見積もっても大の小ぐらいの実力の生徒を狙うとか……学園創設者の癖に最低なことするわね」
「才能ある優等生が称賛され、素質ない劣等生が淘汰になる。
全ては無能した奴が悪い! それがSCHOOL(学園)-CASTE(生活)じゃねーの?」
「何だと……我輩らの学び舎の創設者は、このような人物であったとはにわかに信じがたすぎる!?」
「同感だぜブラゼファ。凄絶なこの極悪人さんはよぉ!」
義憤に燃える元学級長を一切視界に入れず、トパライザは四大精霊により一方的に蹂躙されるプレイヤーを見渡していた。
そして彼らを一通り鼻で嘲笑った後、
「HAPPINESS(仲良し)-LIFE(小好し)がお好みなら、現化神官のアンタが責任持ってアタイを倒してみろ。
今の実力主義に則ってな。
ま、せいぜい頑張りな。アタイが気に入らない奴全員ボコし尽くす前にね」
「……アタイはいうほど仲良し小好ししたいってわけじゃないけど、アンタのやりたい放題にはさせない。
さもないと現実的にも思想的にも、今いないアイツらの居場所がなくなる」
そう言った後、エロイースは得物の本を手に取り、
「だから過去に帰りなさい、面倒くさいの。【術神の極致】」
渾身の魔力球を射出する。
「……ついさっき、アタイは『優等生が称賛される』って言ったけど。SORRY(悪ぃ)、もう一つ称賛される条件あったわ――先駆者だ」
トパライザが指を鳴らすと四大精霊は即座に主に元に集結。その内のサラマンドラがただ棒立ちするだけで、魔力弾を防いだ。
「アタシの【術神の極致】をあんな簡単に……ってことは、『同じ』か」
「同格じじゃない。別格だ。
いーかげん頭を垂せよ。今テメーが治めている学園のカリキュラム、ルール、パワーバランス、それは全部アタイが偉業したってこと、無視れるなっての。
せめて『トパライザ禁書』ぐらいはわかんだろ。アタイの馬鹿殺しトラップの最高傑作ぐらいはよ」
「あーはいはい。それは先輩らしいですね。そういう見栄っ張りなところ」
魔力の密度が同じ故に、魔力球は四大精霊に通じない――それがわかるとエロイースは、
「そんじゃ、【術神の極致】、十連」
魔力球十発を連射。球は個々に複雑怪奇な軌道を描き、四方八方からトパライザを襲う。
だが四大精霊がいとも容易く防いでしまう。俊敏に空中を飛び回り魔力球をかき消してしまう。
「これじゃあ駄目か……」
「はい。オメーの愚行END(終了)……じゃあ今度はアタイの攻勢ね。征伐れ」
火の拳、水の剣、土の槍、風の刃――四大精霊の攻撃が一斉にエロイースへ襲いかかる。
「【アース・バレット】、三十六連」
エロイースは出の早い土の魔弾を四大精霊に連射する。だが四大精霊は微塵にも動じない。属性相性的には不利なはずのウンディーネにもまるで効いていない。
しかし、一瞬の時間稼ぎとしては有効だった。
「早く撃ちなさい!」
「応!」
「承知した!」
四大精霊がトパライザから離れている隙に、ブッチギリースト、ブラゼファらイペファワエゼ・プレイヤーたちは再び集中砲火を繰りだす。
対するトパライザは、
「頭花畑っての。【モンスターコール:イフリート5】」
周りに【インフェルノイフリート】を大量召喚し、それらを犠牲にして身を守った。
「アタイの生業は【詩人】。四大精霊にはトーテー及ばないが強いモンスターはドンドコ召喚できるんだよ……」
生き残ったイフリートは適当に遊ばせ、トパライザは四大精霊から逃げるエロイースの方を向く。
「一応教えておく。今のアンタは『アタイの一存で逃げられる』んだからな。
さっきまでの四大精霊は自動追尾。こっからはMANUALでいく」
トパライザは有言通り、四大精霊の行動を自ら制御開始。
四大精霊はエロイースにさらなる猛攻を仕掛ける。
「テメーは絶対、アタイにも四大精霊にも、勝てやしない。だから、RETIRE(諦め)ろ!」
エロイースは逃げ足を止め、迫りくる四大精霊へ向き合い、
「諦めろ……? へぇ、その台詞をわざわざアタシに言うんだ。
――残念。アタシはとっくに諦めてるわ」
ゆったりと深呼吸をし、得物の本を広げ、
「……【術神の極致】、百連」
魔力球を百発連射する。魔力球は四大精霊の先陣を切るシルフへ飛んでいく。
「数を増やしたところで無力ねーよ。もう既視だろ」
「知ってる。じゃあこれは見た?」
シルフは百の魔力球を全て受ける。トパライザの言う通りダメージはゼロ。だが、身体は押されている。
そしてシルフは、ノームの身体に叩きつけられる。
「アタシは諦めたのよ。『自力で四大精霊を倒すこと』はね。
土属性は風属性に弱い――ロジスティクス・サーガの属性の基本法則。当然見た……っていうより、学んだわよね?」
四大精霊は高密度の四属性魔力により生成された存在。
故に、風属性の塊――シルフを叩きつけられた土属性の塊――ノームは、接触箇所からボロボロと崩壊してしまう。
「……FANTASY(あり得ね)ェ、アタイの四大精霊は接触ぐらいじゃあそうならないはず……!」
トパライザは冷静を装いながら四大精霊を危機から回避させる。
だが、その前にエロイースは百の魔力球をウンディーネに当て、サラマンドラへ押し付けていた。
「普段の【術神の極致】は完璧無属性だけど、今回はごく僅かに属性を込めて撃ったのよ……当てる対象の奴が吸収して、パワーアップできるようにね。
初めて百発同時に撃っただけでなくこんな高等技術披露したんだから、少しは褒めてくれませんか、先輩?」
崩れ行くノームとサラマンドラを見て、トパライザは屈辱のあまり沈黙する。
「過程がどうであれ、過去への執着を諦めて、次世代を切り開く……学園生活っていうのはそういうもの。あるいは、身の程を知らず、暴論振りかざす奴を馬鹿にするところ。
でもって今、アタシが言いたいこと要約すると、『アンタは負けて当然』ってとこかな」
エロイースが空に本を掲げると同時に、イフリートを片付け終えた観客席のプレイヤーは、トパライザに魔法を一斉射撃する。
「ッ……戻れッ!」
トパライザは残ったウンディーネとシルフを自分の傍に戻し、魔法の雨霰を防御する。
だが、火属性と土属性の対応精霊が不在故に、それらの魔法を防ぎきれない。
ならば頭数稼ぎにと、トパライザはイフリートなどのモンスターを生成する。
「面倒くさい延命すんなっての。【アース・バレット】、二百連」
しかしエロイースも攻撃に参加し、圧倒的な魔法の連打でトパライザの数の利を無意味にする。
「カイナフィ様の無念、ここで晴らすわ!」
「これが貴様ら旧化神官への、オサラウド級長の怒りだ!」
「待っててくださいヒドゥニルンさん……今コイツを倒します!」
「てなわけで、もう皆アンタらにキレてるんで……じゃあね」
そしてトパライザは、イペファワエゼの残存プレイヤーの攻撃を一身に受け、それらを拒みながら消滅した。
【完】
ロジスティクス・サーガ・データベース
■キャラクター紹介
【トパライザ・エレメンタル】
分類:ピープル(旧化神官)
所属:術国イペファワエゼ
レベル:100
ジョブ:【詩人】/【化神官】
術国イペファワエゼの旧化神官。
術国の首都【啓都】を学園都市に改造し、魔法大国としての存在感を大陸に広めた偉人。先日学園を騒がせた『トパライザ禁書』の制作者でもある。
苛烈な実力主義者で、弱者の排除を徹底して行う。
イペファワエゼの【詩人】は、イフリートやゴーレムなどの魔法に適正のあるモンスターを大量展開し、魔法の弾幕を形成することが得意。
彼女の魔法研究の極点、スキル【術神の究明】は、地水火風の高濃度の魔力で構成されたモンスター四種を召喚するというもの。
これらのモンスターは、それぞれに対応した属性を完璧に吸収してしまうのはもちろんのこと、その撃ち手すらも飲み込んでしまう脅威の敵である。
名前の由来はトパーズとパラダイムシフトからです。
エレメンタルはシンプルに四大元素を全て極めた存在だからです。




