庭園散歩
帽子を被り、日傘をさして外に出る。
心地よい暖かさ。これはまさに麗らかな春の日と言ってもいいだろう。
「こちらです」
ミアに案内され、このお屋敷の庭園の中央に到着した。
「すごい...!」
真っ白な石の噴水に、寸分の狂いなく綺麗に整えられた木々、華やかに色付いたお花たち、ただただ圧倒された。
それと同時に、ここが故郷とは大きくかけ離れた場所だと実感する。少しだけ、胸が痛んだ気がした。
「先々代の奥様が主導して作られたそうですよ」
「へぇ、そうなんだ」
先々代ならルーエさんのお祖母様かな。これだけ壮大なのだから、お庭が好きだったんだろうな。
しばらく噴水の周りをゆっくり歩くと、奥の方に薔薇が見えた。
「あそこは薔薇園かな?」
「はい、色とりどりの薔薇が咲いております」
「きっと綺麗ね」
薔薇園はあまり見た事がない。昔はお花を見るとなると、専ら桜や藤だった。でもきっと薔薇も綺麗なんだろう。咲き誇っているものは何だって綺麗だ。
「そういえば、こういう所にはガゼボがあるイメージなのだけれど、ここにもあるの?」
「もう少し進んだ先にございます。行かれますか?」
「せっかくの機会だし、そこまで見ておこうかな」
「ではご案内致します」
ミアさんに案内されること数分。
ひっそりと建つ小さなガゼボがあった。随分と可愛らしい雰囲気だった。
「どうしてこんなところに?」
「先々代の当主の母君が気に入っていたようで、残されているとの事です」
「そうなんだ」
ミア、物知りだな。きっと侯爵家の侍女になる時に、たくさん勉強したんだろう。
勉強ね...私も侯爵家にお世話になるし、多少は知っておいていいかもしれない。
ガゼボに近づき、中を覗き見る。たしかにお屋敷で見る家具より若干デザインが違った。そして、綺麗に手入れされているとはいえ、経年劣化が目立った。
きっとたくさんここで過ごされたんだろうな。
その時だった。
「レネ様!」
急に体の力が抜けた。少しずつ、体が重くなっていく。さっきまで心地よかった太陽の光が目に刺さってくるように痛い。
これ、魔力欠乏症だ...。いつの間にか魔道具の魔力が切れていたんだ。
「魔力が...部屋に戻らないと...」
「レネ様はそのまま横になってください!」
ミアが急いで近くにいた侍従に指示を飛ばす。私はガゼボの壁にもたれ掛かりながら腕輪を見ると、つる草模様は完全に見えなくなっていた。
現実離れした庭園に気を取られすぎた...。とはいえ、まさか少し散歩しただけでこんなに魔力を使うなんて。迂闊だった。
意識が遠くなっていく最中、ルーエさんを見たような気がした。




