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103.The Adventure of the Express-Centipede ジ・アドベンチャー・オブ・ジ・エクスプレスセンチピード

 文国ヨヤアサ。字都から南東に離れた地点にて。

 この国土のほとんどを覆う密林の、あたかも雲海のように広がる枝葉の上を、一匹の巨大なカブトムシと、五体のバッタが翼を広げ、猛烈なスピードで飛んでいた。


 その内の巨大なカブトムシの上で、シュラはそこにしがみつき、必死に空気抵抗に抗いながら頼んだ。

「ねぇぇぇえ!? もうちょっとだけスピード落とせないかなぁぁぁ! ボクもういつ振り落とされてもおかしくないんだけどぉぉぉ!?」


 彼の前に座り、カブトムシ――正式にいうと【ナイトメアビートル】を操るブラゼファは返す。

「すまないがしばし堪えてくれ! こうでもしないと姉上には追いつけないのだ!」


 ナイトメアビートルの後ろの方で、バッタに乗った五人――十殺(ディエチキーラ)の五人のうち、エマヌエスからもブラゼファへ、

「おいお前! あんまり先行くなっての! 俺たちを置いてけぼりにするな!」


 ブラゼファはすぐに振り返り、かなり離れた位置にいる五人へ叫ぶ。

「繰り返す! すまないがしばし堪えてくれ! こうでもしないと姉上には追いつけないのだ!」


「繰り返すって何だよー!? それ聞いたの一回目だぞ俺ェ!?」


 こういった具合で、シュラたち六人は、ブラゼファのハイペースに付き合うこと数十分、

「ようやく見えてきた……ようし、待たせたな! ここからは並のスピードで征こうぞ!」


 彼らは、目的の存在を小さくではあるが、ようやく視認した。

 電車を背負ったような巨大なムカデが、密林の木々の上を走るそれを。


 ブラゼファが、愛馬を自分たちに負担のないくらいのスピードにしてくれた後、シュラは尋ねる。

「な、何だいあのムカデは?」


「あれは【エクスプレスセンチピード】。我輩のナイトメアビートルと同様に、姉上が自分好みに育成した固有種だ。

 あれだけの巨体を誇りながら、まるで綿で撫でるかのように木の上に衝撃を与えずに走行するムカデ型モンスターに、十両の列車を装着している。

 我が軍はあれに乗って字都まで来たのだ。今は姉上とその護衛、そしてネロア殿がそこにいるのだろう」


「進行方向からして、ストラグラー家の本拠地に護送する真っ只中なんだね。

 ありがとうブラゼファ君、そこに行くまでにどうにか間に合わせてくれて」


「なんの、我輩は盟約に従ったまでよ……」


「そう。でさ、ここでもう一つ質問したいことがあるんだけどさ?

 その君が言っている、姉上って何?」


 ブラゼファは即答する。

「姉上とは姉上だ」


「そんなありきたりなボケかまさないでくれ、ブラゼファ君。

 ボクが聞きたいのは、その人と君の関係じゃなくて、その人はどういう人なのかってことなんだけど」


 ボケたつもりはないのだが……と、ブラゼファは小声でつぶやいた後、

「ストラグラー家は、『父上(ファーザー)』を筆頭とし、我輩やフキ殿などの四人の実力者――四公子がそのお方の意思を介し、運営することで成り立っている。

 その四公子の内、長女に当たる者こそが姉上、『エルクーレ=クリスティナ=ストラグラー』だ。

 姉上は我らが四公子のなかで最も機知に富む才人であり、ストラグラー家のモンスターの品種改良業も、彼女の存在が非常に大きい。

 ちなみにこれは余談だが、父上と我々公子には、誰一人として血縁関係は存在しない。そういうふうに呼んでいるのは、そういう雰囲気づけのためだ」


「そうかい、細かいところまで教えてくれてありがとう……だとしたら、さっきの短すぎる答えになってない答えは、さらに答えになってないってことかな……?」


「何か申したか、シュラ殿?」


「い、いや? なんともなくないよ……ああ、そうだ、他にも聞きたいことがあ……」


「む!? すまぬ! 噂をすれば影とやらか、姉上からチャットが来た!」


「わかった。じゃあ手筈通りいこうか」


 *


 エクスプレスセンチピード、第一車両にて。

 

 鎖と手錠で身動きを封じたネロアを前に、エルクーレはストラグラー家の説明をしていた。

「ちなみにこれは余談ですが、私とその他のきょうだい、そして父上(ファーザー)には、誰一人として血縁関係はございません。この呼称はただの雰囲気付けです」


「そうであるか。左様な微小な真理の究明までしていただき、感謝する、エルクーレ殿」


「マドモアゼル、先程、急に弟を十倍くらい難解にしたような言葉遣いをしておりますが、それはなんでしょうか? 残念ながら、そちらもそちらなりに雰囲気付けしてるとしても、出だしが普通でしたので意味はありませんよ。やるなら徹底的にしてください」


「……は、はい、すみません」


 ここでエルクーレは左手に巻いた時計を確認して、

「あと二時間ほどで到着いたします。それでは他に質問は……」

 

 その時、彼女の背後にある、第二車両に繋がる扉が開き、整備士のような姿の男が言った。

「エルクーレ様! 第十車両より、ブラゼファ殿が接近している様子を確認いたしました!」


「感謝いたします(メルスィー・ポクゥ)。それでは持ち場に、ブラゼファを迎え入れる準備を」


「はっ、仰せのままに!」


 男がきっちりと扉を閉めて去っていった後、エルクーレはブラゼファへ音声チャットを繋ぐ。


「こちらエルクーレ。ブラゼファ、二度目の字都はいかがでしたか?」


『重畳であった! 今度こそ盟約に従い、見事、シュラ殿を捕らえて戻ってきた!』


「ほう、それは本当に見事ね。ところで、フキはどうしたの?」


 チャットの向こう側にいるブラゼファは、声を震わせながら答えた。

『フキ殿は……申し訳ない、ネロア殿の騎士たちの復讐心により、敗死してしまった……我輩は、シュラ殿を捕らえるのに精一杯になりすぎて……』


「ああ、それは、こちらが悪かったわ。私の独断で行かせたのですから……」


『そして、その死国の勇士たちは次なる宿敵……つまり我輩を殺さんと、強奪したモトホッパーを使って追って来ている』


 エルクーレは窓を開けて後方を確認する。と、ブラゼファの愛馬らしき小さい影と、それに続く五つのより小さい影が見えた。


 エルクーレは窓を閉めて、チャットに戻る。

「これは執念深いわね。どうしましょう? まだ車内からもモトホッパーを出撃できますが……」


 ここで約三十秒ほど、チャットの向こう側がうんともすんとも言わない時間が発生した。


『それは止めてくれ! そうしたところで、今の追手に当てては無駄死にしかならぬ! とにかく、早く最後尾の車両のポート……うわこら、ジタバタするな! 落ちるぞ……!』

 ここから、エルクーレの耳には、明らかにブラゼファのものではない、なんかキザっぽい声がして、

『ネロア君! 待っててくれ! 今から助けにいくよ!』

 そしてチャットが切れた。


「……これは大変ね」


「エルクーレさん、ブラゼファさんは何と……?」


「貴方のお隣さんができます。と、言っていました。では、私はその準備をいたしますので、また後で(オ・ルヴォアール)」


 エルクーレはネロアの見張り役五人と入れ替わる形で、第一車両を出て、最後尾の第十車両を目指して歩く。

 その途中――第四車両への扉を開けたところで、


「うわっ! 近いですわよ貴方!」


「うげぇぇ、すいません!?」

 目の前に間近にいた、作業着の男を蹴飛ばした。


「あ、あら、これは失礼……」

 エルクーレは男の手を取り、優しく起こしてあげる。ここで彼女は気づく。

「……って、貴方、さっきブラゼファが来たことを報告した方ではありませんか? 持ち場はどうしたのです? もうそろそろ、ブラゼファが帰ってくるところですのに」


「はい、それはわかってます。ですが! その持ち場が――第十車両のポートが今大変なことになっていましたので! もう一度報告をしようと思ってここに来たのです!」


「大変なこと……ブラゼファを追っていたトードイスムカ・プレイヤーが侵入を試みているのですか?」


「それ以上の事件です! ブラゼファ殿が護送していたはずのシュラが、突如拘束を解いて暴れているのです!?」


「何ですって!?」


 一方その頃、エクスプレスセンチピード、第十車両にて。

「さあさ、トードイスムカの皆様もご一緒に!」


 シュラを筆頭に、十殺の五人は目に入るストラグラー家のプレイヤーたちを襲い、次々と消滅エフェクトに変えていった。

 やはり、大半の勢力は字都に当てていたのか、その敵のストックは、僅か一分ほどでなくなった。


 しっかりと敵がいないことを確認したうえで、第十車両の後部が展開してできた、モンスター着陸用のポートで、愛馬にまたがったままでいるブラゼファへ、シュラは深々と礼をする。


「ありがとう、ブラゼファ君。お陰でファーストミッション――列車搭乗作戦は成功だよ」


 対するブラゼファも、シュラへ頭を下げ、

「こちらこそ、先程のチャットで指示していただき、感謝する。生憎、我輩は嘘が苦手なものでな……」


「じゃあこちらこそ、どういたしまして……で、君はこれからどうするの?」


「ここで待ち続ける。今優先している盟約は『ストラグラー家の者同士の戦いを禁ずる』であるが故にな」


「そうだね。それはいい判断だよ。じゃあ、少しそこで待っててくれ、すぐ終わらせるから!」


 そしてシュラは、十殺の五人に「待たせてすまない」と一言いってから、第九車両の扉を開ける。

 ここはモンスターの輸送用の車両なのか、最低限の道具収納棚が置かれてあるだけの簡素な内装だった。

 そんな広々とした空間に、数十人の武装したプレイヤーが待ち受けていた。


「殺し屋しか、乗ってねぇな」


「それ君が言っていいセリフかい、エマヌエス君? 君たちの方がよりそれらしいのに」


「……だな」


 六人と数十人は特に合図もなしに同時に戦闘を始め、数分後には、この車両には六人だけになった。


「ようし、次だよ次!」


 それからシュラたちは、八、七、六、五、四……と、どんどん前の車両へと進み、最初と同じようなことを繰り返した。

 ちなみに第七車両以降は一般的にイメージされる列車のような、左右の端に席がついているタイプのものに変わったが、やることに特に関係があるわけでないので、誰も特に気にも止めなかった。


 そして一行は、三車両目に到達した。

 シュラたちはこれまでと同じように、荒っぽい口上を垂れ流しながら襲いかかるストラグラー家の兵隊を片付けていく。


 しかしその最中、第三車両と第二車両の間の扉が開き、そこから勢いよく糸が伸びる。

 その糸は乱戦中のシュラの左手首に命中した。


 シュラはすかさず糸を斬ろうと、レイピアを押し付ける。だがその糸はかなり硬く、悪戦苦闘する彼をそのまま第二車両へと引っ張っていく。


「ど、どうしたぁ! シュラ!?」


「す、すまない十殺の皆さん! ボクは先に行くことになったようだ!」

 と、言い残してシュラは第二車両へと引きずり込まれ、直後、車両の間の扉が閉じた。


 第二車両にいたのは、たった一人のプレイヤーだった。

 すぐにシュラの視界に飛び込んだプレイヤーは、スリーピーススーツを着た女性。彼女は黒とベージュの縞模様の蜘蛛をつけた右拳を突き出していた。


 その女性は、右拳の蜘蛛から伸ばした糸を使い、シュラとの距離を縮め、左足に付けた空色のサソリの尾を、蹴りで突き立てようとする。


「おっと! 流石にそこまでは付き合ってあげないよ!」

 シュラは踵を返し、左手についた糸で、女性の蹴りを防ぐ。

 この衝撃で、ようやく糸は絶たれ、シュラは解放された。


 直後、女性は姿勢を正しつつ、

「危機からの脱出はお上手なのですね。シュラ様」


 シュラは再び踵を返して、正面を向き直し、

「まぁね。化神官がそう黙って捕まるわけありませんから」


 ここで女性はキビキビとしていて、それでいて付け入る隙がない歩きで、シュラの横を通り過ぎた。

 シュラはまたまた後ろを向いて、彼女の動きに備える。


 女性は第三車両に通じる扉の前に立つと、その上部についた鍵をロックし、そして目線をシュラの方に合わせ、一礼する。

「申し遅れました。私の名前は『エルクーレ=クリスティナ=ストラグラー』。この【エクスプレスセンチピード】の管理者でございます。

 礼節を欠いてしまい、申し訳ございませんでした。」


(なんとなくわかってたけどね。こんな奥で一人で構えていたんだから、そりゃネームドクラスに違いないでしょうよ)

 と、余計なことを言うのをこらえつつ、シュラも礼儀正しく頭を下げ、

「ああ、これはどうも。ボクからも自己紹介を、名前は『シュライベン=ブ……」


 エルクーレはまた、シュラの横を通り過ぎながら、

「貴方は名乗らなくても結構です。もう皆知っていますので」


「そうだった。もうさっき呼ばれてたし、なんせこの事件のキーマンでございますから」


 そしてエルクーレは、先程閉めた扉の反対側――第一車両に繋がる扉を、今度は開ける。


「そうですね。この方同様に」


 扉の先――第一車両には、椅子に鎖で縛られたネロアの姿があった。

「シュラさん!? 助けに来てくれたのですか!?」


「ネ……」

 と、シュラが言いかけた最中に、エルクーレは無慈悲に扉を閉め、こちらも鍵を掛ける。

 

 そしてエルクーレは、シュラへ銃を向けながら尋ねる。

「では、ご挨拶は終わりましたので、始めましょうか? ムッシュー・シュライベン?」


 対するシュラも、レイピアを構え直して、

「それがボクの望みだ、マドモアゼル」


「上等(ボン)」

 と、言いながらエルクーレは引き金を引いた。


【完】

ロジスティクス・サーガ・データベース


■キャラクター紹介

【ハミリア・メタリグレット】

 分類:プレイヤー

 所属:死国トードイスムカ

 レベル:78

 ジョブ:【職人】


 十殺(ディエチキーラ)No.3のプレイヤー。

 大人びて落ち着いた雰囲気の女性。ほんの少しイタズラ好きなのが玉にキズ。


 トードイスムカの【職人】は、トラップを設置して敵を追い詰めることを得意とする。

 彼女は特に、丸鋸やらトラバサミやギロチンなど、ホラーものに特化したものを幅広く取り揃えている。


【オーテル・ビューモニター】

 分類:プレイヤー

 所属:死国トードイスムカ

 レベル:81

 ジョブ:【射手】


 十殺(ディエチキーラ)No.2のプレイヤー。

 ざっくりいうとハードボイルドな男。


 トードイスムカの【射手】は、独特な挙動を持つ銃弾を使い、相手の行動の制限と攻撃を同時に果たす嫌らしい立ち回りを得意とする。

 さらに彼は、発煙筒と像を投影する魔石を組み合わせた攪乱戦法も組み合わせ、とことん相手を翻弄して射殺する恐るべきプレイスタイルを取る。

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