100.The Youngest Fire ジ・ヤンゲスト・ファイア
銀色の巨大なカブトムシにまたがり、自分たちにランスを向けて構えるブラゼファに対し、シュラは胸ポケットのペンを掴みつつ尋ねる。
「……どうして二度も来たんだい? 君?」
「言ったとおりだ! 『ロジスティクス神戦の戦火を広げる化神官を捕らえよ』。この盟約を今度こそ果たすためだ!」
「ああ、それが指す化神官って、もしかしてボクのことかい?」
「そうだ! 本当はそうだったのだ! 騎士たるもの結んだ盟約は完全に果たす! だからこそ、今度こそ貴様を捕らえにここに参ったのだ!」
その回答を聞けた後、シュラと、隣にいたエマヌエスはお互いの顔を見合い、ヒソヒソと話し合う。
「……どうしよう、推理的中しちゃったよ……」
「一周回ってスゲえぜコイツ。ネロアで満足しときゃあいいのによ……」
「おおいコラァ! 敵を前にして無駄話をするな!」
「「は、はいっ!!」」
その語気に気圧され、二人は無意識に背筋を伸ばして、カブトムシの上のブラゼファをキチンと見上げる。
「よろしい、ではもう一度問う……覚悟はいいか、シュラ!」
「ああ、わかったよ……」
シュラは胸ポケットからペンを取り出し、スキル【ペンは剣よりも強し】でレイピアに変化させ、構えを取る。
隣のエマヌエスも、刃が雷で構成された刀を引き抜き、上段で構える。
「しっかしよぉ、あれだけ騎士騎士言ってる野郎がすることが国の要人をかっさらうこととはな、ちと情けないな」
と、最中にボヤきながら。
すると正面にいるブラゼファは、口を過剰に真っ直ぐに閉じ、自分たちではないどこかの虚空を見つめて、
「た、確かに、誘拐とはいう行いは騎士道に反するかもしれん……」
「いや動揺するとこか今?」と、エマヌエスはひとツッコミした。
シュラもその狼狽えっぷりにクスリと失礼な感情を漏らすのをこらえながら、
「そこは、さっき言ってた『主』の命令が最大の規範だから、本心ではないがこうさせていただく……的な感じで落としどころを作っといたらいいんじゃないかな?」
その瞬間、ブラゼファは過剰に大きな声で言い放つ。
「そうだ! だが今回は我が主の命令こそが最大の規範! 故に、本心であるとは言い難いが、こうさせていただく!」
「まさか敵が考えた言い訳をコピペするとは思わなんだ……」
と、シュラは小声でつぶやいた。
「ようし! 落としどころも作ったところで、さあ今度という今度こそ、盟約を果たさせてもらうぞ、シュラ!」
閑話休題、ブラゼファはランスを構え、下のカブトムシも乗り手の闘志に同調するかのように音を鳴らす。
「ああ、無駄話はここまでだ! さぁ、やれるものならやってみなよ!」
「その意気や良し! では、征くぞぉぉ……おおっ!?」
ブラゼファがカブトムシを突撃させようとした瞬間、彼とシュラ、エマヌエスの間で、まばゆい閃光が炸裂する。
三人は反射的にその場を離れる。直後、閃光の源に当たるだろう場所の地面が、真っ黒に焼け焦げていたことを見る。
「あーあ、せっかくようやく戦闘開始ってとこだったのに……」
「な、何だぁ? 今の爆発は……?」
二人は爆心地から、なんとなくブラゼファの方に――ファイトスタイルとタイミング的に、絶対に彼がやったのではないと理解しているが――目線を向ける。
その時、彼は左を向いて、目を見開いていた。
「何故ここに来たのだ……フキ殿!?」
「お邪魔しちゃってごめんなさい、ブラゼファお兄様。お姉様から念のために援軍を、と頼まれて来ましたの」
ブラゼファの視界の中心には、和風なドレスを装備した少女がいた。
少女は足元を緑色に輝かせながら浮遊し、後ろに数百人規模の兵隊を連れて、建物の間から、荒れたユールコア神殿前の広場にやってくる。
「パイソンの次は……なんだ、子供向けのアイドルアニメか?」
「いわゆる魔法少女ってヤツかもね……」
少女――フキは突然、シュラとエマヌエスへ向けて、指をかざす。
すると、彼らの方へ、五粒ほどの小さな緑色の光が飛んでいく。
「絶対、あれだろうね……【モンスターコール:ビートル4】!」
シュラは鋭利な角を持つカブトムシ型モンスター【トランセンドビートル】を五体召喚し、即、自分たちに迫る光の粒へぶつける。
そしてフキとシュラたちの間で、先程の閃光が計五回炸裂した。もちろんその後に、トランセンドビートルは残らなかった。
フキは「あーあ」とガッカリした後、ブラゼファの方を向いて尋ねる。
「どうでしょう、これならより確実に盟約を達成できますわよ、お兄様?」
「……ううむ、であろうな、フキ殿」
そしてフキはシュラとエマヌエスへ向かって、自信満々に言い放つ。
「というわけで、このヨヤアサを汚す張本人様! ここからはブラゼファと、このフキ=フシキベ=ストラグラーも加勢いたしますわ!」
エマヌエスは、フキとブラゼファを交互に見て、思い切り舌を打った。
「クソッ! 次から次へとめんどくさいのが増えてやがる……シュラ! どっちを殺る!?」
「そうだね。ボクはブラゼファ君を取るよ。ネロア君の敵だからね」
「わかった! じゃあ俺は、あのフキとかいう野郎を殺っ締めてやらぁ!」
「いいや、俺が殺る!」
その瞬間、この広場に銃声が響き渡り、フキの斜め右の空間で爆発が起こる。
「そういえば、ここにいるのはシュラだけじゃないんでしたわ……トードイスムカの皆様も」
フキは周囲に光の粒を展開し、警戒しつつ、爆発が起こった先にいる、黒いダウンコート姿の男を睨む。
ダウンコートの男は、拳銃を構え続けたまま、言った。
「ああ、ここにいるんだ。トードイスムカの最高峰の戦士が、五人もな」
この男――第二位のオーテル・ビューモニターだけでなく、生存中の十殺の他三名も、彼やエマヌエスのように、フキを一切恐れず睨みつける。
その様子を一瞥して、十殺の頂点、エマヌエス・サンダーロードも気持ちを高ぶらせながら、
「やっぱりお前らも殺るつもりか。そりゃあヨヤアサに来て、こんなに面白い殺戮ショーが出来るってもんならなぁ……」
死さえ恐れぬ狂気の実力者プレイヤー五人に睨まれ、フキは若干引いた。
「お、お兄様……あなたが持ってった兵士も借りていいかしら? そうすればシュラと、お兄様の一番得意な構図になりますでしょう?」
「おう、いいとも! 騎士の最大の活躍の場とは、古来より『一騎打ち』と決まっている!」
ありがとうございますわ。と、簡単に礼を言ってから、ただちに整列させた兵たちに、フキは言い放つ。
「では皆様、あの薄汚くて危険な死国の輩を、ここで絶望させてあげましょう!」
フキの兵たちの雄叫びが響く中、エマヌエスは他四人の十殺の元へ移り、シュラはたった一人でブラゼファと向かい合う。
「邪魔が入って悪かった。だが、もう我輩と貴様の決戦が遮られることは無い……気兼ねなく才気を示すがいい! さすれば我輩と我が愛馬【ナイトメアビートル】がそれを容易く超えてみせよう!」
「ああ、”Nightmare”じゃなくて、”KnightMare”の方ね……君絶対そういうの好きだろうねぇ。
はいはい、OKOK、じゃあ見せてあげるよ久々に……ボクも化神官だということをね!」
そしてシュラとブラゼファは、ようやく対決を開始するのだった。
その一方で、
「わたしたちも参りましょう! 相手はたった五人です、さっさと死国に返してあげますわよ!」
「こっちだって、さっさとお前らを殺って、ネロアを助け出しに行ってやろうぜ、なぁ、お前ら!」
「いくら一位だからってリーダーヅラするんじゃないよ、エマヌエス!」
「うるせぇ! 緊急時の代理だ、細かいことは気にせず行くぞ!」
十殺の五人もまた、フキが放った大勢のストラグラー家の兵隊たちへ、トードイスムカ・プレイヤーらしい蛮勇をもって立ち向かっていく。
「まずは俺が貴様らの腕試しをしてやろう! 【モンスターコール:ゾンビ3】!」
十殺の一人――ランキング五位、グルード・ウェイクアップは、わかりやすく獣のように凶暴なゾンビ型モンスター【バイルゾンビ】を、最前線に十数体召喚し、敵の前衛を襲わせる。
この程度で怯むようなら、そもそもこの作戦には来られないか――ストラグラー家の兵隊たちは特に動揺せず、淡々とゾンビを始末していった。
そこへ使役者であるグルードが混ざり、彼らに容赦なくスレッジハンマーの威力を味わわせてやる。
ゾンビで相手を撹乱させている隙に、自分が持ち前の怪力で、敵に真の怪物が誰かを教える。それがグルードの基本戦法なのである。
それに乗っかり、他の四人も混じって、兵隊たちと乱戦を繰り広げる。
彼らは、雷の剣やら拳銃やら斧やらナイフなどで、ロジスティクス・サーガがレーティングの関係で残虐描写が少ないことが非常に幸福であることを痛感させられるほどの大暴れをし、敵兵を凄まじい早さで減らしていった。
「な、何でたった五人にこんなに振り回されてるんだお前ら!」
「うぎゃー! 普通に怖いよぉぉぉ! 助けてぇぇぇ!」
「そういやコイツら調和の砦の……チキショーッ! せっかくあのトラウマを忘れたくてヨヤアサに逃げてきたのに〜!」
運よく死ぬ順番が後半になったプレイヤーたちは、その禁酒法時代テイストの格好にまるで似合わず、弱音を吐いたり、逃げ惑ったりし始めた。
「ぐむむ……! 皆様、あなたたちは誇り高きストラグラー家の人間ですわよ!? つべこべ言わず立ち向かいなさい!」
と、その統率者であるフキは、兵たちの最後方で浮遊しながら、檄を飛ばす。
その瞬間、フキの視界の上辺りに、キャップなどのストリートスタイル風の装備を身に着けた少女――十殺No.4、マグシー・アフターグロウが跳び上がり、
「だったらアンタが手本を見せてみな! 【サウンド・バレット】、十八連!」
挨拶代わりに音属性エネルギーの弾丸を十八発放つ。
フキは光の粒を一つ正面に出し、光エネルギーを噴射させながら回転させて、円形のバリアを展開。それによって、音の弾丸はあっさりかき消された。
その直後、
「【バウンス・スフィア】!」
マグシーは足元にサッカーボール大の音属性エネルギーの塊を作り出し、それを踏んで炸裂させ、二段ジャンプを決める。
より高い位置に達したマグシーは、
「【サウンド・エッジ】!」
ネオンのようにビビットに光り輝くナイフに音波を纏わせ、フキめがけて落下する。
フキが頭上に六粒ほど光を放ち、マグシーの側で爆発させる。
しかしマグシーは空中で身をひねって回避し、ついにフキにナイフを突きつける。
対してフキは光の粒を一つ右手に取り、
「【漏れ出づる月のブラスター】」
それを握りながらマグシーへ突き出し、光属性の極太レーザーを天へ打ち上げる。
これを浴びたマグシーはその威力で宙を舞い、そして乱戦している兵たちの上を飛び越えて、落下する。この一連の流れで、彼女のHPは三割ほど減った。
「大丈夫かー!? マグシー!?」
それでもマグシーは健気にスッと立ち上がり、
「ヨユーだからこんなの! そういうとこでもリーダーヅラすんじゃないよ! エマヌエス!」
と、エマヌエスに言い返しつつ、ついでに兵たち五人をすれ違いざまに斬ってのけた。
その側で、オーテルは兵たちに鉛玉の威力を直接頭に叩き込ませながら、チラチラとフキの様子をうかがっていた。
「……フフフ、あなた、あの子に興味がお有りで?」
と、十殺No.3、ハミリア・メタリグレットが、斧で次々と、近場のプレイヤーの消滅エフェクトを起こしながら尋ねる。
オーテルはハミリアの方へ拳を突き出し、彼女の肩越しにいたプレイヤーを射殺しつつ、
「……いや、あの光の粒に目をつけていたんだ」
「光の粒?」
「よく見ると、あれはただの光の粒じゃない。ホタルだ。奴は大量のホタルを連れてきているんだ」
フキが身の回りで飛ばしている光の粒の正体は、ストラグラー家が独自開発したホタル型モンスター、【ノーブルファイアフライ】。
その小さな身体には不釣り合いなほどの莫大な光属性エネルギーが含まれており、これを飼い主であるフキの意思に従い発散させ、今まで彼女がしたように、バリアやレーザー、そしてシンプルな爆発を起こせるのである。
「なるほど、ね。で、その情報が私たちにどういう影響があるのかしら?」
オーテルは不自然なタイミングでリロードを行い、
「仕組みがわかれば、気持ち的に少し負担が減るだろう」
「てっきりホタルの習性を活かした対策法でも教えてくれると思ったけど、ガッカリね」
「まぁその辺は追々考えてけばいいだろうよぉ!」
ここで二人の間にエマヌエスが割って入り、剣の雷の刃を延長させて、扇状に敵を薙ぎ払った。
それを見た後、オーテルは銃を構えて、
「ひとまず、周りの有象無象を片づけておこう」
ハミリアも斧を両手で握り直し、
「そうね。私たちにはそれがちょうどいいわ」
再び兵たちの相手を始めた。
戦闘開始から十分ほど経って、もはや十殺の五人に立ち向かえる一般兵はほとんどいなくなった。
闘技場の上層で磨き続けた戦闘技術は数の利ではどうともならず、彼らは揃いも揃ってストラグラー家の威名に疑問を抱かせる存在に化していった。
先程のマグシーのように急襲してくる存在もなく、この醜態を指揮官として見させられたフキは――とうとう我慢の限界が来た。
「はぁ、もういいよ……ざーこ」
フキは視界の下部で広がる乱戦模様に手をかざし、そこに無数のホタルを放つ。
そして自軍も十殺も両方消すつもりで、光属性の広範囲爆撃を開始した。
【完】
ロジスティクス・サーガ・データベース
■キャラクター紹介
【グルード・ウェイクアップ】
分類:プレイヤー
所属:死国トードイスムカ
レベル:70
ジョブ:【聖職者】
十殺No.5のプレイヤー。
上位五人のメンバーの中では一番リアル年齢が上にあたる、気さくなおじさん。
トードイスムカの【聖職者】は、回復魔法も覚えるには覚えるが、どちらかというとゾンビモンスターの展開力の強さで知られている。
彼はゾンビモンスターを大量展開して場を混乱させ、自分はスレッジハンマーなどの凶器を振り回して相手の盲点をついて消滅エフェクトに変える戦術を得意とする。
ちなみに本来、トードイスムカの【聖職者】は物理攻撃力はあまり伸びがいいわけではないが、彼独自の特訓とビルドでどうにかクリアしたらしい。
【マグシー・アフターグロウ】
分類:プレイヤー
所属:死国トードイスムカ
レベル:72
ジョブ:【暗殺者】
十殺No.4のプレイヤー。
明るく元気で、みんなの牽引役を引き受けがちな少女。
トードイスムカの【暗殺者】は、急所へのダメージの倍率を高めることができるパッシブスキルを覚えることなどを筆頭に、とにかく奇襲に特化している。
彼女は一時期、術国イペファワエゼに留学して覚えた音魔法で、身軽に立体的な立ち回りをして、相手の盲点を突いていくスタイルを取る。




