↓ ↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
PR
126/136

126.黎明を待って

 八神会議が終わった頃、自由区は夜闇に覆われ、無数の灯りが点る。


 いつもなら八国からの来訪者たちにより騒がしく賑わうのが夜の自由区なのだが、間近に迫る旧化神官との大戦争による緊張感により、今日ばかりは静か……


『よぉーし皆ー! 次の曲歌っちゃうよー! バッチついてこーい!』


 ……にならなかった。むしろいつもより熱狂してたかもしれない。

 なんせ現実世界においても超有名なアーティストであるリュートが、生存者たちの士気を爆アゲしようと、アブソを東奔西走させてライブを決行したのだから。


「流石はエホシャドチグパの連中。つくづくお気楽ね……」

 と、距離を取ってリュートのライブを観察していたエロイースは、ツッコんだ。

 途中、観衆にイペファワエゼ・プレイヤーが大勢混ざっているのは、見なかったことにする。


 そんな彼女の隣にシュラがやってくる。

「ボクからすれば君も気楽そうに見えるけど?」


「アタシは済ませてあるのよ、面倒くさいから。かくいうアンタはどうなのよ?」


「ボクは他にやらせてる。ちょうど、ヨヤアサから出迎えにきた人たちが働き者でね」


「じゃあアンタもアンタでお気楽確定ね」


「まぁ、ボク個人の準備は全部してあるけどね。

 ところで君、さっきからボク見てずっとピリピリしてるけど、もしかして君、『英雄譚樹の翻訳担当をしたボクにも謝ってほしい』って言いたいのかい?」


「それは深読みしすぎ。どうせその翻訳作業もジュリクスに頼まれたからでしょ? ならアンタには恨みはないわ。

 あとジュリクスに対しても今は落ち着いてる。ミリぐらいは恨んでるけど」


「そうかい。それは嬉しいな」


「ま、そのクリエイティブ職特有のおふざけが過ぎる性格は好かないけど」


「それは悲しいな」


*


 一方その頃、自由区にある旧ミレア鉄道の整備工場にて。


「エルクーレお姉様! ご心配おかけして申し訳ございませんでしたわ!」

「姉上! 本国と、父上と兄上のご様子は如何に!?」


「二人でいっぺんに詰め寄らないでくれますか、ブラゼファ、フキ? 私もだいぶ無理をしてここまで参りましたので……」


 近くにストラグラー家のエルクーレが保有する、エクスプレスセンチピードが停車しているのはさておいて、イズセラ・プレイヤーはそこにある資材や設備を活用し、神戦と撤退戦で破損した残機を修理し、自国帰還への準備を整えていた。


 その修理作業を見つつ、チョルヒは嘆く。

「随分と消耗してしまいましたね……」


 隣に佇むエドウィンとウルフレットも続けざまに嘆く。

「【チーム・モブ】の残り残機はニ千だ。奴らが来る前までなら、万はあったんだがな……」


「【チーム・トランス】の残機数は千。その他残存チームを足すと、四千機しか残っていません」


「わかりました。ギビーさん、マレックさん。グレゴリーさん、その他の皆さん……不甲斐なくてごめんなさい」


 自分の実力不足を悔むチョルヒに、エドウィンは元上司として励ます。

「お前は十分によくやったって。撤退の段取りも、ミラと王耀の押さえつけもバッチリだったし、何よりもネロアを助け出したって大手柄があるじゃないか!」


「それに兵が散ってしまったのは直接の上司である貴方たちリーダーにも原因があります。

 それと、例の二人は特に事態をややこしくした罪がありますよ」


「そうですか。あまり人のせいにはしたくないですが……お気遣いありがとうございます。エドウィンさん、ウルフレットさん」


「どういたしまして、チョルヒさん」


「うっし。じゃあクヨクヨするのは終わりにして……これで大丈夫か、チョルヒ?」


 チョルヒは息を大きく吸って吐き、火が点ったような情熱的な目をして、

「はい、後は先に撃墜された皆さんの思いを引き継いで、戦い抜くのみです!」


「あ、すまん。主語を抜いてた。『この機体のままで大丈夫かチョルヒ』?」

 と、エドウィンはチョルヒの愛機、朱い【ヴァンガード】をキッチリと指さして言い改める。


「これからの戦いは絶対に生半可なものじゃない。今の俺たちの力じゃまるで敵わない相手もわんさか出てくるだろう。

 だからチョルヒ、これを機にもう【ヴァンガード】に乗るのはやめて、もっと性能の良い機体に乗り換えないか?

 ちょうどスクラップや在庫部品を組み合わせて、ヴァンガード以上の性能を誇る機体を作れる余裕があるんだ」


「もし急な拵えが怖いのでしたら、俺の【ウールヴヘジン】を貸します。あの高性能機を三倍速で駆れば鬼に金棒となるかと」


 二人の提案へチョルヒは即、返答する。

「お気持ちだけ受け取ります。私は最後まで朱い【ヴァンガード】で戦い抜きます。

 扱い慣れた機体で戦ったほうがいいという理論的な部分もありますが、何よりもアレは私を照らしてくれたタイヨウのような大切な存在です。余程のことが無い限り手放したりはしません」


 これを聞いてウルフレットは胸を撫で下ろし、

「そう言ってくれて安心しました。流石はイズセラの救世主です」


「何を言ってるんですかウルフレットさん。イズセラの救世主は私じゃないですよ」


 エドウィンはとある部品を持ってきてチョルヒに見せる。

「じゃあせめて、これは受け取ってくれないか?」


「この回路のようなものは一体?」


「これはお前のヴァンガードの性能向上を目的として研究開発されてた『エドウィン回路』だ。これを搭載すれば機体を『一定時間三倍速にできる』機能が使えるようになる……はず。

 ちなみにネーミングが雑なのは作業時間短縮のためだ。

 頼む、これぐらいはお守りだと思って付けてくれないか?」


 チョルヒはエドウィンが持つ回路を受け取る。

「はい。ありがとうございます」


「……でもやっぱり造りたかったなぁ、チョルヒ専用のすごい機体。もう勝手に造っちゃおっかな」


 ウルフレットは苦笑いして、

「作ったところで乗る人がいないので止めたほうがいいと思いま……少々お待ち下さい」


 ウルフレットは刀を握りしめ、物陰の方へ行き、

「さっさと来いッ! 貴様らにはたんまりと話すべきことがあるッ!」


 過酷な戦場から逃げた脱走兵のように――実際ある意味そうだが――ボロボロのデリトソースとキラリエルを、チョルヒとエドウィンの前に引きずり出す。


「デリトソースさん、キラリエルさん!? 生きてたんですか!?」


「勝手に東軍について、勝手に橙瀧に勝負挑んで、勝手に仲良く爆散したんじゃなかったのか!?」


「……認めたくはないが、その後、両方とも万が一のことを考えて用意してた緊急脱出装置で一命は取り留めたのだ」


「それからワタクシたち二人は誰かしらに助けてもらおうと、僅かな部下と共に戦場をさまよっていました。

 そしたら恐ろしい龍が火を吹いてきたり、側近が殺す殺す言いながらワタクシたちに斬りかかったり……もう本当に命がけでしたよ!」


 ウルフレットは無慈悲な面持ちで二人を見下して、

「それで、お前らはここに来てまで何がしたいんだ?」


「一応言っておくが、今俺たちは対旧化神官の戦いで忙しいから、お前らを匿う余裕はないぞ」


 かつての傲慢さはどこへやら。デリトソースとキラリエルはスムーズに土下座フォームへ移行して、

「ならどうか、その戦いに我らも参戦させてくれ! そして二度の裏切りの贖罪をさせてくれ!」


「あんな目にあって本当に反省しました! これからは心を入れ替えてチョルヒ様に忠誠を誓います! なのでどうかワタクシたちをお救いくださいませ!」


「チョルヒさん、ここは化神官様の判断に任せます」


「一発殴るのも、牢屋にぶん投げるのも、自爆兵器にするのもお前次第だぞ」


 正直な所、デリトソースもキラリエルも無傷では済まないと重々承知でここに来ていた。

 だから彼らはこれから自分達へ下されるだろうチョルヒからの重罰に怯えた。

「わかりました。ではその前にエドウィンさんへ質問があります。さっき私のための新機体を作れるだけの資材があると言ってましたが、これを分けてヴァンガードくらいの性能の機体を二機作れますか?」


「作れるぞ。実際ヴァンガードの内部骨格が二機分あるから、それに装甲や武装をつければなんとかなる……まさかチョルヒ!?」


 チョルヒは二人に頭を上げてもらい、

「いくらこの二人とはいえ、これ以上同じ国の方をひどい目に合わせたくないんです。

 デリトソースさん、キラリエルさん、今度の今度こそは、誠実に戦ってくれますか?」


「……ああ!」

「はい。お願いします!」


「わかりました。じゃあエドウィンさん、この二人の機体を造ってください」


「ああ、けどよ……」

 内心二人を許せず答えに渋るエドウィンへ、チョルヒは凄まじい剣幕で命令する。


「造ってください!」


「は、はいッ!」


 この二人のやりとりを見て、ウルフレットは心の中でチョルヒに拍手を送る。


(かつての敵だろうとも簡単に許すその優しさ。流石は化神官、素晴らしいです。

 ……あの節では本当にありがとうございました。次の戦いでは今度こそ役に立ってみせます)


*


 理の城付近にて。橙瀧がジュリクスと話し合っていた。


「なぁジュリクス、お願いだから頼むッ!」


「それは厳しいですって……」


(あのお二方、ずっとああしていますね……)


 その様子をネロアは理の城のバルコニーから眺めていた。

 本当はトードイスムカの化神官として下で決戦の準備をしたかったが、万一のため休んでくれとアンティルとレイザックに懇願されたため、それは二人と、十殺(ディエチキーラ)の皆様に任せてこうして城で落ち着いている。


(橙瀧さんが頭を下げたりしていますから、何かしらの交渉でしょうか……?)


 ここで、ネロアの部屋の出入口からノック音が聞こえてくる。

「ネロアさん、ヴァイスです。些細なものですが、お話がしたいので外へ出てくれませんか?」


「はい、いいですよ。中へどうぞ」


「……私があなたの部屋へですか?」


「廊下よりも室内の方が話しやすいかと思いまして。あ、こちらは片付けてあるので大丈夫ですよ」


「はぁ、わかりました」


 ネロアの誘いに応じて、ヴァイスは彼女の部屋に、それでいいのかと首を傾げつつ入る。


 ネロアは部屋に備えてあった紅茶を淹れ、備え付けのテーブルを挟んでヴァイスと座る。


「それで何のようです……いえ、まずはこちらからでしょう。

 さっきは僕を回復してくれて、ありがとうございます。そしてこれを言うまでに結構な間を空けてしまってごめんなさい」


「……どういたしまして。

 ではこちらの要件を。ネロアさん、何故あなたはあの時、たった一人でジェネレクス達を足止めしようと思ったのですか?」


「無茶において僕の右に出るものはないと思いまして、皆のためにああしました」


「あれで自分が死んだらどうするつもりだったのですか?」


 ネロアは微笑んで答える。

「それは考えていませんでした。なんせヴァイスさんがきっと回復魔法などを使って助けてくれるとわかっていましたから」


 負けた。と、ヴァイスは思った。

 自分の国を滅ぼそうとした首魁を、復讐じみた大宣戦布告の実行者を、いくら協力中とはいえ最後の最後で、無茶の保険として信頼する――その奇異極まりない起点と度胸にヴァイスはただただ脱帽した。


「でしたら尚更申し訳ありません。ロジスティクス神戦という上っ面が綺麗なだけの『復讐』を仕掛けてまして」


 努力する者こそが上に立つ世界――その正しさを証明するためヴァイスはミレアを非人道的悪法で強化し、トードイスムカへ侵攻。そしてヘブンズレイドでネロアに成敗された。

 戦後、ヴァイスは謹慎中に自分が願望のために『やり過ぎた』ことは反省した。


 だが、ネロアに敗北したことには納得できなかった。

 目立った努力はした覚えがない。ただトードイスムカへの愛着だけで自分に勝ったネロアが、あまりにも度し難かったからだ。


 だからヴァイスはロジスティクス神戦を仕掛けた。今一度自分の理想の正しさを証明するために、イレギュラー・ネロアへ復讐するために。


「かつての自由区で私が反乱を起こした際、貴方は私に『誰もがみんな努力ばかりしていたら、疲れてきちゃうんじゃないかと思います』と言いましたね。

 自分は知的な人間だと思いこんでいた分際で、今更その言葉の意味に気づきました。

 ――人によっては、努力よりも大事なことがあると」


 よくそんな感情が高ぶってた時の台詞を覚えていますね、とネロアはヴァイスに驚きつつ、

「そうですよね。伝統、情熱、ファン、強さ、平和、鮮烈――皆さん各々の事情で好き嫌いがありますからね。

 あ、復讐に関しては、戦場で話した通り、別にいいですよ。あの時まではゲームとして、きっちり正規の手段で挑戦してくれましたから、むしろ嬉しかったです」


「ありがとうございます。ネロアさん」


「ところで、かくいうヴァイスさんはどうして『努力』に執着しているのですか?」


 暗い話だがそれでも聞きたいですか? と、予め許可を取った上で、ヴァイスは自分の過去を説明する。


「私が幼い頃、仕事に関してとても熱心だった、尊敬していた父が自死へと追い込まれたのです。

 取れる行動はいくらでもあるのにも関わらず、一番労力が少なく利益のいい『陰謀』という手段を大企業が選んだせいで。

 だから私は努力こそが報われる社会を築きたいと思っているのです」


「なるほど。そんな重い理由でああしていたのですか。

 すみません。こんな辛い話をさせてしまいまして……僕は『トードイスムカが好き』くらいの名分しかないのに」


「私が話してばかりでは申し訳ないので、こちらも質問させてください。

 ネロアさんは何故トードイスムカが好きなのですか?」


 ネロアはその身分に合わず、長考に続く長考の末、

「よくよく考えるとしょうもない理由かもしれません。

 僕、大衆的に受けない変わったものが好きでして、ロジスティクス・サーガ内の八国で一番そういった雰囲気でしたので、ここに所属しました」


「確かに……言い方がよろしくないですが、しょうもないかもしれないですね」


「まだ呆れるのは早いですよ。これはあくまで出だしですので。

 所属してみまして他にも色々といいな、と思う部分はあったのですが、やはり一番はアビスさんです」


「アビスさん――アビス・オーディアンですね」


 アビス・オーディアン。イナゴじみたプレイヤーに貪り崩されたギルド『悲劇の演出団』のギルドマスター。

 彼に関しては、元ギルドメンバーから話を聞いていたこともあり、ヴァイスも聞き馴染みがあった。


「アビスさんは僕みたいな未熟者でも快くギルドに入れてくれた人でした。

 優しく接してくれて、色々なことを教えてくれた人でした。

 十年前のトードイスムカでは一番と言っても過言ではないぐらい強い人でした。

 そして今の僕以上にトードイスムカが大好きでした。

 だから僕はトードイスムカが好きなんです。本当のお父さんのように大好きなアビスさんと出会えましたので」


「本当のお父さんのように……」


 そのワードがひっかかり、深刻な表情をするヴァイスへ、ネロアは慌てて説明を追いつかせる。


「あ、言ってませんでしたね。僕、お父さんもお母さんもいないんです。もちろん誰がそうなのかもわからないんです。

 物心ついた頃から孤児園で育ってまして……」


「……すみません。そのような辛い話をさせてしまって」


 ネロアは素早く切り返す。

「これでお互い様ですね」


「え、あ……そういえば、そうですね」


 そして軋轢が失せた二人はクスクスと笑う。

 この後、二人は悔いのないように話に花を咲かせて、


「それではこの戦い、お互い生きたまま終わらせるように頑張りましょう。ヴァイスさん」


「貴方こそ、無茶しないでくださいね。ネロアさん」


 来たる旧化神官との戦いへの決意を固めて、暫しの別れとした。


 数多の絶望を齎した最厄が、黒龍に跨り自由区に飛来したのは、その翌日の黎明の時だった。


【完】

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。