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母を殺した白銀の城を捨て、俺は異国の女と生きる 〜「王冠を叩きつけた第二王子、誓いの逃亡」〜  作者: I・G・ε


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第4話【夜闇の脱出と、追撃の蹄音】

二人の手が

強く握り合わされたその瞬間、

俺たちの命運は一つに繋がった。


白銀の城に別れを告げ、

冷酷な王冠を捨て去る夜。


俺たちの密やかな逃亡劇が、

今まさに始まろうとしていた。

月が雲に隠れた丑の刻、

城郭の裏手に位置する地下抜け道は、

密やかな足音と緊張感に包まれていた。


「……ここが、かつて

 母上が私的に使っていた抜け道だ」


ランタンの仄かな明かりを頼りに、

俺は

苔むした石壁の手触りを確認しながら

先頭を歩く。


この通路は

王城の公式な図面には載っていない。


十五年前、

王家の暗部から逃れようと

母が死力で見つけ出した、

唯一の脱出路だった。


後ろを歩くメイヴィスは、

革の旅装の上から

ダークグレーのケープを羽織り、

足音を殺して

確かな歩調でついてくる。


「素晴らしい抜け道ですわね。

 まるで最初から、

 今夜の逃亡のために

 用意されていたかのように完璧です」


「母上の遺産だよ。あの人は、

 いつか俺がこの城の毒に耐えかねた時、

 逃げ出せるようにと

 暗号を遺(のこ)してくれていたんだ」


暗闇の中、

俺の手元で鍵が重い音を立てて回り、

鉄の扉がゆっくりと外へ開いた。


吹き込んできたのは、

城内の澱んだ空気とは全く異なる、

澄んだ夜の森の匂いだ。


俺たちはついに、

白銀の城の敷地外へと足を踏み出した。


木々の中に隠しておいた

二頭の駿馬を引き出し、

手早く手綱を掴む。


「乗れるか、メイヴィス?」


「当然ですわ。

 新大陸の荒野を

 馬で駆け抜けた経験を

 舐めないでいただきたいですわね」


彼女は鮮やかに鞍に跨(また)がると、

笑みを浮かべた。


その凛(りん)とした姿に、

俺は心強さを覚えながら

自分の馬に飛び乗った。


「目指すは東の街道、

 そして港町ラグナだ。

 夜明けまでに

 第一関門の影の谷を抜けるぞ!」


馬の腹を蹴り、

俺たちは深緑の森へと駆け出した。


風が頬を打ち、

自由の味が口いっぱいに広がる。


十五年間の重圧から

解放されたかのような高揚感が、

胸を突き抜けた。


しかし——

その平穏は長くは続かなかった。


背後の森の奥から、

けたたましい鐘の音が響き渡った。


続いて、地鳴りのような

馬蹄の音が夜の静寂を切り裂く。


「……チッ、脱出がバレたか!

 想像以上に早いな」


「王家の追撃部隊ですの!?」


「ああ、国王直属の第『黒騎士団』だ。

 捕まれば即座に処刑、

 あるいは一生、地下牢(ちかろう)行きだな」


振り返れば、

森の木の合間から

松明の赤い光がいくつも揺らめいていた。


追手はすでに目と鼻の先まで迫っている。


「オリヴァー!

 前方からも気配がしますわ!」


メイヴィスの叫びに前方を視認すると、

街道の先にも

二頭の騎兵が待ち構えていた。


挟み撃ちだ。


「メイヴィス、

 手綱をしっかり握っていろ!」


俺は腰の長剣を抜き放ち、

馬の速度をさらに上げた。


前方から立ちふさがる騎士が、

槍を構えて突進してくる。


「第二王子オリヴァー様! お覚悟——」


「邪魔だ!!」


騎士の言葉が終わる前に、

俺は馬上で身を低くし、

一瞬の交差とともに剣を振り抜いた。


刃が相手の槍の柄を叩き割り、

体勢を崩した騎士は

豪快に草むらへと転がり落ちていく。


もう一人の騎士が

メイヴィスへ襲いかかろうとした瞬間、

彼女は素早く

ケープの内に仕込んでいた

小型の魔導銃(カノン)を構えた。


バァン!


と眩い閃光が夜闇を照らし、

騎士の馬が驚いて暴れ出す。


「見くびらないでいただきたいですわ!」


「見事だ、メイヴィス!

 このまま一気に谷を抜けるぞ!」


挟み撃ちの網を強行突破した俺たちは、

手綱を強く握り直し、

夜明けていく東の空へと馬を走らせた。


背後に残された追手の怒号は、

次第に風の音の中へと消えていく。

だが、これはほんの始まりに過ぎない。


王国全土を敵に回した俺たちの逃避行は、

まだ始まったばかりだった。


©[I・G・ε]All Right Leserved.

幾重もの追撃を撒(ま)き、

俺たちが命からがらたどり着いたのは、

旧王国の東端に位置する

最果ての港町「ラグナ」だった。


岩肌の断崖に

張り付くように建てられた港町は、……。


本日、18:10 に、第5話を投稿します。

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