弱い体
やってしまった...。
目を開けると、天蓋が目に入った。自室まで運んでくれたのだろう。
随分と体が軽い。腕輪を見ると、つる草模様がはっきり現れていた。
今日は朝からお城に行っていたはず。わざわざ戻ってきてくれたんだ...。迷惑をかけてしまった。
「はぁ...」
散歩に対する魔力消費量がこれだけ多いのなら、結構何も出来ないな。元々引きこもりの生活を送っていたとはいえ、出来るけどやらないと出来ないでは全然違う。
「不便...」
健康って大事だったんだ。ずっと健康だったから考えたこともなかった。元の体が恋しい。ずっとこのままなんだよね...?元に戻ることは、もう...。
気づけば、涙が頬を伝っていた。
しばらくして、コンコン、と音がした。急いで涙を拭き、返事をする。
「失礼する」
扉が静かに開いて、ルーエさんが入ってきた。ルーエさんの後ろにはミアが暗い顔をして立っていた。
「体調は?」
「もう大丈夫...。魔力を補充してくれてありがとう。そして、迷惑をかけてごめんなさい」
仕事中の邪魔をしてしまった罪悪感で、布団をぎゅっと握る。
「ちょうど屋敷に戻ってきた時だったから気にしないで。むしろこちらの方こそ申し訳ない。私達も普段の動作でどれくらい魔力を消費するのか分からないんだ」
「...そうなんだ」
たしかに、私も普段どれくらい体力を使っているか気にしたことないな...。運動するとわかりやすいけれど、日常生活では感じにくい。魔力もそれと一緒ということかな。
「ところで、ルーエさんの魔力は大丈夫なの?この短期間で3回も補充してもらったし...」
魔力欠乏症の辛さは身をもって経験済みだ。それなら、魔力欠乏症の前段階の魔力切れも、相当体に来るのでは。私のせいでそうなったら申し訳ない...。
「これでも魔導士団長の弟だからね。魔力は相当多い方だ。レネさんが気に病む必要はないよ」
「それはすごいね」
「アイルベル侯爵家が魔法特化の家系だからね」
「なるほど」
遺伝、というやつなのだろう。ルキタさんは聖女さんと私を召喚できるくらいなのだから、国内トップレベルな気がする。本当に気にすることないのかも。少し安心した。
「それと、レネさんには申し訳ないのだが、今度一緒に領地に来て欲しい。王都での用事が済んだので、近々戻るつもりなんだ」
「領主だったね。私は構わないけれど、魔力が持つかな...」
馬車に乗っているだけだと思うけれど、散歩ですらこうなったのだから、長旅も結構魔力を消費しそうだ。
とはいえ、ルーエさんの魔力のおかげでこの世界で生きていけるのだから、ついて行く以外の選択肢はない。
「1週間分魔力を貯めておける魔道具がもう少しで完成するそうなので、出来次第出発しようと思っている。魔力問題はこれで解決できるだろう」
「この短期間で改良できるなんて、さすが魔導士団長...」
「そして、領地行きを受け入れてくれてありがとう。次の予定があるので、そろそろ失礼する」
そう言って、ルーエさんは立ち上がり、静かに部屋を出ていった。
扉が完全にしまった後、ミアが近づいてきた。ずっと暗い顔をしている。
ベッドの横まで来たミアは、勢いよく頭を下げた。
「レネ様、申し訳ございません」
「私が腕輪を確認していなかったせいだから、ミアは何も悪くないよ」
「いえ、私がもう少し気にかけるべきでした」
うーん、これは押し問答になりそう。とはいえ、ルーエさんですら魔力消費量を把握できていなかったのだから...あ、そうだ。
「どちらも不注意だったということで、おあいこにしよう。だから顔を上げて」
私がそう言うと、ミアはゆっくり頭を上げた。ミアは泣きそうな顔をしていた。
「レネ様はお優しいのですね」
「ふふ、ありがたくその言葉を受け取っておくよ」
ミアにも申し訳ないことをしたな。今度から本当に気をつけよう。




