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115.一対三

「報告、北ルート軍のユリウス様、バーキー様、スノウ様、戦禍様がシュラにより、ナガレタル様がエロイースにより敗死しました!」


「伝令! 中央ルートのギアディオ様がチョルヒに、ブーク様、ヒリュア様、リリーサ様がリュートに、ギルド諸とも敗北しました!」


 伝令部隊の二人は、各々の得た情報をありのままに東軍の三化神官に伝えた。


 真っ先に開口したのは東軍総大将、ヴァイス。


「二人ともご苦労。『補うように頑張れ』と他の者に伝えておいてください。以上です」


「「はっ!!」」


 伝令の二人が場を去るや否や、ヴァイスはまず橙瀧と目を合わせる。


「悔しいですか、橙瀧さん?」


 橙瀧はにっこりと笑って即答する。

「いんや何とも。アイツらはただ実力不足で負けた。そんな自然の摂理にどうこう思わないからな。

 ま、あとは残りの【十二星竜】がどうなるか、かな?」


「流石は橙瀧さん。余裕がありますね。さてジュリクスさん、あなたはこの戦況どう思いますか?」


 どうして私には気づかいの言葉はないのか――ジュリクスはヴァイスの真意を解せぬまま答える。


「喜ばしくないのは確かでしょう。【八大ギルドマスター】や【十二星竜】などの優秀なプレイヤーが倒され、ヴァイスさんの側近であるカオン様が戦線離脱となる始末。

 術国イペファワエゼの反逆を皮切りに風向きが変わっているのは明白です」


 ヴァイスは立て続けに問う。

「この状況を打開するにはどうしたらいいでしょうか?」


「前提として、東軍が驕らず一致団結して立ち向かうことでしょう。それとヴァイスさんが提案したイペファワエゼへの『報復策』が決まれば……」


「今、なんといいましたか?」


「イペファワエゼへの『報復策』が決まればと……」


「その前の『東軍が驕らず』とは何ですか?」


 今のヴァイスの言葉遣いは普段どおりの、聡明な支配者によく似合う穏やかだ。

 だが話し相手のジュリクスは、ようやくヴァイスの真意を理解してきた。


(ヴァイスは今から、我ら時国ランニバーニの不手際を責めるつもりなんだ。『ランニバーニは自分達が強者だと思い込み余裕を履き違えた戦いをして、ギルドマスターを六人も失った』と責めるつもりなんだ……)


 二人の話し合いを聞いていた橙瀧も、ヴァイスの真意を別解釈で捉えていた。


(ヴァイスめ、さてはジュリクスに喝を入れてもっと踏ん張らせようとしてるんだな。

 ジュリクスはかつてのヘブンズレイドで真っ先に逃げ出した臆病者だ。こういった鞭打ちじゃないと頑張らないことをヴァイスはわかってるんだろうな)


 八国の内最も栄光と歴史あるランニバーニの主にして、八神会議の議長たるジュリクスは、どうすれば自分の尊厳を保ったままヴァイスの追求から逃れられるかを長考する。

 

 その時、北からチャットという名の川を流れて助け舟がやってくる。


「はい、こちらヴァイス。何の用でしょうか、デリトソースさん」


 東軍に与するイズセラ軍(反チョルヒ軍)の二大巨頭、デリトソースはチャット越しにヴァイスへ怒号を浴びせる。

『どうしたもこうしたもああしたもあるか! 我らは一体いつ出撃できるッ!? 敵の化神官五人が出揃い、いよいよロジスティクス神戦は中盤に差し掛かっただろうというのに、我々はこのまま置物になれとでも言いたいのかッ!』


「仰りたいことはこちらも重々理解しております。ですが貴方達の軍団はただ適当に戦場に放っても大した戦果はだせないので、今は機を見計らっているところでして……」


『どうみても今が好機だろうが! この荒れた戦場を均すには我らイズセラ軍の機械兵団が丁度いいに決まっているだろうが! 御託はもういい、早く我らを出撃させろ! さもなくばこちらは貴様らにイズセラが誇る機械兵団を送りつけ『一手間』増やさせてくれるわ!』


 この脅迫まがいのデリトソースの懇願に、ヴァイスは無機質に返す。

「ではさっさとどうぞ。私たちも後方での指示ばかりでそろそろ退屈してたんですよ。気分転換と景気づけに、誰かプレイヤーを倒すのもいいかもしれないですし」


 するとデリトソースは無言でチャットを切った。


 直後、橙瀧は西方を見ながら、クスクスと笑いながら言った。

「まさか俺様たちの初の対戦相手が、アイツになるとはな……」


 ジュリクスは顔の前で手を振りながら、

「違うでしょうよ橙瀧さん。あのチャットの切り方は、ヴァイスさんの方が『本気』過ぎたから、怖気づいてのものです……」


「え、何の話してんだ貴様? 俺様はアレについて言ってたんだよ……」


 橙瀧はジュリクスと、ヴァイスのために、西の方へ、自分がさっき見つけたものへ指さす。


 ざっと三キロ先、東軍の中をかっ切って、赤い大狼を先頭とする、鋼鉄の狼の群れが疾走していた。


「あれは、イズセラの……」


「だが、デリトソースとキラリエルたちではなく……西軍の、ウルフレットさんですね」


 赤い大狼――イズセラの『赤狼』こと、ウルフレットが操縦する【ウールヴヘジン】は、人型に高速変形する。

 そして即座に、

『では、どうかご無事で!』


「ええ、お任せください!」


 疾走の勢いを乗せて、約三キロ先にある、東軍本陣に何かを投げつけた。


 二人に遅れてこの存在を確認したヴァイスは、無意識に立ち上がって、

「ほう、そう来ましたかネロアさん。ジュリクスさん、橙瀧さん、どちらかいけますか?」


「せっかく来てくれたんだ。盛大に化神官揃って歓迎してやろう。手伝え、ジュリクス!」

「はい、よろしくお願いします。橙瀧さん」


 二人は椅子から立ち上がり、西側を向いて並び立ち、片方は拳を、片方は槍を構えて、

「【竜腕参上】!」

「【威破瞬貫槍】!」

「【蒙昧罪の断】!」

 相手の攻撃に合わせて、強烈な一撃を繰り出した。


 橙瀧、ジュリクス、そしてネロア……三人の化神官の攻撃がぶつかり合い、この本陣一帯にいる者たちは、空気や草原などの万物が歪んだように錯覚した。


 その近くにいるヴァイスは、相殺の余波に耐えるべく杖を地面に押し当てて、どうにかこの場に立ち止まりながら叫ぶ。


「まさかこんな形で総大将同士が出会えるなんて、誰が想像できましたでしょうか……ネロアさん!」


「そうですよね! だからこそ、僕はこうしてここにいるんですよ!」

 ネロアは橙瀧とジュリクスから離れ、ヴァイスたちを見据えつつ、剣を向ける。


 対する二人は、引き続きヴァイスを背にし、各々のスタイルで構える。


「ガハハハハッ! 最強に嬉しいぞネロアァッッ! こんな早く貴様と対戦出来るなんてなぁッ!」

「先日のギルドマスター七人の折は、ありがとうございました……ですがここは敵として、どうかお覚悟を」


 ここで二人の間を通って、ヴァイスが一歩ほど前に出る。

「ん、どうしたヴァイス! 貴様総大将だろ? 俺様より先に出しゃばるな」


「総大将だからこうして出しゃばっているんですよ。二人とも、今あなたたちにどれくらいチャットが届いているか確認してください」


 二人は言われた通り、自分に来ているチャットの通知を確認する。音声通話、メッセージ、ありとあらゆる方法での連絡が、山程届いていた。


「出なくても構いませんよ。恐らく大体、『今、本陣はどうなっている?』という旨の質問でしょうから」


 そうヴァイスが言った時、橙瀧は既に誰かと音声チャットをしているところだった。

『オイ! 橙瀧さん、今、本陣(ソッチ)はどうなってるんだ!? ワシらはどう対応(ス)ればいい!?』


「これまで通り目の前の敵をブチのめせばよろしい! じゃあな! ……本当にそうだったぞ、ヴァイス」


「でしょう、橙瀧さん? ネロアさん、貴方は単に迅速に私たちを討ちたいのではなく、こちらを狙っていたのですよね? 本陣を急襲して我々東軍を不安にさせ、混乱させ、その隙に西軍が我々を刈り尽くす、という算段だったのでしょう」


「……もし本当に、僕が三人をまとめて倒しに来たとしたらどうします?」


 ヴァイスは、ネロアとの激戦を間近に控えて笑う橙瀧と、逆に早期の終戦へ持ち込もうと気張るジュリクスの様子を一瞥した後、

「いや、乗りませんよ。私が望むのは、『東軍の勝利』です、貴方とやり合って勝ったとしても、周りの自軍がズタズタになってしまっては、勝利の意味が薄くなってしまいます。

 なのでここは、本陣を西へ下げますよ。では、ジュリクスさん」


「はい、【モンスターコール:ドラゴン5】!」

 ジュリクスは自分たちの背後に三体の紫竜【マグニフィセントドラゴン】を召喚し、


「こちらへお乗りください、ヴァイスさん、橙瀧さん」


「ありがとう。ジュリクスさん。ではネロアさん、またいつかお願いしますよ」


「……はぁ、しょうがない。ここはまだ場が温まりきってないってことにしてやろう。ではネロア! 俺様に殴り殺されるまで、つまらんところで死ぬんじゃないぞッッ!」


 三人はネロアの出方に警戒しながら、それぞれドラゴンの背に乗り、そして西へと飛んでいく。

 離陸したタイミングで、ネロアは三人のいずれかに剣を投げようとした。が、その瞬間、彼女の前にジュリクスが、【人竜一体】でマグニフィセントドラゴンと融合した状態で降り立った。


 ジュリクスが踵を返して戻ってきた。とは、ネロアは決して思わなかった。

「一応、足止めとして分身を送りつけたわけですね。ジュリクスさん」


 最大七体まで、自分と同じ能力・思考の分身を生み出す、ジュリクスの化神官としてのスキル【時神の並立】――今目の前にいるジュリクスは、それに由来する分身だと、ネロアは時国ランニバーニでの記憶から、見て一瞬で気づいたのだ。


 ジュリクスの分身は言葉を発さないという方法で、その答え合わせをした。


「わかりました。せっかく敵本陣の一つに来たわけですし、あの御三方と本当にやり合えるかどうか確かめるため、お相手よろしくお願いします!」


 そしてネロアとジュリクスの分身は、同時に攻撃を繰り出し、お互いに武器をぶつけ、鍔迫り合いを繰り広げた。

 

 そこから三キロほど離れたところで、ウルフレットはウールヴヘジンのコックピットから、総大将の無事を確認して、

「さて、俺も倒すべき相手の元へ行きましょうか」


 自機を人型から狼型に変形させ、【チーム・トランス】の味方たちと共に、次なる戦地へと向かっていった。


*


 ロジスティクス神戦最初期、東軍は北、中央、南の三ルートに分かれ、西伐を進めていた。


 しかし南ルート軍の大多数を占めていた術国イペファワエゼの裏切りで、三叉の一切先は崩れた。

 これと、神戦の長期化により、東軍の陣形は乱れ、北と中央の間を通って手柄をあげようとする自分勝手な輩が現れ始めた。


 いくら無法者とはいえ敵は敵。西軍はこれを見逃さず、彼らの迎撃をする。


『【チーム・モブ】の皆! 俺達が奴らに『団結力』の大切さを教えてやるぞ!』


 西軍属・機国イズセラのエドウィン率いる【チーム・モブ】らが、量産ロボ【ヴァンガード】百二十万機を操作し、無法者の空を覆った。


「そ、空がロボットの深緑で覆われてやがる!?」

「ええい気にするな! 見た感じ奴らは量産の雑魚、すごいのは数だけだ!」

「コアの魔石を破壊さえできれば怖くはない! 魔法や矢弾を撃て!」


 流石は命令違反してでも手柄を求めようとした者たちである。

 彼らはバラバラに遠距離攻撃を撃ち、空を覆うロボットたちを撃ち落とそうとした。

 対する【チーム・モブ】の軍勢の七割が、限りなく同じタイミングで、相手の倍以上の、五月雨のような弾幕を展開し、無法者たちを半壊させた。


 続いて【チーム・モブ】の軍勢三割――近接戦を得意とするパイロット達が着陸。


『行くぞマリック、グレゴリー、そして皆! このまま畳み掛けろ!』


『おうとも、ギビー!』

『やっちゃうよー、ギビー』


『『『『『了解!!!』』』』』


 剣やハンマーを装備し、ロボット特有の圧倒的な質量とパワーで、残る無法者をロードローラーさながらに潰していく。


 空中で弾の雨を作っていた七割の軍勢は、エネルギー消費を抑えるためと、注目を集めすぎないために、一旦着陸した。

 彼らの統率をしていたエドウィンは、ことごとく潰される無法者と、自チーム自慢の兵隊の活躍を見て、悦に浸る。


『いいぞお前ら。これで奴らをお釣りが返ってくるぐらい懲らしめたな……いや、ここは、懲らしめることよりもお釣りの『敵の殲滅』が重要だったか』


 この時、エドウィンのヴァンガードの側に、赤い鋼鉄の狼――ウールヴヘジンら【チーム・トランス】の機体が着地する。

 ウールヴヘジンたちはすぐに人型へと変形する。

 そして【チーム・トランス】リーダー、ウルフレットの声がスピーカー越しに流れる。


『見事な戦いぶりでしたね、エドウィンさん。旧西軍本陣から戻ってくる最中でも、はっきり見えました』


 エドウィンは照れて声色を明るくして、

『なんだよ言いたいのはそれだけかよ。全く、お前はそんだけの余裕があるのか?』


『不幸なことに、今はあります。

 先程のチョルヒさんの抜け駆けと、リュートさんの活躍のおかげで、俺がちゃんとした仕事は『総大将様を投げるくらい』しかありませんでした。

 正直これだけでいいのかと申し訳無さを感じています』


『なあに気にすることはない。お前みたいな強い奴が楽できるくらい、今の西軍は追い風が吹いてるってことなんだか……!? とうとう出てきやがったな!』


 エドウィンとウルフレットたちは各自のコックピット内からしかと目撃する。

 ――突撃した三割の【チーム・モブ】が後退している様、あるいは撃破されている様を。


『本当だ。とうとう出てきましたね……』


『ああ、本当に出てきやがったな。一度国を売りかけチョルヒに負けた分際で、またイズセラに弓引いた真正の無法者が……!』


 新たに【チーム・モブ】に立ちはだかった無法者は、【チーム・アーセナル】リーダー、デリトソースと、【チーム・エナジー】リーダー、キラリエル。


『我らが一度覇権を掴みそこねたくらいで大人しくすると思ったか……』


『ワタクシたちはなんとしてでもかつての栄光の道に返り咲きますよ……』


 彼らの登場により、ある者たちは蜂の巣になって爆散する。

『……ド阿呆が! 【チーム・アーセナル】の復讐の炎、我を筆頭に見せてくれる』

 全高十七メートルのかろうじて人型を保つ武器庫――デリトソースの愛機【デリトソーZ/INFERNO】によって。


 またある者たちは、レーザーブレードの剣閃により刹那に両断される。

『……なんとしても! かつての! 輝きを取り戻しますよぉぉぉ!

 褒め称えなさい! この【チーム・エナジー】再興の切望の意思が篭った輝きを! それを惜しみなく放つワタクシの新愛機の真価を!』

 全高十二メートルの太陽めいて神々しく光り輝く黄金の機体――キラリエルが操る【シン・キラリエリオン:II】によって。

 

『復讐、名誉奪還……貴方たちはそれ以外にもっとやるべきことがあるのではないんですか?』


『だったら俺たち【チーム・モブ】にも決意表明させやがれ! あの壊滅させられた時のリベンジ、ここで果たさせてもらうぞ』


 【チーム・モブ】アンド【チーム・トランス】対【チーム・アーセナル】アンド【チーム・エナジー】――かつてイズセラで勃発した大内乱の続きが、これにてロジスティクス神戦の一ページで再燃する。


【完】

ロジスティクス・サーガ・データベース


■キャラクター紹介

【音神マダキウポオーベー】

 分類:神

 管理国:音国エホシャドチグパ


 ロジスティクス大陸の、音楽を掌握する女神。

 まさしく音楽家のように独特の感性を持ち、自由を尊ぶ存在。

 大陸にいる人類の気分が高まると、自ずと心中からそれぞれに適した背景音楽を奏でるようにするのが神の務め。

 外見はクラシック音楽家がベースになっているが、好みのジャンルは特にない。リュートが得意なポップポップした曲もしっかりノッてくれる。

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