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124.呼び起こされた禁忌たち

 夕日に照らされ、大陸中央に位置する【自由区】の大都市。


 そこでジェネレクスたちの大殺戮から逃れられた約五万人のプレイヤーたちは、激戦ゆえの疲弊に沈み、仲間を失った悲壮に暮れ、いずれ来る二次の惨劇に怯えていた。


 そして、この市街地のさらに中央にある、荘厳な城――【理の城】の一室にて。


「ネロアさんの容態はどうですか? ヴァイスさん」


 気を失ったままのネロアに回復魔法を施したヴァイスはやるせなく、ジュリクスに答える。

「HPそのものは全快しましたが、意識は戻っていません。

 ステータスに異常は見当たらないので、あとは目覚めるだけかと思いますが……」


「【アポカリプスドラゴン】の蒼炎ブレスを無防備に受けさせてしまったショックは、かのネロアさんでも耐えきれなかったということですか……本当に申し訳ありません」

 

 深々と頭を下げたジュリクスへ、ヴァイスは手振りで『謝らなくていい』と伝え、


「君たちはネロアさんの様子を見ていてください」


「変な気分だなぁ。よりによってあのヴァイスに頼まれるなんて」

「ここは黙って了解しろ、アンティル」


 アンティルとレイザックにネロアの付き添いを任せ、

「行きますよ、ジュリクスさん。謝るのはそちらで丁寧にお願いします」

「……わかってますとも」

 自分たちは城の最上階に位置する会議場へ向かった。


「機国イズセラ化神官、『チュ・チョルヒ』。

 命国ミレア化神官、『ヴァイス・O・ヘブン』。

 音国エホシャドチグパ化神官、『リュート・オブ・ザ・ナンバーワンソング』。

 災国カメセスコア化神官、『錦山橙瀧』。

 術国イペファワエゼ化神官、『エロイース・エレメンタル』。

 死国トードイスムカ化神官……不在。

 文国ヨヤアサ化神官、『シュライベン=ブラット=グリュム』。

 そして議長……」


「すまないが、今回は議長の座は降りる」


「でしょうね。じゃあシンプルに時国ランニバーニ化神官、『ジュリクス・ヴィオレックス』。

 今回の議長はアタシが務めます。

 以上七人により、緊急八神会議を進行します」


 これにて、ジェネレクスら八人の謎のプレイヤー参戦から起こった非常事態対策のための八神会議が始まる。


 最初に持ち上がった話題は言うまでもなく……


「じゃあジュリクス。まずあの八人は一体何なのか、連れてきた責任を取って説明してもらうわよ」


 ジュリクスは言葉に淀みなく答える。


「端的に言うと、彼らは【旧化神官】。文字通り『古き時代の化神官』だ」


*


 事の発端はジュリクスがある報せを知った時。


「『命国ミレア 十二ヶ月連続人口ランキング一位』……か」


 運営によってゲーム内で掲載される大陸全体の情勢に関するニュースを閲覧し、ジュリクスは頭を抱えた。


(ミレア……新たな化神官が就任して以来急速に成長しているとは薄々感じていたが、まさか我らランニバーニを超えてくるとは。

 このままではまずい。どうにかして威厳を取り戻さないと……)


 ジュリクスはあれやこれやと国力増強の術を考えた。

 だがこれと同時期にミレアは更に国力差を広げ、ジュリクスの努力を無為にしてしまう。


 伝統はどこへいった。貫禄は飾りだったか。薄っすらと聞こえたランニバーニの風格の崩壊音は、ジュリクスを恐怖と焦燥に陥らせるのには十分すぎた。


 そんな彼に、時国ランニバーニの神、時神ア・ドネザスオグは囁く。


「北部にある山の遺跡を徹底的に採掘しろ。そこに我らランニバーニの絶対勝利の種はある」


 その後ジュリクスはランニバーニの人材を大量投入し、取り憑かれたように遺跡を採掘した。


 そこで発見したのがロジスティクス・サーガ歴代プレイヤーの記録を蓄積させた人工物――【英雄譚樹】。


 ジュリクスは英雄譚樹と、ア・ドネザスオグからこっそりと教授された秘術を用い、八国それぞれの歴代最強のプレイヤーをNPCとして復活させた。


 これがランニバーニ再興の切り札、旧化神官である。


*


「彼らを従えて他七国へ圧倒的な武力を食らわせ、打ち負かし、そしてランニバーニの威光を取り戻す。

 ロジスティクス神戦はこれを一瞬に成し遂げるまたとない機会でした。ですが……」


「あっさり裏切られたんだな」


「平たくすると、橙瀧さんの言う通りになるのでしょうね……」


 自分はこんな目論見に手を貸してしまったのか――シュラはジュリクス以上に自分の不明を恨んだ。


 エロイースは苛立ちながら、

「何よその『こんなことになるとは思わなかった』みたいな言い方」


「情けない話ですが、実際何故こうなったのか、私にもわからないのですよ。あそこまで連れてくるまでは従順そのものでしたのに……」


「そこからは俺が説明する」

 七人が囲む円卓の中央に、一対の剣を佩く、覇気に満ちた壮年の男が降り立つ。


「誰ですか、この方……」


「アタシ覚えてる! 確かだいぶ前、ヘブンズレイドのときにネロアちゃんとヴァイスとの間に割り込んだ……」


「理神にして時災命死文音機術の八神の長【レソカーラ・シュクペバー】……またお会いするとは」


「今ヴァイスが紹介してくれた通り、俺は理神にして八神の主神、それとここに貴様達を呼んだ者、レソカーラ・シュクペバーだ。

 どうして奴ら旧化神官は牙を剥いたかという話だったな。

 この理由は大陸に住まう人にはわかるはずがない。

 なんせ根本的原因はこちら、神々側にあるのだから」


「その根本的原因とは一体何でしょうか……?」


「八神の機能停止だ」


 実のところ、旧化神官の真の指揮権はジュリクスではなく、秘技の提供者たるア・ドネザスオグにあった。

 

 しかし、彼と他七柱は、この世界の理――化神官は神一柱につき一人――の矛盾に耐えきれず、機能しなくなってしまったのだ。


「時神ア・ドネザスオグ――あいつは才気に富んだ神であると同時に、八神の中で最も陰湿で、野心が強く、傲慢な神だ。

 禁忌の秘術を流出しても、NPCの化神官八人を従えても、理を破っても何とかなる。ランニバーニの覇権のためにそう驕っていてもおかしくはななななな……」


 突然、レソカーラ・シュクペバーの全身がモザイクまみれになる。


「大丈夫かいレソカーラ・シュクペバー様。急にバグり出して……」


 レソカーラ・シュクペバーの全身からモザイクが消える。 

「……ああ、すまない。気を抜いてしまった。八神がいない今、アイツらの役目は全部俺が代わりにやっている故、大分『無理』しているのでな。

 もう少し力があれば、ログアウトやリスポーンの権利も維持できたというのに……」


「『ログアウトできない』、『プレイヤーのリスポーンが行われない』その異変はジュリクスさんの事情聴取が終わってから話そうと思っていましたが、まさかこれすらも旧化神官復活に関係していたのですか」


「そうだ。これについては俺の実力不足が大きい。

 俺は理神として中立平等に八神を監視していたが、まさかア・ドネザスオグの上昇志向がここまで芯の強いものだったとは」


「全く、ひどい神様ね」

 と、エロイースはぼやきつつ、ジュリクスの方を睨みつけて、


「けどまぁ、あの神様はあくまで根本的原因であって、実行犯はアンタだから。ねぇ、ジュリクス」


「……仰る通りです。元はと言えば私が旧化神官を復活させたのが原因。恭順に万謝いたす……」


「何が『恭順に万謝』だ!」

 エロイースは机に右拳を叩きつけ、語気を強めてジュリクスへ怒鳴る。


「アンタのプライドだけのせいで何万人もの人が死んだと思っている!

 イペファワエゼの連中だけ挙げても、副学級長四人も、ヒドゥニルンも、カイナフィも……オサラウドも皆、アンタが呼び起こした禁忌共に殺された!

 この大損害、張本人のアンタがただ反省するだけで済むと高を括ってはいないでしょうねぇッ!?」


 エロイースの左手には得物の本が握られていた。この力み具合からして、命で償わせようとしているのは火を見るより明らかだった。


 いくら凄まじい所業をしでかしたジュリクスとはいえ、この一大事の最中に化神官一人を失うのはあまりにも痛い。なので他の化神官たちは必死でエロイースをなだめる。


「ちょっ、ちょ待ってよエロイースちゃん!」


「お、落ち着いてくださいエロイースさん!」


「俺様も【十二星竜】を九人ごっそり失ったから貴様の気持ちはよく分かる! だがそれはいかんぞッッ!」


 だがエロイースは全く聞く耳を持たず本を開き、【術神の極致】の発射体勢を取る……


「ジュリクス君も何だんまり座り込んでいるんだい!? 早くしないと風穴空けられるよ……」


「……ああわかっていますとも。だからこうしているのです」


「ジュリクスさん……本当に冷静になってくださいエロイースさん。そんなことしてもイペファワエゼの方々は報われません」


「本当にやめてください!」


「うるさい! せめて一発撃ち込ませさ……」


 エロイースの眼前を横切るように投げた剣を引き戻しながら、ネロアはもう一度忠告する。


「皆様の言う通り、ここは撃つべきではありません。どうしてもと言うなら、僕は覚悟していますよ」


「どんなタイミングで戻ってきてんのよアンタ……ごめんなさい」


 エロイースとネロアは放った殺気を収め、椅子に座った。


「ご迷惑おかけしてすみません。ただいま戻りました」


「おかえり、ネロア君」


【完】

ロジスティクス・サーガ・データベース


■用語説明

【旧化神官】


 ①そのままの意味で、過去に神官だったプレイヤーのこと(ex.スベラゼルカ、ツィムブレンなど)。

 今回のようなことがあったので、もうこの意味での使い方はされないと思う。


 ②時神ア・ドネザスオグが管理していた歴代のプレイヤーを記録したアーティファクト【英雄譚樹】のデータを元に、時国の化神官ジュリクスが【時神の並立】の応用で生み出した、かつての化神官たち。八国それぞれから一人選抜されている。

 ジュリクスの時国再興の切り札であり、ア・ドネザスオグが大陸の覇権を勝ち取るための最強のコマであった。

 だが、様々な事情が積み重なり、一人と一柱の手から離れ、個々の意思のもとに現行のプレイヤーに牙を剥いている。


 全員、ボスとの対決をメインにし、PvP要素が比較的疎かになっていた、リニューアル以前の化神官のため、現行のプレイヤーからすると法外な効果のスキルを持っている。


 全員、名前に宝石名が入っているのが共通点。だいたいは国ごとの命名法則にも従っている。

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