↓ ↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
PR
104/136

104.Bug Maketh Eldest Daughter バグ・メイクス・エルデスト・ドーター

 ヨヤアサの密林の上を走行する【エクスプレスセンチピード】、第二車両の内部にて。


 シュラはレイピアを振り、エルクーレが撃った弾丸を両断した後、

「【文神の執筆】!」

 間髪を入れずレイピアを振り上げ、黒白の斬撃波をエルクーレに与える。


 ざっと五パーセントほど、エルクーレの素早さが落ちたことをステータスを覗き見して確認した。


(どうやら彼女も、ただの落ちぶれたプレイヤーではないようだ)


 それからシュラは、「【モンスターコール:バタフライ4】!」自分の左右に鋭利な羽を持つ蝶――【ノーブルバタフライ】を十匹ほど召喚し、エルクーレに突撃させる。


 エルクーレがどこからともなく、てんとう虫を一匹呼び出し、左側へ放った。

 てんとう虫が爆発し、そこにいた蝶たち十匹を爆炎で包み込む中、彼女は右へジャンプ。 数体は中で撃ち落とし、それ以外は鉄板を仕込んだ靴で蹴り飛ばす。その反動を活かして、エルクーレはシュラの斜め左方向から、ナイフを突き出しダイブしてくる。


 シュラはレイピアをかざし、ナイフを防御した。直後に放たれた弾丸も、首を傾け避けた。


 エルクーレはさっき引き金を引いたばかりの銃を天井へ向けた。だがそこから撃ったのは、弾丸ではなく、右手に張り付いた蜘蛛の糸だった。

 

 振り子の要領で、エルクーレは一旦シュラから離れる。ついでに生き残った蝶を弾丸で砕く。

 そして天井にぶら下がりながら、半円を描いてシュラへ再び迫り、今度は左足に張り付いているサソリの尾を、シュラへ突き立てようと蹴りを放つ。


「【モンスターコール:スタッグビートル4】!」

 シュラは咄嗟に、自分の前に城壁のように硬い身体を持つクワガタ――【ランパートスタッグビートル】を召喚し、蹴りを肩代わりさせた。そしてクワガタは地面に落ちた。【睡眠】状態に陥り、飛ばなくなったためである。

 

 エルクーレは糸で自分を吊ったまま、二回目の蹴りを放とうと宙で一周する。

「【モンスターコール:ビートル4】!」

 次なる攻撃が来る前に、シュラは鋭利な角を持つカブトムシ――【トランセンドビートル】を二十匹召喚し、突撃させる。

 

 何匹かはエルクーレを吊る糸を斬り、残りは全て、床に落下するエルクーレ本人を狙う。

 だがエルクーレは軽やかに、少ない隙で着地し、いつの間にか右足の靴に装着していたナイフを、ブレイクダンスのように回転して振りかざし、半分のカブトムシを斬り裂いた。


 そこからエルクーレは床に座った体勢で、右手で銃を構え、

「【Ss002.ラディエーション】」

 十二発の弾丸を同時に放射状に撃ち、もう半分のカブトムシを全滅させた。


 そしてエルクーレはスッと立ち上がり、シュラへ銃を構える。

 シュラもまたレイピアを構え、次の出方を考える。


(華麗な身のこなしに、独自開発したモンスターを装備品として活用し、予測不能な攻撃を仕掛ける……あのブラゼファ君もそうだったが、彼女もまたストラグラー家を守る大幹部の一人として、ただのモンスターテイマーでは収まってくれないか)


「さて、次はどうなさいますか、シュラ様?」


「引き続き、ボクの得意分野で行かせてもらうよ。【モンスターコール:ビートル4】!」

 シュラはトランセンドビートルを五十体、まるで車両に壁を作るように全面に配置し、一斉にエルクーレをめがけて放つ。


「なら私も、自信作を一つお披露目いたします」

 エルクーレはどこからともなく、全長六十センチほどのトンボを呼び出し、その腹を持つ。


 するとそのトンボは三十二枚もの羽を、傘のように円形に展開する。

 エルクーレはこのトンボ――【オブストラクトドラゴンフライ】を持ちながらその羽を盾にし、カブトムシの群れを受け流しながらシュラへ接近し、

「【Ss001.デストラクション】」

 彼にトンボの先をあてがい、そこから爆炎を引き起こした。


 シュラは大ダメージを受けつつ後方へ吹き飛び、第三車両へ繋がる扉に激突し、そこにもたれるように床に落ちる。


 そこへエルクーレは左手に装備した蛍光イエローのタランチュラを向け、ワイヤーで結ばれた一対の針という独特な形の弾を数発連射させる。


 シュラは気力を振り絞ってレイピアを振り、それら全ての弾を斬る。


「戻って来てくれ!」

 

 エルクーレが、Uターンして突撃してくるカブトムシの始末をしている間、シュラは立ち上がり、ついでに回復アイテムを軽く摂取する。


 欲張ってもうひと回復しようとしていたシュラが持つ木の実を、エルクーレは撃ち砕き、言った。

「やはり、危機からの脱出に関しては得意なようですね。ムッシュー・シュライベン」


「ま、まぁね……化神官だし、そういう類の作品をよく出していますから」


「随分と不適切なタイミングでおっしゃいますこと。私の後ろにいる友達を助けようとして、その前の番人に追い詰められているところなのですよ、貴方?」


「ははは、中々いいね、その返し。ますますこうして戦っているのか理由が分からないよ」


「とことん空気が読めませんね貴方。それは貴方なりの命乞いでしょうか?」


「いいや違う……ブラゼファ君も、君も、素直にロジスティクス神戦に来てくれればよかったのにと思ってさ」


 エルクーレは構えた銃を強く握りつつ、即答する。

「断固拒否いたします。私たちストラグラー家は皆、もう二度と熾烈な闘争に巻き込まれないことを切望しておりますので」


「それを知った上でボクはこう思っているのさ。

 ブラゼファ君然り、エルクーレ君然り、君たちみたいなストラグラー家の強者が、ボクとネロアの仲間として参加してくれれば、より確実に戦火を避けられる。って、ボクは予想しているんだけど。そこについてはどう思う、君?」


 エルクーレは銃をシュラへ向けながら、しばし黙り、考える。その時、彼女の口角は、ほんの少し下がっていた。


「……なおさらお断りいたします。もう私は、そういう挑戦をして後悔をしたくはありませんから」


*


 これは今から約三年前(※ゲーム内時間)、エルクーレは機国イズセラで、とあるチームリーダーを務めていた。


 その名前は【チーム・トレイン】。イズセラのさらなる飛躍を目指して、大陸初の鉄道開通を計画していた。


 エルクーレはここにいた時でも、類まれな才気を活かし、予算の確保や、列車の設計、最適な路線の策定など、その計画に非常に高い現実性を帯びさせていった。


 しかしある日、その計画はエルクーレの手から離れた。


 この当時のイズセラの全チームに、命国ミレアからの依頼――技術提供の暁に、莫大な報酬を支払う――が送りつけられていた。

 エルクーレは大半のチームと同様、『機国の誇りは決して売らない』として、それを無視した。


 ところが、後にイズセラを長期的に支配した【トランス】、【アーセナル】、【エナジー】の三チームはこれを受け入れることにした。


 服従の意思を示すため、三チームの内、【チーム・トランス】の当時のリーダー、ガイオンが先陣を切って、ミレアに『大陸を横断する鉄道』の企画書を提出した。

 当時、死国侵攻計画を練っていたヴァイスにとって、こうした大人数移動手段はまさに必要なものだった。

 こうした棚からぼた餅のような偶然を経て、彼らはヴァイスからの信頼を勝ち取ったのだ。


 ――その企画書は、エルクーレのオフィスから、【トレイン】のチームメンバーを懐柔して奪い取り、多少の改変を行って提出されたものだった。


 この事実をエルクーレが知ったのと同時に、三チームから喚問を要求された。

 でっち上げた虚偽の罪を、エルクーレへ釈明させるためである。


 従えば最後、裁判という名の『自分を政治的に始末する手続き』が行われる――そういった末路を予想することは誰にとっても自然な状況であった。


 だから、エルクーレは、自分を裏切った【チーム・トレイン】を置き去りにして、たった一人で機国イズセラから逃げ出した。


 それからしてエルクーレは、ストラグラー家の父上(ファーザー)に、その過去を労られて、今に至る。


*


「どんなに御大層な理想があったとしても、挑戦というものは大概、失敗して潰えるのです。この世の中は、既に確立されているものに甘んじて、それを大切にしていく人のほうが、得をするのです。

 ムッシュー、それは今の貴方にも当てはまっています」


「へぇ、どういう風に当てはまってるのか教えておくれよ」


「普段戦争をしたがらない貴方が、ロジスティクス神戦に関わろうとしていること。

 あまり文国の人々に関与しない貴方が、国を参戦という方向へ纏めようとしたこと。

 今までまともにプレイヤー同士の対決をしてこなかったであろう貴方が、私などと勝負したこと。

 これらの行動と結果が積み重なって、貴方は今こうして追い詰められている……これが『挑戦ゆえの失敗』以外に、なんと言えるのでしょうか?」


 そうエルクーレが尋ねると、シュラはとぼけた様子でこう返す。

「それだけ?」


「私からすれば、『こんなに』と、言えると思いますが?」


「そうか、なら残念。一つ重要な出来事を抜かしてるよ。

 ヘブンズレイドの少し前に、命国の誘いを受けて、死国へ単独で侵攻し、そしてネロア君に負けた。これが言えてないじゃないか」


「ああ、そういえばそんなこともあったらしいですね。申し訳ございません……で、どうしてそんな、自分の首をより締め付けることを言うのです?」


「ボクは、そういう失敗を何一つ恥じていない。むしろ、それこそがボクを作っていると言いたいためさ。

 さっきのお返しに、ボクの過去も聞いてくれるかな? マドモアゼル?」


「……私は、自分の過去を話した覚えはありませんよ?」


「え、ええ? ああ、あれはそれじゃなかったのか。

 ごめん、ブラゼファ君の時とぐっちゃになってた。

 じゃあ、ボクの過去を聞いてもらうよ」


「私は了承に該当する意思は見せていないのですが……まぁいいでしょう。

 そこそこ売れてる作家様の人生を聞けるなんて滅多にございませんから」


【完】

ロジスティクス・サーガ・データベース


■キャラクター紹介

【エルクーレ=クリスティナ=ストラグラー】

 分類:プレイヤー

 所属:文国ヨヤアサ

 レベル:70

 ジョブ:【重装士】


 ストラグラー家の四公子の長女。きょうだい順だと三番目。過去に機国イズセラで【チーム・トレイン】を組織していた過去を持つ。

 スリーピーススーツを着こなすクールビューティー。

 家内では最も品種改良に精通しており、特に彼女の最高傑作【エクスプレスセンチピード】は家内の足としてかかせない存在となっている。


 ヨヤアサの【重装士】は、全ジョブ最大級のアイテムボックスの容量を持ち、モンスターまでも収納可能。名前に反して防御力はそこそこで素早さの伸びが良いため、準備したものを瞬時に扱うことがメインの立ち回りとなる。

 彼女の場合、拳銃とナイフを主武装とし、自分で生み出したスパイグッズさながらの虫モンスターを駆使する。


 元々はアガサ・クリスティ作品の事件にちなんだ攻撃を色々させようとしていました。

 ですが、よくよく考えるとそれはネタバレになってしまうのではと思い、なんかこんなスパイみたいなキャラクターになりました。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。