125.新旧決起
「なるほど、旧化神官が世界にそれだけの影響を与えているのですか……」
ネロアはこれまでの話をざっと聞かされ、会議の流れに追いつく。
レソカーラ・シュクペバーはエロイースに遮られた話を再開する。
「コントロールを外れた旧化神官は、間もなく貴様たち、現行のプレイヤーを皆殺しにするつもりだろう。
残念ながら、肝心なそこに至る理由は分からぬが……
また、申し訳ないが俺によるこの世界の理の全ての維持は、長くはできない。
故に、貴様たちは是が非でも、一刻でも早く旧化神官を誅さねばならないのだ!」
と、言い終えた直後、レソカーラ・シュクペバーの身体がまたモザイクまみれになり、
「これより俺は理の維持に専念する。プレイヤーたちよ、その強さ、信じているぞ!」
ついに姿を消した。
「全プレイヤーの未来を賭けた戦い……ゲームの終盤みたいだね」
「……実際、ゲームなんですけどね。本来は」
と、チョルヒは苦笑いしながらリュートにツッコんだ。
「とまぁ、あの神様が言うには、要するに『旧化神官をぶっ倒せば世界は元通りになる』んだろ? なんだ、そんな簡単なことか」
「簡単なことではありません。ましてや『難しい』というのも生ぬるいですよ……」
「ほう、『難しい』というのも生ぬるいか。では質問するぞジュリクス。旧化神官たちは元々はプレイヤーなのだな?」
「はい。分身を失ったことで『少なくとも完全無敵ではない』とはわかってます」
ジュリクスの答えを聞くや否や、橙瀧は片足を円卓に乗せ、溢れんばかりに微笑む。
「ならば出来るッ! 旧化神官に勝てるッッ! この世界を救えるッッッ!」
さらに他の七人全員に一通り目をやり、
「だから貴様ら、もう湿っぽい話は終わりだ。皆で旧化神官共をぶっ倒すことだけに専念しようぜ……っていうより、それしかできないんじゃあないか? な、チョルヒ?」
最終的に視線はチョルヒへ止まる。
急な指名を受けたチョルヒは暫し硬直した後、真剣な面持ちをして立ち上がり、
「仰るとおりだと思います、橙瀧さん!
レソカーラ・シュクペバーさんは私たちを信じてここまで面倒を見てくださったのですから、私たちも旧化神官さんたちを倒すと絶対信じて動くべきだと思います!」
(かつて大好きなロボットに乗ることすら拒み続けるほど弱気だったチョルヒがここまで大きくなるなんて……)
ネロアは、彼女に同調するため立ち上がる。
だがその先をヴァイスが行った。
「私も賛成します。奴らに奪われた仲間たちのためにも、蔑まされた自分たちのためにも、ここは一致団結したいと思います。
これが貴方の言いたいことですよね、ネロアさん!?」
「……はい! 代弁してくれてありがとうございます!」
「うわスゴっ、あのネロアちゃんとヴァイスちゃんが共鳴した……じゃあ、アタシも一緒に行くっきゃないよね!」
「ボクも微力ながら手を貸すとも。これだけ鮮烈な大義ある体験、参加する以外選択肢はないだろうね」
「当然、アタシも戦うわよ、ただ―」
橙瀧、チョルヒ、ヴァイス、ネロア、リュート、シュラ、エロイースらが続々と決意を明らかにする。
そんな中、ジュリクスは深く椅子に座ったまま考え込んでいた。
ここでエロイースは、本を円卓に叩きつけ、わざと大きな音を立てる。
「実質一択の二択くらいサッサと決めて! 瞬間風速なら今のアンタの方が面倒くさいんだけど! ねぇ、ジューリークースッ!」
「……旧化神官に関してまだ伝えておきたい情報が山程あるので、皆様にはそれを聞いてから判断していただきたかったのですが……」
ジュリクスはゆっくりと腰を上げ、
「私もどんなことがあろうとも戦います。皆様が許してくれるのであれば」
「おう、いいとも」
「是非ともお願いします!」
「私は構いません」
「はい、喜んで」
「うっし、それでよーし!」
「以下同文」
「百パーセントではないけど……まぁ、いいわよ」
「皆様……本当にありがとうございます!」
こうして、何年ぶりになるだろうかわからない『化神官八人が揃っての』八神会議は、一致団結の大団円で一区切りを終えた。
*
時国ランニバーニ、歴都の中央にある古めかしい時計台がシンボルの【ア・ドネザスオグ神殿】にて。
「……そして俺、ジェネレクス・アメジクスを議長とし、これより八神会議を開始する」
これは奇しくも【自由区】で現化神官八人が共闘を決意した時と同じだった――旧化神官は一同に円卓を囲み会していた。
「まず、初めに全体方針を決めるとしよう」
時国ランニバーニの旧化神官、ジェネレクスにより議題が提示されるや否や、災国カメセスコアの旧化神官、ミラが開口する。
「んなこと『全員国に帰って、ゴミ虫共を掃除する』ぐらいしかないだろ」
赤髪の少年――機国イズセラの旧化神官、イアン・ルビはうんうん頷いて、駄々をこねる。
「ねぇこの時間必要なくなぁい? 僕早くイズセラ帰りたい帰りたいー!」
これを白銀髪の女性――命国ミレアの旧化神官、アンネモルテ・ディアハートが柔らかく戒める。
「イアンさん。お気持ちはよくわかりますがここはお静かに。一時の幸福は無数の忍耐があるからこそ成り立つのですよ。ね?」
青髪の女性――音国エホシャドチグパの旧化神官、セフィ・アニマは指の体操をしながら、
「アンネモルテ氏の言い分は十分に理解してる。だがこれは私を待ち望むエホシャドチグパの聴衆方が望むことなのだろうか……」
「不明ーよ。けど、早く帰郷るべきかっつー話ならアタイは切望かな」
「セフィ、トパライザ、お前たちもイアンと同感か。もう少し協調性を持ってく……」
「拒絶だね」
学制服を着た女性――術国イペファワエゼの化神官、トパライザ・エレメンタルはジェネレクスを睨みつけ、
「いいかよく聞け。今アタイらが協力べてるのは、あのゴキブリみてーに不快と大陸を迷走ってる軟弱どもをぶちのめすため限定だ。
テメェに対する忠誠でも絆でもない。
それが終わりゃあ直行戦争だ。それがアタイらの道徳だ」
椅子を倒すぐらいの勢いで立ち上がり、それを蹴飛ばして部屋から出ていく。
「おいトパライザ。どこへ行くつもりだ」
「もう凱旋る。見て分かんだろ愚鈍」
トパライザへ続くように、イアン、セフィ、ミラも退席する。
さらに、このままでは先に退席した人の分も話に付き合わされるだろうと察した他の三人も会議場を去る。
「待て、せめてお互いが使えるスキルなどの情報交換ぐらいはしてくれないだろうか?」
そして会議場に、このジェネレクスの頼みを聞く者は誰もいなくなった。
「……まぁ、これはこれでいいだろう。過程がどうであれ、遅れ人どもの末路と、俺の正義は完全不変なのだからな」
*
自由区、理の城、大会議室にて。
現化神官たちの八神会議の題は『打倒旧化神官の作戦会議』に変わっていた。
この時、会議の主導権を握っていたのは八人一の戦略家、ヴァイスである。
「奴ら旧化神官が我々プレイヤー全員を全滅させようとしているのは火を見るより明らかです。
となれば、奴らはこれから一番効率よく私たちを根絶やしにする手段を選ぶはずでしょう」
「じゃあ、旧化神官八人で一斉に自由区に攻め込んでくるとかかな?」
「リュートさん、それは無いと思います。何故なら彼らは能力の相性の関係上、共闘できないからです。ミラがネロアさん一人に蒼炎を浴びせた時が良い証拠です」
何度もミラを戒める王耀、全力で防火シェルターを作るジェネレクス――その二人の姿を間近で見ていたネロアは頷いて、
「自由区を攻めるだけならミラさんだけでも十分でしょう。
障壁に関しても、先程のレソカーラ・シュクペバー様の弱り具合からすればあの方一人でも破れそうですし」
「ええ、少なくとも現時点では、ネロアさんのように考えるのが妥当でしょう」
ジュリクスはヴァイスに一瞥され、再び罪悪感を覚えて、
「すみません、呼び起こした分際で奴らに関して詳しくなくて……」
「もう気にしなくていいんだよジュリクス君。あの時居合わせたボクだってわからなかったんだから」
旧化神官復活に使用した【英雄譚樹】にはロジスティクス・サーガ歴代プレイヤーの記録が残されている。
しかしこの記録はあくまで記録であり、『そのプレイヤーは何をしたか』は書かれてあっても、『そのプレイヤーはどのような者か』は詳しく書かれていなかった。
なのでジュリクスは秘術使用の際、旧化神官を『素質』ではなく『功績』で誰を復活させるか判断した。
よってジュリクスが旧化神官についてわかることは、『名前』や『所属国』などの浅い情報。
それと就任した時期がロジスティクス・サーガがPvEをメインとしていた頃故に、彼らの権能は対人戦においてのゲームバランスなど断じて考慮していない法外なものという『前提』しかない。
「あと補足として、一応撤退戦の最中に【文神の執筆】の副次効果で彼らの能力の把握を試みたんだけど、残念ながら全部文字化けしてしまっていたんだ。こちらについても本当にごめんなさい。」
「全く、ジュリクスよ。こんな詰めの甘さでよく『新時代の覇者になる!』とか調子のいいこと言えたな。その慢心具合、一周回って惚れ惚れするぞ」
「そっそ。あんな臭い台詞吐く暇あったらアイツ一人ひとりにインタビューしとけっての」
「……本当に申し訳ありません。先程話していた通り、戦場に連れてくるまでは人形のように何も言わず、ただ私の言うことを聞いていましたから……完全に慢心していました」
「橙瀧さん、エロイース君。もうジュリクス君を傷つけるようなことは言わないでおくれ。話の腰が折れるから……続けて、ヴァイス君」
「はい。この通り旧化神官たちの詳細は不明ですが、ミラが他の者と組めないのは確定かと。
これもあの時が――ジェネレクスや王耀は勿論、空中で観戦していた五人も追い打ちを仕掛けてこなかったことが証拠です」
「んじゃあその他の七人はどうするのかな? ミラが失敗するのを安全圏で控えて待ってるのかな?」
「半分当たりです、リュートさん」
思い切り喜ぶリュートを脇目にヴァイスは円卓に広げた大陸地図に書き込む。
「念のため伝えておきますが、今、この自由区にロジスティクス・サーガ全プレイヤーが集結しているわけではありません、各国に留まっている方も大勢います。
旧化神官の予想されるもう一つの目的――『この世界を自分たちの望む世にする』を成し遂げるには、奴らそれぞれが国に帰り、邪魔者全てを排除して再度君臨する必要があります。
よって、彼らは大まかにいいますと、このように進軍するでしょう」
ヴァイスは大陸地図に書き込んだ南へ向く三叉を指して言う。
「三つとも一時撤退したランニバーニを起点として、一つはヨヤアサ、トードイスムカ、イペファワエゼを辿るルート。
一つは自由区を経由してカメセスコアへ征くルート。
一つはイズセラ、ミレア、エホシャドチグパを進むルートです」
「なるほどねぇ。この道順なら手っ取り早くボクたちを一掃できちゃうかもね」
「そうか。だから貴様はさっき『ミラは単身自由区に来る』と言ったのか! 俺様のカメセスコアに用があるのは奴ただ一人だからな!」
「そんで、アンタはこのルートをどう通行止めする気?
二人には悪いけど、アタシ個人の意見として、ヨヤアサかトードイスムカ辺りで止めておきたいんだけど?」
「エロイースさんの言う通り。奴らの旅程は短ければ短いほど助かります。なので奴らを止めるため、私たち生存者をいくつかに分けます」
ジュリクスと橙瀧が率いる時災国連合軍は自由国に留まりミラを迎え撃つ。
ネロアとが率いる死国軍はトードイスムカで、ヴァイスが率いる命国軍はミレアで、それぞれ旧化神官を相手取る。
その間、エロイース率いる術国軍はトードイスムカで、リュート率いる音国軍はミレアで、通過を試みるそれぞれの旧化神官を止める。
シュラの文国軍とチョルヒの機国軍は、双方凱旋したての旧化神官を急襲する。
以上がヴァイスの提案する軍の分割法だ。
「これでいいと思います。僕としてもトードイスムカを戦場にするのは大歓迎です」
「私も賛成です。とっても無駄のない合理的な作戦だと思います」
ネロアやチョルヒに続いてその他の化神官もこの作戦に了承。これにて大まかな作戦は定まった。
「ではエロイース議長。進行を」
「あ、そっかアタシが議長だったか。えー、以上をもちまして議事は全て解決しました。よって、緊急八神会議は終了です。皆、それぞれ準備を急ぎなさい」
【完】




