114.これが化神官だ!
ロジスティクス・サーガ内にある、どこにあるかもわからない、神域的な空間にて。
「ホイプペメギリさん、あなたの化神官もようやく本腰を入れ始めましたね」
「『先に優勢を取れたこと』を褒めてほしいのか? キトァミァ?」
ロジスティクス神戦の光景が映し出された円卓を、ロジスティクス・サーガ八国の神が囲む。
「まさか無法者のバイク内に隠れて参戦を待つとは、あなたの化神官は至極巧妙な策謀を出案しましたね」
文神ユールコアに称賛され、術神イイキュフォアグは、フッと鼻で笑い、
「ありがと」と、短く返した。
「フフフ、これにて我ら西軍がAメロを制した。故にこのままサビへとこの優勢のムードを繋げたまえ、我が推しのリュートたんよ」
「得意げになるでないのじゃ、マダキウポオーベー! まだ東軍には儂の橙瀧がおる! あやつが出さえすればこれまでの争いなど前座に過ぎないのじゃ!」
「やかましい。ノイズを囁くなジャグガバゼパ」
「貴様、だ〜れ〜がやかましいじゃと!」
「どっちでもいいですとも」
口喧嘩を繰り広げる災神ジャグガバゼパと、音神マダキウポオーベー。その様子をみて、時神ア・ドネザスオグは鬱陶しそうに頬杖をつきながら言った。
すると、ある二柱が同時に一喝を入れた。
「どっちでもいいわけあるか、ア・ドネザスオグ!」
「どちらでも構わないなど、投げやりな感想を述べないでくださいませんか? ア・ドネザスオグ様」
東西の総大将を従えるキトァミァとホイプペメギリだ。
「お二方、絶妙なタイミング合わせには感心しますが私が『どっちでもいい』と言ったのは……あなた方ですよ! ジャグガバゼパ、マダキウポオーベー!
あなた方が争ったところで我々が『鑑賞の時間』に集中出来なくなる以外の結果は生まれません。直ちに止めなさい!」
「仰せのままに、ア・ドネザスオグ殿」
「ほいほい、わかりましたなのじゃ。ここは――命神と死神、絶対相容れない二人の息ぴったりな様という災厄を見せてもらえたことの礼として、とお〜く別に大人しくやろう。
じゃがのう、結局勝つのは……」
「最上級に熱い奴だぜッ!」
ジャグガバゼパの台詞に被さって、機神トドッバ・マが例のごとく情熱至上主義を叫んだ。
「んなわけあるかートドッバ・マ! やっぱり勝つのは儂の橙瀧なのじゃッッッ!」
「だからノイズを入れるな。そしてサビを決めるのは橙瀧ではなくリュートたんだと……」
「違う、エロイース」
「いーや、やっぱり情熱が一番あるやつだ! つまり僕のチョルヒだね!」
「そもそもこの神戦において、この四人は軍の一指揮官に過ぎない。だから真の意味での勝者はネロアだ」
「ふふふ、ホイプペメギリ、勝手に私のヴァイスから勝利の運命を取らないでくださいますか?」
「いやいや、勝利の事実を確定する僕の一番弟子たるシュラ君かと……と、自信故の断定を発言したいですが、トドッバ・マさんが提唱した『最上級に熱い奴が勝つ』は正論ともいえますから。どうしましょうか……
ところでア・ドネザスオグさん、また騒音轟々となってますが、折檻と叱責の実行は?」
そう文神ユールコアに尋ねられると、ア・ドネザスオグ神はため息混じりに答える。
「全員騒いでしまっているから止めようにも止められない。だからもう自然に静かになるのを待つとするよ……それに」
「それに?」
「大した『確証』もなく我が子可愛さで未来を予想する人など、私は小物だと思っていますので」
なら貴方には『確証』はあるのか? と、ユールコアは喉まで出かかる。
しかし、この口から文言が出る前にア・ドネザスオグは円卓にうつむき、人間達の神戦を集中して鑑賞し始める。
これ以上彼の興に水を差すのはよろしくないだろう。と、彼は好奇心よりも礼節を優先して、質問を引っ込めた。
*
ロジスティクス神戦、戦場にて。
東軍の三つの進軍ルートの内、術国イペファワエゼが関与していた南ルートは潰えた。
けれども北ルートと中央ルートの勢力は未だ健在。打倒西軍の気炎も途絶えてはいない。
「撃て撃て総員撃ち尽くせ! 我ら【テクノロジオ連合】の技術力は大陸一と信じるのだ!」
時国ランニバーニ【八大ギルドマスター】の一人、ギアディオ・テクノロジオは中央ルート軍の中でも際立って奮戦していた。自ギルド自慢のロボット軍団を精一杯指揮していた。
「頑張れ俺、もっと頑張れギアディオ。
イペファワエゼが裏切った今、その他の東軍の勢力は『対応力』を試されている。
これが好機だ。ここで俺が大手柄を上げればイズセラでの陰謀もジュリクスへの反乱も全部チャラになる。
ついでにこのロジスティクス神戦に勝てばイズセラを今度こそ俺の国にできるかもしれない。きっとそうに違いない。
そうしてランニバーニのしょっぱい機械技術力から脱却して、イズセラで本格的な機体を作り、今度こそジュリクスを……」
ギアディオが浅はかな野望を自機のコックピットでつぶやいていたその時、彼らの軍の頭上を『赤』が高速で過ぎる。
刹那、【テクノロジオ連合】のロボット全てに銃創が刻まれ、ギルドマスター諸共爆炎の海に沈んだ。
赤い【ヴァンガード】を駆り、【機神の激烈】で三倍速を得るイズセラの化神官、チョルヒ渾身の神速瞬殺撃であった。
『よし。これで中央ルートの軍は痛手を受けたでしょう。ネロアさんたちの負担が減るといいですが……』
テクノロジオ連合を一掃した故の安心と、この大一番でようやく活躍できた幸福をコックピットで噛みしめるチョルヒ。
そこへ彼女の元上司たるエドウィンからチャットが届く。
『こちらエドウィン! チョルヒ、前に出すぎだ! 的になる前に早く後退してくれ!』
『わかりました! エドウィン!』
こうしてチョルヒは西へ三倍速で後退する。ついでの掃討もぬかりなく。
*
テクノロジオ連合が一瞬で溶けても中央ルート軍の戦意は砕けない。
結局のところギアディオはランニバーニの【八大ギルドマスター】の一人に過ぎないからだ。
「あわわ、ギアディオ様が爆散してしまいました!」
「ヒリュアさん。アイツのことなんか気にせず、俺達の今を心配したほうがいい」
「そうそ、ブークの言う通り。特に今迫ってきてる珍妙な集団を……」
【サブレーサ芸能】のマスター、リリーサ・サブレーサ。
【ハーベック農協】のマスター、ブーク・ハーベック。
【メディカリア教会】のマスター、ヒリュア・メディカリア。
彼女達ギルドマスター三人は噴煙するギアディオ布陣跡地から西側へと目線を移す。
歩速を合わせ足音響かせ、各々の武器をキンキンカンカン味方とぶつけ合わす、どこかしらにビビッドブルーをあしらっている一万人の集団が迫ってきた。
「な、何だアレは……」
「ものすごく変な軍隊ですね。殺意を全く感じません……」
「軍隊というよりアーティストの応援団かな……あ、まさか!?」
「どうしたリリーサ!?」
「何かご存知ですか、リリーサさん!」
「や、やばば……アタシの推し……じゃなくて、リュートが来てる! 全員アイツらを食い止めて!」
三ギルドの精鋭たち――総勢三万人は遠距離武器や魔法を駆使し、ビビットブルーの集団をのして阻もうとする。
「【バリアリーフ・ダンス】!」
ところが、ビビットブルーの集団は突然現れた水のバリアにより、その妨害は水泡に帰した。
そして、このバリアを作った救世主が、三ギルドの前に現れる。それは紛れもなく……
「音国エホシャドチグパの化神官、リュート・ブルーバードでーす! 以後、リュートと略してよろしく!」
「「「「「はーい、リュートちゃーん!!!」」」」」
化神官リュートの到来。この事実が確固たるものになるや否や、三ギルド軍の内三分の二は背筋が凍ったのをオーバーして、どうかしはじめた。
残り三分の一は、
「「「キャー! リュート様だー!!!」」」
リュートの軍勢に混ざって歓声をあげていた。
「えへへ、本当に来ちゃったんだ。ヤバやばい」
浮かれっぱなしのリリーサに、ブークは拳も添えて一喝する。
「本当にヤバいだろうがリリーサ! なんかしないと全員薙ぎ倒されるぞ! この三人の中で一番戦闘経験豊富なお前が浮かれててどうするってんだ!」
ヒリュアも続く。
「そうですよ! ここは私情は忘れて戦ってください! さっき対化神官用の作戦も考えてたじゃないですか!」
「はっ、いっけないいっけない……コホン。来たなリュート! アタシたちランニバーニの勇者たちが、ここでアナタを沈めてやる! 作戦開始!」
「ふんだ、ランニバーニの有志でも何でも、アタシたちのエモーショナルの大波でぶん流しちゃうよ!」
ビビットブルーの応援団――通称『コンボ稼ぎ隊』がよりけたましく武器のぶつけ合いを始める。
これをBGMに、リュートが両手それぞれに刀を持ってランニバーニ軍に突撃する。
これをランニバーニ軍は待っていた――ランニバーニ軍の三分の一は一斉にリュートへ魔法を放つ。
「どんどん弱体化させろ! そうすれば化神官といえど怖くはない!」
攻撃魔法ではない、ブーク達のギルドが得意とするデバフ魔法だ。
「皆様、これで頑張ってください!」
対照的に、ヒリュアらメディカリア教会の面々は味方にバフ魔法をかけられるだけかける。
特にサブレーサ芸能の戦士たち、さらに特にギルドマスター、リリーサへは念頭にかけていた。
「皆突っ込めー! リュート様を倒せー!」
お膳立ては十分した。リリーサたちは憧れのリュート様へ弓引いた運命を恨みながら、涙の迎撃へ行く。
「【メイルシュトロム・フィナーレ】!」
そしてギルドマスター三人と、運悪く彼らに巻き込まれた一万五千人は、リュートを中心とした超激ド級の大渦巻めいた回転斬りで藻屑となったのだった。
リュートの化神官としてのスキル、【音神の合奏】は、『使用者の半径二キロメートル以内にいるエホシャドチグパ・プレイヤーの攻撃コンボ数を、使用者のコンボ数に足す』という効果を持つ。
これとリュート保有のパッシブスキル【エモーショナル・ビルド】と『コンボ稼ぎ隊』の連携により、突撃時のリュートのステータスは十倍近くに膨れ上がっていた。
なのでどれだけバフデバフをかけようが、もはや焼け石に水だったのだ。
「うっし、第一会場公演、ありがとうございました! では次行こ! あ、アブソは後片付けお願いね」
リュートのマネージャー的存在、アブソは『これが普通なんだ。この横柄さが普通のリュート様なんだ』と自分に言い聞かせて、
「……はい、かしこまりました」
すんなり首を縦に振ったように見せた。
*
一方その頃、戦場北部では東軍属の災国カメセスコアの猛者たちが、自分好みの厄災を蔓延らせていた。
中心人物は【十二星竜】。災神ジャグガバゼパが落とした十二の流星に当たり、特殊なスキル【竜眼】を会得したカメセスコアのトッププレイヤーだ。
この厄災に待ったをかけに来た者が一人――文国ヨヤアサの化神官、シュラだ。
「んー、皆派手に暴れ過ぎている。このまま見ていても飽きない風情があるとボクは思うけど、後が悲惨すぎるから真面目にやろう。
とりあえず書き出しは……【モンスターコール︰ビートル5】」
まずシュラは戦神の参戦を予感させるようなカブトムシ、【グングニルビートル】を百匹近く召喚。
カメセスコアのその他プレイヤーを倒し、十二星竜に自分の存在を知らせ、運がよかったら誰か一人倒せたらいいなぁ、という気持ちでカブトムシを飛ばす。
そしてカメセスコア・プレイヤー五百人をまとめて刺殺した。
「何だ奴は!?」
「ヨヤアサの化神官か!」
「のこのこ現れましたな!?」
これにより十二星竜達はシュラの存在に気づく。ついでに放電、爆炎、凍結、ハイパワーマシン、鉤爪などで殺虫する。
「十二星竜が四人か……ボクとしたことが気づかれすぎたかも。ま、いっか」
四人の十二星竜――【白羊星竜】ユリウス、【獅子星竜】バーキー、【天蝎星竜】スノウ、【巨蟹星竜】戦禍――が各々の【竜眼】を駆使し、一斉に襲いかかる。
シュラはまるでファンが自著の本とサインペンを持って駆けてきた時にする、にこやかな表情をして、
「【文神の執筆】、四連」
モノクロカラーの飛ぶ斬撃を四人それぞれへ与えた。
この攻撃はまるでダメージにならず、四人はこのままシュラに迫る。
「ありゃりゃ、やっぱり四人はきつかったかな……?」
そして四人は個々にとって最良の攻撃を繰り出した。
「……大事な【竜眼】をなかったことにされちゃったらさ。【モンスターコール:スタッグビートル5】」
シュラは自分の周りに召喚した神威を帯びたような鉄壁のクワガタ【イージススタッグビートル】を召喚し、『竜眼を使えなくなった』四人の攻撃をいともたやすくガードした。
「あ、あれ、爆発しない!」
「私も電撃が出せない!」
「……!?」
「油が出ない、これではマシンが動かせな……」
文国の化神官、シュラのスキル【文神の執筆】は食らった相手のスキルやステータスを『無かったこと』にする。
ただしシュラを比較対象として、相手が化神官やそれに準ずる戦歴を得てのし上がった強者であれば安々と無効化できない。
つまり、今シュラに襲いかかった四人は、結局『この程度』ということなのだ。
「はい、君たちの台詞の枠はここまで。【モンスターコール:バタフライ5】」
シュラは数多の邪悪を切り裂けるかのような神々しい刃の羽を持つ蝶【クサナギノバタフライ】を五十匹ほど召喚。これにて十二星竜の四人にズタズタなバットエンドが訪れた。
「うん、鮮烈じゃない。【十二星竜】といっても橙瀧さんのように圧倒的でもない奴もいるんだね。
はぁ、ネロア君に『シュラさんは北方面を任せました』と頼まれたからこっち来たけど、こんな調子だったら合流してネロア君の戦いを見ていたいなぁ……」
クワガタや蝶を四方八方に散らし、さらに来るカメセスコアのどーでもいいプレイヤーをテキトーに倒す間、シュラはわかりやすく肩を落とす。
何故か今の彼の気持ちを引き立てるように、彼のいる辺りのみ雨が降った。
この時、十二星竜の一人【水瓶星竜】ナガレタルは、【水瓶星の竜眼】を使って降らせた雨を伝い、シュラの背後を取っていた。
(……ククク、スキ有りだ!)
やるべきことはただ一つ、シュラの急所を突き殺すことのみ。
ナガレタルはその一心で、彼の首筋めがけて鉤爪を突き出す。
「【術神の極致】」
「どへぼぁ!?」
聞き覚えのないスキルの詠唱と、聞き覚えのない悲鳴が背後から聞こえたシュラは慌てて踵を返す。
するとナガレタルが消滅エフェクトを発しながら消えていった。ついでに雨も急に止んだ。
だがそんなことはシュラの眼中になかった。同時に視界に映ったものが強烈すぎたからだ。
「誰だい、君?」
エロイースは少々遅れて、シュラの不用心さに舌を打つ。
「誰って……ああ、そっかネロアは約束守ってくれたから教えてないんだった……エロイース。イペファワエゼ化神官のエロイース・エレメンタル。通称『生徒会長』」
「ああこれはどうも。ロジスティクス神戦の暫定MVPことエロイース君。ボクの名前は……」
「シュライベン=ブラット=グリュム。最新作は推理小説『閑古鳥の喉の住所』」
「よくご存知で。もしかして私のファン?」
「兄貴に勧められてから二時間でフリマアプリ開いた。アタシめんどくさい物とか人とか嫌いなんで」
「せめて評価サイトにレビュー投稿しておくれよ」
「それもめんどくさい物事でしょうが」
「失敬しました。次回作にご期待ください」
無駄話はここまでにして、シュラは何故エロイースがここにいるのかについて尋ねる。
面倒くさがり屋なエロイースらしく、答えは手短に。
「二番目に嫌いなのが『うるさいの』。三番目が『ロボット』だからよ」
「だから君一人でここにいるのか……? 化神官らしく、イペファワエゼ軍の指揮をとらなくていいのかい?」
「イペファワエゼの指揮棒は三馬鹿に握らせたままにしてる。乗りに乗ってる奴らを止めるのと、本来はいないはずだったアタシ中心に軍を再編成するのはめんどくさいから。
そうそうめんどくさいといえば……【アース・バレット】、六十連」
エロイースは土の銃弾をばらまき、身の丈に合わない大手柄を狙うカメセスコアのプレイヤーを多数仕留めた。
「これで学習しなさいよ」
「ははは、イペファワエゼの生徒会長にこれ言われるって光栄じゃないかな」
「屈辱かもしれないよ。化神官になった後に学んだことなんて、『人間は学ばない生き物』ってことだけだし」
「そうかい。そんなこと教えてもらってボクも光栄だよ」
「あっそ。はぁ、なんかこっちもこっちでめんどくさいな……」
ロジスティクス神戦はまだまだ続く……
【完】
ロジスティクス・サーガ・データベース
■キャラクター紹介
【文神ユールコア】
分類:神
管理国:文国ヨヤアサ
ロジスティクス大陸の、文字を統一する男神。
神にしては腰が低い、温和な青年のような存在。
ありとあらゆる言語を持つ人々が、互いに意思をスムーズにやりとりできるように自然な翻訳をするのが神の務め。
人間の奇想天外な物語を紡ぐという長所に興味を持っており、特に現在の化神官であるシュラはかなりのお気に入りなんだとか。




