101.DIECIKILLER ディエチキーラ
「はぁ、もういいよ……ざーこ」
フキは視界の下部で広がる乱戦模様に手をかざし、そこに無数のホタルを放つ。
そして自軍も十殺も両方消すつもりで、光属性の広範囲爆撃を開始した。
「ああっ、俺のゾンビちゃんが……あのお嬢! とうとうやりやがったな!」
「と、とにかく一旦離れようよ!」
十殺の五人は冷静に爆撃の範囲から逃れる。
しかしストラグラー家の兵たちはこの急な爆撃……というより、主の急な心変わりに対処できず、むざむざと光の中に消えていった。
「お、お助けを、どうか御慈悲!」
「ひゃあああ! フキ様ァ! どうして俺たちまで攻撃するのですぅ!?」
「みっともないところ見せてすみません! けど、我々はまだまだ戦えますのに〜!」
最期の最期まで見苦しい言動を取り続ける自軍へ、フキは彼らを見下しながら言った。
「へぇ〜? まともに敵と対抗できないよわよわさんなのに、わたしには歯向かってくるんだ……ほんとざぁーこですわね」
そしてフキはさらなるホタルを送り込み、爆発させ、とうとう自軍をゼロにしてしまった。
「ふぅ、おかたづけ完了ですわ! じゃあ〜、あとはトードイスムカのややよわよわさん五匹だけですね〜!」
フキから百数メートルほど離れたところに避難していた五人の内、エマヌエスは得物の剣を掲げながら怒鳴る。
「スゲェことしてくれたなお前! 殺し合いと、装備の比較検討と、今週のアプリクーポンしか考えてないバカなトードイスムカの俺たちでも、仲間殺しは絶対に手を出さないっていうのに!」
「それ以外にも考えているぞ俺は!」と、オーテル。
「特に三つ目は貴方しか当てはまりませんわよ」と、ハミリア。
「仲間殺しはアタシたちもするにはするけどね。ただ、『スポーツ』的な意味合い限定だけど」と、マグシー。
「ええと、俺は他にも、あのドラマの新シーズンはいつなのかとか、今日はバーベキュー味にしようかチーズ味にしようかとか、そろそろボディソープが足りなくなってきたとか……」と、グルードは言った。
「うるせぇ! 細かいことにこだわんな、雰囲気で流せ!」
そんな四人にエマヌエスは振り返って一喝してから、再びフキに剣を向けて、
「そういう風な人をナメた態度とるやつはな、遅かれ早かれ罰が下るってもんだ! その辺承知でこんなことしてんのかテメェ!? ええっ!?」
フキは一旦、無言で数匹のホタルをエマヌエスに送りつける。だが、エマヌエスは雷の剣を高速で振り、遠心力で電気の斬撃を飛ばし、二人の間でホタルを爆散させた。
直後、フキは腕を組んでそっぽを向き、
「ふん、わかってますわよーだそんなこと。なんたってわたしはストラグラー家のつよつよ大幹部ですもの」
「そうか、お前はストラグラー家の幹部だったか。だったら、もう罰は食らってるのかもな」
「……は? いきなり変ななぞなぞを出さないでくださいまし。チョーメーワクですわよ」
「いいや出す! 俺はシュラから聞いてるぞ、お前らストラグラー家は『各国の落ちこぼれが集まって成り立ったギルド』だとな!
だからテメーもどうせ、そういう人を食ったような振る舞いをして、因果応報でここにいるんじゃねーの!?」
そうエマヌエスが言い切った瞬間、隣のオーテルがどつく。
「おいこら、このご時世、そういう決めつけはよくないぞ。それも相手は子供なんだから……」
直後、エマヌエスがお返しにオーテルのおでこにデコピンを食らわせ、
「るせぇ! 時には世の中の残酷さを突きつけてやるのも先輩の務めだ! 確かに積極的にそういうことをするのは良くないが、そういう理不尽とか暴力とかを知らないと、時計じかけのオレンジになるぞ!」
「何だとー」
ここでマグシーが、二人の間に入り、お互いへナイフをチラつかせながら、
「お取り込み中申し訳ないんだけど、二人とも、あの子を見てよ」
「「ん?」」
言われた通り、エマヌエスとオーテルはフキの方を見る。
遠くから見てもわかるほど、目をうるうるさせていた。しかも周囲のホタルの光が反射しているせいで、なおさらその泣き具合がはっきり見て取れた。
「ち、ちがいますわ……わたしのせいじゃないですわ……あの流星のせいですわ……!」
フキ=フシキベ=ストラグラーは、過去のことを思い出して泣いていた。
彼女はかつて、災国カメセスコアのプレイヤーだった。
それも比較的年少ながら類稀な戦術眼やプレイングスキルを活かし、新参ながら存在感を発揮する領主となっていた。
ところがある日、カメセスコアの地に十二の流星が降り、橙瀧やウェンリーなどの【十二星竜】が台頭し始めた。
これに対してフキは……まともな抵抗ができなかった。
領主としての才能は荒削りながら光るものがあった。
だが、人間性については、包み隠さずにいうと『最低』であった。
フキは部下を常に舐め腐っており、しくじろうがしくじってなかろうがお構いなしに見下し、散々にこき使っていた。
だから十二星竜が台頭し始めると、彼女の部下たちは続々と、自分にとって希望が見える誰かの元へ逃げていった。
その結果、いざ十二星竜のどれかと戦争しなければいけないという時には、自分以外のまともな戦力は皆無になっており、彼女は災国から追いやられたのだった。
「……どうやら、俺は図星を突いちまったようだな……」
ここからしばらく、五人とフキの間に、気まずい空気が流れた。
そしてそれを破ったのは後者だった。
「……こ、このショーワルインシツおにーさんのみなさま……全員えんえん泣かせてあったかいお家に帰らせてあげますわぁぁッ!」
フキは完全に逆上し、五人たちめがけて数え切れないほどのホタルを放った。
五人は手始めに、ある程度打ち消そうとしたものの、この数は無理だと断念し、
「もうこうなったら、全員でどうにかするぞ!」
「だからリーダーヅラすんな!」
全員散り散りになって逃げ始めた。
そして、ユールコア神殿前広場が、無数の緑色の閃光に覆われた。
フキは足裏で踏んでいるホタルのエネルギー噴射量を上げ、さらに高く浮いた状態で、そのまばゆい光景を嘲笑う。
「アハハハッ! ざーこ、よわよわ、ゴミチリですわ!」
そして閃光が収まった後、ユールコア神殿広場一帯は煙に覆われた。
その煙はどれだけ待っても消える気配を見せず、フキに結局あの五人はどうなったのかをわからなくしていた。
「……わたし、ここまで燃やそうとしたつもりはないですのに……一体何が起こっているの?」
フキは地上に数匹のホタルを送り込み、爆発させ、ある程度煙の晴れたエリアを作ってから、そこへ高度を落とし、周囲の状況を探る。
見えるのは煙のグレーばかり、音は文字に表しにくい唸り声、匂いは言うまでもなく煙のそれで満たされていた。
「あのハンマーおじさんのゾンビがいることしかわからないですわ……もういいです、また上からボカーンってしましょう」
フキは足の裏に新しいホタルを配置させ、光属性エネルギーの噴射でゆっくり浮かび上がる。
その時、ふと振り返り、後ろ下を見ると、拳銃を構えたオーテルの姿が。
「少しうすのろナメクジさんでしたわね!」
フキはそこへ五匹のホタルを放ち、そこに漂う煙ごとオーテルを消し飛ばす。
「そんな単純な攻撃、俺にはもう効かん」
すると今度は、彼女の正面に拳銃を構えたオーテルの姿があった。
「あ、あれ? さっき後ろにいたはずなのに? 意外と逃げ足スタスタネズミさんだったのですわね? じゃあ今度はしっかり倒しますわ!」
フキは一匹のホタルを右手に握り、それを右から左へと振って、
「【雲の通い路スラッシャー】!」
光の斬撃波を放ち、そこを扇状に薙ぎ払う。
だがオーテルはそこにあった煙のようにまた呆気なくいなくなっていて、
「よく考えて攻撃しろ」
今度は、彼女の右下に銃を構えて現れた。
「ま、またですの!? もういい加減にしなさいよこのよわよわいくじなしおにいさん……」
「わかった、じゃあ今度は撃つ。【パニッシュ・バースト】」
オーテルは、フキの左下から火炎の弾丸六発を同時発射し、彼女の足元にダメージを与える。
そしてオーテルは、腰に提げていた【投影の魔石】――あらかじめ録画した像を何かに当てて映し出すアイテム――の効果を停止させ、煙の中に消えていった。
自分を浮かせていたホタルが全滅し、フキは地面に落下する。
「い、いじわるおにいさん……逃がしませんわよ!」
フキはすぐに立ち上がり、煙に消えたオーテルの方めがけて、ホタルを握った手を突き出し、
「【漏れ出づる月のブラスター】!」
レーザーを放ち、その一直線の煙を晴らす。
いくつかのゾンビの悲鳴が聞こえたものの、オーテルやその他敵プレイヤーに命中した手応えはなく、フキはその場で地団駄を踏んだ。
「このこのこの! まともに戦いなさいよざぁこ!」
そして背後から、マグシーのキックを直撃した。
マグシーは後方へ下がると、あらかじめそこに設置しておいた音属性の弾を蹴り、今度は驚いて振り返ったフキへバツ字にナイフで斬りつけた。
「はい、じゃあこれからまともに戦ってやんよ! これでいい!?」
「いいけど……よくないですわ! 【衛士のたく火のフィスト】!」
フキは両手にホタルを握って光属性エネルギーを放ち、両腕を緑色の光で武装。
それから二人は互いにナイフと拳をぶつけ合わせて、格闘戦を繰り広げる。
その最中、雄叫びを上げながらハンマーを掲げて迫るグルードの姿が。
「おじさんは……ひっこんでなさーい!」
フキはマグシーを蹴飛ばし適当にどかすと、グルードへ逆にこちらから接近し、思い切り顔面を殴打し、ふっ飛ばした。
彼女はもう一撃食らわせようと一歩踏み出す。と、そこから足元の地面が崩れ落ち、彼女は地中に落下した。
「お、落とし穴……なんでわたしがこんなつまんないトラップなんか」
「落とし穴だけではございませんよ」
と、ハミリアは、上から手を振って言った後、すぐに引っ込む。間髪を入れず、穴の上の虚空にタライが現れ、そのサイズはフキから見てみるみる大きくなり、やがてゴチーンといい音を鳴らした。
「こ、こんなつまんなくてふるくさくてよわよわなトラップに引っかかるなんて……」
フキは落とし穴の中で、いろんな意味で頭を抱えた後、足下にホタルを再配置して、気をつけながら地上に復帰する。
そこで辺りを見渡すと、あの四人はどこにも見えず、またグレー一色に染まっていた。
「こ、このよわよわいじわるトードイスムカプレイヤーのみなさん! もうメチャクチャグチャグチャにしてさしあげますわよぉぉぉぉ!」
フキは十数匹のホタルを頭上にまとめて、それらを一気に輝かせながら唱える。
「【夜半の月影エンパイア】!」
集まったホタルはミラーボールのように回りながら、フキを中心に、全方位へ隙間なく無数のレーザーを照射した。
これにてさっきの爆撃からずっと漂っていた煙は全て吹っ飛び、そこに潜伏していたゾンビたちもことごとく撃破され、そして、
「いい攻撃だったぜ今の! じゃあ今度は俺の出番だぁ!」
先程のホタルの集まりよりも、激しく、まばゆく、黄金に煌めく雷の剣を構えたエマヌエスが、正面にその姿を現した。
「あ、貴方はさっきの口わるわるお兄さん……な、なに、そのキラキラ剣!?」
「こいつか? こいつは俺の愛刀【クライムブライト】……この電気の刀身に属性攻撃が当たると、一定割合それを吸い上げ、次の攻撃時の出力を高める代物だ……
さっきの絨毯爆撃のときから、さっきのパリピレーザーのときまで、俺はこの辺を駆け回ってお前の無闇な光属性攻撃を吸い上げてたんだぜ!」
「感謝しなさいよ。咄嗟の思いつきに付き合った私たちに」
「俺のゾンビちゃんにはいらないがな」
と、遠くに避難していた他四人の内、ハミリアとグルードは言った。
「わりぃ、そしてあんがと……で、ここまで育て上げた剣は、当然使わなきゃもったいないよな? な? なぁ!?」
「……え、え、遠慮しておきますわぁぁぁ!」
フキは踵を返し、自分の身体のあちこちに付けたホタルに、光属性エネルギーを猛噴射させ、凄まじい勢いでこの場から逃げようとする。
エマヌエスは飛んでいくフキめがけて稲妻の刀身を一気に伸ばす。
そしてそれを彼女にグルングルンに巻き付けて、身動きを封じつつ感電させ、逃亡不可の状態に陥れる。
「いけ、エマヌエス! 分からせてやれ!」
「クスッ」「えっ……!?」
「あいよオーテル! 俺ら十殺と戦ったことを後悔させてやるぜ!」
エマヌエスは剣を連続で振り、フキを何度も地面に叩きつけて弱らせた後、
「こいつで終いだ! 【挽殺ブルータルブレード】!」
フキに巻き付けた刀身を一気に引き戻し、彼女をズタズタかつバチバチに切り刻み、
「ご、ごめんなさいまし~!」
彼女のHPをゼロにして、身勝手な理由で掃除した兵たちの元へ送り届けた。
「フフフ、どうだ、すまんな! 最後の見せ場は俺が持ってっちまってよ……」
そしてエマヌエスはサングラスをわざと反射させて光らせつつ、ドヤ顔で仲間四人の方を向く。
「あのさ、オーテル。アンタなんてタイミングであんなセリフ言った?」
「は? 俺が何を言ったっていうんだ? マグシー」
「『いけ、エマヌエス! 分からせてやれ!』って……少しは周りのこと考えて言いなよ」
「何だマグシー。まるで俺が下ネタ言ったみたいな詰め方は」
「おいどうしたマグシー。オーテルが何をした? ジェネレーションギャップだかなんだか知らないが、俺はお前がなんでそんなに突っかかるのかわからんのだが……」
「グルードは黙って。どうせ知ったところで意味ないから」
「……どうしようかしら。私が説明したほうがいいのかしら……けどそれだと私まで……」
すると四人は、何だかよくわからないところから始まった話に夢中になっていた。
「……まぁ、仕方ないか。どうせ俺の活躍は、トードイスムカの闘技場で絶賛連日公開中だもんな! なんてったって十殺のナンバーワンだもんな!」
【完】
ロジスティクス・サーガ・データベース
■キャラクター紹介
【フキ=フシキベ=ストラグラー】
分類:プレイヤー
所属:文国ヨヤアサ
レベル:75
ジョブ:【魔術師】
ストラグラー家の四公子の末っ子。元災国カメセスコアのプレイヤー。
幼いながらもゲームセンスに富む、おしとやかな天才少女なのだが、本心ではとことん人を舐め腐っているキツイ性格。
その性格が災いして、【十二星竜】台頭の荒波に逆らえず、国を追われた過去がある。
ヨヤアサの【魔術師】は、周りのモンスターの力を借りて出力を上げる魔法を得意とする。
彼女は独自に、小さい身体に莫大な光属性エネルギーを秘める【ノーブルファイアフライ】を飼いならし、閃光の爆発を起こしたり、自分を浮かせたりと、様々な用途に使っている。
ストラグラー家のプレイヤーの命名法則は、シュラを参考にしたものが多いです。
区切りが『・』ではなく『=』とか、一部に文学家の名前のもじりが入っているところが特にそうです。(彼女の場合は紫式部。少々時期遅れになってしまいました)
それに加えて、元いた国の命名法則を引きずっていたりもします。




