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第二章 — 決意と涙の約束

のどかな田園の羽虫の声も、その質素な病室の中では遠く霞んで聞こえた。医者は重々しい表情のまま、しばらく少年の肩に手を置いた後、説明を続けた。

「おばあさんの体内の魔力障害を抑えるための薬には、極めて稀少な素材が必要なんだ」医者は静かに言葉を紡いだ。「澄んだマナを豊富に含んだ植物や、特定の魔物の体液……そういったものは普通の畑や野山には生えていない。ダンジョンの奥深くにしか存在しないんだ。採取の危険度が高く、流通量が圧倒的に少ないため、市場での価格は破格の値段になる」

カイはベッドで静かに横たわる老女の蒼白な顔を見つめながら、一瞬沈黙した。彼の頭の中で、医者の言葉は即座に論理的な納得へと変わっていた。前世の知識を持つカイにとって、この世界の構造を理解するのは難しくなかった。

(医者の言う通りだ)カイは心の中で思考を巡らせた。(リスクが高いからこそ、ダンジョン産の素材は高額になる。農場の作物を売ってお金を作ろうとしても、何年もかかってしまう。直接現地へ行って素材を自分で調達するのが最も手っ取り早く、論理的なルートだ……というか、それ以外に道はない)

しかし、この世界の現実はゲームのように甘くはなかった。レベルやステータス、職業(クラス)といった身体や魔法を強化するシステムが存在するものの、危険はどこまでもリアルだった。ダンジョンは予測不能で致命的な場所だ。無傷で生還できる冒険者はごくわずかで、多くの者が命を落とすか再起不能の傷を負う。冒険者という職業は残酷な淘汰のシステムだった。底辺には数多くの人間が集まるが、高レベルの頂点に辿り着けるのはほんの一握り。大半は途中で脱落していくのだ。

「先生……」カイは静かな、しかし確信に満ちた声で沈黙を破った。「本当にそれしか方法はないんですか? 他に手頃な治療法は?」

医者は溜息をつき、首を横に振った。

「彼女の症状の進行度と、今の君たちの状況を考えれば……ああ、これしか道はない」

カイは体の脇で拳を強く握りしめた。胸の中には戦闘への恐怖だけでなく、現実的な問題についての葛藤があった。

「でも、僕がダンジョンへ探索に行ってしまったら……おばあちゃんはどうなるんですか?」カイは医者の目を見つめた。「この状態で一人にしておけません。僕が留守の間、この家にも近所にも面倒を見てくれる人はいません。この世界で、おばあちゃんには僕しかいないんです」

医者は理解を示してうなずき、答えた。

「それについては、全くだめというわけではない。私が勤めている街の病院には、魔力障害の患者を受け入れる専門の病床がある。君が冒険に出ている間、彼女をそこへ入院させて常に看護と経過観察を行うことができる。もちろん費用は後で支払う必要があるが、君が必要な素材や資金を集める間、彼女の容態を安定させておくことは可能だ」

それからしばらくの時間が流れた。医者の手配と村の協力により、カイのおばあちゃんは病院の臨床病棟へ搬送された。専門の医療陣に見守られて安全が確保されたことを確認したカイは、続く数日間を準備に費やした。農場に残されたわずかな pass 荷物を整理し、旅に必要な日用品を整え、少ない蓄えで買える最低限の装備を揃えた。

これから始まる過酷な旅路への準備をすべて終えたカイは、出発前に再び病院を訪れた。夕暮れの柔らかい光が差し込む病室に入ると、彼女が意識を取り戻していることに気づいた。老女の瞳は弱々しかったものの、しっかりと開かれ、入口のドアに向けられていた。

「おばあちゃん!」カイは歩みを早め、ベッドの脇へと駆け寄った。胸いっぱいに安堵が広がった。「目を覚ましたんだね!」

彼は体に負担をかけないよう細心の注意を払いながら、彼女を優しく抱きしめた。老女は震える手で抱き返し、少年の背中を撫でた。

「落ち着いて、カイ……大丈夫だよ」彼女は弱々しく、ゆっくりとした声で言った。「心配いらないよ……」

彼女はカイの顔を見つめるために、そっと体を離した。その瞳には悲しみと不安が混ざり合っていた。

「あなたが準備をしている間、先生からすべて聞いたよ……カイ、あなたが何をしようとしているか知っているわ。冒険者になろうとしているのでしょう……でも、私はその決断に賛成できないよ。絶対にね」

カイは一瞬だけ視線を落としたが、すぐに姿勢を正した。

「残念だけど、おばあちゃん……他に方法がないんだ」彼は落ち着いた、揺るぎない rend トーンで説明した。「おばあちゃんの病気を治す薬を手に入れるには、これしかないんだよ」

「ダメよ! 行ってはいけません!」老女は感情を溢れさせ、シワの刻まれた頬に涙をこぼしながら訴えた。「私が生き伸びるために、あなたがダンジョンのような恐ろしい場所で命を危険に晒すというなら……私は死んだほうがマシです! そんなこと、絶対にしないでしておくれ!」

「おばあちゃんに死んでほしくないんだ!」カイはすぐに答え、彼女の震える手を自分の手で包み込んだ。「僕を助けてくれたおばあちゃんを目の前にして、何もせずに手をこまねいているなんてできないよ!」

老女はカイの指を強く握りしめながら、しゃくりあげて泣き出した。

「私の本当の息子はね……冒険者になろうとして死んだんだよ……」過去の痛みが言葉となって溢れ出た。「夢を抱いて旅立って、二度と戻ってこなかった。私はあの生活が人に何をもたらすかを知っている……あなたに同じ運命をたどってほしくないんだ! これ以上、大切な家族を失いたくないのよ!」

部屋の空気は、過去のトラウマの重みで重く沈み込んだ。カイは、かつて奴隷の鎖から自分を救い出し、行き場のない自分に que 家と尊厳、そして温もりを与えてくれた女性を深く見つめた。

カイは自信に満ちた温かい微笑みを浮かべ、彼女の手を優しく握り返した。自らの魂に宿る確信のすべてを伝えるように。

「僕は死なないよ、おばあちゃん」彼は力強く、そして穏やかに言った。「約束する。僕は無茶はしないし、自分が何をしているかちゃんと分かっている。絶対に同じ目にはあわないよ。必ず薬を持ち帰って……立派な冒険者になってみせるから」


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