113.面倒事ならアタシに
ヘリボーン式にイズセラのロボットから着陸する腹心を背に、カオンは三学級長を見下しながら名乗った。
ヒドゥニルンは装備についた土埃を払いつつ、カオンを睨む。
「『ミレアのカオンが助けに来る』とは前々から聞いてた。サンキューって思った。けどまさかオレ様の魔法に割り込むなんて、ヤベーサプライズな登場方法しやがるとはな……」
「ワガママ言わないでくださいまし。私は『風が吹いていたら貴方が動いている』と想像出来るほど貴方と親しくありませんわ。まぁ、私は過去にイペファワエゼに因縁がありますので貴方たちを好きになれるかと言いますと……ねぇ?」
カオンは腹心たちとともにネロアへ向き合いつつ、いつでもバリアを展開できるようにし
「というわけで、ネロアさん。貴方には速やかに死んでいただきますわ」
ネロアは首を横に振り、余裕と自信に満ち溢れた笑みを見せた。
「否。運命の歯車は既に、貴様と死神を繋ぐが為に駆動している」
「はったりはよしてください。あなたはもう詰んでいますわ。
前提として、貴方は私がここに到着するまでの間、さっきまでイペファワエゼの三学級の精鋭達と息を切らしながら戦っていたレベル。別に自慢じゃないですが、ここに【五造】たる私が加われば、もはやあなたの首を繋げる一枚皮は裂けますわ」
「……その『前提』が間違っているとするならば、貴様は何処に逝く?」
「ヘブンズレイドの際はちょっと会ったくらいでしたが、しっかり出くわすとイラつきますね、貴方のそのくどい言いまわし。もういいです、イペファワエゼの皆様、私達めがけ一斉射撃を……」
「もはや時既に遅し! 僕は貴様らに苦境に堕ちたのではない、適切を図り降りたのだ! あの方が到来するまで!」
「ヒィィーーヤッハァァァ!」
遠くから迫る狂気染みた叫びとバイクの走行音。その発動者にして運転者はイペファワエゼの【烈火の副学級長】ブリッツ。
彼女は帯電した鉄パイプを振り回しつつ、器用にハンドルを操り、愛車とともにネロアへダイブする。
「ブリッツちゃんめ、なんちゅうタイミングで来てんだし」
「オサラウド様、早いところ援護射撃をしましょう。さもなくばブリッツ様が個別撃破されてしま……」
「ちょっと黙ってくれ二人とも。俺は今この先を見たい」
帯電する鉄パイプがネロアの頭に迫る。
「ヒャッハァッ! ボクは、かつてお前の手下に負けたのをバッチリ覚えているぞ! 弁償しやがれ、クソッタレ、ボクの雪辱を果たさせろ!」
しかしネロアは全く動じず、
「……ブリッツ殿。よくここに来て、務めを果たしてくれた」
鉄パイプがネロアに命中する直前、ブリッツのバイクが大破する。
「ボ、クの、バイクからァァッ!?」
そしてバイクの中から、装備や散らかった金髪から怠惰な印象が否めないが、どことなく聡明そうな雰囲気の少女が現れる。
この時、イペファワエゼのプレイヤーは声を一斉に揃えて、
「「「せ、生徒会長!?!?!?」」」
「ご名答」
術国イペファワエゼの化神官、『生徒会長』はここに来ない。
その旨を開戦前の作戦会議で予めヴァイスから聞いていたカオンは『生徒会長』こと、エロイースのまさかの参戦にただただ仰天した。
だから尚更、彼女は反射的に生存本能を働かせて、
「【セイクリッド・フィールド】三連!」
半球形の魔法バリアを、自分を包むように展開する。
カオンは自分専用の【Dt-Do】を飲むことにより、バリア魔法全てに『攻撃反射効果』を付与できる。
これで生徒会長がどんな技を使おうとしても跳ね返せる。
もしも以前ブッチギリーストにやられたように、エロイースがバリアごと自分を燃やそうとしても、今回は三重にしてあるので『避難の時間』を稼げる。
二度と同じ失敗はしない――カオンの決意は、咄嗟の反射行動にすら通じたのだ。
だがしかし、今回は相手が悪すぎた。
「【術神の極致】」
エロイースは本から何色とも言い難いエネルギーの球を射出し、バリア三枚を飴細工のように貫通してカオンに当て、彼女のHPを約六割減らした。
「え……!?」
「【術神の極致】は純粋に近い魔力の塊。属性やらなんやらで魔力を無駄に変換してしまう他の魔法なんてかないっこない。
ましてやイペファワエゼ外の【魔術師】の魔法なんて、紙細工にも過ぎないわ。
てなわけでもういっちょ、【術神の極致】」
*
ヴァイス、ジュリクス、橙瀧ら東軍の主格へ、二人の伝令部隊がほぼ同時に重大極まりない報告をする。
「カオン様がイペファワエゼの化神官、エロイースに攻撃され、瀕死の重傷を負った模様!
ただいまミレアの精鋭兵が一生懸命にこちらに救急搬送しているとのことです!」
「申し上げます! 術国イペファワエゼ軍が西軍へ寝返りました! 現在、南ルートの軍は大混乱しております!」
戦力差をある程度巻き返されてしまった。ジュリクスはイペファワエゼ軍を信じたことを後悔した。
ようやく戦場が温まってきた。橙瀧はこれから起こるだろう熱戦に期待を寄せた。
そしてヴァイスは、特に何も思わなかった。強いていうと嬉しかった。何故なら……
(総大将ネロアが突然、南方への単騎特攻を決めたのはこれが理由か。
関係者を最小限の人数にした密約をエロイースと結んでいて、頃合いのいい時を見計らい――この場合はカオン到着時だろうか――実行したという訳か。ようやく点と点が線で繋がりました)
ここでさらに別の伝令部隊が来る。
「緊急事態です! 西軍よりシュラ、リュート、チョルヒ、その他有力プレイヤーたちの出陣を確認しました!」
「ついに始まりますか、真のロジスティクス神戦が……」
「俺様もそう思ったぜ、ジュリクスよ。いやぁ、長かった……で、どうするんだヴァイス?」
「私たちも出撃しましょうか……」
「いいえ、私たちは行きません。
理由は三つ。
一、お互いの大将が前線に出るのは、『決着の手前頃』が定石。
二、イペファワエゼの去就など、東軍の『圧勝』から『圧』の字が取れるぐらいの影響力。
三、私たち三国の壁は、西軍の烏合の衆には飛び越せない!」
ヴァイスは東軍総大将として、ジュリクスと橙瀧に命じた。
「ジュリクスさんは残る【八大ギルドマスター】に総攻撃を、橙瀧さんは【十二星竜】へ全員参戦を命じてください。
そう、こちらも総攻撃を開始し、全身全霊粉骨砕身で西軍に敗北の二字を与えてやるとしましょう!
真の開戦――ロジスティクス神戦第二幕は今開きます!」
*
エロイースがカオンを手負いにする数分前。
アンティルとレイザックは東軍中央ルート征伐軍と対峙していた。
術国イペファワエゼでの鍛錬を経て、彼らの存在感は、敵にとって絶大な重要性を帯びていた。
アンティルは四枚の翼で空中を飛び回り、優先度の高いプレイヤーを一方的に狙撃する。
「うっし、百人目! どうだぁ、レイザック!?」
一方、レイザックは【パイロ・ジェイル】で十数人もの敵を炎の牢に閉じ込めては一網打尽にする。
「そのくらいで威張るなアンティル。俺はもう二百人は倒したぞ」
「へっ、そんなこと言っても自慢にならねぇぞお前! オレっちは量より質を気にしてここまで戦ってきているからな!」
この都合のいいアンティルの自慢に、レイザックはため息を吐く。同時に敵一人を斬り伏せる。
その敵が倒れるとレイザックの視界はひらけ、義憤に燃えるプレイヤー三人が来ているのが確認できた。
「……これは質も意識したほうがいいですね。敵の数があまりにも多すぎる」
「そうだろレイザック。もう隊長クラスの奴を何人も撃ったのに、ちっとも勢いが衰えない。こちらは少数精鋭で頑張っているってのに……」
「ネロアさんが単騎特攻したのも解る気がしますね。これでは無茶でも自力で何とかしたくなるに決まってる」
「かといってシュラさんたちを置き去りにしたのは理解できないけどな。大丈夫かなぁネロア、南軍のイペファワエゼの連中は底しれない実力が……んなわけあるか!?」
「おいアンティル、『んなわけあるか!?』ってなんだ。イペファワエゼの方々は実力が無いみたいに言いたいのか? それは止めておけ、さもなくば俺たちの努力も無駄だったみたいになるぞ」
「いや違うよ、おい南を見ろ南を! オレっちは空にいるから普通によく見えるが、お前は頑張って見てみろ!」
敵味方プレイヤーが入り交じる隙間から、レイザックは南を見る。
イペファワエゼのプレイヤー達が意気軒昂に突撃し、現在地から二百メートルの距離まで迫っていた。
「え、イペファワエゼのプレイヤーがここまで!? まさかネロア様は……」
「不吉なこと言うんじゃねぇよレイザック! こんなの嘘だ、嘘だ……嘘だったぁぁぁ!?」
イペファワエゼの先駆けるプレイヤーたちは、東軍西軍が混戦する地帯に殺到し、
「な、何をするお前たち!?」
「待って、私はランニバーニの……」
「お前ら、西軍と東軍の区別もつかなくなったのか!?」
レイザックとアンティルなどの西軍に目もくれず、東軍のプレイヤーを襲い始めた。
イペファワエゼは東軍の戦力だったはずなのに何故西軍の味方をする――レイザックは頭と身体を硬直させて棒立ちする。
「お待たせいたしました。レイザックさん、アンティルさん」
突然声をかけられたレイザックは身をびくっとさせて、無意識に背後を振り向く。
「うわっ、ネロアさんですか!? ……で、イペファワエゼ軍の方は一体……?」
「裏切りました」
「うわまた後ろからいきなりぃ!?」
次に背後から声がけしたのは、イペファワエゼの化神官――『生徒会長』ことエロイースだ。
空中にいるアンティルもアンティルで、『本来ここにいないはずの人がいること』という、この状況で最も着目すべき異常さを受け驚く。
「生徒会長、どうしてあなたがここに!? ネロアさんは『エロイースさんは来ない』って言ってたのに」
「へぇ、親友にすら教えてなかったんだネロア……義理堅くて何よりだわ」
「ありがとうございます。エロイースさん。さて、皆様には色々話したいことが山積みですが、ここは一番優先するべき話を西軍の皆様に……」
ネロアはチャットを用い、西軍全体に号令する。
「西軍の知将豪傑勇者よ! 今宵術国の民は東軍に叛逆し我らに味方した! 故にこの刻を以て、死国トードイスムカ、文国ヨヤアサ、音国エホシャドチグパ、機国イズセラ、術国イペファワエゼ……この五カ国全プレイヤーで、三叉の一峰がヒビ割れ戦慄く東軍を鏖殺せん! いざ行軍せよ!」
西軍本陣にて。
「狙いはこれだったんだね、ネロア……いいねいいねぇ、そうきてくれて、ほんっと鮮烈だよぉッ!」
「もしもしアブソ? 今のネロアの聞いてた? うん、じゃあ早くエホシャドチグパの皆をまとめてね。マジですぐにそっち行くから。うん、マジですぐにお願いね」
「ネロアさん、今行きます……イズセラの皆様、どうか私にお力添えください!」
シュラ、リュート、チョルヒも出陣。待機中だった三国の軍も、彼らの後を追い総員で出撃し始める。
東軍総大将のヴァイスが【八大ギルドマスター】や【十二星竜】などの猛者に参戦を命じたのもこの時だった。
【完】




