128.鮮烈vs終点―文の激闘―
文国ヨヤアサ。名も無き密林にて。
シュラたち生存者一同は、敵と化したプレイヤーとモンスターと戦っていた。
彼らの敵はおびただしいほどいた。しかし、
「【千絶時雨槍】!」
「【繁栄の鋭林】!」
ヨヤアサ軍に急遽加わることになったジュリクスたちランニバーニ軍と、元化神官のアンソニーやツィムブレンらが率いる大ギルド【ストラグラー家】が味方しているため、対処は容易であった。
一旦敵の波を抑えきったところで、シュラはジュリクスとアンソニーへ礼を言う。
「ありがとね、ジュリクス君、アンソニー君。おかげさまで進軍がはかどるよ」
「どういたしまして……しかし、予想通りまずいことになったな」
「シュラさん方が来るまで、我々はまず自領の防御に専念していたのですが、一歩外に出ただけでこんなことになっているとは……」
「どうやらヨヤアサの旧化神官、王耀はここのモンスターとプレイヤーたちにも手をかけまくった。と、考えるのが妥当だろうね。
じゃあ急いで【字都】に戻ろう。まずそこに行かないと何も始まらない」
シュラとジュリクス達は、王耀の手に落ちた敵を倒し続け、ヨヤアサの首都【字都】へ辿り着く。
そこに布陣し、王耀の居場所をじっくりと探す……というつもりだったが、
「遅いぞお主ら」
王耀は既に、字都の中心に当たるユールコア神殿前の広場で待っていた。それも、選りすぐったプレイヤーとモンスターに己を囲ませ、酒を酌みながらである。
「うわぁ、先に来てるのは薄々わかってたけど、まさか酒盛りして待ってるなんて。腹立つなぁ」と、シュラ。
「強者の余裕という奴でしょう。実際、昨日の王耀の戦闘はあまりにも鮮烈でした」と、ジュリクスは言った。
王耀はゆったりと立ち上がり、対象的に目にも留まらぬ速さで抜刀する。ついでに建物一棟が両断される。
「ああ、鮮烈だ。忘れられないという度を越してしまったぐらいにね」
「とにかく用心しましょう。私とシュラさんと、ストラグラー家の皆様の連携さえ完璧なら王耀にも勝てる……」
「そうだねジュリクス。ま、そこまでしなくても勝てるとボクは思うけど」
シュラはジュリクスの一歩先に出て、踏切めいてレイピアを横に伸ばして、
「奴はボク一人で倒す。ジュリクスとその他皆様は露払いに専念してほしい」
「シュラさん……それはどうしてですか?」
「シュラさん。俺はあの一件から、貴方の実力を確かに認めている。しかし……」
「王耀は史上最強の剣聖。いくら貴方でも格が違い過ぎる。そう言いたいんだろう? アンソニー君。
だが安心してくれ。ボクにはボクなりのやり方がある」
「わかりました。ただし、いつでも助太刀できるようにはしておきますよ」
「それでいいとも」
王耀を囲うプレイヤー・モンスターたちは、現在の主からの無言の命令に従い、突撃を仕掛ける。
手筈通りジュリクスたちはその相手をし、シュラと王耀を一対一にする。
シュラはレイピアを構えて、
「さぁ、やろうか……王耀君」
一方の王耀はまともな構えを取らず、
「……其処許、何故に一騎討ちを望んだ」
「遠慮なく言ってもいいかい? ボクは君が嫌いなんだよ。なんでもかんでも『つまらんつまらん』って頑なに言ってる君がね」
「満足したか?」
「この流れでボクが何をしたら満足するかぐらい考えてくれませんか?」
「あいわかった……ならば圧し折る」
王耀は退屈そうな顔をしたまま、シュラへゆったり歩く。
「まずは慣らしだ。【モンスターコール:ビートル5】」
シュラは手前に【グングニルビートル】十体を召喚。カブトムシ達は勇猛果敢に王耀一直線へ進む。
王耀は最小限の大太刀捌きでカブトムシ十体を粉砕。退屈そうな態度は変わらず。
「では本番だ。【モンスターコール:ビートル5】」
シュラは【グングニルビートル】を五十体召喚、突撃を命じる。
「つまらん真似を……」
カブトムシごときが五倍になって襲ってこようとも、己の剣術があれば刹那で全滅出来る――そう思うと王耀は無意識にあくびが出そうになる。
しかし、王耀のあくびは寸前で止まる。
カブトムシの大群の向こう側で、シュラが自分との距離を離しつつ、次なる【モンスターコール:ビートル5】を使おうとしているのが見え、『怒り』が『飽き』を上回ったからだ。
「かような愚行で小生を弄ぶか。されば灸をすえてくれる……シュラを殺せ、【文神の改竄】」
王耀はカブトムシの群れへ斬撃を繰り出した。
刹那、カブトムシは急転回、召喚者にして主のシュラへ突撃する。
シュラは【モンスターコール:ビートル5】を使用する。五十体と五十体を相打ちにさせて身を守る。
「ようし、これでわかった」
「……何がだ」
「君のその妙技の詳細がね」
放った斬撃を受けた自分のレベルの半分以下のプレイヤーまたはNPCに、宣言した命令を遵守させる――これが王耀のスキル【文神の改竄】の効果。
「……だからどうとなる?」
「どうにかなるもんさ。この世の物事全部は意味があるんだから」
「つまらん」
「そうかい。またしてもつまらないのかい……どうしてかなぁ、君が感じるもの全てがつまらないの……」
その無駄口もつまらない。と、言う代わりに王耀は、大太刀の切先を向けて駆ける。
「【モンスターコール:スタッグビートル5】」
王耀の性格上、話中に斬り込んでくるのは重々承知。シュラは落ち着いて周囲に【イージススタッグビートル】十体を召喚し、防御態勢を取る。
王耀はシュラに大太刀が届く間合いに踏み込んだ途端、
「シュラを押さえい、【文神の改竄】」
前方を軽く薙ぎ斬り、【イージススタッグビートル】をシュラへと集わせ、素早くの二撃目を繰り出す。
これもシュラは重々承知、クワガタが自分を押さえつける前に走り、王耀から全力で逃げる。
「醜い」
王耀は直ちにシュラの背中を追う。最中、シュラは振り向いて、
「【モンスターコール:バタフライ5】」
【クサナギバタフライ】を差し向ける。
「シュラを殺せ、【文神の改竄】」
王耀は【クサナギバタフライ】を全て斬りつける。そしてバタフライは旋回してシュラを襲いに向かう。
「【文神の執筆】」
シュラはバタフライたちに斬撃波を幾重に浴びせ、攻撃力と防御力を1にダウンさせた後、レイピアを振り回して斬り払う。そしてまた逃げる。
「命令は取り消せないか。けどまぁ、これだけあれば十分かな」
「つまらぬ、直ちに終わらす……【渡】」
王耀は神速の足法をもってしてシュラへ急接近。大太刀の刃身が殺気を帯びて振るわれる。その寸前、
「【モンスターコール:ビートル5】」
対抗してカブトムシ数十匹を突撃させる。
だが王耀はこれも『つまらぬ』と貶し、
「シュラを殺せ、【文神の改竄】」
予定通りカブトムシへ斬撃を放つ。
同時にシュラが【文神の執筆】の斬撃を、王耀の斬撃にぶつける。だが打ち消しは叶わない。
そして、『殺せ』という命令が刻まれたカブトムシは、各々の鋭利な角を王耀の身に突き立てる。
「……何ゆえ、命令が通じん。小生は確実に切り刻んだはず」
「その命令はね、ボクが執筆を加えたんだよ。原案者の文章本来の味を残して、ね」
シュラは蝶を用いた実験で、刻まれた命令は消せないと理解した。
ならば『刻まれる前の命令』は取り消せるのでは? と、思ったシュラは王耀が命令を刻む前に、その斬撃に【文神の執筆】をぶつけると決めた。
これだけでも十分な賭けだが、人一倍鮮烈を求める彼は、さらなる賭けをした。
――王耀の命令から『主語』のみを取ればどうなるのか。と。
「そりゃそうか。正面に君がいる状態でただ『殺せ』と言われたら、君を殺しにかかるか。当たり前だけど良いこと知れたね? 王耀君?」
「小生を嘲るな」
王耀は身体に刺さったカブトムシを何匹か握りつぶし、
「【瞬】」
目にも留まらぬ速さで、間断なく、シュラの周囲を何度も瞬間移動し、連続して斬りかかる。
シュラは【モンスターコール:バタフライ5】で【クサナギバタフライ】を百匹召喚し、自分の周囲を舞わせる。
王耀はお構いなしにシュラへ乱れ斬る。バタフライはシュラが斬られる度に太刀へ集結し、刀身を斬り刻む。
【瞬】が終わった時、シュラは残りHP五パーセントの満身創痍だった。
首の皮一枚つながったのは、王耀がある程度傷ついていたため全力を出しきれなかったからだった。
「危ないところだった。けど、『砕ける』様を見れたなら、身を削る価値はあったね……」
一方、王耀は魂が抜けたように柄を握っていた。得物の大太刀の刀身がすっかり削り取られていた。
「随分ショックなようだねぇ。やはり刀は侍の魂だからかな。
あるいは、『刀無しでこれからどう戦えばいいか』わからなくなっているのかな?」
王耀は持つ価値のない柄をより強く握りしめ、
「つまらん愚弄をするな……ッ!」
ちゃんとした刀を握っているつもりでシュラへ立ち向かう。
王耀は間違いなく剣聖と呼ばれるにふさわしい人物だった。
ただし彼には剣聖以外の素質はなかったし、それ以外の道も嗜むことを全く考えていなかった。
剣一筋で良く言えば『満足』し、悪く言えば『飽きて』しまった。
だから、さっきのシュラの言葉は、紛うこと無き図星だった。
「剣聖から剣を取り上げるとこうもみっともなくなるんだね。
つまらんつまらん言いながら固執した剣を失って、もっと嫌な状態になる。
ボクはこんな汚い言葉使いたくないけど、ここはあえて――つまらないね、君」
そして王耀はシュラのごく普通の一閃により倒された。
【完】
ロジスティクス・サーガ・データベース
■キャラクター紹介
【翠玉剣王耀】
分類:ピープル(旧化神官)
所属:文国ヨヤアサ
レベル:100
ジョブ:【武士】/【化神官】
文国ヨヤアサの旧化神官。
かつて、文国を中心に世を震撼させた伝説的な人斬り。
紛うことなき剣聖だが、剣を極めすぎたあまり、それ以外のことに興味が持てず、かといって剣にこれ以上の価値を見い出せもせず、世の全てに辟易している。
ヨヤアサの【武士】は、刀一本で素早く、鋭く、しなやかな斬撃を繰り出す、まさしくこれこそのサムライのような、無骨な立ち回りを得意とする。
素の剣術は余計な言葉を並べる必要もなく無敵。
スキル【文神の改竄】により自分のレベルの半分以下の対象を洗脳し、無力化できるため、つまらない敵は、相手になることさえ叶わない。
翠玉とはエメラルドの和名です。
シュラやストラグラー家とは方向性が違うキャラクターのため、文学者の名前は入れていません。元ヨヤアサ・プレイヤーのノルガードもそうなのと一緒です。




